1-92.『遥か彼方の命の衝突』
「お前……まさか!!」
すると、蝶のような生き物が話を続けた。
「私も、自己紹介をさせてもらうね! 私はチェリー! さっきも言った通り、妖精なんだ!」
「……」
透たちは、未だにピンと来ていない様子で沈黙を続けた。
「あ、あれ……? 私、妖精なのにどうして盛り上がらないの?」
「いや……俺たちの故郷では、妖精は神話や伝説から来るファンタジーな存在として知られているんだ。それに、妖精といっても必ずしも人間にとって良い存在とは限らない」
「えー!? そ、そうなの!? し、知らなかった……人間さんの住む星にはそういう所もあるんだ……なんだかショック……」
「……」
妖精の反応に気まずく沈黙を貫くことしか出来なかった透たち。そして、それはグレオたちにも同様で反応に困っていた。
しかし、チェリーを名乗る妖精のそんな様子も束の間、直ぐに気持ちを切り替えて目をキラキラさせながら透たちに告げる。
「……って、落ち込んでる場合じゃ無かった! ねえねえ、たしか透さんだったよね! 透さんたちは、闘士に興味無いかな!?」
「は……?」
「闘士?」
「なんだ、そりゃ?」
すると、グレオやロールがチェリーに対して怒った。
「……! お前! やっぱり、それが目的か!!」
「こんな状況で勧誘って何考えてんの? 良い加減そろそろ空気読めるようになってよ。透たちにも迷惑だし、あたしらにとっても評判に関わってくるんだから」
すると、チェリーが慌てて弁明する。
「で、でも……! 透さんのような人たちが仲間になってくれれば、グレオさんたちにとっても心強いしチームも更に賑やかになるんじゃないかな……?」
「それはそうだが、透たちにも都合があるだろうが!! お前の私利私欲の為に、関係の無い人間まで巻き込もうとしてあの手この手と利用しようとするな!! 人間はお前らの為の道具や駒じゃないんだぞ!!」
「ひえー!?」
先程の、透たちに見せた優しい態度とは見違える程に激しくチェリーを糾弾するグレオ。体型が体型ということもあり、グレオの怒りには迫力があった。
そんなグレオの怒りに、怯えて震えるチェリー。
「……と、闘士って、何だよ?」
「んね……気になるんですけど……」
「いやいや! ななな、なんでも無いんだよ! コイツの言ってることは気にしないでね、皆!」
慌てて透たちの興味を無くそうとさせるロール。しかし、それが寧ろ逆効果でどんどん気になるばかりだった。
そして、透が勘でグレオたちに問う。
「闘士って言うのは……まさか、グレオたちが就いてる仕事のことだったりするか!」
「……!」
図星と言わんばかりに、口を閉ざして固まる反応を示すグレオやロール。
「……と、透は勘が良いというか、察しが良いなぁ~……」
「……わかった。透たちに嘘をついたり隠し続けるのも気が退けるから、正直に話そう。そんな状態で故郷の星に帰って貰っても、スッキリしないだろうからな」
「……負担や迷惑じゃ無ければ、教えてほしい」
「あぁ。説明させて貰おう」
「あ、グレオさん。それ、私のお仕事……」
「お前は黙っていろ」
「ひぃ!? は、はいぃ……」
グレオに睨まれて怯えるチェリー。
「まず……闘士というのは、俺たちが務めている職業のようなものだ。主に、人々を手助けしたり守る仕事をしている。具体的に言えば……例えば、襲撃されている人間の集落を救ったりとかな」
「なんだそりゃ!? かっけーじゃねーか!!」
「ふふふ~、でしょ?」
直輝の興奮の興味本位に、ドヤ顔で応えるロール。グレオは話を続ける。
「しかし、人々を守る以上は身の危険も当然ある。下級の闘士であれば、最悪命を落とすことも少なくない」
「ほう……やはり、大変そうな内容ではあったか」
話の内容が内容なだけに、目の焦点が合わなくなる呂威。しかし、それだけ集中して話を聞いていたのだ。
グレオの話を聞いて、目を見合わせる透、刻、燈、乃之の四人。さっき入った、あの物騒な部屋も……ひょっとしたら、「闘士向けの部屋だったのだろうか?」と疑問になる。もし、関係があるとすれば……あれらの武器や防具、兵器が並んでいたのも頷けるし説明がつく。
そして、透がさっきグレオとの会話において「化け物」という言葉を出した時にグレオが顔色を変えたのも……ひょっとしたら、闘士という立場において「化け物」に対して何らかの思いがあったからなのだろうかと考えさせられざるを得ない透。
透の中で抱いていた疑問が、パズルのピースのようにどんどん埋まって繋がって行ったのである。
「大まかに説明すると、こんな感じさ。話を聞いてくれたならわかると思うが、当然楽な仕事では無い。さっきも言ったが、自分の命がかかった戦闘もあるから。そんな危険な仕事だからこそ、こいつが何も知らない透たちに気軽に勧めるのが許せなかったんだ」
「そういうことだったんだ……!!」
「たしかに、それはちょっと無神経というか気が利かないですよね。人の命が関わるって一番重要な部分じゃないですか。それをそっちのけにして、いきなり勧誘してくるなんて」
「……その辺の宗教勧誘並みに異常だな」
「う、うぅ……ご、ごめんなさい。後で、ちゃんと説明しようと思ってたんだけど……」
刻や瞬の厳しい棘のある言い方に萎縮するチェリー。ロールもチェリーに対する言葉を続けた。
「だから、順序が逆だって言ってんの。そんなんだから、いつまで経っても一流の妖精になれないし、アンタの仲間の妖精たちからも嘲笑されるんでしょうよ。人の命をなんだと思ってんの?」
「…………」
小さな両手の指をツンツンさせて悄気るチェリー。そんなチェリーに、燈だけはなんだか少しだけ気の毒になっていた。しかし、燈には当然言い出す勇気も無く、チェリーをただただ見つめることしか出来なかった。
「……」
話が沈静化すると、透が言葉を発する。
「俺たちを頼ってくれる気持ちは嬉しい。だけど、こっちは故郷の星でのプライベートの生活がある。自分の家を支えることは勿論、学業もあるから時間を割くこと自体が難しいんだ。申し訳無いけど、力を貸すことは出来ない」
「あぁ。それが良いさ。可能なら、なるべく多くの人間がこんな仕事をしないことが望ましい。増えれば増える程、不幸になってしまう可能性が高くなる人間が増えてしまうから。まぁ、実際は人類平和を得る為に闘士となる人間を少ない人数で抑えるのは困難なことだが……人類への脅威は、人々が想像している以上にとてつもなく多い。だから、人類の平和を守りたいという強い志を持った勇気ある人間たちが志願するのが、この闘士という肩書きだと言っても過言では無いだろう」
「……」
グレオの言葉を聞いて、色々と考えさせられる透たち。
「だが、何も透たちのような未来ある人間が務めるようなことでも無い。俺は、今まで闘士としての仕事を数々こなしてきて、沢山の人間が亡くなってしまうところを見てきた。救出しなければならない町の町民、闘士仲間、旅人等な。俺が特に悲しかったのは……とある国を救えず、そこの先住民が全滅してその民族の血が途絶えてしまったことだ」
「え…………」
グレオの壮絶な話に、力が抜ける燈。泣きそうになる乃之。真剣に話を聞いて相槌を打つ刻。顔が青ざめる颯空たち。そして、相変わらず表情を一ミリも変えずに話を聞く透。
「今でも後悔してる。『俺があの時、ああしていれば救えたかも知れない……』とか『どこで判断を間違えてしまったんだ、俺は……』とかな。今でも時々、それに近い夢を見て罪悪感に苛まれてしまう。すっかりトラウマになってしまったよ」
「……」
当時のことを思い出したのか、泣きそうになっているロール。
グレオの話を聞いて、何も言葉が出なくなる透たち。
「だから、闘士っていうのはお勧めしない。透たちの故郷の星は、変な怪物に襲われたりしていないか? ついでに、これも話しておこうか。俺の過去の話になるが」
「グレオが話すことに問題無いのなら、頼む」
「わかった。俺は故郷の近くの星が、襲われているからそこを救う為にやむを得ず闘士になったという経緯がある。子どもの頃からずっと、世話になっていたもう一つの故郷のような場所なんだ。だからこそ、放っておけなくてな……これが俺が闘士の道を歩むこととなったきっかけだ」
「なるほど」
グレオの話が終わると、空気が暗く染まって沈黙の場となる。
その時、周囲を驚かせる言葉を放つ。
「グレオ。闘士っていうのは……志願制だって言ってたよな。それって、志願さえすれば誰でもなれるのか?」
「……!?」
「え?」
透の幼馴染みは驚き、グレオは唖然とした表情で力の抜けた声が出る。




