1-90.『常識を超越した衝撃の連鎖』
「あ、あそこにいるのは…………」
「だ、誰……?」
燈と乃之は心臓をバクバクさせながら、ごくりと吞み込みつつエントランスの様子を伺っていた。
透たちの目の前には、見覚えの無い人が何かの団体のように複数集まって訪れていた。その人物たちの姿は兵士……というよりかは勇者とも呼べるような恰好をしていた。武器を持っていて身を守るのに頑丈そうな防具まで兼ね揃えている。
そして、とても背が高かった。中学一年生にして百九十センチメートル台という背の高さを誇る瑠夏や呂威よりも頭が二個分程も背が高く、ガタイも良かった。彼らのメンバーの中には女性もいたが、女性も呂威より明らかに高い。そんな人物が大勢揃って、この建物にやって来たのだ。年齢も、外見の限りでは十代後半から二十代前半くらいで確実に大人っぽい雰囲気だった。
燈と乃之は、怖くなって無意識に全身を震わせていた。透たちは大丈夫なのかと心配で、直ぐにでも呼びに行きたかった。
しかし、透たちはそんな恐れ大きな人物たちに怒られている様子は全く無かった。寧ろ、お互い何かを話し合おうと努力しているような雰囲気だった。
彼らの見た目に反して、戦闘の意志も警戒の意志も見えず、どうやらこちらへの敵対心は無さそうに思えて少しホッとする燈。ひょっとしたら、「この世界の人間だろうか?」と燈は思った。透や刻の様子を見る限りは、相手の言っている言葉をまるで理解出来ている様子に無かった。
(まさか、本当に……地球上には存在しない言語で、話しかけられてるのかな……?)
燈が、足を階段の一段一段ゆっくりと下ろしていったその時、燈はエントランスにいる人物全員と目が合った。燈は、心臓が止まりそうになり思わず手足をピタリと止めて顔を赤くする。
「……えっ?」
すると、透が燈と乃之に手招きしてこちらへ来るように指示していた。明らかに自分たちを呼んでいる。こんな唐突な状況下の中で、冷静な判断が出来るわけが無かったが透からのお願いなら断れなかった燈。燈は、そそくさに透たちの元へ向かった。
「あ、待って、燈ちゃん……!」
乃之も燈を追って急いでエントランスへ向かった。
「ご、ごめんなさい! お待たせ……と、透くん、これは一体、どういう状況なの……?」
「燈。経緯を話せば……最初にこの人たちと出会ったのは颯空たちなんだ。どうやら、全員が来るまでここで待ってほしいという意思を頑張って示した結果、なんとか伝わって今に至るらしい」
「え……? 透くんと刻ちゃん、呂威くんや行悟くんでも言葉がわからない相手……?」
「そうだね……少なくとも、地球上の言語では話しかけられていない。だから、どうコミュニケーションを取ったらいいのかお互い迷っている最中なんだ。文字を書いてもお互い読めないし」
「そ、そんな……!」
「だが……少なくとも、この者たちは悪い人間では無さそうではあろう。寧ろ、俺たちのことを心配してくれているようだ」
「おれらだけじゃなく、向こうもびっくりしてるみたいだぜ? 様子を見る限りじゃ、なんかこの建物の持ち主ってわけでもなさそうだしな」
「な、何が目的でこちらに訪れたんだろう……」
そして、予想外の出来事は続いて起こった。
なんと、透たちの目の前には……体調が十五センチメートル程の蝶によく似た生き物が、まるで転送でもされてきたかのように瞬間的に突然現れたのである。
びっくりして腰を抜かす周囲。それは、透の幼馴染みたちだけで無く、今訪問してきた団体のメンバーの中にも驚いて転げる人物もいた。転がされた人物は「急に現れて脅かすな!」とでも言っているのか、その蝶のような生き物に明らかに怒っていた。そして……その蝶のような生き物は慌てて謝っているように口をパクパクさせていた。
よく見ると、蝶のような生き物の顔は明らかに蝶の顔では無かった。まるで人間の手によってデザインされたかのような、何かのキャラクターのようにデフォルメされたような顔をしていた。
「な、何だよ……? この状況……」
「さ、さあな……次から次へと、わけがわかんねーぜ……」
「あ、あたしら、これからどうなっちゃうんだろ…………」
「ていうか……あの蝶、言葉喋れんの? なんか、明らかにあの連中と会話してコミュニケーション取ってる感じだけど……」
「というか……何か喋ってるよね?」
「あはは! これは面白いことになったねぇ!」
「貴方はどうしてそんなにお気楽なんだか……」
すると、透が何かに気がつく。
「待て……何か始まりそうだ。皆、目を瞑ってくれ」
「え?」
次の瞬間、蝶のような生き物が何らかの決めポーズをしてエントランス中が眩しく光り始めた。
「うわ!?」
「きゃあ!?」
「な、なんだ!?」
透たちが光に襲われて落ち着いた後、ゆっくりと目を開ける。すると……光景自体には何ら変わった様子は無かった。しかし、聴覚情報に明らかな異変が起きる。
「初めまして! 人間さん! 急に現れて驚かせてしまって、ごめんなさい!」
「え……?」
なんと、蝶のような生き物が突然日本語で透たちに挨拶をし始めたのだ。そんな異質な光景に、透の幼馴染みたちは驚かさざるを得なかった。
「え……ええええええ!?」
「ちょ、蝶々が喋ったよ――!?」
すると、蝶のような生き物が頬を膨らませて反発した。
「むう。蝶々じゃないよ! 妖精です!!」
「はぁ……?」
「……よ、妖精……だと?」
透たちは、思考が追い付かなかった。
妖精。それは、元の世界である地球上の世界では神話や伝説として登場する超常的な存在である。それを名乗る生物が今、人間の言葉を話して透たちの目の前で堂々としているのである。
透たちは、思わず口が固まるように動かなくなっていた。
「……」
その時、たった今訪問してきた団体のリーダー格のような人物が透たちに話しかけた。
「すまない。わけがわからない状況に混乱しているよな?」
「え?」
たった今まで、言語でコミュニケーションを取ることが難しく、言葉を伝え合うことが困難だったはずなのに、相手の人物の一人が突然日本語でしかも流暢に話し始めたのである。
そんな彼は、透の目検討による推定では身長がおよそ二百二十センチメートル程の巨体を誇っており、ガタイも良く顎髭を生やしていた。人当たりも良く、頼れるおじさんのような人物だった。その為、図体の割には怖さが無かったのである。外見の雰囲気だけでなく、声にも威圧感は無かった為、とても優しい雰囲気だった。
「に……日本語が話せるのか!?」
「あ、いや、違う。こいつがさっき、眩しい光を放っただろう? その効果で、俺たちの話す言葉が君たちに最も馴染み深い言語で聞こえるようになっただけさ。これでもう、互いのコミュニケーションに苦労することは無いだろう」
「そ、そんなことが出来るの!? まるで魔法みたい!! 凄い!!」
「ま、実際魔法だけどねー」
リーダー格の人物の側近らしき女性が会話に混ざって来た。彼女もまた、背がとても高く身長が二メートルは優に越してそうな高さを誇っていた。そして、そんな背の高さでも歳は感じさせず透たちより少し上くらいの年齢の雰囲気だった。地球上で例えるなら高校生くらいの若さと活発さがある。こちらは頼れるお姉さんといった明るくて幼い子どもたちに愛されそうな雰囲気があった。
「つまり、コミュニケーションに困らないよう言語を自動的に翻訳されるように適応化させたというわけか」
「そういうことになる。だから、逆に君たちの話している言葉が、俺たちには俺たちの最も馴染み深い言語で聞こえるようになっている。つまり、君たちが今話している言葉は、俺たちには別の発音で聞こえるようになっているんだ」
「めっちゃ便利じゃねーか! すげー!!」
「ほんと、凄い世界だな…………」
驚く光景が立て続けに起こり、未だに思考が追い付かず何のアクションも起こせなくなっている燈。魔法のような世界に、まるでゲームや漫画、アニメの世界にでも入ったかのように気分になって目をキラキラ輝かせている乃之。最早、何が楽しくて笑っているのかわからない彰人。こんな状況でも、透は表情一つ変えずに相手とやり取りをしていた。
今、透たちに言語自動翻訳化の効果を説明してくれたリーダー格の人物は、透にとってどこか自分と似ている節を感じており、なんとなく親近感が湧いて話しやすさを抱いていた。その為、気兼ねなく会話を出来そうに思えた。
透が話しかけようとしたその時、リーダー格のような人物から透に微笑みながら話しかけてきた。




