1-83.『希望の図書室』
透たちは、クラス表の話に戻した。
「クラス表……そういえば、刻にも元々はクラス表を渡されるような雰囲気だったよな」
「あ、そうだね。私は、透お兄ちゃんがいるから佐賀井さんに一緒に見るように言われたんだよね」
「へえ……そんなことがあったんだね」
彰人は、珍しく表情を変えて透の話を真剣に聞いていた。それが、透の話だからなのかそれとも純粋に興味深い話だからなのかは周囲にはわからなかった。
「それで、今思うともう一つ気になることがあったな」
「え? 何?」
「クラス表なんだけど、俺たちのクラスにもう一人渡されていた人物がいたな」
「あ……! そういえば、そうだったね」
燈は思い出した。透が明日花に絡まれている時、話に割り込んで来た女子生徒の存在を。
細長い手脚を持つスタイルの良い大人びた容姿。マドンナ大会でも開けば上位に入賞出来そうな、それ程までに美しい姿。雰囲気としては、ミステリアスでクールな印象。そして……頭もかなり良さそうな雰囲気だった。
そう思った時、燈は何かの共通点に気づく。
「ね、ねえ……」
「ん?」
「どうした?」
燈は、言いかけたが思わず口を紡ぐ。また、余計なことを言ってしまわないかと自信が無くなっていた。自身が、間接的なトラブルメーカーになることを恐れていたのである。
「ご、ごめん……なんでも無いよ」
「燈」
「え?」
透は燈の目を見つめる。燈は、あからさまに顔を赤くしながら透の目を見つめ返す。その時、混浴した時のことを思い出して今すぐ目を逸らしたくなるくらい、恥ずかしくなる。
「何かに気遣って言わないようにしてるみたいだけど、遠慮はいらない。言っただろ? 何かに気づいたらどんなことでも話してほしいって」
「あ……」
燈は、透に言われて約束を全て思い出す。やっぱり、透相手に誤魔化すのは無理だと改めて悟った。しかも、ついたった今透の凄さを知ったばかりなのに「何をやってるんだろう」と思った燈。
「ご、ごめんなさい……隠す意図は本当に無いの。また、話が逸れたらまずいかなって……」
「そういうことだったか。いや、隠す意図が無いのはわかってる。燈はそういう人じゃないしな」
「あ、ありがとう……裏切ったみたいで、ごめんね」
「そうも思ってない。話が脱線させるのは良くないのも事実だしな。寧ろ、こちらこそごめんな」
「い、いやいやいや! 透くんが謝ることじゃないよ……!」
燈は思わず慌てる。
「ご、ごめん……忘れない内に気づいたことを言うね。もしかしたら……優秀な生徒だけに、クラス表を配るようにしたんじゃないかなって」
「優秀な生徒って……?」
「え? 透くんと刻ちゃんは言わずもがなだし……私たちのクラスでクラス表を持っていた人も、賢そうで成績優秀そうな人だったんだよ」
「そうだったんだ」
「あぁ。そういえば、たしかにそんな感じの雰囲気の人だったな。暴走する明日花への注意の仕方も落ち着いていて見た目通り中身も大人びていた」
すると、乃之が疑問になる。
「えっと……トオくんと刻ちゃん、そのクラスメイトのことはまだちゃんと見てないからわからないけど……しっかりしてる三人というのはわかるよ。でも、この人がクラス表を貰えたのはどうして?」
「え?」
乃之の言う「この人」とは、明らかに彰人を指していた。何故、透や刻、その女子生徒に続いて彰人のような人物がクラス表を貰えていたのかが疑問だったのである。透たち三人と彰人はまるで共通点が無いように乃之は思っていたのだった。
「じゃあ、この殺人未遂犯もそれなりの能力ってことじゃない? 思考回路ははっきり言って狂ってるけどね。そういう人間でも学力だけは良いパターンは意外とよくあるでしょ? 何より、あの透お兄ちゃんを陥れた数少ない人物の一人だし。認めたくないけど、この殺人未遂犯は相当の策士だよ。勿論、悪い意味でね」
「あぁ。俺もそう思う。こいつは、こう見えて成績優秀の賢い部類だろうな。それが悪い方向に進んでしまっているだけで」
「トオくんたちと同等ってこと……? 全然そんなイメージ湧かないけど……」
「まさか。透君と並ぶような大層な奴じゃないよ、僕は。だから、彼女のイメージ通り僕は透君よりも常に下の存在さ!」
「……どうしてかはわからないけど、この人は何を喋っても腹が立ってる来るね」
刻は鎖のリードを強く握った。
「わあああ! わかった、わかったよ!」
「ただ……判断基準が気になるな。まさかイメージで選考していないだろうし。俺たちの小学生時代の成績でも通知で送られていたんだろうか?」
「ま、透君の言う通りそれが一番現実的で可能性が高いだろうね。でも、透君は知名度が高いからそういったデータも必要無くクラス表を受け取れたんだろうね!」
「さて、クラス表の話はこれで終わりにして早く調査しに行こうか」
「そうだね」
「あ、あれ……?」
透たちは、彰人の言葉を聞き流して先へ進むことにする。
「ほら、早く私たちを案内して?」
「……意外と気まぐれだね」
刻に身を掌握されている彰人は、言われた通り透たちを引率した。
彰人が透たちを連れて来た場所は、なんと本が大量に並んでいる部屋だった。所謂、図書室とでも呼べそうな。如何にもそんな雰囲気の部屋だった。
「うわ、凄いね……」
「こんなに沢山の本を並べてるなんて。この建物は本当に公共施設だったのかもしれないね。もし、個人の家だったら相当なお金持ちの可能性が出てくるけど」
「たしかに、これだけ本が大量にあると何か手掛かりが一つくらいはありそうだな。ただ、量が量だから全部調べるとなると相当な時間を要するけど……」
「でも、わたしたち四人で協力し合えばきっと直ぐに何か見つかるよ! それに、途中から他の皆も呼ぶことも出来るし!」
「いや……その前に、海崎さんに教えてもらった方が早いんじゃないかな……?」
「なあ、海崎。お前が見たこの世界に関する本は、一体どこにあるんだ?」
「…………」
すると、彰人が沈黙した。
「か、海崎さん?」
「また私たちをおちょくってるのかな?」
「いや、そうじゃなくて……僕も、どこにあるのか忘れてしまったよ」
「え……ええええええええ!?」
乃之は思わず大声で驚く。
「……ふざけてるわけじゃないよね?」
「ほ、本当だって! 今の僕の身体の状況的に、嘘をつくメリットが無いよね? 昨日は皆に追われて急いでいたし、ゆっくり探している暇は無かったんだ。だから、どこに何があったのかはよく覚えていないよ。それに、今と違ってこんなに明るくは無かったしね」
「それなら、探していた場所が限られているだろうだから逆に簡単に見つかるんじゃないかという疑問はさておき……こいつもここの本の全てを見れていないなら、どのみち俺たちも隅々まで調べてみる必要がありそうだな」
「そ、そうだよね……新たな手掛かりが見つかるかも」
「どのくらい時間がかかるか検討もつかないけど……早速始めようか」
「が、頑張るよ!」
透たち四人は協力し、手分けして本をひたすら読み漁った。一方で、彰人は拘束されたまま放置されている。そして、再び口元にガムテープを貼られて封じられる彰人。彰人は透たちの様子を伺うことしか出来なくなっていた。
透たちが本に目を通し続けていると、見たことの無い文字や記号が羅列されていて目が回りそうになっていた。どこかで見たことあるような無いような、そんな文字が繰り返し透たちの目に映ったのである。
乃之たちと遭遇する前に立ち寄ってきた建物にあった本の文字とは、中には明らかに異なるものも散見された――。
燈や乃之が疲れてきて息が切れ始めていたその時だった。透が、驚くべき文字を発見する。
「これは……」
「透お兄ちゃん? どうしたの?」
「刻。燈と乃之も。ちょっと、これを見てほしい」
透の声に、刻たち三人は直ぐ様駆け寄った。




