1-79.『鍵』
男子の使っていた部屋にやって来る透たち。透はノックした。
「直輝。呂威。俺だ。開けてくれ」
「は!? 透!?」
直輝は驚いた声を出す。いつも落ち着いている流石の呂威も、驚きを隠せない声を出す。
「透……!? 何の用だ? ここがお前にとって、危険区域なのはわかっていることだろう?」
「あぁ。わかってる。その上でここに来た。そいつに、どうしても確認したいことがあるんだ」
「何……?」
直輝と呂威は、困惑した様子で「どうする?」とお互い目を合わせてアイコンタクトを取る。そして、上下に小さく首を振って覚悟を決めたように頷く。
「わーったよ。オメーのお願いならしゃーねーから聞いてやるよ。ほらよ」
「悪いな。ありがとう」
直輝と呂威が、ドアを開けて透の入室を許可する。そして、ぞろぞろと刻たちも入って来た。
「うお!? 他に全員いたのかよ!?」
「なんだと……!? 颯空。お前まで透のお願いを聞いたというのか?」
「仕方無いだろ? 透がそう望むんだから。それに、透の考えを聞けばオマエらだって納得するはずだぞ」
「なんだ? 何が始まるんだ?」
「俺が今から全て話す。これは俺だけじゃなく、皆にも関わって来ることだ。とりあえず、そいつの口元のガムテープだけを剥がしてやってくれ」
「お、おう……」
直輝と呂威が、早速透の指示に従って彰人の口元だけを解放した。
「あぁ……清々しい朝だ。透君、まさか君の方から僕の所に来てくれるなんて嬉しいよ。朝から僕は幸せ者だ……なんて最高の一日なんだろう」
「おい。余計なこと言ってるなよ。透はオマエと無駄話をしにここに来たんじゃないぞ?」
「颯空」
透は、颯空の腕に触れて静かにさせる。颯空は透に従って大人しくする。
「海崎彰人。単刀直入に訊く。お前は、この世界について何か知っているのか?」
「…………」
彰人は静かになる。
「何も知らないなら知らないでいい。ただ……なんとなくお前は何かを知ってそうに思っただけだから」
「…………」
黙り続ける彰人。黙秘権でも行使する気なのかと思った幼馴染みたちは、問い詰めたくなる衝動に何度も駆られるが透の目もあるので必死に我慢して抑える。
そして、何分か沈黙が続いてようやく彰人が口を開いた。
「いやぁ……実を言うとね、僕もよくわからないんだ!」
「……」
「…………は?」
予想外の回答に、周囲が拍子抜けする。
「嘘じゃないんだよね? 隠し事をしているわけじゃない?」
「あはは……僕なんかが透くんの役に立てるのなら、そりゃ知っていることは喜んで洗いざらい全て話すさ」
「透があんたの役に立つって……散々嫌がらせしかしてないくせに、どの口で言ってんだか」
「また、透を試したいとかワケのわかんない思想でも振りかざしていないでしょうね!? もし、何か知ってて黙ってるんなら承知しないわよ!?」
すると、呂威が質問をする。
「では……これについては答えられるだろう? 透が、何故どこにいるか知っていたのか。直輝たちの情報によれば、これはお前自身が言っていたことのはずだが?」
「…………」
彰人は再び黙る。続けて直輝が問い詰めた。
「お、おい! なんとか言いやがれ! 透になんか付けてんじゃねーだろうな!?」
すると、彰人が再び口を開いた。
「まぁ、近いうちにきっと直ぐわかるはずさ! 僕なんかの言葉で知るより、自分の目で確かめた方がきっと信憑性高いだろうからね」
「は……え?」
「何誤魔化してんだよ! おまえ!」
彰人が話せば話すほど、混乱していく周り。唯一、冷静や落ち着きを保っている透は続けて彰人に質問した。
「それは、自動的に知ることが出来るということか? それとも、俺たちが何らかの行動をして条件を満たす必要があるということか?」
「……偉大なる透くんからの質問だから、特別にお教えするね! そうだよ。この建物内を隈なく探索してみるといいよ。そうすれば、きっと君たちが悩んでいる問題も、全てまでとはいかなくてもある程度は解決出来るはずだよ!」
彰人の言葉に動揺する透の周り。
「ど、どうして……それがわかるの?」
透からの質問以外は珍しく返答の遅い彰人が、珍しく燈の質問に直ぐ答える。
「そりゃ、僕がこの世界に来た時には最初からこの建物の辺りにいたからね。直ぐにこの建物を捜査したよ。そしたらなんと……想像を絶する貴重な情報を得るに至ったんだよ!」
すると、直輝が心当たりのあるようなことを言う。
「そうだ……思い出したぜ。たしかにこのヤローは、オレらから逃げるように直ぐにこの建物の中に逃げ込みやがったんだ」
「え……そうだったんだ?」
そして、明日花も便乗した。
「そうね。んで、正面の玄関が開いてなかったでしょ? きっと、コイツが鍵をかけたんだわ。アタシは、コイツが正面からこの建物に入って行く所を見たの」
「そしたら……わたしたちも合流したんだよね」
「うんうんー。この建物の門扉も、最初は鍵をかけられてたんだよねー」
「それも……この人の仕業ということになるのかもしれない……」
「そういうことになるのか?」
現在いる建物の玄関扉どころか、門扉の鍵まで彰人が鍵かけた疑惑が浮上される。
「……つまり、こう。俺らが目を覚ました頃には、こいつがこの建物の近くにいた。それで、近くで倒れてた俺らは急いでこいつを追いかけた。そしたら、建物が見えて来て星名の言う通り、両方鍵がかけられていることを知るに至ったんだ。んで、他の入り口がないか探してみた結果……こいつがいた」
「つまり……本当にコイツが意図して鍵をかけやがったのかよ?」
「森で倒れていた組の俺たちが来た頃には、門扉は開いていたな。誰か開けてくれたのか?」
「あ……わたしだよ。皆が入って来れるようにと思って」
透の問いに乃之が答えた。
「……そっか。他に出入り可能な場所が無ければ、最初に入った奴が鍵をかけた可能性が高いのかな~?」
すると、透が少し考えた後で話を違う。
「いや。ひょっとしたら、最初から鍵をかけられていた可能性がある」
透の言葉に戸惑いを隠す周囲。
「え? 何言ってんだ、透? 鍵がかけられていたら、このヤローが最初に建物に入れねーじゃねーか」
「そうよ! まさか、コイツが何らかの方法で侵入したって言う気?」
すると、透の言葉を聞いて刻も何かに気づいたのか閃いた様子で言う。
「……! なるほど、そういうことか!」
「刻も気づいたみたいだな」
「え、何なに!? 何の話!?」
「賢い秀才な松本兄妹にしかわからねえ何かがあるのか!?」
「……兄妹ってなんだよ」
行悟のボケ混尻の言葉にツッコミを入れる瞬。
「そんなに難しいことでは無いぞ。皆も心当たりはあるはず」
「そうだね。皆、この世界に来てから身体が軽いって思ったでしょ? 少なくとも、森で私たちと一緒に倒れていた人たちにはそういう話も聞いたはず」
「あ……ああああ!! それか……! って、え? それが何か関係あるの?」
「何それ? 身体が軽いですって……?」
「あ、もしかして……」
燈も、何かに気がつく。
「燈ちゃんも、何かわかったのー?」
「う、うん……きっと、海崎さんは身体が軽いことを利用して門扉周りの柵をジャンプか何かで越えて行ったんじゃないのかな……?」
「な、なんだと!?」
燈の分析に、直輝は驚く。そして、透が燈に続く。
「燈と同意見だ。海崎がフィジカル凄かったって昨夜に瞬が言ってたように、こいつはわざわざ門扉を開けずに入ることでショートカットし、かかる時間や手間を省いたんだろう」
「なっ!?」
透の言葉に刻や燈、そして彰人以外の全員が驚く。
「な、何それ!? セキュリティガバガバじゃない!!」
「待て……こいつに、三メートル程の高さがあるあの柵を乗り越えられる身体能力があるのか? 全くもって、そのようなイメージは無いのだが……」
「私たちも越えられる高さだと思うよ。この世界に来てから、まだ一度も大きくジャンプしたことないからイメージしづらいかもしれないけど。この世界、重力が小さい感じだからある程度運動が出来る人なら意外と誰でも行けるんじゃないかな」
「嘘……マジで言ってる? たしかに、軽いとは思ってたけど……」
「まぁ、一度にジャンプで越えられなくても一定の高さで足を引っかけて上ってから越えることも出来るだろうし」
「たしかに、透くんと刻ちゃんと燈ちゃんの言うことに一理ある……」
「……」
燈は嬉しかった。まさかの、透と同じ意見だったということに、まるで透に少しでも近づいた気がしてつい浮かれていた。まるで……透と一緒に同じものを見ているかのような。そんな気分になっていたのである。
そして……彰人は、また不気味に笑い出す。
「くくく……面白いね」




