1-76.『心境の変化』
燈が夢中になっていた空の凝視を終えて透について行くと、透は月葉と話をしていた。
「どうやら……あの人はあの拘束状態に更に追加で口元をガムテープで止められたみたい……」
「そうか。窒息死させることだけは気をつけないとな」
月葉の状況報告を聞いている透。伝言方式で、月葉は星名から話を聞いているようだった。
「もう安心して大丈夫なのかな? わたしはトオくんが心配で安心して眠れそうに無いけど……あの人が、また何か悪さをしそうで怖いの」
「それは同意……私も心配……」
すると、星名が部屋に戻って来た。
「ただいまー!」
「お帰り」
透が星名に挨拶を返すと、星名が業務連絡をする。
「皆、あの人を他の部屋に連行して男子たちが見張りをして寝るそうだよー! 女子は透くんの所へ集合って!」
「そうか。なるほどな……って、は?」
「え!?」
しれっと凄い発言を聞いて驚く燈。噂をすれば、刻、瑠夏。明日花と他の女子たちがやってきた。
「ただいま……」
「わーお! 女子ばっかり! 透ハーレム!」
「フン……」
女子が全員やって来たことで更に部屋が狭くなり密度が濃くなる。そして、一気に室内が暑くなった。
「刻。これは一体どういう……」
「あ、一旦集めただけだよ!? すぐ班分けして何名かは出て行ってもらうから」
「そ、そうだったんだ……てっきり、全員ここで寝るのかと……」
「あはは~。燈、大胆なこと考えるね?」
「ち、違う! これは誰でも勘違いするよね!?」
「これは星名の伝え方が悪い……」
「……えへへっ」
「なんだ、そういうことか」
透が納得する。
すると、明日花と乃之が目を一瞬だけ合わせる。
「…………」
露骨に「フンッ」と険しい表情にはならなくなったが、気まずそうに静かに目を逸らした。お互い、少し心境に変化があるのかそれとも無いのか。燈は、そんな二人の様子を見逃さなかったが結局のところはわからなかった。ただ表向きの態度だけを変えることにしただけなのかもしれない。
しかし、お互い同じタイミングで似たような表情をするのはある意味相性は良いのではと燈は思った。何かが上手く嚙み合えば逆にもの凄く仲良くなってくれるのではないかと二人の可能性を感じる燈。
思えば、彰人をいち早く取り抑えたのも明日花と乃之の同時だった。二人は、ひょっとしたらその時お互いに感じた何かがあったのかもしれない。
いずれにせよ、変化の有無は本人二人にしかわからないことだった。
「それじゃ、もう夜も遅いだろうし早速班分けをしよう。まず、明日花と乃之は分けた方が……」
「待って」
明日花は透の話を切る。
「なんだ?」
「…………」
明日花は言った途端に恥ずかしそうに赤面して黙り込む。そして、震えた声で言葉を放つ。
「……いいわよ、そんなことで気使わなくて」
「……え~!?」
「えっ?」
瑠夏は驚きの声を上げる。乃之も思わず唖然とした声を出す。
「本当に大丈夫か?」
「……だ、大丈夫だって! そんなこと気にせず……さ、さっさと決めなさいよね!!」
「…………」
静かになる透たち。善し悪しはさておき、唐突な空気に全員が困惑していた。
明日花は壁の方にそっぽ向く。耳が赤いのが、室内の全員にバレる。
「……ど、どうしよっか……? ああ言ってるけど……」
「……それじゃあ、遠慮無く決めさせてもらうよ。私は透お兄ちゃんと一緒確定でいいよね?」
「…………」
刻以外の女子が黙り込む。
「いいよね?」
刻による圧に、女子一同が怖じ気づく。
「は、はいいい! だ、大丈夫ですよ~!!」
とりあえずは透と刻がセットで決定される。問題は、残りのメンバーをどうするかである。
「何人ずつで部屋を分けようか。ベットは一つしかないからな。他の部屋はどんな感じかもわからない」
「男子は全員同じ部屋で寝るって言ってたね~。あいつを見張ってないといけないいからって総動員するみたいだよん」
「そ、そうなんだ……申し訳なくなるね」
「異性同士で同じ部屋ってわけにはいかないしね~。しかも、あのキチガイと同じ部屋とか同性でも無理っしょ。まぁ、あたしは透とだったら同じ部屋でも大歓迎ですけどね~!」
「…………」
女子たちから冷気を感じられる視線を集められる瑠夏。
「じょ……冗談ですよ、冗談~! あはは、あはははは……」
すると、瑠夏は刻から宣告を受ける。
「瑠夏ちゃんは別の部屋で」
「え、ええええええ!? そ、そんな~!?」
「余計な事を言うからよ……」
明日花は呆れた声で言う。
「あと、念の為に言っておくけど。透お兄ちゃんはベットの端で寝てもらうので隣は私が寝ます。皆も隣で寝られると思わないように」
瑠夏は心の中で思う。
(独占欲強いなぁ……いくら、あんなことやこんなことが沢山あったとはいえ……)
そして、刻に見つめられる瑠夏。
「……」
「……!」
瑠夏は慌てて視線を逸らす。
(あ、あぁ……何考えてるか多分バレたな~こりゃ……こ、怖すぎる……心なしかどんどん厳しくなっていってる……)
燈も似たようなことを考えていた。
(と……刻ちゃん、どんどん警護モードに入ってるな……もう、今後は本当に油断出来ないから気をつけなくちゃ)
すると、燈は刻に話しかけられる。
「燈ちゃん」
「え!? は、はいっ!」
燈は、唐突の事に驚いて変な声を出す。そして……予想外のことを言われる。
「燈ちゃんも、瑠夏ちゃんと同じで別の部屋ね」
「……え?」
燈は奈落の底へと突き落とされたかのような気分になる。
「ど、どうして!? わ、私もなの!?」
あの刻に対して思わず抗議気味に問う燈。すると、続いて予想外な回答が返って来る。
「うーん。なんとなく」
「な、なんとなくって…………」
いつも論理的な刻らしかぬ回答に納得がいかない燈。しかし……これ以上言うと後が怖かった。黙って大人しく従うしかなかった。ひょっとしたら……透と二人きりで過ごしていたことを勘づかれてしまったのだろうかと不安になる燈。刻なら、どんなタイミングで気づかれてもおかしくないので怖かった。既に目星くらいは付いてしまっているかもしれない。
いずれにせよ、刻にそう言われる決め手となった要因がわからなかったので心臓に悪かった。
これ以上、刻と同じ空間にいると隠し通す自信が無くなってくる燈は大人しく指示に従うことにした。
「……わかった」
燈は腑に落ちない様子で返事するところだったが、刻の逆鱗に触れても怖かったのでヒヤヒヤする。
「あと二人かな。丁度半々になるし」
「ベッドのサイズも、四人がギリギリそう……」
「どうしよっかー?」
暫く沈黙が続くと、乃之が勇気を振り絞ったかのような声で言う。
「あ、あの……」
「はい」
刻が一言返す。
「わ、わたし……トオくんと一緒でもいいかな? 名誉挽回って言ったら変化もしれないけど……機会をわたしに……お願いします」
「…………」
刻が考え込むと、明日花が続く。
「……アタシもお願いしたいわ。この部屋で寝たい」
すると、刻と月葉以外の女子が思わず驚く。
「えぇ!? ど、どういう風の吹き回し!?」
「な、何よ……悪い? べ、別にダメならいいのよ、ダメで……その、異性である透と同じ部屋で寝るなんて恥ずかしすぎるけど…………」
「…………」
刻の表情は変わらなかった。しかし、刻がまたまた予想外の言葉を室内で放つ。
「……わかった。二人ね。星名ちゃんと月葉ちゃんは他の部屋で大丈夫かな?」
「えっ? う、うーん……だ、大丈夫……だよ!」
「うん……」
困惑しながら返事をする星名といつも通りの月葉。こうして、部屋のメンバーは正式に決定された。
燈たちは隣の部屋へ移動する。そして、透が寝る部屋には刻、明日花、乃之の三人が残った。
室内が四人になると静まり返る空気。女子三人は誰も口を開かなかった。透の素朴な疑問が、早速飛んでくる。
「本当に大丈夫か?」
「……えっと、その……」
乃之が落ち着かない様子でそわそわしていると、刻が話す。
「わかってるとは思うけど。喧嘩したら直ぐに部屋を出て行ってもらうからね。それと、透お兄ちゃんに如何わしい行為するのも禁止。いいね?」
「うん……勿論。それを信用してもらう為に、ここで寝させてもらうことをお願いしたら」
「……」
黙り続けている明日花。明日花と乃之は気まずそうにお互い遠慮気味にスペースを譲り合っていた。
「それじゃあ……寝るか。寝る前に歯を磨きたいところだが、流石に全員分は無いだろうし仕方無いか」
「そうだね……今日はもう色々と疲れたし、まずは寝ようか。それじゃあ、おやすみ」
「お、おやすみなさい……」
「…………おやすみ」
こうして透たちは就寝する。窓側から透、刻、明日花、乃之の順番で同じベットの同じ布団の中に入って寝た。
一方、燈たちの部屋では……。
「はぁ……はぁ……恐ろしかった~。やっぱ刻、半端無いや……」
「あまり機嫌が良くない時の刻ちゃんの言葉は、ハラハラドキドキするよねー」
「絶対に敵に回してはいけない……とある人物が透くんに危害を加えたせいで、冗談も通じないところまで達している……」
「あいつ、ほんと余計なことしてくれたよね~。透を怪我させたのもムカつくし。ね~、燈?」
「……」
瑠夏たちが会話をしている中、燈は再び窓から空の様子を伺っていた。
「ねえ、燈?」
燈は、瑠夏に呼ばれていることに気づいて慌てて返事する。
「あ、ご、ごめん! ど、どうしたの?」
「燈……どうかしたの? 外に何かいた?」
「え? いや……そういうのじゃないけど……それで、何を話してたの? ごめんね、聞いてなくて……」
「あ~、大丈夫だよ。大した話じゃないし。それより、透と同じ部屋じゃなくてショックでしょ~?」
「な……! ななな、何を言い出すの、もう!! 私、寝る!!」
軽く怒ったような口調で言って窓側にそっぽ向いて布団に入る燈。まるで不貞寝のように。燈は瑠夏たちから見えない角度で赤面して頬を膨らませていた。それを笑いながら謝る瑠夏。
「あはは、もう~、ごめんて! 冗談だよ、冗談!」
「……」
燈は瑠夏の言葉を無視してそのまま眠りに集中した。
「瑠夏ちゃんの罪は大きい……」
「え!?」
「うんー! 燈ちゃんを無視させるなんて、よっぽどだと思うよー!」
「わあああああ。透に知られたら怒られるううう!」
「心配するところ、そっち……」
月葉にツッコまれる瑠夏。燈は、そんな状況で寝る前に色々考え事をする。
(私がさっき見たのは……本当に気のせいだったのかな。透くんと、もっと共有したかったのに……)
段々、瑠夏たちの話し声が聞こえなくなってくる燈。そして、目も自然と閉じていく。
やがて、燈は自分の世界に入って行くように眠りに就いた――――。




