転機
見てくださった方がいたことに感動しまして、これからは遅いなりにしっかりと続けていきたいです。
−−−
「セリャァァ!」
「フンッ!」
「後方に新手!援護するわ!」
「「応ッ!」」
....本当にやることがない。
いや、敵は大抵前衛の二人がバッタバッタなぎ倒してくれるし、
余った敵にはピンポイントで魔法飛んでいくし....
やっぱり俺いる意味なくね?
「いやぁ、やっぱりこの辺は楽でいいな!立ち回りを覚えたってのもあるが....にしても楽だ」
「前までヒイヒイ言ってたのにねぇ....私達も成長したってことよね」
「いよぅし、この調子で炭鉱までいくぞぉ!」
「「「おー!」」」
....今俺たち四人は二層に来ていた。
Eランク冒険者なだけあって、ライオットたちはなんの問題も無く順調に進んでいる。
このまま何も起こらなければ良いんだが....ってダメだダメだ!フラグを建てるな俺っ
「......そういえばリク、ちょっと気になったんだけど」
「なんか用か?シルヴィア」
「いえ、あんたとイムさんってどんな関係なのかなぁって」
「あぁ、そうか...」
まぁ、確かに至極最もな疑問だ。それほどまでに、SとFじゃ不相応、という意味なんだろう。いや実際そうなんだが。
「別に、ただ出身が同じで...同じところで育っただけだ。家族みたいなもんさ。一緒にいんのは惰性、腐れ縁みたいなもんだよ」
「そう、イムさんの男っていうから気になってたんだけど、そんなことだったのね。なんだ、期待して損した。まぁ確かにあの人がFランクのニートと付き合う訳ないよね...」
「男とかそんなんじゃねぇよ。てか、ニートで悪かったな...」
イムに男か。
考えたこともなかったな...てか、あいつに男っ気なんて今まで微塵もなかったし...というか、あの様子じゃこれからもできる気はしないな。
「二人共!ついたぞ、ここが例の炭鉱だ!」
どうやらライオットが見つけたようだ。道中も特に問題なく進めたし、やはり二層は何度も来たことがあるのだろう。そこらへんのEランクパーティより熟練度が高い。
「へぇ...ここね。確かに、正面奥の方...塞がってて見えないわね」
「暗視使っても塞がってちゃ流石に無理だもんな...千里眼は伝説の領域だし」
シルヴィアとダイスが二人で話し合ってるが...ここはリーダーの判断を仰ぐか。
「リーダー、どうする?」
「せめて内部構造がどんな感じかわかればいいんだけどな...迂回路から奥に入ること自体はなんとかなっても奥の方がどんな状況かわからないまま入るのは得策じゃなさそうだ...」
さすがパーティのリーダーをはってるだけある。ライオットの判断はEランク冒険者のそれとは思えないほど冷静だ。駆け出しも駆け出しのFランクでこそ、判断は鈍くとも最初は注意を怠らない。昇格したてのEランクが一番気の抜ける時期と相場が決まってるものだが...
ライオットの判断には慢心がない。一番大事な事がしっかり備わってる。
俺が言うのもなんだけど、凄く成長しそうなやつだ。
まぁ、とはいっても打開策はさすがにないよな。ここは先達として少しかっこいいところ見せとくか...。
「奥の内部構造がわかりゃいいんだな?なら任せてくれ。流石にニートといえどもここまでなにもしないのは流石にアレだよ」
「別にいいけど...なにか策があるのか?」
「まぁ見てなって」
迷宮はただの建造物じゃあない。
戦闘があって壁が破壊されても、数ヶ月後には自己修復されている、なんてのもザラだ。
今回の崩落みたいなのは流石に自然回復を待つと更に時間がかかるだろうが...少なくとも、迷宮は建造物じゃない。
どっかの学者さんは生物だなんて言ってるらしいが、まぁあながち間違いじゃない。ただ確証を持って言えることは迷宮の構成物はすべて魔力を帯びている、ということ。
(とりあえず炭鉱全体に俺の魔力を流し込めば....その伝播のブレでだいたいの形状はわかるっしょ...)
魔力を広がらせ、その伝播具合で地形を把握する。
蝙蝠系のモンスターが暗所での位置把握に使うらしいが、今では高ランカーの魔術師にとってはほとんど常識化している。魔素が薄かったり、物質内の魔力が少なかったりすると魔力を感知しにくくて面倒だが、迷宮じゃそんな心配はいらん。
理屈さえ知ってればやり方自体は簡単だし、このくらいなら見せて覚えてもらったほうが後々楽だろ。
「迂回路の位置は地図もらってるからいいとして...崩落自体の規模はそれなりみたいだ。6番のルートから奥には入れる。あんまり広い炭鉱じゃないから奥行きはそれほど。最奥の広間はどれも壁際こそ岩が転がってるが中心は開けてるな....どうにも怪しいけど....って、お前らどうした?」
「いや、だってアンタ...ただのニートよね...?」
「それに、戦闘能力皆無のGランク(笑)探索者じゃ...」
「なんかしらできるんじゃないかと思ってたけど普通にできるじゃないか!」
順にシルヴィア、ダイス、ライオット。
「いや、ニートだけどこんくらいできても文句ないだろ...失礼だな...というかGってなんだGって。不栄誉すぎるだろゴキブリに謝れ。てかゴキブリだって唐突に飛ぶからな。クソ怖いぞあいつら」
「今のはどういう原理?地形把握の魔術なんてあったかしら」
「いや、地形把握単品で組まれた術式じゃない。ただ雑に魔力広げただけだよ。まぁ、均等に広げなきゃいけない、っていうコツはいるけど...別に面倒なもん覚えなくてもいいからシルヴィアでもできると思うぜ。やり方はさっき見たろ」
「そ、そうね。凄い役立ちそう...ありがとう、リク。さっきまではニート呼ばわりしてごめんなさい...」
「いや、礼なんていらないよ。小技が役に立つならラッキーなだけさ」
「えぇ、そうね。こっからも張り切っていかなきゃね」
なんか、変だな。
さっきまでよりパーティが明るい...いや、明るく見える...?
働いても、割りといいことあるんだな。こんな感覚は久々だ。
「さーて、じゃぁ迂回路も決めたことだし、このまま奥まで行くかぁ!」
リーダーの号令に。
「「「おー!!」」」
三人で答える。
探索が楽しい、だとか。
忘れていた感覚だけど、それは心に響いた。
「帰ったら...そうだな」
イムのやつと一緒に探索に出かけてもいいかもしれん。
そう、確かに思った。