炭鉱へ 1
思いつきでグワって(語彙力)書いてるので切れるところも微妙です....
−−−
「.......ねむっ」
俺、リク・クルジュの朝は早い...。
イムの野郎の弁当と、俺らの朝飯を作らなくてはいけないのだ。
この習慣は何年も前...それこそ、俺とイムが師匠の所で初めて会った時から続いている。
寝ぼけ眼ながらもなんとか布団から這いずり出て、洗面所に向かう。
この街は水質がオーソドックスな感じでいいから、朝一の洗顔が凄く気持ちいい。
温泉街の水道も直に温泉が出てきてそれはそれで心地よかったけど...。
鏡もはっきり見えるようになって.....うん、リクさんは今日もイケメンだね!
鏡の中にはとてつもないイケメンと、寝間着姿のイムが....
ってイム!?
「ってイムなんでお前こんな早起きだ!?.....いっつもは叩き起こしに行かないと起きねえだろお前...」
「......ん」
「......迷惑かけない」
「...頭打ったんじゃねぇの?」
「.......!!」
「痛ってぇ痛ぇ!わかったから!やめろお前」
なんだあいつ....急に殴りかかってきやがった...
理不尽きわまりねぇな。ダンジョン潜って本格的におかしくなってきたか...
....あ、でもそんなこと前に言ってたような気が....しなくも....なくも....ない...?
まぁ面倒事に巻き込まないという殊勝な心がけは素晴らしいことだな。
「よし、イム。飯作るから待ってろよ。それまでに着替えとかすませとけよ」
「.....わかった」
俺とイムがこの街に来てから、早くも。二ヶ月がたとうとしていた...。そんな朝だった。
−−−
ここは迷宮都市「イスタリアブルグ」.....この大陸最大の迷宮都市だ。
「迷宮」というのは、魔物やら魔族やら、伝説級の怪物やらがどでかい財宝と資源といっしょくたに詰め込まれた遺跡のようなものだ。
童話では、「神様がイタズラをしていた魔物たちに腹を立てて地面の奥深くに閉じ込めた」....とか言われてるが、まぁ金銀財宝も一緒に入ってる所、実は遊戯目的で大昔の権力者が造ったんじゃないかとも言われてる。
ダンジョンはこの世界に一つしか無い。
地中に広がった、迷宮状のアリの巣のようなたくさんの空洞の総称がダンジョンだ。
その最深部は一つの空洞で、地上に近くなるにつれ空洞の数を増す、逆ピラミッドの形をしている。
火山の噴煙の噴出口のように、地上に僅かに現れた歪みの近くに、人は都市を造った。
−−−それが迷宮都市だ。
迷宮都市というのは迷宮からの資源で繁栄している都市の通称で、迷宮都市は基本的にギルドが管理している。
ギルドとは冒険者ギルドを統括する大規模な組織で、国家に匹敵する影響力を持つ。普段は迷宮への探索者の派遣や、冒険者たちへの仕事の斡旋を行っている。
「迷宮が無くては人類は発展しなかっただろう....」という言葉が残されているほど、迷宮から得られる資源は豊富だ。
迷宮に行くのは野望を求めた冒険者や探索者たち。それらをサポートしつつ利益を上げていくのがギルドの連中。そして資源を求めた商人らが集まって、こういった迷宮都市は形成される。
「迷宮あるところに活気あり」と、これもまたどっかのお偉いさんが残した言葉らしいが....その思惑の違いこそあれ人々がダンジョン目当てで集まってることに変わりはない。
俺とイムがこの街に来たのは一ヶ月前のことだ。
以前は南方のアトラシアという迷宮都市で活動していたんだが、少し問題を起こして、ここに移転してきた。
俺にとってはよくあることだ。実際、アトラシアで活動していたのだってその更に前の活動場所で面倒を起こしたからだし...
毎度毎度追放のような形だった、俺への罰が軽くなったのも、新しい活動場所での保障がなされたのも全部イムのおかげだった.....刑罰の軽減はともかく活動保障までかけて貰う必要はなかったんだが...。
いつも迷惑被ってる分あいつも俺の役に立つのが当然というか、まぁ感謝の気持ちが全く無いわけではないが、「お前もたまには役に立つなぁ」くらいのノリの感情しか抱かなかった。
....まぁ、魔物がらみの面倒事を毎日のように持ってこられたら誰でもムカつくに決まってるよね!
「絶対に働かねぇぞ....俺は。ここまで来て働くアホがどこにいるんだ全く...」
大陸最大の迷宮都市に来たって、俺のやることに変わりはない。
毎日ぐうたらと過ごして、イムの飯を作ってイムを送って、そしてイムが持ち込む面倒事からは全速力で逃げる...
俺は安寧を得るためには、主婦業の洗練だって惜しまない。
飯を作ればイムが安眠妨害をしないなら、作って寝るだけだ....。ヘへっ...作れ作れと寝てる俺の顔に水をかけやがった時のあいつは今でも鮮明に覚えているぜ....
「さてと....昼飯の買い出しにでも行くかな...」
イムを送り出してすでに数時間は経っていた。
この時間....あいつはまだ迷宮だよな.....なら街で絡まれることは無いはずだ...。
よし、買い出しついでにアリナちゃんのとこでも行こっかなぁ...?
財布を持ち、バッグを肩にかけて、家を出た。
目指すは中心市場だ。この街一番の大通りにある市場で、とても活気が良い。
−−−
(キャベツにトマトに卵.....まぁ魚は明日かな...)
中央市場の食材市場に俺は来ていた。
昼前時は都市の主婦やら腹をすかせた自炊派冒険者たちが集まる時間帯だから、かなり混雑している。
面倒なヤツに絡まれる前に早く帰えんねぇと...
「お、ニート君じゃん、めっずらし〜!おっはよ〜」
うぐっ....早速面倒なヤツに絡まれた...
てかニートとはなんだニートとは。
「おい、エナ。今すぐその呼び方やめねぇとはったおすぞ」
「だってぇ〜本当だしぃ〜てかそんな口調で話してるとアリナちゃんに嫌われちゃうゾっ」
「んだとお前」
「きゃ〜怖い〜」
(うっぜぇぇぇぇ)
「それよりニート君、質問があるんだよ」
「なんなんだ....?」
「ニート君はなんでニート君なのぉ?」
.....毎度の事とはいえこいつ.....エナのうざさはえげつないな....一ヶ月前にここ来た日から毎日のように顔合わせてる気がするぞ....。
てかニート呼ばわりは癪に障る。
会う度に「ねぇニートぉ〜」とか「やっほーニートくぅん」とか言われるのはもううんざりだ....
「よ〜しわかったそこの困ったちゃんよぉ、今なら許してやる。次俺の事ニートっていったらどうなるか...」
「いやだからニート君はなんでニートしてるの?」
....どうやらこいつは俺に殺されたいらしい。
「あのなぁお前...人の話を」
「私なりに調べたんだよね、ニート君のこと」
「はぁ?」
普段はアホみたいな言動しかしてないはずのこいつが、何故か目をギラギラに研ぎ澄まさてこっちを見ていた。いや、一応知ってたけど....
....アホの子にそんな一面いらねぇって....
「ニート君は昔はニートじゃなかったんでしょ?ここに来る前はアトラシア、その前はメリゴア、ダッカン、アルメシア......何十もの国を点々としてる.....一番最初は東の島国にいたんだってね」
「....それがどうしたっていうんだよ」
「それでね、私気になっちゃったの。なんでニート君がこんなに移転してるのか。」
「なにか理由があって....というか無い方がおかしいし。それで、ニート君のパートナーのイムっちのことを調べ始めたの」
イムのこと調べたのか....
つってもあいつ無口だからそれほど情報ないと思うんだが。
「で。何がわかったんだよ」
「...それがさっぱり。ニート君の情報はうんざりするほど....それこそ、いくら殺しても湧いてくるGちゃんみたいにポンポン出てきたのに....イムちゃんのことはな〜んもわかんなかったの。SSランクの冒険者で、超凄腕のダンジョンシーカー。こんな誰でも知ってるような情報しかね。」
「そこまであいつ無口だっけか...?....てかさり気なくGと同列にしてんじゃねぇ」
「ニート君のことはもはやなんでもわかっていると言っても過言ではないよ〜それこそ、始めのギルドにいたころの戦績なんかもね〜」
....そこまで調べたのかよ。
「いやあ、昔のニート君はとても今のニート君からは想像もできないような活躍だったみたいだねぇ〜!もうお母さん涙出ちゃうよ....ぐすんぐすん」
わざとらしい泣き真似をはさんでくるあたりこいつらしい....といえばこいつらしいな。
てか、あの頃か....まさかこいつあの事まで...。
「おい、まさかリナお前、あの事は...」
「あの事ってもしかしてあのコトかな!?...うん、まぁ知らなくはないかなっ!」
「エナ....」
「でも気になっちゃうってことはそれだけ重要なことなんだよねぇ!よぅしこれからはこの案件についての操作をすすめますよ隊長!あいあいさー!なんつって!」
あの事を嗅ぎ回られるのはなんとしてでもやめさせなくちゃならない....こいつを揺さぶって交渉に持ちこまなくては....
「おい、エナ....」
「どうしたのニートくぅん?」
「銀の情報屋....で合ってたか」
「......ふ〜ん、ニート君にしてはやるじゃん.....いや、これが真のニート君だったりして!?」
「御託はいい。その話誰にも言いふらしてねぇだろうな」
「今のところは、ね。さっきの君の反応で情報としての価値は上がったかな〜」
「いくらだ」
「あ〜もう威圧すごい〜....そのやる気をなんで仕事に回さないかなぁ!ぷんすかぷん!」
「いくらかって聞いてんだぜ...」
「まぁ....そうだね、とりあえず金貨で50枚ってとこかな〜」
こいつ....ただのぼったくりじゃねぇか...
「まあ、こんな所で立ち話するような話じゃないしねぇ...ビジネスの続きはまた今度、ってところかな?追って連絡したげるよ」
「...わかった。明日ギルドの応接室で待つ」
「あいあいさー!だよ!んじゃねニートくぅん」
そう言うとエナは大きくジャンプし、民家の屋根を渡っていった。
斥候職のスキルは相変わらず超人じみたものが多いな...
エナ.....エナ・シルヴァラット...
裏の界隈では「銀鼠」とかいう情報屋として有名だって話だったな...ただのアホの子でいいよあいつ....てかそっちの方が可愛いよ...
俺は安寧を求めてるんだ....こんなつまんないことで邪魔されてたまるかっ。
脳裏に一抹の不安を覚えつつも、昼飯の買い出しは終わった。足取りは決して軽くはないが....
(アリナちゃ〜ん....待っててねぇ〜!)
ギルドに向かう心はとても軽快だった。
一つ一つの面倒にいちいち気を病んでたら、それこそニートなんてやってられるか。