蝶 第3翅
前回から間あけちゃいました。短めですが更新。
「それで、結局見つかったの?」
探し始めてから、何日か経っているけど。
空っぽのお弁当箱を風呂敷で包みながら、
そう言った奈穂は心配そうに眉尻を下げる。
あたしは、首を横に振った。
華奢な女の子──凜と出会ったあの日以来。あたしは凜の代わりに交番へ行って、落し物を確認してみた。でも結局、宝物を見つける事は出来なかった。
『大丈夫だよ』
探してくれて、ありがとう。
凜は、そう言って柔らかな微笑みを浮かべていた。探し物は見つからなかった。たったそれだけの筈なのに。肋骨の中身が、下方向に沈んでゆく。苦しくて、重い。中途半端に重たい灰色の鉛を、飲み込んでしまったようだ。
──見つけてあげたかったのに。
口惜しく思っても何も変わらないのはわかっている。わかってはいるけれど。沈み込むこの鉛を、少しでも誰かに引き上げて欲しくて、溜息をついた。
「……なら、私も探す」
「いいの?」
「1人より2人で探した方が見つかると思うから」
穏やかな表情が、目に映る。教室の窓から射し込む陽の光も相まって、とても柔らかく見えた。
「それで……凜ちゃん、だっけ。その子の探し物は?」
「銀色のペンダント。家族写真が入っているんだって」
「……そっか。きっと大切な物だよね」
見つかるかどうかは、わからない。
でも、小学校時代から知り得ている親友の頼もしい言葉に、あたしはとても安心した。
「見つかったら連絡する」
奈穂がにこりと微笑むと、天井のスピーカーから予鈴が鳴り響いた。話し込んでいるとすぐに終わってしまう、高校の昼休み。廊下側から、追いかけっこをしている様なドタバタと忙しない足音。中庭や体育館で遊んでいたクラスメイト達が、次々と戻って来る。騒がしくなってきた。
「……探し物、見つかればいいね」
「奈穂もありがとね!」
お気に入りのリップで、唇を赤く染め直す。
その予鈴に紛れた言の葉の裏側を、聴き逃しているとも知らずに。
蝶【ちょう】butterfly
鱗翅目のうち、アゲハチョウ上科・セセリチョウ上科に属する昆虫の総称。色彩に富む二対の翅を持ち、螺旋状の口吻を伸ばして花蜜や樹液を吸う、美しい生物。