神創兵器エレクシエスト -truth-
エレベーターの天井に何かが落ちてきた音がした。
手錠が自動的に外れる。
「・・・ねぇ」
「何」
「これって・・・僕達が死生物だってことが、勝手に決め付けられたんだよね」
「そういう・・・こと・・・ね」
監禁。
予想できたことではあった。
ただ、実際にそうなっていても妙に実感が湧いてこなかった。
「超法的機関・・・か。
人権も無視できるんだね」
「・・・そのようね」
志隆が見ていたのは棚に入った銃。
多分、入っている弾は二発だけ。
志隆はそのまま探索を続けるが、私は何もしなかった。
どうせ、一ヶ月もいればどこに何があるかなんて、意味がなくなってしまう場所だから。
「とりあえず、どっちで寝るかは決めとく?」
「・・・条件はほとんど一緒だけど」
どちらかを選ぶ元気もなく、入り口側が私、奥が志隆となった。
志隆がテレビをつけようとしていた。
「・・・ついた」
映し出されるのは見たことのある場所。
指揮室だった。
よく見れば近くに番号を押す場所が無い電話機と、テレビの上に小さなカメラがあった。
「他のチャンネルもあるみたいだね」
志隆があるニュース番組で止まる。
「・・・は、吉良風市上空より佐藤リポーターです。佐藤さん?」
テレビが巨大なクレーターを映し出す。
「・・・はい!佐藤です!」
ヘリコプターの爆音のせいで、リポーターはかなり強い口調で話していた。
「ご覧いただけますでしょうか!吉良風市内で地震のために突如出現した巨大なクレーターです!
五十年前の広島のように、瓦礫もなく、ただの砂地が広がっています!
付近には別の局のヘリコプターも多数飛び交っており、ものものしさを感じさせます!
さらに、今回の地震では前回などよりも復旧活動が遅れており、各地から自衛隊が派遣されている模様です!
以上、現場からでした!」
カメラがスタジオへと移る。
「斎藤さん、これら一連の事件についてどう思われますか?」
「私は地質学者ではないのでどうとも言えませんが、震度7以上の地震が同じ場所、しかも、一部地域に多発するとは素人といえども思えません。
何か裏があるような気がしてなりませんね。
とにかく今は、復興を早く願うばかりです」
「ありがとうございました。では次――」
志隆はリモコンでテレビの電源を切った。
「っ・・・くっ・・・やっ・・・めっ!」
私は志隆を蹴り飛ばすと、支流は壁に激突せずに受け身をとり、四足で立ち上がった。
もう何もかもどうでもよくなっていた。
でも・・・志隆だけには死んでほしくなかった。
「もう・・・十七回目・・・よ」
五回目あたりだっただろうか。
私の首は妙な痛みを発するようになっていた。
「時野、もう無理だよ。助からないし、死ねないんだよ僕ら」
無数に散乱した食物。
・・・汚い。
でも、こんな環境だと新しいのが来ても食べる気になれない。
「だからといって・・・私の首だけ締めても・・・・・・」
「銃弾でも死ねなかったんだから、こうするしか方法はないよ」
もう、だめだ。
でも、志隆にだけはせめて最後まで「生きて」ほしい。
そのために、私は志隆のあらゆるストレスを全て受け止めていた。
普通じゃなければできることじゃない。
だから私は「普通」じゃない。
「もう少し、あなたの弾をめり込ませたら、死ねるかもよ」
「無理だよ。もう指の届く範囲内はとっくに押し込んでる」
そして、志隆は様々な色に染まったベッドに横になる。
「もう一度聞いておくけど、洗濯する?」
「もう面倒になったよ。生きるのも。死ぬのも」
ついに私は彼の体までも受け入れた。
愛なんて文字はどこにもない。
優しさもない。
私の愛も受け取ってくれない。
ただただ、強引で乱暴で。
痛くて痛くてたまらない。
触られるだけでも痛い。
強姦と変わりがない。
私をただの欲を処理するための道具としてしか思っていない。
「やめて」と言いたかった。
でも、言うことができなかった。
もし、本当にやめてしまったら、私は彼が意識しているものの存在でさえなくなってしまうかもしれない。
それが怖かった。
だからあれからずっとそうしてきた。
・・・え。
止まった。
志隆が止まった。
「・・・時野・・・・・・」
名前を、呼んでくれた。
時間の感覚はもうなくなってしまったけど、最低五十回以上はもう寝ている。
嬉しかった。
「嫌なら、嫌って言えばいいんだよ?」
・・・・・・
「もう謝れないようなことしちゃったけど、それでも嫌って言っていいんだよ?」
優しかった。
やっぱり志隆は優しかった。
私に優しくしてくれた。
「寝よっか」
「・・・うん・・・・・・」
よかった。
元に戻ってくれた。
努力が無駄じゃなかった。
存在が・・・無駄じゃなかった。
志隆はそのまま、タンスへと歩いていくと、新しい服を取り出して着た。
そして、少し躊躇するように自分のベッドへと入っていった。
見るも無残なモノの中に。
「・・・志隆・・・・・・」
「何・・・時野?」
「そっちは汚れてると思うから・・・こっちで寝てもいいよ」
我ながら、人間らしい言葉遣いをした、と思った。
元々、今の表面意識上にある意識はジヴェルの魂ではあるが。
それでも、初めて人間らしい言葉を言った。
「・・・ありがと」
その後、私達はもう一度交わった。
優しく・・・温かく。
とろけるような感覚よりも、何より愛を感じ、そして、感じてもらえたことが嬉しかった。
起きた。
そこに志隆の姿はない。
あるのはデギゥル。
背中から触手を生やした、本来のデギゥルだった。
その目はいつもの青色ではなく赤色に変化していた。
私を見つけるなり、触手で私をがんじがらめにし、頭に触手を刺す。
しかし、皮膚に触れた瞬間に触手が止まる。
血が、鼻、唇、顎、そして首へと伝っていくのがわかった。
志隆の目が青や赤に不規則に変化している。
抗っている。
デギゥルに。
「・・・ゴ・・・・・・
ゴ・・・・・・メ・・・・・・・・・ン」
声はもはや聞き取れず、唇でそれを判断した。
そして、私を放すと扉を破壊し、上へと登っていった。
「AST反応確認! 場所は・・・・・・」
まだ顔もよく洗っていない。
私は最悪の場合でないことを静かに想った。
「ち、地下監禁室です!」
「現在、専用エレベーター通路内を上昇中!」
微妙に安心できた。
やっと自分にけじめがついた。
敵だ。
アレは・・・敵だ。
今まであれほど悩んできたことが、こんなにも簡単に解決できるなんて、正直言って驚いた。
「通路内を完全封鎖して目標の侵攻を阻止!
一型機は木星へ四次元フィールドで強制移動!
二型機も金星へ!」
「了解!」
最善の策は尽くした。
・・・でも。
でも、死生物の力はそんなものじゃないかもしれない。
太陽に投下したところで、どうにもならないのかもしれない。
そんなことがふと頭をよぎった。
「通路内、封鎖出来ません!
目標がゲートを全て破壊しました!」
「目標を監禁室モニターから推測すると、かんざ・・・死生物Aです!」
・・・そう。
それしか思わなかった。
「目標はエレベータを通過!」
「木星のAST反応消滅!
キラカゼに出現しました!」
「目標のAST反応が――」
突如、強烈な地震が指揮室を襲った。
モニターが緊急事態を告げる。
「目標のAST反応拡大しました!」
「AST粒子砲はエレベータから地上までを貫通!
死者数十名以上と思われます!」
「デルが移動を開始しました!」
「四次元フィールド、開きません!
外部からの干渉で、空間が固定されています!」
驚いた。
死生物が本気を出せばここまでのことができる。
人間の力がここに全く存在していない。
やはり、弄ばれていたのだ。
鼻から死生物は人間と戦うことに対して、そんなに強い意志は持っていない。
愕然とした。
私達にできることが、阻止することが、ない。
指揮をする意欲を失った。
無駄だと思った。
「指揮官! 指示をお願いします!」
「もう時間がありません!」
「美月指揮官!」
私は完全に体の力を抜かされ、何の感情も持たずに椅子にいた。
局長や指揮官としての想いや、
死生物を倒すことへの想いや、
志隆を止めたいという想いが、
絶望に埋め立てられていた。
こうなったらもう、死ぬしかない。
志隆とはもう無理だけど、先輩と一緒にいたいな。
「シキカンドコニイカレルノデスカ」
「シキカン」
言葉から意味が完全に抜け落ちて、単なる音として耳に伝わってくる。
それは本当に意味のない物だった。
自分の欲のためだけに行動する、という、一番したかったことが、出来ていた。
時野にもう少しいろいろ言っておきたかったな。
でも、もう体を動かすことはできなくて。
心身共に擦り切れる寸前まで来ていた僕はついに乗っ取られてしまった。
いろんな人とか救ってきたけど、結局全部意味なかったんだ。
縦に伸びた穴を抜けると、そこにデルがいた。
「待たせたな。俺」
そうデルが言ったのがかすかに聞こえた。
どうする・・・・・・
この状況よりも、指揮官がいないことが何よりもひどかった。
せめて戻ってきてくれれば・・・・・・
「どうするの?」
桜が言う。
「待つ意味は無いだろう。
AELを発令するしかない。
たとえほとんど意味がないとしても、だ」
胤が言った。
「でも、防衛庁の許可なしで――」
「日本政府なんて、今は役立たず。
これは世界の問題」
屍が言った。
「澪、やるしかないよ」
「零・・・・・・」
深呼吸をする。
今は一番年上の私がしっかりしないと。
「みんなも、それでいいの?」
うなずく。
行かなきゃ。
少しでも止めるために。
「AEL発令! レオム量産機の搭乗を許可します!」
指揮室が変形し、ほとんど点いていないモニターが出てくる。
・・・止めないと。
「全機カタパルト固定完了!」
わずか百機弱の量産機。
何が出来るのかはわからない。
でも、やるしかない。
「レナ、頑張って」
「そんな寂しそうな声で言わないでよ。
死んじゃうみたいじゃない」
あきれるぐらいに普通だった。
「死亡フラグ、ってやつか?」
「清輝は黙ってて」
やっぱり怖いんだ。
死ぬのが。
「全機射出!」
カタパルトが起動した瞬間だった。
「デルのAST反応拡大!」
「カタパルトは止めないで!」
死ね。
そう言ってるようにしか自分でも思わなかった。
「・・・先輩」
「み、美月!? どうしたんだこんなところで!」
当たり前だと思う。
さっきAELが発令された。
私も招集されるべきだったんだろうけど、されなかった。
たった百機で何ができるっていうんだろ。
ばかばかしい。
「・・・美月?」
先輩の胸に静かに飛び込む。
先輩は優しく私を抱きとめてくれる。
先輩の胸は私のとは違って本当に大きくて柔らかい。
改めてそう思った。
「ど、どうした?」
「先輩の・・・おっきくて・・・すごく柔らかいです」
そのまま体重をかけると、すんなりと先輩はベッドに倒れこんだ。
触っているだけで興奮してくる。
「先輩・・・いなくなった者同士・・・慰めあいましょ」
唇をゆっくりと重ねていく。
こんな終わり方も、悪くないなぁ。
・・・でも。
こんなことで終わらせてはもらえなかった。
「・・・?」
ぼーっとした体に感じる衝撃。
私は壁に叩きつけられていた。
先輩が、私を殴った。
「馬鹿かお前は!!」
怒られた。
初めて。
「男がいなくなったぐらい、どうしたっていうんだ!!
見損なったぞ!!
趣味趣向はこの際関係ないが、人間として最低だ!!」
耳に先輩の声が響く。
でもそれ以上に体と心に大きく響いた。
「今すぐ戻れ! 指揮官だろうが!」
・・・私、馬鹿だ。
何やってたんだろ。
「あ、ありがとうございます!」
走った。
私の場所へ。
私がいる場所へ。
「・・・自分も人のことなんか言えないくせに、美月に説教面か」
でもまぁ、きっと良かったんだろうな。
美月には最後の薬になったかもしれない。
私と寝ても、それはそれだが、きっと美月はそっちの方が良かっただろう。
思えば私も間違いを犯しかけたときがあったな。
あいつと同じ、失ったとき。
澪の説教は、今でも忘れない。
弱いな。人間は。
愛が欲しければ何でもいいんだから。
愛がなくても、触れ合っていればいいんだから。
それで満足なのが幸せなのかどうかは、私にはよくわからない。
でも・・・きっと。
負けることはわかっている。
「ごめんなさい。
謝りきれないけど、謝っておくわ」
誰も反応はしない。
・・・忙しいからか。
「現在、百機中五十機が戦闘中!
他は機体破壊により戦闘不能です」
半数・・・・・・
あと何分持つか。
「AST反応新たに確認!
場所は、地下監禁室です!」
地下監禁室の様子が映される。
そこには針状の羽をまとった時野の姿があった。
「金星のAST反応消滅!
キラカゼに出現しました!」
「デル、時野神子、共にAST反応拡大!」
瞬間、すさまじい轟音が轟き、指揮室が揺れる。
何かに?まっていなければならないほどだった。
「ち、地下監禁室のAST反応消滅!
キラカゼ内に出現しました!」
ほとんど壊れかけのカメラからの映像を映す。
時野が羽ばたきもせずに浮かんでいた。
意思疎通を行おうという気配は感じられない。
そして、黙ってジルの中に溶け込んでいった。
もう、私達ができることは何も無い。
やるべきことはやった。
「AEL解除!
各搭乗員は機体をその場に乗り捨ててもいいからとにかく逃げなさい!
施設内の職員も全員退避を命じます!」
そうだ。
これでよかったんだ。
あとは、あの二人が決めること。
まだまだ子供な、あの二人が・・・ね。
ゆっくりとまた志隆を見る。
装甲板もすでに剥がれ落ち、その姿は我々の主導者であるデギゥルシスとなっている。
我々にとって、人間は最も憎み、倒すべき相手。
そして、それを最初に決定したオヴィルシスとは全く違うシナリオがここで繰り広げられている。
全ての判断を神崎志隆にゆだね、その問いに対する解を我々の最終決定とする。
しかし、今判断を下そうとしているのは志隆ではなくデギゥルシス。
予定よりも長く志隆を監禁させておいた結果がこれだ。
精神が極限まで追い詰められ、デギゥルの精神をその内に押し留めることができなくなっている。
多分、彼は中でなんとかデギゥルを止めようとしている。
そのせいでまだデギゥルは「再生の根」を張れないでいる。
生きとし生けるモノを全て消滅させてしまうものを。
デギゥルの触手は元々はそのためのもの。
我々の中で一番最初に生まれた、もしくは生み出されたとされるのはデギゥルであり、主導者であると同時に破壊神でもある。
志隆というデギゥルにとっての不純物を取り除いたときの力は一体どれだけのものなのか。
そんなものを私は見たくは無い。
いや、違う。
私は力が見たくないのではない。
取り除かれてしまうのがたまらなく怖い。
限りない命と限りある命であっても、求めたいものは仕方が無い。
だから、救ってやらなくてはならない。
私の掛け替えの無い人間、神崎志隆を。
「ググゥアァァァァァァア!」
「キィエエ! ケルァアアア!」
ほぼ完全にデギゥルが・・・か・・・・・・
私が先に攻撃をしかけると、デギゥルは容赦なく光線を放つ。
避けずに腕を犠牲にして接近する。
腕が削られていくが、構ってはいられない。
瞬間、胸が燃え滾り、無意識に光線を吐き出す。
デギゥルはそれを根を壁にして防ぐ。
止まれない私は壁に激突してそのまま撥ね返される。
腕の再生が間に合っていない。
よく見れば、既に一本の根を地面に突き刺している。
神崎志隆の崩壊が始まっている。
何ゆえ、彼にはそんな力があるのか。
何ゆえ、彼はそんな彼を選んだのか。
頭の中を瞬時に過ぎって、思い出す暇もなく消えていく。
デギゥルの放った光線を跳躍でかわすと、限りない羽の光線を放つ。
全ては根に防がれてしまった。
やはり、世界を取り込んだデギゥルに私のような雑魚が敵うわけがない。
どうすればいい・・・・・・
――あんた。
時野神子が話しかけてくる。
――本気、出せないんでしょ?
――ええ。
次の言葉は読めた。
――なら、私を殺して、本気で志隆を止めて。
揺るぎはない。
止めても無駄なのは簡単に想像がつく。
――なら、遠慮なくやる。
次の瞬間には殺されるかもしれないのに、彼女は穏やかだった。
――止めないのね。こんなに長い仲なのに。
――止めても意味はない。
――ま、そうだけどね。
仕方なく、彼女はそう呟いた。
――じゃ、志隆を止めたら、あんたのために死んだ女がいた、ってだけ伝えて。それと、あんたのこと、嫌いだから。
――了解。
あっさりし過ぎただろうか。
でも、彼女にはこれがお似合いなのかもしれない。
だからこそ、決着をつけなければいけない。
デギゥルのように身体は変化しないが、確実に力が戻っている。
これが真の私だ。
だが、これを知られては意味がない。
一瞬でケリをつける。
懐に飛び込めた。
そして、融合を開始する。
そのまま、デギゥルの体におちていった。
「時野! 来てくれたんだね!」
「貴様、俺に何の恨みがある」
「あなたには恨みはない。志隆を助ける義務がある」
「小癪な。人間と恋人ごっこなどしているやつには言われたくはない」
「ええ。私と時野神子は神崎志隆を愛す」
「とき、の・・・・・・」
「人間は殺したのか」
「志隆を助けるために死んでくれた。ごめんなさい」
「・・・え?」
「何が助けるだ。お前こそ囚われにきたようなものだろうが」
「・・・ん」
なぁんだ。私、生きてる。
そっか、レールガン取ろうとしたところで叩き落とされたんだっけ。
隣には清輝・・・か。
せめて、大好きの一言ぐらい、言いたかったな。
「清輝、聞こえてる?」
意味もなく通信をつないでみる。
予想通り、返ってはこない。
「私ね、あんたのこと最初から大好きだったのよ。
死んでから言うのもなんだけど。
私ね、あんたのことばっかり一日中考えてた。
食べてるときも、戦ってるときも、もちろん寝てるときだって考えてた。
どうしたら大好きって言えるのかなぁ、とか、恋人になれたらどこ行こっかなぁ、とか。
ほんとに、恋って人をバカにするよね。なんでだろ。
有りもしないこと考えて、妄想して自己嫌悪、みたいな?
わっけわかんない。でも止められないのよね、これが。
何にも、やんなくて、できなくて、考えるだけで。ひたすら想ってるだけで。
言葉ってなんでこんなに伝わらないんだろうね?
聞いてる? 清輝」
「・・・・・・」
思わずそう言ってしまったあと、スピーカーから何かのノイズが聞こえた。
「清・・・輝・・・?」
「ああ。聞こえてるさ」
うっわぁ、死ぬ最後にものすっごい恥ずかしいことしちゃった。
ま、いっか。遺言は叶ったんだし。
「で、お前が言いたいのはそれだけか?」
「まあ・・・だいたい。これ以上話すと脱線するだけだから」
清輝の笑い声が聞こえる。
「わかってるな。でも、俺はもっとお前に好きって言いたいぜ?」
「ああ・・・そう」
なんか力が抜けた。
結局、こんなオチかぁ。
「じゃあま、やらなきゃならないこと、やりますか」
清輝のレオムが腕だけでゆっくりとレールガンに近づいていく。
「わかったわ」
もう少し早く言ってればなぁ、なんてよく思うことよね。
私達はほぼ同時にレールガンをとると、私が銃を握り、清輝が腕を支えた。
「俺達夫婦の最初の共同作業、やりますか!」
「おうよっ!」
そう。私達に最後なんてない。
これからも、ずっと続いていくんだから。
「志隆!」
「時野!」
僕達がデギゥルに抱きつくようにしてしがみつく。
「何をする!」
「誰でもいいから早く撃って!」
時野も、動いているレオムには気付いてたみたいだった。
そのまま僕達の力でデギゥルを体の外へ引っ張っていく。
そして、デギゥルの力をありったけ抑え込む。
「俺を撃ったとしても意味はないぞ!」
「ここまでされたんだから、痛い目ぐらい見てよね!」
銃口がこっちを向いている。
「志隆」
時野が僕の手を握る。
怖がってはいない。
僕も怖くはない。
「時野。ありがとう」
「デル、消滅です!」
歓喜に包まれる指揮室。
部屋には残っている職員全員がいた。
「まあ、やったな」
「志隆と時野神子のおかげです」
「ま、負けには変わりはないが」
モニター上には計測できないほどのたくさんのAST反応。
ついに負け・・・か。
「みんな、あとは好きにしてくれ。解散だ」
先輩がそう声をかけると、みんなは各部屋に散っていった。
覚悟はできているようだった。
「報告は別にいいだろ。さ、お前も好きにしてくれ」
残っているのは澪オペレーターだった。
「私は・・・指揮官の元にいます」
「そうか・・・まあ、どうでもいいだろ。さーて寝るか」
先輩は床に横になった。
「えー、寝るんですかぁ?」
「最後くらい、ゆっくりさせてくれ」
「いっつもゆっくりしてるじゃないですかぁ。働きもしないで給料もらって」
「こいつぅ。言いたいだけ言って終わるなんて卑怯だぞ」
「せんぱぁい、痛いですよぉ」
「そうですよねぇ、だから最近、おなか周りとかもマズくなってきてるんですよ?」
「澪まで言うか! このこのぉ!」
「し、指揮官痛いですよぉ」
「ぷっ・・・はは。
はははははは」
「はははははは」
「はははははは」
「はははははは」
またあいつはここにいたわけか。
「ジヴェルまた聞いてるのか?」
「オヴィル・・・か」
ジヴェルはまたCDラジカセを聞いていた。
こいつは本当に物好きだな。
私はジヴェルの横に寝ると、何となくつぶやいた。
「地球はやはり、住みよいものだな」
「お前は人の体には慣れたか?」
私達は地球に済みやすい人の体になって生活していた。
もちろん、私も高校生ぐらいの体ではあるが。
「まあな。お前の方がはるかに年配ではあるがな」
「そうか」
鳥が空を飛んでいく。
川の流れが、耳に心地いい。
「お前は・・・人間が絶滅してどう思う?」
「間違っているかどうか、ということか?
私が行ったことだ。間違うはずがない」
「だろうな。俺もそういうと思った」
変なことを聞いてくる。
あいつらしくもない。
「俺は・・・少し残念だな」
「何がだ?」
そう言うて、音楽をまた聴き始める
「音楽が・・・もうないことだな」
・・・ベートーヴェン作曲「交響曲第九番」か。
どうも。鯖味噌汁です。
今回は、元々考えていた展開をあえて晒してみました。
本編をごらんになっているのなら、少しはおわかりいただけるかと思います。
ありがとうございました。




