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01.囚われの勇者?

 半年前に異世界、アネイル国に召喚された荻野翔真は、“勇者”もしくは“ショーマ”と呼ばれ、騎士団や魔術師達から知識と戦い方を学んだ。


 国際会議に出席していた宰相から「魔王がアネイル国を焼き払おうとしている」という情報が入り、他国の侵略から国を護るために翔真を召喚したアネイル国王の命により魔王が滞在している神殿へ向かった。

 今、勇者ショーマの目前に居るのは、アネイル国へ敵意を向け、美しい王女に呪いをかけた“悪しき魔王”。


 “悪しき魔王”は、美しい王女が霞んでしまうくらいの美貌の持ち主で、黒い軍服に黒いマントという闇を彷彿させる服装に、煌めく銀髪が映えて見えた。

 ショーマの姿を確認した魔王の真紅の瞳が細められる。


 魔王は片手を横へ伸ばすと、如何にも魔剣といった禍々しい魔力を放つ漆黒の剣を出現させた。


「俺は、お前を、魔王を倒して元の世界へ帰るんだ!!」


 魔王に応じて、ショーマも腰に挿した白銀の聖剣を抜き放つ。


「うおおおー!!」


 聖剣を両手で握り締めたショーマは、一気に壇上の魔王へと跳び掛かった。


 ギィン!


 跳び掛かってきた聖剣の刀身を、魔王の漆黒の剣が易々と受け止める。

 魔剣の闇魔法の力に反応して、聖剣から白い光が放たれた。

 聖剣の付属聖魔法効果が弾丸となって魔王へと向かっていく。


 口元に浮かべる笑みを消さずに、魔王は難なく聖魔法の弾丸を斬り捨てた。


「ほぅ、これが聖剣の力か」


 面白い玩具を見付けたかの様な口調で、魔王は笑う。

 愉しそうな魔王とは対照的に、ショーマは内心焦っていた。

 触れるだけで魔に属す者を滅する聖剣の力を、魔王は易々と斬り伏せたのだ。


「だが、小僧。この程度の腕では我には勝てぬ」

「何! くっ、ぐああっ!」


 バリバリバリッ!!


 防御する間もなく、足元から出現した漆黒の稲妻がショーマに襲いかかる。

 抵抗したくとも、漆黒の稲妻は状態異常の効果も併せ持っていたため、麻痺の効果もある稲妻に体を貫かれてはなすすべもなかった。

 

「くそっ、やっと、俺を認めてくれる場所を見付けたと、思ったのに」


 魔王が放った魔法に身を焼かれ、冷たい石の床へ倒れ付したショーマの瞳から涙が零れ落ちる。


「ならば、我と来るがよい。貴様を救国の勇者にしてやる」


 指先をほんの少し動かすだけで、瀕死の勇者など消せる筈の力を持つ壇上の魔王は、何故か止めを刺すことはしなかった。




 魔王と共に転移した先は、豪華な一室だった。

 転移と同時に、バルコニーを含む壁を吹き飛ばすという派手な登場をした魔王に対し、翔真は若干引きつつも後に続いて降り立った。


 室内には、長い黒髪の美形だが目付きの悪い貴族風の男と、目付きの悪い男に長椅子へ押し倒されている黒髪の女が居た。


 明らかに襲われていると分かる女の姿を確認し、隣に立つ魔王から尋常じゃない程の殺気が目付きの悪い男へと向けられる。

 巻き添えを恐れて、後退りして魔王と距離を取るショーマに気付いたらしい女性が大きく目を見開く。


 肩より少し長い艶やかな黒髪、今は涙の膜が張られている黒曜石のような大きい瞳の可愛らしい女性。

 自分と同じ日本人だと分かる容姿の女性に、翔真は見覚えがあった。


「翔真君?」


 ショーマ、ではなく翔真と呼んだ女性は異世界へ召喚されたあの日、電車で席を譲った惹き付けられるくらい綺麗なOL。その後も何度か白昼夢の中で会ったことがある女性だった。


「理子さ……」


 長椅子に座ったまま、涙を浮かべている女性の元へ駆け寄ろうとショーマ、否、翔真は右足を踏み出し、




「勇者様! さっさと起きてください!!」


 耳元で轟音の様な低い女性? の声が聞こえ、掛けられていた布団が一気に剥ぎ取られた。


「ふげっ!?」


「言うことを聞かなければ危険だ」という本能からか、翔真は勢いよく飛び起きた。


 何故ベッドで寝ていたのか、此処が何処なのか、状況が理解出来ずに翔真はポカンと自分を起こした人物を見詰める。


 無理矢理自分を起こしたのは、エプロンドレスがはち切れそうなくらいの屈強な身体をした男、ではなく顔立ちは女性の、おそらくは侍女だった。



「お目覚めですか?」 


 寝起きで聞くには、いささかボリュームがある侍女の声量に、耳の奥からキーンと妙な音が聞こえて翔真は耳を両手で押さえた。


「ベアトリクスお嬢様がお待ちです。早く支度してください」


 屈強な侍女は剥ぎ取った布団をベッドへ下ろすと、両耳を押さえる翔真を片腕で抱える。


「ちょっ、下ろせよ!?」

「畏まりました」


 ポイッと投げ下ろすように侍女はソファーへ翔真を下ろす。

 偶然、ソファーの背凭れが脇腹に当たって「ぐえっ」と呻いた。


 今度は脇腹を押さえて呻く翔真を一瞥した侍女は、テキパキとマットレスからシーツを剥ぎ取りだす。


「うぇっ、何なんだよ、これ?」


 脇腹の痛みを我慢して、ソファーの背凭れにしがみつきながら翔真は身体を起こす。


 漸く頭の中が覚めてきて、キョロキョロと室内を見渡した。

 先程まで寝ていたのは、天蓋付きのベッド。

 今、座っているのは座面ふかふかのソファー、調度品も床に敷かれた絨毯も高級品だと分かる、貴族や王族の寝室かと思えるくらい豪華な部屋だった。

 アネイル国で使っていたのは騎士団の一室で、部屋の広さも違うし豪華さより機能性重視だったためその差に目眩がしてくる。


 シャラ……

 右手を動かすと僅かに金属が擦れる音がして、右手首に巻かれた金色の細い鎖に気付いた。


「そうだ、俺は、あのお嬢様に……」


 手首に巻かれた鎖を見て、翔真は意識を失う前の出来事を思い出した。




 魔王によってOLの理子と一緒に強制転移させられた先で、いきなり金髪を縦ロールにした綺麗な令嬢に鎖で縛られたんだった。


「まさかとは思いますが、この者が勇者殿? 素敵な殿方を想像していたのですが、仕方ありませんね。伯父様から世話をするように言われていますから、この者はわたくしが預かりますわ」


 服がビリビリに破れて下着丸見えの理子と、金髪巨乳の女の子が抱き合っていたから凝視しただけなのに、明らかに落胆して溜め息を吐いた金髪縦ロールの令嬢は翔真を捕縛している鎖に魔力を注ぐ。


 ぐるぐる巻きにされた鎖によって体が締め付けられて、ミシミシ骨が軋む音が聞こえた瞬間に意識が途切れたのだった。



 ばさりっ、侍女が着替え一式を翔真の横へと置く。


「勇者様、お召し替えをお願いします」

「あの、この寝間着は、誰が俺を着替えさせてくれたんですか?」


 無表情を崩さない侍女に、翔真は恐る恐る気になっていた事を尋ねる。


「私でございます」


(やっぱりかー!!)


 機械的な声色で答えられて、翔真は頭を抱えてガックリと項垂れた。

 たっぷり数十秒項垂れている翔真の肩を、侍女は厚い手でガッシリと掴む。


「お一人で着替えできないのでしたら、手伝いましょうか?」


 肩を掴む侍女の指がギリギリ食い込んで、翔真は痛みで思いっきり顔を歪めた。


「うわぁ! いいって! 着替えます」

「では、早くしてください」


 着替えを急かすように、腕組みをして側に立つ侍女の視線が全身に突き刺さる。


 監視付きで着替える羽目になって、翔真は羞恥よりも恐怖の感情で半泣きになったのだった。


侍女さんは超筋肉質だけど女性です。

身の回りのお世話から掃除洗濯、戦闘までこなせます。

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