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13.元カノとの攻防

マミ=元カノです。

 部活顧問から頼まれて練習試合に出てから二週間が経った。


 部活の後輩を中心に、自分を見る目が“気安い先輩”から“英雄”扱いに変わったのがあからさまに分かって、翔真は複雑な気分で生活していた。

 全国大会上位レベルの実力者達全員をほぼ一撃で沈めてしまったのは、少々どころじゃなく完全にやり過ぎたと反省している。


 先週、担任と部活顧問から⚫×大学スポーツ推薦での勧誘話があると聞かされた時は、つい苦笑いを返してしまった。

 大学から勧誘されても、自分の進路はもう異世界へ渡ると決めているのだ。



 ブーブー

 昼休みになり、制服のポケットに入れていたスマートフォンが振動してメッセージの受信を知らせる。


「外人の彼女かよ?」と茶化す同じクラスの友人達を適当にあしらい、メッセージを確認した翔真は思いっきり顔を歪めた。


「またかよ……」


 メッセージはキラキラした装飾文字とスタンプで飾られて、読むだけで疲れる。

 内容を要約すると「話がある」と、翔真を一目につかない体育館の裏へと呼び出すものだった。


「マミからだ」


 婚約者から連絡が来たかと期待している友人達へ、翔真は溜め息混じりに告げる。


「あーマジで?」

「アイツ、翔真の武勇伝を知ってよりを戻したくなったんじゃね?」

「あれ? 新しい男がいるんじゃないっけ? 確か、社会人の。翔真も大変だな」


 元カノのマミの名前に、友人達も困惑した表情を浮かべる。


 奔放な性格で派手な外見をしたマミは、友人達、特に女子からの評判はあまり良くない。

 部活に打ち込んでいたこともあって、マミの噂は然程気にしなかった。と言うか、来るもの拒まずといった今の自分だったら有り得ない考えをもって、女の子との交際をしていたせいかあまり付き合う相手に興味が無かっただけなのかもしれない。

 実際、深く相手の事を知りたいと思えたのは、ベアトリクスだけだった。


 マミと別れてから、友人達に「別れて良かったな」と言われた時には、改めて自分の馬鹿さ加減を思い知った。


 別れて暫くの間は、マミと取り巻き達にしつこく付きまとわれていたが、直ぐに彼女は持ち前の社交性で社会人の彼氏ができたらしい。

 それからは、学年も違うため特に接点も無く過ごしていた。……筈だった。


 先日の練習試合での話が後輩から伝わったのか、三日前から頻繁に連絡が来るようななったのだ。

 あと数ヵ月我慢すれば無関係となる、と思って無視していた翔真だったが、昨夜から社会人の彼氏とやらから事実無根の罵倒メッセージが届き出したため、我慢の限界がきていた。

 何れ、この世界から離れる翔真だけなら兎も角、実家に影響が出るのは迷惑だ。


「仕方ない、話するか」


 面倒臭いというのが本音だったが、自分のやったことは自分で終わらせなければならない。

 返信メッセージを打つために、翔真はスマートフォンの画面にメッセージを打ち込んだ。




 ***




「で、用って何?」


 放課後、指定された体育館裏へ向かうと、既に取り巻きの女子二人を連れたマミが待っていた。

 付き合っていた時は、待ち合わせした時間に間に合うように来た事は無かったのに。


「婚約者が出来たんだって?」


 しっかりとグロスが塗られた、ピンク色の唇を尖らせながらマミは笑う。


「だから、翔真はあたしを振ったんだね」


 自分には非がないと言う口振りのマミに、翔真は溜め息を吐いてしまった。


「お前は、俺以外に遊んでる奴がいただろ。ご丁寧に、夏休みの終わり頃、セフレ君とやらが写真付きで送って来てくれたぞ。それが別れたくなった理由。理由は、別れ話の時に伝えた筈だけどな」


 夏休み中に、マミのセフレだという男から送られてきた浮気の証拠写真とやり取りの画像。

 自分勝手で派手な言動が自分とは合わないと、付き合った事を後悔し始めていた翔真は、セフレとベットインしている写真と卑猥なやり取りの画像を目にして、マミに対する気持ちは萎えるどころか一気にマイナスとなった。


 所謂、羽目撮りという写真を見て拒絶しない鋼の心は持ち得ておらず、異世界へ召喚される前にマミに対する気持ちは冷めきっていた。


「えっ」

「何それ?」


 取り巻きの女子達はセフレの話は知らなかったらしく、戸惑いマミを見詰める。


「そ、それは翔真が……あんまり連絡してくれないし、遊んでくれなかったからじゃないっ」

「だからセフレを作っていいのか? 三年が進路を真剣に考えて、勉強しちゃ悪いのか?」

「彼女だって大事でしょ!」


 “彼女だって”じゃなく“彼女の方が”の方がマミの考えでは正しいのだなと分かる口振りで、翔真は僅かな期間でも自分勝手で自己顕示欲の強い女と付き合ってしまった事を後悔した。


「あのさぁ、今さら何を騒がれても俺達はもう別れているんだ。お前のセフレが俺に喧嘩売ってきて、返り討ちにしたからって変な言い掛かりと噂を流そうとするのは止めろよ」


 マミと取り巻きが流した噂は、広まる前に生徒会役員をやっている友人達が叩き潰してくれた。

 友人達曰く、受験勉強で溜まったストレス発散になるらしい。


「噂なんか、あたしが流した証拠は無いんじゃない? ねぇー相手の女って外人のお嬢様なんでしょ? 変な噂が立ったら可哀想じゃない? 翔真の元カノとして色々話したいし、あたし、外人の子と友達になりたいのよ。あっ、日本の高校生文化を教えてあげようか?」


 口角を上げて、ニヤーッと厭らしく笑うマミの言動に、なるべく感情を抑えて対応しようとしていた翔真の中で沸々と苛立ちが沸き上がる。

 付き合った当初、この笑みが可愛く見えていた自分は馬鹿だった。


「マミ」


 低い声で名を呼び、大股でマミの目前まで歩み寄る。


「……アイツに何かしたら許さない。それに、お前が何をやろうとアイツには勝てない」


 パリッ


 静電気が弾ける音が響き、次いでガチャンッと何かを落とす音が背後から聞こえた。


「きゃ! やだっ!? 何!?」

「嘘~! 壊れた!?」


 背後から隠れて、動画撮影をしていた取り巻き女子二人から悲鳴が上がる。


 威力を最小限に抑えた電撃魔法は、人体には静電気程度の衝撃しか無い。

 人体にはさして影響無くとも、彼女達のスマートフォンとメモリーカードをショートしてさせるには十分な威力。

 ついでに、ボイスレコーダー機能使用中のマミのスマートフォンも再起不能にした。

 共通の知り合い達には、友人達が事情を話して回ってくれてマミに自分の連絡先を教えないよう根回しはしてある。これで、暫くは連絡出来ないだろう。


「俺は隠れて撮影してるよ。証拠あった方が楽だろ」と、ノリノリで写真部前部長が隠れて撮影しているだろうから、何かあっても問題無い。持つべきものは知能犯で愉快犯な友人達だ。


「マミ、俺を怒らせて手を出させたかっただろうけど、残念だったな。それと、馬鹿な真似は止めろよ。馬鹿な事を考えるなら、俺もお前の友達と彼氏が送ってきた脅迫メッセージや写真を、学校や警察に出さなきゃならなくなるぞ」


 ザワリッ

 空気が張りつめたものへと変化し、体感温度も下がっていく。

 急に冷えた空気に身震いするマミに向かって、翔真は殺気混じりの圧力をかけた。

 野獣や魔王と対峙した時に比べたら、本気では無く抑えた圧力とはいえ、マミは顔色を青くして小刻みに震えだす。


「ひっ、なに、」


 涙を浮かべるマミに対して、翔真はだめ押しとばかりに、一瞬だけ本気の殺気をこめて一睨みした。




 遠ざかる翔真の足音を聞きながら、マミは荒い呼吸を繰り返す。

 視界から翔真の姿が消えると、刃物で突き刺されるような鋭い空気は無くなり、息苦しさも無くなる。


 側に友人達が居なければ、その場にへたりこんでしまったかもしれない。


「なに、よ……あれ」


 息苦しさは消えたのに、走った後のように早鐘を打つ心臓が苦しくて、右手で胸を押さえた。


「マミもう諦めなよ~。翔真に絡んでもいいこと無いよ。アイツ、ヤバイよ」


 恐る恐るといった体で、友人はマミの肩に触れる。


「はっ!?」


 肩に触れた友人の手を振り払い、半ば八つ当たりでマミは彼女を睨み付けた。


「このあたしが負けるだなんて、振られて笑われるだなんて! 許されないのっ!」


 剣道部エースで成績優秀、人望もあり長身爽やか系、体格も細マッチョで格好いい荻野翔真は、マミにとって自慢の彼氏だった。


 校内でくっついていれば、ムカつく女子の先輩達より優位に立った気分になれたし、街中で腕を組んで歩いていれば、同世代の女の子達の羨望の眼差しを浴びられて優越感を得られる。

 一緒に出歩きたくて夏休み中、頻繁に遊びへ誘ったのに「勉強しなきゃならないから」と返されて殆ど遊べず。

 まさか夏休み明けになって振られるとは、今まで振ることはあっても振られることは無かったマミのプライドは、翔真によってぐちゃぐちゃにへし折られた。


 別れたくないとすがるのはみっともないから、せめて男のくせに綺麗な顔をした翔真を苦痛の表情に歪めてやりたくて、セフレをけしかけたらアッサリと返り討ちにされるし、噂を流そうとしても直ぐに消される。


 今だって、翔真の迫力に負けた。

 アイツに関係する事は、何もかも上手くいかない。



「ちょっと、待ってよ!?」

「マミッ!?」



 追いかける友人達の声には応えず、マミは目を吊り上げながら校門へと歩き出した。

異世界へ行く前の翔真君は、モテモテで来るもの拒まず去るもの追わず、といった考えで女の子と交際をしていました。

今は、自分最低だな、と後悔しているみたい。

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