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09.宰相の駒②

 高級車で自宅まで送ってもらいながら、翔真はずきずきと痛むこめかみを親指と人差し指でグリグリ押さえた。


 先程聞いたオデリアの「時空魔法」の発言から、魔王や宰相キルビスは時間を操る魔法まで使えるのか。

 魔族しか使えない魔法なのかもしれない。異世界で生活をしていた半年間で、時空魔法なんて聞いたことが無かった。

 しかし、強大な魔力といい時間を操る魔法まで使えるとは、魔族のトップクラスはチート過ぎやしないか。



「オデリア様、そろそろ到着します」


 運転手の声で翔真は顔を上げる。

 いつの間にか、車は自宅の駐車場前に着いていたようだ。


「翔真殿、御自宅へ着きましたら全て私にお任せください」


 緊張で体と表情を固くする翔真に、オデリアは苦笑する。


 まだ診療終了時間には早いのに自宅に併設した医院は灯りが消えて、出入り口には診察修了の札が掛けられていた。

 診察を早目に終了させて、父親は既に自宅へ戻っているのだろう。


 朝、家を出たときは、まさかこんな事になるとは思っていなかった。急展開過ぎて、未だに夢オチじゃないかなと疑ってしまう。


 翔真は気持ちを落ち着かせるため、深呼吸をしてから玄関扉を開けた。


「ただいまっ」


 バタバタと奥から足音をたててやって来た両親の形相に、翔真は嫌そうに口元をひきつらせた。


「翔真、遅かったな!」


 来客のためか、以前は会合以外は着たくないと言っていたスーツを着て髪型も整えた父親は、珍しく声を荒げる。


「翔真っ! 貴方っ」


 父親に続いてやって来た母親は、眉を吊り上げて翔真を見てから、後ろに佇むオデリアの姿にハッとして続く言葉を止めた。



「御初にお目にかかります。私は、==国大使、オデリア・アルマイヤと申します」


 白いコートを脱いで赤色ワンピーススーツ姿となったオデリアは、両親に向かって姿勢を正した完璧なお辞儀をする。


「本日は急な訪問となってしまい、申し訳ありませんでした。さぞや驚かれたことでしょう」

「==国大使……?」


 穏やかに微笑むオデリアに、両親は顔を見合わせた後慌てて頭を下げた。




 客間である和室へ通されたオデリアは、ピンッと背筋を伸ばして正座をする。


 若干、翔真は足が痺れてきて正座を崩したくなったが、側に座るオデリアと彼女の両脇を固める黒スーツの男性のぎこちない正座姿を見て、グッと我慢した。


「翔真が、公爵の孫娘と大使の妹と交際していたとは……だが、何故それを我々に黙っていたんだ」


 父親の苦々しさを含んだ表情と声色に、翔真は内心舌打ちをした。


 高校生にもなって、幼い頃からろくに話したことが無い父親などに、交遊関係や交際相手の事を話す訳はないだろう。ましてや、父親は兄の事しか興味は無さそうだったのに何を今さら言うのだ。


「翔真様くらいの年代のお子さんは、恋人や友人について御両親にあまり話したがらないものではないですか? 私達は妹に相談されるまでは、身辺警護の関係から翔真様の事は知ってはいましたが、口出しはせずに見守っておりましたよ」


 やんわりと言うオデリアを、それまで俯いて話を聞いていた母親がキッと睨んだ。


「で、でもっ親に黙って異性交際だなんてっ! 翔真の兄は女の子と付き合う前は、私に確認してくれますし、私が許可をした子とだけお付き合いをしています!」


 母親の発言の気持ちの悪さに、翔真は「げえっ」と呻きそうになって、急いで下を向いた。


 身の回りの世話や勉強等、母親に管理をしてもらっている兄は、交遊関係と恋愛まで管理してもらっているとは。

 自分の血の繋がった母親と兄だが、これは気持ち悪いし将来のお嫁さんが可哀想だ。


「おい、お前、そんな事をしていたのか……」


 さすがの父親も頬をひきつらせ、黒スーツの男性達も口元を歪めたのに、顔色も変えず眉一つ動かさないでオデリアはじっと母親を見詰めた。


「お母様の御気持ちはごもっともですわ。だからこそ、翔真様と妹の交際、翔真様が卒業後我が国への留学許可を頂きに伺いました。妹も爵位継承権を持っていますし、これから社交界にもデビューする予定です。今度、翔真様に妹と公爵家を支えるために、==国へ留学して学んでいただきたいのです。御両親の承諾を得られましたら、留学手続きは全て私達が行います。費用等も全てアルマイヤ公爵家が負担いたしますわ」

「費用全て!?」


 実の息子といえども、実の成る事にしか資金を出したくないという、守銭奴の父親が驚きの声を上げる。


「し、しかし、私達は、翔真とお付き合いしているお嬢さんや貴女のお祖父様、御両親の顔も知らないのに留学の話を進められても困るわっ! 順序がなってないのではないのかしら」

「確かに、お母様の仰有る通り順序も礼儀もなっていないですね。申し訳ございませんでした。両親は既に亡くなっておりますので、後日、当主の祖父、妹と共にご挨拶に伺います。よろしいですね」


 有無を言わせない、とばかりに語尾を強めてオデリアは言い放つ。

 異世界の魔族の血をひいた大使を勤める公爵家令嬢、後に知ったのだが社交界でも活躍しているオデリアの迫力に、人である両親は勝てるわけが無かった。


 不承不承といった体ではあったが、両親は確かに頷いたのだった。




「オデリアさん、うちの親、態度が悪くてごめん」


 申し訳なさから翔真は、車へ乗り込もうとしていたオデリアへ声をかける。


「いえいえ、とてもお優しい御両親だと思いましたわ。私の話をしっかり聞いてくださいましたし」


 しっかり話を聞いていたのは、笑顔を湛えたオデリアの迫力に圧倒されていただけで。

 気のせいかもしれないが、威圧感ある魔力が彼女から漏れていたような気がする。


「そうだわ、次は翔真殿と妹の顔合わせをしなければなりませんね」


 ふふふっ、とオデリアは楽しそうな笑みを浮かべた。




 ***




 両親との間に流れた気まずい空気を払拭出来ないまま、翔真は自室へ戻ると直ぐに寝入ってしまった。


 翌日、上の空で授業を受けてあっという間に放課後となった。

 担任に捕まる前に帰宅しようと、翔真は逃げるように教室を飛び出して駆け足で校門を出る。


「お待ちしておりました、翔真様」

「うわっ」


 校門を出た直後、昨日と同じようにかっちりとした黒色スーツを着た男性が、固まる翔真に向かって頭を下げた。


「オデリア様がお待ちです」


 高級車に乗せられて連れていかれたのは、==国大使館だった。


 いきなり大使館へ連れて来られて戸惑う翔真を、オデリアと大使館員達はにこやかに出迎える。


「翔真殿に妹を紹介します」


「此方へ」とオデリアに案内された部屋の中へと足を踏み入れた瞬間……



 パアアァー!


 部屋のカーペット敷きの床が、魔方陣の形に光輝いた。


「ちょっ!?」


 魔方陣から迸る光の奔流に、目蓋を閉じる間もなく翔真の視界が真っ白に染まる。



 魔力の風が吹き抜けて少し汗ばんだ肌を撫でる、漂う空気の変化で何処か違う場所へと転移したのを感じた。




「っ!?」


 息をのむ音が聞こえて、翔真は眩しさから顔を覆っていた腕をどけた。


「ショーマ……?」


 聞き覚えのある少女の声が翔真の耳に届く。


 異世界から戻ってから、ずっと逢いたいと思っていた相手の声に、翔真は勢いよく後ろを振り返った。



「ベアトリクス? 何で?」


 応接室だろうか、広い洋館の一室で翔真とベアトリクスはポカンと口を開けて固まった。


 久しぶりに会ったベアトリクスの綺麗な紫色の瞳は、驚きで大きく見開かれ何時もは縦ロールにしている金髪はサラサラのストレートのまま。着ている淡いピンク色のドレスがよく似合う。


 以前のキツイ印象よりずっと可愛いらしい彼女の姿に、翔真は一瞬別人かと思ったが、身に纏う魔力はベアトリクス本人のものだった。



「やぁ、ショーマ」


 未だに固まるベアトリクスの後ろから、ニヤニヤと胡散臭い笑みを浮かべたキルビスが室内へやって来て、翔真は魔国へ転移されたと覚る。


「そっちの世界では、ベアトリクスは便宜上はオデリアの、アルマイヤ公爵令嬢の妹になる予定だよ。……嫌では無いだろ?」

「それって……」


 妹を紹介します、と言っていたオデリアの含み笑いの意味はそういうことか、と理解した翔真の顔は、瞬時に真っ赤に染まった。

ベアトリクスと再会しました。

母親と兄の関係は...気持ち悪い感じです。

家族と子育てに無関心な夫、反抗しまくり会話も全く無い次男だったら、優秀な長男にベッタリしちゃうのかな。

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