五月三.五日--眠れない夜に3--
「……?」
おや? おかしなことになってしまいました。私は楓ちゃんに活躍の場を与えようと思っていたはずなのに、このような展開は予想外以外の何ものでもありません。
何を負けていやがるのですか! とっても強い剣士にしてあげたのに小宮山君に負けてしまうなんて何事ですか! まったくいつまでも過去にばかり囚われているからですよ。そんな楓ちゃんは過去で風化して逝けばいいんです。
しかしさすがの私も驚いてしまいました。刀身を過去に飛ばして運命を攻撃する必殺剣を攻略できてしまうなんて。
強すぎますよね小宮山君。刀身が過去に飛ぶタイミングを予測して『未来から刀身が送られてくる地点を事前に殴り飛ばして斬撃を防ぐ』なんて。天才的なセンスと神懸かり的な観察眼を持ち合わせていなければ成功しなかったでしょう。
本物の小宮山君はこんなに強いのですかね? 彼も私と同じようにクラスで目立つほうではないはずですが。
しかし待たれよ、です。平々凡々とした男の子こそが主人公ではないでしょうか。最初からサイキョウでテンサイな主人公も悪くはないでしょう、ですがやはり主人公は成長を見せる、いやむしろ魅せるものなのです。尊敬する師匠との別れ、愛するヒロインとの出会い、共に高めあう親友の存在、多生の縁とでもいうべき輪廻の関係に囚われたライバルと数々の死闘を繰り広げる。徐々に、徐々に成長していくヒーローへ読者や視聴者は感情移入をしてその作品に夢中となるべきでしょう。
だからきっと小宮山君は謎の番号からかかってきた電話に出ると異世界に飛ばされるのです。魔物に支配された世界観のそこでは勇者扱いされるのでしょうね。普通の高校生ではあるけれども心優しい小宮山君は、わずかな勇気と持ち前の小賢しさで微力ながらも戦う決心をするのです。近衛騎士団見習いのオーキス、おてんば姫のメルティカと親交を深めて旅立ちのときがやってきました。なんやかんやあってオーキスと二人で魔物退治の旅に出るコミヤマ君。メルティカとは必ず戻ってくると誓いをたて、涙のお別れ。
旅は熾烈を極めたものでした。酸の雨、死の大地、屍の山。旅の道連れは幾度か増えたがみな死んでいきました。
繰り返す出会いと別れ。動き出す局面、メルティカ姫の城は魔物の手に落ちました。明らかになる事実、メルティカは魔物の嫡子であり彼女が亡くなれば世界が平和になるとのことでした。
たった二人の最終作戦。二人はメルティカを助けに行くのでしょうか、それとも殺しに行くのでしょうか。
結末や如何に。
まあ小宮山君には荷が重い話ですね。スケールを大きくしすぎたせいでもありますが。妄想語りも大概にしなくては。