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五月三.五日--眠れない夜に2--

 小宮山君へ、もはや妄想への出演料を払ってもいいレベルかもしれません。でも結構いい配役をまわしているので許してくれますよね。ほとんどお話したことはありませんけど悪い人ではないと信じています。


 たまには楓ちゃんを出演させてみましょうかねえ。彼女にはどんな配役がいいでしょうか。ベタなところでいくと寡黙な女剣士さんでしょうか。暗い過去を背負っていて常に表情が陰っているのです。必殺技も考えてあげましょう。


 特別にすっごく強くしてあげちゃいます。時間とかを超越した技なんて素敵に強そうですよね。時間、未来、過去……。過去を切る剣なんて強くないですか。例えば、そう、敵(仮に小宮山武人君とでもしておきましょうか、格闘家キャラで両手に手甲でもつけさせておきます)が楓ちゃんの斬撃を避けたとします。


 剣を振りぬいてしまってバランスを崩した楓ちゃんに小宮山君が攻撃を仕掛ける! 危ない楓ちゃん! しかし、次の瞬間に倒れるのは小宮山君のほうでした。なんと、楓ちゃんは刀身を過去に送り、『当時、その場に存在したものを切り裂く』のです。現在の運命を切り裂いているのです。この必殺技の恐ろしさは敵から回避という選択肢を奪うことにあります。今は避けることが出来ても過去の攻撃を避けることが出来ないので、その場にとどまり攻撃を防御し続けるしか方法がないです。もちろん今の攻撃が当たってしまえば過去の攻撃も同時に降りかかってくるので、攻撃力は単純に二倍化されると思っていただいてかまいません。


 防御を余儀なくされ、体力を奪われ続けて絶体絶命の危機に陥った小宮山君は、一つの策を見出したのです。彼はあるタイミングを見計らうために、楓ちゃんの攻撃を回避し続ける選択をします。過去の斬撃でダメージを受けつつ、思考を止めずに、です。


「未来が、見えた」


 小宮山君は呟きます。優勢だった楓ちゃんは訝しげな表情を浮かべますが、それも瞬間の出来事、すぐに顔から表情が消えうせました。


「過去にばかり囚われている君にはわからないのだろうさ、俺は先へ進む」


「……『しゃらくさい』とはこういう時に使う言葉なのかしらね」


 楓ちゃんは次の一撃で決めるつもりのようです。剣を上段に構え、柄を握りなおす。


 小宮山君は体の力を抜き、緊張とゆとりを絶妙に調合しています。


 ――静寂。


 ――間合いが詰まる。


 剣が振り下ろされる。


 拳が振るわれる。



 拳が、空を切る――?



 サイドステップで『今』の斬撃を回避する、もちろん剣が振られれば『過去』の斬撃は小宮山武人を無残に切り裂くだろう。そう、剣がその空間を振り切れれば、だ。


 桜楓は驚きを隠せなかった。剣が振り下ろせなかったのだ。突如、刀身に衝撃が走ったから。虚を突かれた桜楓は隙を見せる、攻撃も中断してしまった。


「俺は未来を掴んだ、お前は過去で風化して逝け」


 武人の拳が楓の腹を貫く。


 楓の、桜楓の敗北であった。自らの剣に、必殺の剣に慢心していた楓には、虚をつかれた渾身の拳を防ぐ手立てなど持ち合わせてはいなかった。


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