五月五日--そして二人は闘いを始める--
「つらら、あなたは私が守るわ。すぐに終わらせるからそこで待っていなさい」
一息をついて、続けて言いました。
「そうすれば今まで通りの日常がこれからも続くわ」
楓ちゃんは私を守ると言っています。しかし言葉の真意が私には理解ができません。
「楓ちゃん、何を言って……」
ごうっ、強い風により私の言葉はかき消されました。楓ちゃんは左手に持った刀を下向きに伸ばし、突風の主を受け止めました。びりびりとした衝撃が離れた場所に立つ私のところにまで響き、私はその場で腰が抜けて尻もちをついてしまいました。
「……女の子同士の会話を邪魔するなんて野暮なものね」
「どうしても君を止めなくてはいけないと思ってね」
どうやら、何者かが楓ちゃんに突撃を仕掛けてきたようです。しかし、私はこの声に聞き覚えがあります。
「桜さん、君は間違っている。桂さんのためにも君を止めなくてはならない」
そう、まるで同じクラスの小宮山武人くんのような声です。私が顔を上げると、そこにはまるで小宮山くんのような人が傷だらけの姿で右拳を楓ちゃんの刀に叩きつけていました。
「こ……こみやまくん?」
恐る恐る私は話しかけます。すると男性は楓ちゃんから距離を取って答えました。
「危ないのは本当だよ。桂さん、事情は後で話すから離れていて」
なんということでしょうか。この方は本物の小宮山武人くんのようです。
ああ、本当に何が起こっているのでしょう。同じ学校で同じクラスの二人が命を奪わんばかりの争いを繰り広げようとしています。抜けたままの腰をはめられない私は、ひょこひょこと四つん這いで二人から離れました。
「まだ懲りないの? 私のキリングパストの餌食になりたいようね」
「過去へ斬撃を飛ばす君の技……確かに脅威的だ。だがそれは」
「君を止めない理由にはならない」
……斬撃を過去へ飛ばす? なんだか聞いたことがあるような気がします。
「僕は未来を掴みたいんだ。過去を断ち切れない君は、風化して逝けばいい」
ああ! これは私がゴールデンウィークの初日に妄想していた二人の決闘シーンです! 細部は違いますが、楓ちゃんの技に小宮山君のセリフは私が思い描いていたものとそっくりではないですか。
そして二人は、闘いを始めてしまいました。
私の妄想ではこの後どうなるのでしたか……自分のどさんぴんな頭が恨めしい。思い出すことが出来ません。気づけば二人の闘いは再び火花を散らし始めました。




