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五月四日--妄想は続くよ此処までくらいは--


 気づけば河川敷に辿り着いてしまいました。楓ちゃんの家からは十キロメートルくらいはある気がするのですが。そういえば確かに足が疲れています。喉もカラカラです。このままではここで風化して逝ってしまいます。パンを食べるのも辛いです。


 何か飲み物をいただきたい、自動販売機が近くにあるとよいのですが。冷たいスポーツドリンクを喉から身体全体に染み渡らせたい、後味まですっきりさっぱりしたお茶で口内を潤いで満たしたい。欲望は広がるばかりです。


 ただし炭酸飲料だけはご勘弁願いたいと思います。何ですかあれは。要は二酸化炭素でしょう? いらないじゃないですか。好んで飲む方々はどうなのか知りませんが、私は呼吸をすることで体外に二酸化炭素を排出しているのです。必要としていないから外に出しているのにもかかわらず、呼吸とは別ルートで再び体内に二酸化炭素を摂取する意味の無さときたら怒りを覚えます。意味がわかりません。


 加えてお腹まで鳴りはじめました。歩きながらとってもおいしいくるみパンを食べてはいたのですが、歩くことによるカロリー消費がそれを上回っているのでしょう。喉が乾いていなければ無限に食べられますね、これ。


 ああ、河川敷にシートを広げてお弁当を食べるなんて素敵ですねえ、やってみたい。大きめのおにぎり、唐揚げにポテトサラダ、飲み物は麦茶。ミニトマトなんかも入れたいところ。野球の練習をしている少年たちを眺めながらのお昼ご飯です。男の子たちの元気な声が響き、食事による影響だけではないエネルギーが体中に巡っているような気になります。しかし突然、少年少女とは言い難いモラトリアムの塊のような集団が私たちの間に割って入ってきました。そう、大量のお酒とバーベキューセットを携えた大学生の集団です。皆で同じような髪形と服装で頭の悪そうな会話をしています。火起こしに必死な彼らはまるで原始人です。私が嘲笑していると、一際の歓声、どうやら空気の通り道を作ることに気付けるだけの知性は持ち合わせているようです。煙が私の方へと流れてきて涙が止まりません。咳き込みながらも退散を決断した私はお弁当の片づけを始めるのですが、野球ボールが目の前に落下してきました。ホームランというやつでしょうね。申し訳なさそうな顔をした少年がボールを回収しに来たので、私は言ってやるのです。


「ここまでボールを飛ばすなんて良い腕ですね。私のチームに来ませんか?」


 私は探していました、日本を制する才能の持ち主を。私は託しました、世界に進出する夢を。


 うーん……。外で食べる美味しいお弁当の話だったはずなのですがねえ。偏見に満ちた現代の大学生達と、未来ある野球少年達に台無しにされてしまいました。


 なんだか妄想の調子も悪くなってきた気がします。歩き過ぎて疲れてしまいましたよ。夜になったら今日もぐっすり眠ってしまうんだろうなあ。



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