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五月四日--目的のない妄想たち--

 まさか一斤近くのパンをいただいてしまうとは思ってもいませんでした。大きいです。でもおいしいです。袋に入れたパンをちぎりながら、食べながら歩きます。行儀が悪い気もしますが、このおいしそうな匂いには耐えられませんから。


 うーん……せめて目的地を決めましょう。


 公園にでも足を向けましょうか。そこでは何が起こるのでしょう。創造します。遊具で遊ぶ子供たち。奥様たちの井戸端会議。ペットの散歩に来た飼い主たち。ペットの散歩ですか、犬が多いと考えられますよね。犬はあまり得意ではないのですよねえ、なぜかよく追いかけられてしまうのです。しかも今日の私は一味も二味も違うのですよ。とってもおいしいパンを持っていて一味、さらにくるみが入っていることで二味です。ワンちゃんたちに襲われるイメージしか湧いてきません。大型犬に飛び掛られる私。パンを奪い食べ始めるお犬様。あわてて止めにくる飼い主さん。


「こら! ラッシー止めなさい!」


 この子はラッシーというのですか。ふさふさの栗毛が私に覆いかぶさります。毛が口に入って少し息が苦しいです。


「ど……き、なさい!」


 飼い主殿の男性がラッシーを抱き、私から距離を取ります。お洋服が毛だらけでめちゃくちゃです。


「申し訳ありません……!」


 彼は平謝りです。しかし、私の怒りは収まりません。特製くるみパンを奪われ、お気に入りのワンピースを泥だらけにされたのですから。


 彼はクリーニング代とパン代を、とおっしゃるのですが財布を忘れて持ち合わせが無い様子。彼は、後に必ず弁償します、と連絡先を私に渡すのです。


 こちらからの第一印象は最悪に始まりました。


 これが、彼との出会いで、私たちの始まりだったのです。


 うん、悪くは無いですね、公園も。


 しかし、却下ですね。ワンピースを汚されたのはいいです。転ばされたのも許しましょう。けどこのくるみパンが犠牲になるなんてありえません。万死に値します。


 別の場所を考えます。


 あえて学校に行くというのはいかがでしょうか。休みの学校に忍び込むなんて、まさに青春の醍醐味です。窓ガラスを壊して回りましょうか、プールに服のまま飛び込んでみましょうか。何をするにしても、そこで私は人の気配を感じて慌てふためくのです。警備員? 宿直の先生? どちらであっても見つかれば怒られることは間違いないでしょう。どうしよう、どうしよう。しかし、私の目前に現れたのは、同年代の男子生徒でした。彼は何者なのでしょうか。想定もしていなかった事態に私は混乱します。彼は口を開くのですが、パニック状態の私は言葉をさえぎり血相を変えて脱兎のごとく逃げ出します。彼は何者? 何故、夜の学校に? モヤモヤとした気持ちが残りました。この気持ちは、未知への恐怖でしょうか。それとも、謎への好奇心か。あるいは――。休みは明けて学校が始まります。私の精神状態は例えるならば不完全燃焼です。席に着き、友人と挨拶をし、ホームルームが始まります。先生が言いました。今日は転校生が来ている、と。ざわめく教室。男の子だそうです。色めく女子たち。そして、転校生が教室へ入ってきます。私の、心の、モヤモヤが、よりいっそう……。


 ひゅー! 青春! 青い春! この妄想は何だかとっても恥ずかしい! 


 鼻血が出そうです、顔も赤い気がします。


 しかし、これも却下せざるをえません。


 これは……どう考えても夏にやらなければいけません。ボーイミーツガール、一夏の恋なのですから。きっと転校生はクライマックスにどこかへ消えてしまうのでしょうね。だけどエピローグでは成長した二人が出会っちゃったりなんかして……。きゃー恥ずかしい。


 それにしても、公園、夜の学校と展開を妄想してきましたが、色恋沙汰に発展しそうな物語ばかりですね。そんなにも私は恋に飢えているのでしょうか。ハートを、心を打ちぬけるような感情を持ったことも、殿方からお付き合いの申し込みを受けたことも無い私です。華の女子高生の私です。思春期です。恋に恋するお年頃なのでしょう。素敵な王子様を妄想するのはごくごく自然なことだと思います。ロマンチックな物語をロマンチックな私でロマンチックに過ごしたいものです。


 さて、どこに行きましょうかねえ。


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