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五月四日--楓ちゃんに会いに行こう!--

 春という季節はよいものです。しんとした空気が緩み、生き物たちの、植物たちの活力を肌で感じます。雪も、吐く息さえもが白くなる冬の世界から一転し、風景が色づいていくのです。また、春といえば新学期でしょう。取り巻く環境が一変し、初々しいような気恥ずかしいようなくすぐったい感覚。私はそれが大好きです。パステルカラーに彩られた世界が大好きなのです。


 さて、そろそろただ歩いているのにも飽きてきました。花の名前だって全然わかりません。タンポポやヒマワリくらいならわかりますが、パンジーやコスモスレベルになると自信がないです。ムラサキ色できれいだなあ、素敵な香りだなあ。これくらいの感想しかもてませんもの。


 どうしようかな。誰かお友達にでも会いに行きましょうか。


 ここはやはり楓ちゃんかな。なんといっても私の幼馴染ですし、実はお家もっても近いんです。小学生のころは毎日のように遊びに行っていました。おままごとをしたり、お絵かきをしたり、私の妄想を聞いてもらったり。楽しかったなあ、あのころは。楓ちゃんは勉強に部活などでとっても忙しくなって最近はあんまり遊びに行けていないのです。


 今日は楓ちゃんと一緒にめいっぱい女子トークでもしちゃいましょうか! 




「ごめんないさいね、楓ったら昨日の夜から見かけないのよ。どこに行っちゃったのかしら」


 楓ちゃんのお母様しかいませんでした。というかお母様は肝が据わりすぎではありませんか? 娘が行方をくらませているというのにこの余裕は何なのでしょう。お母様は独特のペースで話しを続けます。


「昨日ね、夜遅くに電話がかかってきたのよ、三時くらいだったかしら?」


「私はその音で目を覚ましてね、電話に出ようとリビングに向かおうとしたの。でも楓が先に受話器をとってくれていたの」


「こんな夜遅くに電話だなんて不振に思ったのだけれど、楓に応対させとけば問題ないと思って私は部屋に戻ろうとするわけよ」


 お母様は少し考え込むようなしぐさです。


「ピカーってすごい光ったのよ、背中越しに。何事か思って振り返るとさっきまで電話をしいていた楓がもうそこにはいなくなっていたの」


 ……おや?


「携帯電話も部屋に置きっぱなしだから連絡がつけられなくてね。まあ、あの子ならなにがあっても大丈夫だとは思うのだけどね」


 まさか、私にかかってきていたあの電話も。


「お休みの間でよかったわ。でも学校が始まる前に帰ってくるのかしら?」


 でも本当に私や小宮山君じゃなくて楓ちゃんなら大丈夫でしょう。彼女は異世界くらい救ってしまう雰囲気を携えていますから。お母様もそう思っているのでしょうから。


「ところで今日はこれからどうするの? 楓に会いに来たのでしょう?」


 そうでした。どうしましょうかね。当ても無いお散歩でも続けましょうか。


 私がそう言うとお母様はこれを持っていきなさい、と焼きたてのパンをくれました(一斤も!)。しかもくるみパンです。何を隠そう楓ちゃんのお母様はパン作りが趣味なのです。


 さて、どんな別れも名残が惜しいものです。しかしそれを押し切り、私は再び孤独の旅路へと戻るのです。


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