表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あれこれそれこれ。  作者: 茉莉花
1/3

王の花

思いつくまま書いていますので、加筆や修正する可能性があります。

大幅な変更以外は特に修正箇所を記載致しませんので、ご了承下さい。


ヤンデレ風味。

 我が国の国王陛下の肖像画には、必ず美しい花が添えられている。

 先祖代々、それはけして違えることなく、全て同じ花だ。

 始祖王より口伝された言葉はただ一つ。


 「花は愛でるものであって手折るものではない。これ違えずば王国は永劫の幸福を約束される」


 契約とも呼べるその言葉は、継承権第一位を持つ者にのみ、伝えられてきたという。

 そして僕は、その言葉の意味を知る。







 王の花







 王宮には、王だけが立ち入りを許される庭園が存在する。

 昔、父上はナイショで、僕と弟をそこへ連れて行ってくれた。

 大きな鳥かごの中には色とりどりの花と小動物が閉じ込められており、限られた自由を謳歌していた。

 僕は夢中になって美しくさえずる小鳥を追いかけ、知らない間にはぐれてしまったのだ。

 気付けば、父上や弟の姿はなく、ただ小鳥のさえずりと、風にゆらぐ葉の音だけ。


 「おや、陛下かと思えば、小さな王子ではありませんか」


 青い花がいた。

 木漏れ日の光を浴びて輝く金の装飾品と青い衣、水宝玉のような髪は長く、衣同様地面に垂れている。

 大樹の太い幹に体を預けながら、気だるげに視線を向ける様は艶めかしく、子供の身でもドキドキした。


 「今生の陛下は花を厭っていると思いましたが、やはり御子は可愛いとみえる」


 青い鳥だ。

 華やかで、美しく、風になびく青い髪と衣が、鳥の翼のようだ。

 どこか中性的な顔をしており、性別の判断は困難を極める。


 「小さな王子、お名前は?」


 「ええと。しらないかたには、なのってはならないとちちうえが」


 この庭園に入る前、父上から「名前を訊かれても答えてはならない」と重々注意を受けた。

 理由はわからないが、父上と固い約束をしたのだ。

 しかし、あまりにも悲しそうな顔をするので、つい、名乗ってしまった。


 「ぼくは、アイリオともうします。ちちうえの、おしりあいでしょうか」


 「僕……そう。初めまして、小さき王子、次代の王よ。私は花」


 「おはなさん、ですか」


 思ったより大きな手が、頭を撫でてくれた。


 「いいえ。花に名は無いのです。いずれ王子が即位なされる時、私が必要とされる瞬間に、名をお与え下さい」


 「なまえがないのはさみしいです。では、あおのきみとおよびしてもよろしいでしょうか」


 嬉しそうに笑ってくれたので、僕も嬉しくなって笑い返した。

 あおのきみとの時間はとても楽しく、小さな花の名前、小鳥の名前、優しい歌声、ほんのわずかなであったにも関わらず、宝石のように輝く時間となった。


 「あおのきみは、ここにすんでいるのですか」


 「はい。もうずっと、ここに住んでおります。いずれ殿下とお会い出来るだろうと、首を長くしてお待ちしておりました。しかし、これほど早くお目にかかれるとは予想が外れ、嬉しく思います」


 「ぼくもおあいできてうれしいです、あおのきみ」


 その後、帰り道を教わり無事父上と弟に再会したが、振り返ると来た道は全くわからなくなってしまった。


 「ちちうえ、すてきなかたとおあいできました」


 「そうか」


 父上よりは小さく、僕よりは大きな手。

 また会う約束をして別れた旨を伝えると、父上は少し寂しそうに微笑まれた。

 僕はただ、いつも可愛がられる弟よりも少し良い事があって、純粋に嬉しかったのだ。

 まだ何も知らない子供だった。




 あれから数年、王位継承権一位である僕は、16歳の成人の儀と共に即位することとなった。

 本来であればまだ父上が在位して良いはずなのだが、あの遠い青い日以来、父上は衰弱し、休務なさることが増えた。

 そして、数年の代行を経て、今日この輝かしい日に、王という重荷を頂くことになる。


 「この度はお招き頂きありがとうございます。若芽の即位に立ち会うことが出来、身に余る光栄にございます」


 「ありがとう。皆も遠路よく参られた。若輩者に首を垂れるのは不満を感じるやもしれぬが、代々賢王と呼ばれる王族の血と祖先に恥じぬよう、全力を傾注する所存だ。皆、賢臣として力を貸して欲しい」


 皆が祝い、杯を掲げる。

 城外では民が同じように即位を祝い、祭となっているだろう。

 窓の向こうに輝くのは、魔道師たちが飛ばした魔法の花火。

 白亜の城によく映える美しい光が、各国からの参列者に好評だ。

 父上のご病気以外は、臣下にも恵まれ、美しい弟と2人国を栄えさせる、順風満帆と思えた。


 「兄上!ご即位おめでとうございます。弟として、これほど喜ばしい日はございません」


 「ローウィン、僕の可愛い弟。どうかこれからも国を支えてくれ。我が国は神に愛された大地として繁栄を約束された国ではあるが、取って代わらんとする者も当然いるだろう。若輩者故見くびる者も多い。だからこそ、国最高の魔術師でもあるローウィンの手助けが必要だ」


 「兄上、どうぞ」


 礼を言って、差し出された杯を受け取る。

 美しい銀杯に注がれた芳しい葡萄酒が、鼻を通り抜けていく。


 「今年の葡萄は豊作だそうです。熟成ものではございませんが、新しい国の始まりには新しい葡萄酒が相応しいと存じます」


 「ありがとう。そしてこれからも宜しく頼む」


 杯を掲げ飲み干す、はずだった。

 しかし、それよりも前に銀杯は誰かの手に奪われてしまった。


 「お毒見役を頂戴致します、陛下」


 「お前は……」


 遠い日の、あの美しい青が目の前に立っている。

 大きな鳥かごに住まう、青い鳥。

 記憶と寸分違わぬ優美さに時間は止まり、銀杯に口づける様をみつめてしまった。


 「殿下に返杯致しましょう。どうぞ、殿下」


 僕が飲む前に返杯するのは失礼にあたると思うのだが、青い鳥は銀杯の残りをローウィンに差し出す。

 そもそも、この人はどこにいたのだろう。

 戴冠式、謁見の間においてここは上座であり、周囲の護衛達は騎士と魔道師で固めているため、侵入者にはすぐ気付くはずだ。

 銀杯を飲む直前まで、目の前には誰もいなかった。


 「お前何者だ!兄上から離れろ!」


 ローウィンは差し出された銀杯を打ち捨てると、すぐに臨戦態勢を取った。

 その声と共に周囲も動きだし、鋭い剣と魔力が、青い鳥へ向かう。


 「人間が手に入れる毒の中では美味ものですから、褒めて差し上げましょう。しかし、私と契約済みの陛下に害をなすとなれば、話は別です」


 青い焔が壁を作り、一切の攻撃を寄せ付けない。

 周囲からは怒声と悲鳴、食器の割れる音、会場が混乱の渦に飲み込まれる。

 それでも、青い鳥は物静かにたたずみ、微笑んでいるだけだ。


 「あおの……きみ?毒、とは」


 毒を見極めるための銀食器、杯には何の変化もなかった。

 それ以前に、愛すべき弟が僕に毒を注ぐことはない。


 「弟が、ローウィンが僕に毒を?僕たちは兄弟で、とても仲が良く……」


 「皆の者!兄上は魔族により堕ちた!討伐せよ!」


 炎の向こうで歓声が上がった。

 愛する弟が、理解出来ない言葉で、周囲に指示している。

 どこに隠されていたのか、悪意を全身に感じ、焔の壁に追撃が繰り返されていく。

 中にいる人物が、どうなろうと構わないかのように。

 中にいる人物が、共に命を落とすように。


 「ローウィン、ローウィン、何故」


 涙が止まらなかった。

 側妃から生まれた僕、1つ違いで正妃から生まれた弟。

 我が国での王位継承権は妃の位によるものではなく、王の選定によるものであるため、どちらが王になるのかはわからなかった。

 それでも、衰弱していく父上の助けになればと。

 弟が少しでも自由を謳歌出来るようにと、政務を手伝っていたに過ぎない。

 王になるつもりなどなかった。

 この身は偽り、だからこそ弟を王にと願っていた時もあった。

 しかし僕の秘密を父上に打ち明けても、父上は頑として選定を覆さなかったのだ。


 「国のために身を捧げよ。民のために身を捧げよ。お前は国を守り栄え導く良き王となる。お前でなくてはならない。俺の命は、そのために在るのだと聞かされてきた。若い頃こそ腹が立ったものだが、今は己の宿命を粛々と受け入れられる」


 衰弱しきった父上はどこまでも王であり、民を愛する人だった。


 「あの日、お前に重荷を貸すとわかった時から、お前は俺の愛すべき息子であり娘だ。弟ローウィンも側で支えてくれるだろう。共に手を取り、道を進め。約束できるか」


 「はい、父上」


 その約束故、僕は王として立つと決めたはずが。


 「僕は間違っていたのか。ここまで憎まれるくらい、間違っていたのか!」


 「何も、間違ってはおりません。選んだのは私。次の王としてその身を捧ぐ」


 青い焔にゆらめく青い鳥は艶然と微笑む。

 それは神ではなく、魔性。

 優雅な仕草で私を持ち上げ、そっと片腕に乗せた。


 「ついに手に入れた鍵を、私は永久に仕え、愛でましょう」


 青い焔が生命に喰らいつく。

 愛する弟も、誓いを立てた騎士や魔道師も、逃げ惑う客も。

 全てが炭になる。


 「ローウィン!」


 「あ…にう……え……」


 憎しみと悲しみが入り混じった顔で手を伸ばして弟。

 青い鳥の衣に触れる前に炭となり、熱風に舞い散った。

 残ったのは僕と青い鳥、そして城外から聴こえる歓声。


 「あおのきみ、何故ここまでする必要があった!何故」


 「陛下に害成す存在は全て排除致します。城内や賓客はすでに王弟殿下の息が掛かっており、手遅れでございました。これだけの数を精神支配するのも手間が掛かりますので、最良の選択を致しました」


 知らなかった。

 己は恵まれていると、そう信じてきたのに。


 「これが僕の罪か。僕が、弟を、皆を」


 「さて、どうなのでしょう」」


 父上に聞かされた言葉を思い出す。


 「花は愛でるものであって手折るものではない。これ違えずば王国は永劫の幸福を約束される、か。これはあなたのことか、あおのきみ」


 魔性は笑う。


 「ご案内致しましょう、陛下」




 案内されたのは、あの幼い頃に父上に連れてこられた庭園だった。

 あのたった一度の出会いが、全てを変えたというのか。

 変わらず、大きな鳥かごの中には美しい木々や花々が生い茂り、主たる青い鳥を出迎える。


 「歴代の王位継承者は私と会えた者だけに与えられる資格です。初代の王との契約により、私はこの国の王を選びお仕えする。陛下の煩わせる全てを排除し、美しい国を維持するのです」


 大樹まで来ると、美しい水晶画が置かれている。

 水晶画とは我が国の特産品である良質な水晶を平面加工し、そこに職人が魔力を込めながら肖像を掘る、新しい肖像画だ。

 近年では平民でも手に入るよう、小さなものであれば市井に出回っているが、これは純度と大きさから考えても最高級品と呼べるだろう。

 その一枚一枚は忠実に歴代の王達を模写し、その隣には美しい青い鳥が寄り添っている。

 全て、同じ、美しい花のような笑顔で。


 「私達の一族は、名前こそが愛情です。名を与え、交わし、魂を束縛する。初代の王は大変賢い方で、私に名を与えても、けして交わすことはしなかった。歴代の王位継承者にも伝え、誰一人名乗らせなかった。たかが人間ごときが、私を上手に利用していた。それはそれで永き時間の中で娯楽にはなりましたから、許しますけどね」


 「あっ」


 水晶画が割れていく。

 光を浴びて輝きながら、粉々に砕け散る。


 「ですが、その遊びにも飽いたのです。そして丁度良く、心優しい王子が現れた。いいえ、女王陛下とお呼びいたしましょうか」


 「知っていた、のか」


 魔性は全てを見透かしていたのか。

 側妃である母は、16年前に罪を犯した。

 当時の産婆達はすでに暇を貰っていたため、母上の考えはわからないが、僕は女として生まれ男として生きるよう定められた。

 それが偽りの僕。

 父上は知っていて、それでも僕を王にと言って下さった。


 「花は愛でるものであって手折るものではない。これ違えずば王国は永劫の幸福を約束される。この意味は、美しく咲く花を大切にするのは良いが、欲張って自分だけのものにしてはならない。それさえ守れば幸福を約束される、です。この言葉は、初代が私に言った言葉なのですよ。いつの間にか歪んで伝わってしまったようですがね」


 青い鳥は砕け散った水晶の前に座り込む僕を抱き込むと、大樹へ寄りかかった。

 あの遠い日と変わらず、周囲には小動物達が興味深そうに近寄り、優しい空間へ変わる。


 「確かに幸せでした。珍しく美しい魂を持った王に何代もお仕えし、側で輝きを見守ることが出来ましたからね。しかし、目の前にあっても手に入らない。初代の王は私に伴侶を与えないため、女児が生まれた場合、命を奪うよう口伝したのです」


 「僕が助かったのは、母上のお陰か。そして、僕を王に選んだのも、この体が女だからか」


 「はい。やっと手に入る私だけの花。この鳥籠を解放する、その鍵が陛下です。反対されていた先代につきましては、すぐに命を奪うのは貴女の不利益と考えましたので、戴冠式までは生かしておりました」


 「あの焔と共に、消したのだな。弟だけではなく、何の罪もない父上までも殺したのか!」


 急激な衰弱に驚いたが、それでも細く長く、日々を生きていたように思えた。

 それもまた、この魔性によるものだったとは。


 「あの日あの時、陛下の魂に触れ、名を交わした瞬間に得られた幸福感を知っては、もう以前のような契約では物足りなくなったのです。それを邪魔する存在は、契約の範囲内で排除出来ます。特に先代は私の存在を厭い、滅多に鳥籠に訪れなかった」


 頬に触れる指先から、感情が伝わってくる。

 魔術とも違う、皮膚をじわじわと浸食する感覚は、酷く優しい。

 この青い鳥は、美しい花は、父と弟と臣下の敵だというのに、何故こんなにも。


 「何故、こんなにも寂しいと感じているんだ。僕は、お前を憎まなければならないのに!」


 寂しい。

 悲しい。

 愛しい。

 欲しい。

 苦しい。

 狂おしいまでの感情が、体を突き抜けていく。


 「お前は残酷だ。僕は、僕は!」


 男として生きてきても、女の本能が受け入れようとしていることが腹立たしい。

 僕が女として生まれなければ、鳥籠に行かなければ、王になろうとしなければ、全て起きなかった。

 しかし、過去は変えられない。

 そして、この青い鳥に剣を突き立てても、失ったものは戻らない。

 代々の王が女児の命を犠牲にして守ってきたもの、父上が望んだこと、それを一時の感情に流されてはならないのだ。


 「あおのきみ、僕が欲しいか」


 「はい」


 「では、付き従え。僕は王だ。命を賭して僕を守り、僕の願いを叶えろ。お前の力に頼らずとも国が己の足で歩むことが出来たその時に、僕をお前に与えてやる」


 「御意」







 あの戴冠式での出来事は、何事も無く終わったと周辺諸国へ伝わり、国は恙なく進んでいる。

 魔性の力はどこまで影響するのか、あの焔に消えた者達の存在は曖昧となり、記憶から徐々に消えていく。

 かくいう僕も、父上と弟の肖像画が無ければ、時折顔を思い出せなくなるほどに。

 そしてこの国は貴族という身分が減り、国政は優秀であれば身分など関係なく雇用される仕組みが完成されつつある。

 誰もいない所からの内政に困難を極めた時期もあるが、頭の固い年寄達もいなかったため、人事は全て自分の目で見て決めることが出来たのが幸いした。

 新しい視点と新しい声は、国を急速に成長させてくれる。

 害成そう者は他国も含め青い鳥が狩り、堅固な守りは治安にも優れていた。

 神に愛された大地に建つ国の名声はさらに高まり、もう間もなく大陸全土を掌握するだろう。

 清く気高く美しい豊穣の国の真実、それが神とは呼べない魔性によるものだとは、世界の誰も思わない。

 いずれ「王」という存在も、この安寧のまどろみへ消えていく。


 「全て、僕が望んだとおりになったな。そして、お前の思い通りだ」


 王の居室は無い。

 政務の時間は執務室、それ以外は鳥籠の中にいる。

 年中美しく咲き乱れる花の中、小鳥のさえずりと共に寝起きすることにも、もう慣れた。


 「後悔しておりますか、陛下」


 大樹の裾で腹を撫でまどろんでいると、美しい花はひざまずき、大きくなった僕の腹に口づけをする。


 「いや。僕が望んだことだ。この子には、何にも囚われることなく、自由に飛び立って欲しいからな」


 王族でもなく。

 鳥籠と契約に縛られる魔性でもなく。

 どう生きるか、それを選択させてやりたい。


 「僕はな、今でもお前を憎んでいるよ。これからもずっと、憎くて愛しい相手だ」


 重なる唇は何度目か。

 数えきれない時間と情を交わし、新しい希望がこの腹に宿っている。

 それが愛しいと思う女の性と、肉親の敵を憎む男の性、その両方が「僕」という存在だ。


 「この子は僕が母上から頂いたもう一つの名を与えようと思う。新しい名が欲しくなるその時まで、僕の愛しい子の証として」


 「良い事です。かつての私は望んでも手に入らなかった。贅沢者ですね、愛しい子」


 アイディーリア。

 古代語で「愛しき者、親愛なる者」という意味だと、母上がおっしゃっていた気がする。

 僕の名アイリオはその文字から派生した名であり、意味は同じだという。


 「お前も、きちんと呼んでやるべきだったな。永きに渡り仕えてくれたこと、感謝している。蒼の君」


 「光栄にございます、陛下」


 花から零れた朝露はどこまでも純粋で、唇を濡らすと甘く感じた。







 おまけ


 眠る彼女に口づけて、夜の闇を漂う。

 永い時間を掛けて根を張り続けた結果、王国全土を把握できるだけの地盤が気づけた。

 代々の王と契約し、王のために働くことは楽しくも幸福ではあったが、どこか満たされず、常に飢餓を感じていた。

 そんな中、零れ落ちてきた光。

 王城内のどこかに生まれ落ちた光、されど王の許しなく光を探すことは出来ない。

 力の強い者ほど、あらゆる制約を自身に掛けて自我を保つのだが、これほど口惜しいと思ったことはなく、時間が憎らしかった。

 憎しみは契約者である王へ向くため、王の魂はゆっくりと傷ついていく。

 身体が弱り始めてもまだ、会うことは叶わない。

 しかしあの日、鳥籠にやってきた小さく柔らかな光に、全ての意識が持って行かれた。

 「僕」と名乗った幼子は、私に名を与え、自らの名を許し、手を伸ばしてくれた。

 この命は私のもの、そう悟った瞬間から契約は綻び、内政は穢れていく。

 代々の契約者が守ってきたものであっても、私はこの光しか欲しくない。

 結果として彼女の戴冠式で血縁者から命を狙われることになったが、私の王にふさわしい場所を作るにはちょうど良いと思い、一掃した。

 あぁ、これが伴侶を得る幸福感。

 私の王のために、私の愛する者のために、ただ望みを叶えたい。

 この溢れるほどの感情は、最初に契約した女を思い出させる。

 何故私が女と契約したのか、そしてこの国に根付くと決めたのか、契約で縛られることを許したのか。


 「貴女はご存じないのでしょうね。初代の王であった女が、貴女と同じ想いだったのですよ」


 以前よりずっと眉間の皺は減り、時折幼子のように無垢な寝顔を見せてくれるようになった陛下。

 美しく、気高く、王であろうとした高潔な光。


 『今、この国は荒廃の道を進み、崩壊寸前よ。でも、私は失いたくないの。私が愛するこの国と民を、ここで失うなんて嫌なの。だからあなたの力を私に頂戴。そして遠い未来、あなたの力に頼らずにこの国が己の力で歩めるようになったら、わたしをあげるわ』


 そうなる前に散ってしまった女は、形を変えて戻ってきた。

 今度は、けして手放さない。

 私はこの美しい魂を愛している。







 完。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ