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第2章 第40話(第86話) ~恐怖・・・魔導砲試射!~

今回は長いです。

文末の獲得経験値の資料数値も含めて、1万文字を超えています(汗。


実は、今回のお話しで描いた「魔道砲」の発射シーンですが、実はこの『レガ子と旅する異世界ドライブ』のお話しを書き続ける大きなきっかけになっていたりもします。

というのも『レガ子と旅する異世界ドライブ』の第1話を投稿してから一週間後のあたりに、この「魔道砲」をぶっ放してレガ子が帝国兵を大虐殺(?)する夢を見たという出来事がありました(苦笑。

その一件があって、その後の執筆活動に勢いがついたように感じています。


その時に見た夢の内容は、その当時の自分のブログでラノベ風に書いていますので、興味があったらそちらもぜひ読んで見てください(苦笑・

ブログURL https://minkara.carview.co.jp/userid/910982/blog/38838625/


けっこう今回のお話しでそのまま使っている文章があることに気がつくと思います。

 翌日、俺たちは朝早くに遺跡の建物を出発し、東の奥地にある未開拓の荒野を目指して移動していた。

 距離は、遺跡からだと山脈にそって50キロほど移動する感じになる。

 ソコであれば街道沿いにある村々からもかなり離れているため、山側に向かって魔導砲の試射を行えば、万が一の事態が起きたとしても村々に被害が及ぶことは無いはずだ。


 俺の横では、専用シートに座ったレガ子が「魔導砲♪魔導砲♪」とやけに楽しげに鼻歌を唄っている。

 そんなレガ子の姿を不安げに眺めていると、その先・・・助手席に座っているリーゼが「心配しなくても大丈夫ですよぉ~」とケタケタと笑いながら声をかけてきた。


 実は俺がこの魔導砲の試射に不安を抱いているのには理由があった。

 昨日、昼食後に魔導砲の試射を行う事を提案した後、コリーゼが近づいてきて俺にこう耳打ちしたのだ。


オリジナル様(おねえさま)の創る強力な道具には〝うっかりミスによる欠陥〟が多いので、試射の時は十分に注意してください」


 なんでもコリーゼ達シスターズの娘っ子らは、リーゼが創った便利道具を使って世界樹の霊脈を清掃しているらしいのだが、これらの便利道具の暴走によって、つい最近も死ぬような目にあったばかりらしい。

 具体的には、威力設定をするための強弱ダイヤルが逆になっていたり、設計上のパワー設定値がどう考えても桁2つか3つくらい間違えて入力されていたりと、何も疑わずにリーゼが創った道具を使うとロクな目に合わないそうだ。

 なので最近では初見の道具は設計図面の細部にまで目を通してからでないと、怖くて使うことが出来ないということだった。


 その話を聞いて、俺は昨日のうちにこのレガシィに仕掛けられた進化システムの解析をコリーゼにお願いしたのだが、リーゼが組み立てたプログラムがあまりにも複雑すぎて、シスターズの娘っ子が数人がかりでも短時間での解析はお手上げ状態という事だった。

 コリーゼは今朝の出発前に「何とかして魔導砲部分のプログラムだけでも探し出して解析してみますので、薫さまはできるだけ試射の瞬間を引き延ばすよう努力してください」と言ってくれたが、今にも暴発しそうなほどご機嫌なレガ子を見ていると、果たして引き延ばしなどできるのか不安になってくる。




 遺跡の施設を出発してから約4時間、俺たちは目的地の試射予定地にようやく到着した。

 時間稼ぎのために通常よりもゆっくりとレガシィを走らせたこともあるが、たかが50キロの距離を走るのに4時間も掛かってしまったのは、予想以上にここまでの路面状況が悪かったことが大きな要因にもなっていた。

 なにせこの場所までは直線距離にすれば遺跡施設から50キロだが、地面の状態がなるべく平たんな場所を場所を選びながら迂回走行したため、走行距離計が示す実際に走った距離は80キロを軽く超えていた。



「とりあえず長時間の移動でみんな疲れているだろうか、1時間ほど小休止をして、その後に昼食タイムにしよう」


 すでに時計の針はお昼時に近づいていたため、俺はとりあえず休憩と昼食休みをみんなに提案することにした。

 もちろん、これには魔導砲の試射タイムを引き延ばす時間稼ぎの意味合いも当然のごとく含まれている。


「カオル殿、ありがたい配慮なのじゃ・・・」

「お兄ちゃん・・・わたし少し酔ったかも・・・」

「にゃはは、クルマから降りても、お尻に振動の感触が残っているのニャ」


 悪路走行による振動が4時間以上も続いたため、子供たちには疲れの色が濃く出ており、アリシアにいたっては車酔いまで軽く発症している状態になっていた。

 運転していた俺ですら、あまりに揺さぶられたために胃の調子がややおかしくなっているのを感じているくらいだ。

 クルマという乗り物に乗りなれていないこの世界の子供たちには、今回の移動はかなり辛いものだったのではなだろうか。


「薫さ~ん、休憩ならビールを一つ頂いてももいいですかぁ?」

「みゃぁぁぁ?」


 リーゼとその相棒(幼竜)は、助手席から降りるとすぐに伸びをして身体をほぐすと同時に、お酒を要求してくるほど平然としていた。

 そしてレガ子にいたっては「休憩時間がもったいないから、ちょっと試射方向の偵察をしてくるのっ」と言って、レガシィのルーフレールに新たなドローンを作りだして射出し、今は専用シートの上でドローンから送られてくるデータの解析に集中していた。


 まったく・・・こいつらの三半規管や前庭器官はいったいどうなっているんだ?


 とりあえずレガシィの後部ハッチを開け、イベントリからビール2缶と炭酸飲料4缶を取り出し、リーゼや子供たちに渡す。

 そしてレジャーテーブルを組み立てて彼女たちに休憩の場所を提供した後、自分用にコット(アウトドア用折りたたみ式ベッド)を組み立て、そこに寝そべりながら子供たちと同じ銘柄の炭酸飲料を口にした。


「さて・・・コリーゼの調査はどのあたりまで進んだのかな?」


 俺はレガ子の意識がこちらに向いていないことを確認しながらスマホを取り出し、ネットコミュニケーションツールを起動すると、コリーゼに現状を尋ねるメッセージを打ち込み、あらかじめ登録しておいた彼女のアカウントへと送信した。


 しばらくすると着信音と共に、コリーゼからの返信メッセージがスマホの画面に表示された。


『申し訳ありません。まだ解析に手間取っています。今ようやく魔導砲の動作プログラムと思しきデータの塊を見つけたところです。もうちょっとだけ時間を作ってください』


『とりあえず今から休憩と昼飯タイムを入れるから、あと2時間は時間を稼げる。その間になんとか頼む』


『わかりました。頑張ってみます』


 コットに寝転がりながら『期待している。頑張れ」と短い文面を打ち込み、コリーゼとのメッセージのやり取りを終え、スマホを胸ポケットへと納めた。

 仰向けになり空を見上げると、雲がほとんど見えない青空の中をやや大型の猛禽類が飛んでいるのが見える。

 かなり上空を飛んでいるので正確なサイズはわからないが、翼幅は1メートルをやや超えているようだ。

 元の世界であればタカやハヤブサの類がこのサイズに該当するが、こちらの世界ではどうなんだろうか?

 こっちの野生動物は魔力を普通に使う魔物系が多いらしいから、もしかしたらあの猛禽類もなにがしかの魔法攻撃ができるのかもしれない。

 とはいったものの、上空の猛禽類が俺たちを標的にするようなこともなく、今この場には緩やかな風の音と時おり聞こえる鳥の鳴き声、そして手元から聞こえる炭酸水の泡の音だけが聞こえる平穏な時間が流れていた。

 できる事であれば試射が終わる時も、こんな平穏な状態で過ごしたいものだ。




 平穏無事を願っていた俺の想いは、突如腹部に襲い掛かった重い打撃によって破られてしまった。

 突然の衝撃と鈍痛に慌てて首を起こすと、なぜかミャウが俺の腹の上に乗っているのが見えた。

 どうやらコットの上で横になっているうちに、いつの間にか寝てしまったようだ。


(あん)ちゃん、お腹が空いたにゃっ♪」


 しかも休息時間の1時間を丸々寝てしまい、すでに昼食予定時間に時計の針はその位置を変えてしまっていた。


「もう・・・ミャウちゃん、お兄ちゃんは疲れているみたいなんだから、もうちょっと優しく起こしてあげないとダメだよ」


 そうか・・・ミャウのやつは俺の腹の上に跳び乗ったんだな・・・。


「みゃ~~うぅ~~」


 地の底から這い出すような声でミャウの名前を呼びながら上半身を起こす。

 その反動で俺の腹の上から転げ落ちそうになったミャウを左腕で抱き留めながら、右手で彼女のコメカミを鷲掴みにした。


「みゃっ! (あん)ちゃんギブ、ギブっ!」


 俺の手の中から逃れようと暴れだしたミャウを、キッチリとホールドして逃がさないようにする。


「飛び乗って起こすのはダメだって、前にも言ったよなぁ?」


「父ちゃんはこうやって起こすと喜んだにゃ」


「俺は喜ばない(ということにしておこう)」


 まぁ実際の所、体重がやたらと軽いミャウに飛び乗られたところでたいしたダメージは受けないんだが、寝起きの男性には腹よりもデリケートな状態の部分がもうちょっと下の方にあるからね・・・。

 以前ミャウのダイビングアタックでそのデリケートな部分に直撃を食らったときは、マジで「折れた!」とか思ってしまったくらい痛かったし。


「で・・・ミャウの事情は分かったとして、なんでクリスは俺の横に引っ付いて寝ていたんだ?」


 狭いコットの上で、まるでコアラのように俺に抱きつくようにして引っ付いて寝ていたクリスにも声をかける。


「ただの添い寝じゃ、気にするでない」


「気になるわいっ!」


 すました顔でそんな返事を返した来たクリスに撃沈寸前のミャウを押し付け、俺はレジャーテーブルの前で一人昼食の下準備をしてくれていたアリシアの所に歩み寄った。


「わるいな、アリシアだけに昼食の準備をさせちゃったみたいで」


「ううん、まだ道具とかを準備していただけで、調理は何もしていないから気にしないでいいよ」


「それでもな」


 そう言いながらアリシアの頭を撫でる。

 アリシアは遠慮してはいるが、表情はほめられたことで嬉しそうな感じに変化している。


「で・・・料理時には役に立たない、我がパーティの大人な女性殿はどこに行ったんだ?」


 周囲をぱっと見回しても姿が見えないリーゼと御付のチビ竜の行方を尋ねる。


「お姉ちゃんたちなら・・・クルマのあっち側で・・・」


 アリシアが気まずそうな表情を浮かべながらレガシィの反対側を指差したので、そちらに移動しクルマの反対側を覗き込んで見る。

 するといつ敷いたのかしらないが、レジャーシートの上でリーゼとチビ竜が酔いつぶれて仲良く寝ているのが見えた。

 しかもシートの上には、缶ビールの空き缶が8個も転がっていた。


「こいつら(といっても主な犯人はリーゼだろうが)、イベントリからビールを追加で取り出して飲みやがったな・・・」


 レジャーシートの上で、女性としていかがなものかと思ってしまうような格好で寝ているリーゼの姿を見て、頭が痛くなるのを感じながら、イベントリから毛布を取り出し彼女の身体の上にかぶせてあげる。


「リーゼは後でお仕置き決定だな」


 愚痴をこぼしながらレジャーテーブルの場所まで戻ると、なぜかアリシアがクスクスとわらいながら俺の方を見ていた。


「どうかしたか?」


「お兄ちゃんはそういやって文句をいいながらも、お姉ちゃんにはいつも甘いよね」


 そうだろうか?

 けっこう頻繁にお仕置きのアイアンクローや聖剣スマートフォーンの一撃をリーゼに入れているような記憶があるのだが。


「そんな事は無いと思うぞ。

 たぶんこの後はリーゼの頭を鷲掴みして、顎がガクガクいうまで締め付けるつもりだし」


「でも、本気で怒ったりはしていないよね?」


 まぁね。

 年齢的はリーゼは俺よりも何億年単位ではるかに年上なのだが、行動の基準が幼すぎて、実はミャウやクリスを叱っている時と気分的にはあまり変わらないんだよね。

 まぁ・・・リーゼは大人だから、ミャウの時の2倍くらいの握力は入れるがね。


「安心しろ、ミャウの時よりはキッチリ力を入れて握っているから」


「だ、だめだよぉ。

 お姉ちゃんはアレでも女の子なんだから、顔は攻撃したら可哀想だよ」


 〝女の子〟ねぇ・・・・。

 リーゼの年齢って、いくら神様とは言え〝女の子〟の形容詞が許される範囲なのだろうか?

 

 俺はそんな事を思って苦笑いをしながらイベントリから食材を取り出し、今ら作る昼食のメニューを考えるのだった。






 昼食のメニューは、時間稼ぎもそこそこできるカレーにしたのだが、昼食が終わってもコリーゼからの連絡がまだ無い状態だった。

 今は「昼食後の腹休め」などといって時間を引き延ばしているが、あと10分もすれば魔道砲の発射実験を行うことになってしまうだろう。


 ちなみに昼食のカレーだが、リーゼとチビ竜の分にはカイエンペッパー(唐辛子)を増し増しで入れて、少々辛口にしたものを罰として与えておいた。

 その刺激のおかげで、二人(?)ともすっかり酔いを醒ましてくれたようだ。



『魔道砲のプログラム解析はまだ終わらないか? こっちはそろそろ遅延作戦が限界なんだが・・・』


 とりあえず現状を確認するため、コリーゼに急ぎのメッセージを入れてみる。

 すると、すぐに彼女からの返信がスマートフォンに表示された。


『いまやっと魔道砲のパラメータ関連の記述ブロックを見つけたところです。もうちょっとがんばってください』

 

「薫さまっ、そろそろお昼休みは終わりにして試射の準備に入るのっ!」


 コリーゼからの遅滞作戦継続の指令とレガ子からの即時戦闘体以降の号令が掛かったのがほぼ同時だった。

 どうやらレガ子は、俺が昼寝をしている間に試射ポイント周辺の調査をドローンで行い、もっとも魔物を多く巻き込める・・・もとい、倒せるポイントを探し出していたらしい。

 そのため、レガ子は魔物が移動して状況が変わってしまう前に試射を実行したくてウズウズしている様子だった。


 そんなレガ子の様子を見て、これ以上の遅滞戦術は不可能だと判断した俺は、『どうやらタイムアップ。今から試射の準備に入る』とだけ打ったメッセージをコリーゼに送り、休憩のために出していた道具などを仕舞いはじめるのだった。





「水平対抗エンジン、トランスフォーメーション!」


 レガ子の声に合わせて、レガシィが鈍い振動を始める。

 俺たちを乗せたレガシィは今、新装備の魔道砲の試射のため、そのフロント側を山脈に向けて発射準備態勢に入ろうとしていた。

 どうやら先ほどのレガ子の掛け声によって、ボンネット内部のエンジンが魔道砲の発射に適した形状へと変改しているようだった。


「なぁ、今レガシィのエンジンって、どうなっているんだ?」


「愛車家のオーナー様は見ないほうがいいと思うの」


「そうですか・・・(汗」


うん。

余計なことを考えるのは心臓と精神衛生上とても悪そうだからやめたほうがよさそうだ。



やがてレガシィを大きく震わせていた振動が収まると、今度は低いモーター音のような駆動音が、エンジンルームのほうから聞こえてきた。


「魔術シリンダー内、圧力上昇。

 魔力圧縮回路臨界点まであと1分」


 レガ子が座っている専用シートの前方に、バーチャルモニターが多数出現し、そこに様々な数値が表示され、それらの数値が勢い良く増えているのが見える。


「照準用クロスゲージ投影。

 射線軸、前方山脈群の根元に固定」


 レガ子の前方に、さらにHUD(ヘッドアップディスプレイ)のようなものが現れ、そこに魔道砲の着弾点を示す照準が表示された。

 照準器が狙っているのは、8キロほど先にある山の根元部分だ。


「砲門前方に魔術バレル展開。

 バレル回転開始」


 レガシィのフロントグリル(砲門)の前方空間に、幾重もの円形魔方陣が出現した。

 どうやらこれが魔術バレルと呼ばれる、魔力を圧縮・加速させるものらしい。

 それらの魔方陣が、交互に逆の回転方向に回りだす。


「フロントガラスに対閃光防御発動。

 魔力安全弁解除」


 レガシィのフロントガラスがまるで金属製のシールドで覆われたようになり、外の風景が全く見えなくなった。

 しかしレガ子の前方だけは魔術的な方法で外の様子が映し出されており、HUDに表示されている照準がその擬似的な外の風景を捉えていた。


 ところでなんだろう・・・

 コレに良く似た展開を、どこかのアニメで見たような気が・・・・


「発射トリガーオープン」


 レガ子シートの根元から拳銃の引き金のようなユニットが現れ、それがレガ子の前に移動する。


「なぁレガ子・・・

 ソレっていろいろな意味でヤバくないか?」


「気にしたら負けなの。

 様式美なの」


 やがてフロントガラスに投影されていた発射カウントが・・・


「発射10秒前」


 レガ子がカウントダウンを読み上げると同時に、俺のスマホが着信を知らせる振動を始めた。

 スマホの画面を見ると送信者はコリーゼで、件名は『緊急事態発覚』という穏やかでは無いものだった。


「9・・・8・・・7・・・6・・・」


 レガ子が横でカウントダウンを続ける中、慌ててメッセージの本文を表示させる。


『その魔道砲という武器ですが、チャージ率100%の時の出力数値が、桁ひとつ分間違えて設定されています。至急テストを中止してくださいっ!』


 えっ?

 つまり想定威力の10倍のエネルギーが放出されるのか?


「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・」

「レガ子っ! 発射は中止だっ!」


 レガ子のカウントダウンをさえぎるように大声を張り上げ、試射の中止を訴えたが、時すでに遅し・・・。

 レガ子はすでに発射トリガーを引いてしまっていた。


「魔導砲、発射っ!」


 レガ子がトリガーを引くと同時に、レガシィのフロントグリルに収束していた高圧縮魔力が前方へと噴出。

 それらの高圧縮魔力は、前方の空間に展開された魔術バレルによって、さらに圧縮と加速が繰り返し行われ、目標となった山脈のふもと部分へその膨大なエネルギーを撃ち出した。


 レガシィから放たれた魔力の塊は、プラズマをも伴った高温・高速のエネルギーに変化し、目標までの間にある地面を削り、溶かしながら進んで、間に存在するすべての物体を飲み込みながら目標地点へと吸い込まれていった。


 次の瞬間、着弾点の大地が弾け、膨大な爆煙を噴き上げながら周辺に向かって強烈な爆風と衝撃波を撒き散らし始めた。

 俺たちが乗っているレガシィも爆風の影響で、まるで暴風の中に取り残されたクルマのように大きく揺れていた。


「きゃぁぁぁぁぁ!」


 突如襲ってきた車体ごと浮遊する感覚に、後部座席の子供たちが悲鳴を上げた。


「吹き飛ばされないように、ロックアンカーを射出するのっ!」


 レガ子の機転により、レガシィの腹部から地面に向けて4本のワイヤーアンカーが撃ち出され、車体を地面へと固定。

 これにより、爆風によって車体が吹き飛ばされる心配だけは無くなった。


 ちなみに数秒間におよぶ高圧縮魔力の放出が終わったレガシィは、冷却のための冷凍魔法をエンジンルームを中心に展開している最中のため、現在は全く動かすことができないらしい。

 しかも砲門から規定値以上のエネルギーを放出したためなのだろう、レガ子の眼前に展開している仮想モニターには車体の異常を示す様々な警告が途切れることなく表示されている状態だった。



 着弾点の爆発による暴風は約5分間ほど続き、やがて周囲にもとの静寂がもどってきた。

 外の様子が落ちつたことを確認し、フロントガラスを覆っていた防御シールドを解除すると、そこには試射前とは山脈の形状が全く変わってしまった山並みがあった。


 どうやらフルパワー時の10倍という出鱈目な出力で発射された魔道砲のエネルギーは、目標地点の山を丸ごと消し去ってしまったらしい。


「れ~~が~~こぉ~~~」


「あのねっ薫さまっ、今回の件に関しては設計上のミスが原因なので、レガ子には非は無いと思うのっ」


「俺は直前に『中止!』って叫んだよな?」


「もうあのタイミングだと、止めようが無いのっ!」


 はぁ・・・。

 コレ・・・騎士団の人たちや、この国の王様(クリスのおとうさん)とかにどう言い訳して説明したらいいんだろう・・・。


「あははははは・・・もしかして、わたし()()失敗しちゃったのかな?」


 俺のため息を聞いて、助手席に座っていたリーゼが引きつった笑いを浮かべていた。

 さて、大元の元凶でもあるこの駄女神さまは、どうしてくれようか・・・。



 

 その後、四方に飛ばした偵察用ドローンからの映像を見ると、周囲の村などへの被害はほとんど無かったようなので少しだけ安心する事ができた。

 試射の犠牲で吹き飛んだ山は、山脈郡の中央部に近く、周囲には人が足を踏み入れる事が無いため、人的被害が()()()()出なかったのは不幸中の幸いといえる。


 ちなみにレガシィに備わっている獲得経験値の報告欄には、今回の件で犠牲となった膨大な数の魔物たちの名前と数が記入されており、その中に「帝国兵(竜騎士):8名」と記載されていたのが唯一の人間の犠牲者だった。

 どうやら帝国軍は、人間がほとんど入ってくることがないこの山脈の中に補給拠点を作っていたようだ。



 偵察用ドローンが捕らえた映像では、高圧縮魔力が通過した射線上は、幅6~7メートルにわたって地面が抉り取られており、中央部は高温により溶け、表面がガラス質へと変化していた。

 またかつて山があった場所は半径3キロ以上の巨大なクレーターと化しており、その中央部は高温で溶けた岩石などが溜まったマグマ湖のような状態と化しているのが分かった。


 そして今回の一件についてクリスと相談した結果、王国側には「突然の大規模噴火」として報告する事となった。

 この国も姫様にまで虚偽報告の片棒を担がせるのは気が引けたのだが、「まさか神様の大ポカで山が吹き飛んだ・・・などとは報告できまい」とため息混じりに肩を落としていたクリスの一言で、今回の件は隠蔽することが決まった。


「まぁ国民への被害が無かったのじゃ。

 であれば、人災よりも天災の方が皆安心するはずじゃ」


 そう言いながら消えた山の姿を眺めて苦笑いしているクリスの頬は若干引きつっていた。


「それにじゃ・・・大きな意味では()()でも間違いでは無いじゃろ?」


「そうだね・・・お姉ちゃん(かみさま)の失敗が原因だから、たぶんこれも天災なんだろうね・・・」


 クリスの独り言に応えるように言葉を発したアリシアの笑顔もかなり引きつっている。


「それよりも(あん)ちゃん・・・コレどうするのにゃ?」


 そう言ってミャウは過剰負荷により溶けたように半壊したレガシィのフロントを指差した。

 そう・・・規定値の10倍という高い負荷にレガシィの車体が耐えられず、魔道砲の発射によってフロント部とエンジンが大破してしまい、俺たちはこの場から動けないでいた。


「あぁ、深夜0時になれば自然回復するはずだから、今日はココで野宿だな・・・」


 俺の身体とレガシィの車体は、リーゼが組み込んだ状態復元の加護(プログラム)によって、どんなにひどいダメージを負っても午前0時には全回復するようになっている。


お姉ちゃん(かみさま)って・・・凄いのか、凄く無いのか、良く分からなくなってきちゃった・・・」


 俺やレガシィの身体に隠された秘密を聞いて、アリシアが驚きながら素直にそんな感想を口にしていた。


「う~~ん・・・たぶんだけどリーゼは〝凄い駄女神さま〟なんだと思うぞ」


 アリシアの疑問に笑いながらそう応え、胸元に抱いているチビ竜の頭を撫でながら、今はココに居ないリーゼのことを考える。


 ちなみにリーゼは、あの後激怒するコリーゼに耳を引っ張られながら霊脈の中に連れ去られていった。 今は魔道砲のパラメータ修正とレガシィに施されているシステムの総チェックを、コリーゼの監視のもと不眠不休の強制労働でやらされているはずだ。


 


「とりあえず遺跡に駐屯している騎士団には、噴火の影響を調査するために今晩はココに泊まることをドローンで運んだ手紙で伝えておいたのっ」


 こちらの無事と様子を伝える手紙が遺跡施設で待つジョニー隊長に無事届いた報告をレガ子から聞き、当面の懸念事項がこれでほとんど消えたことを確認した。


「じゃぁ、久々に野宿の準備でもするか!?」


「「「は~~いっ♪」」」


 どうやら子供たちは久しぶりのキャンプに少々はしゃいでいるようだ。

 そして、その気持ちは俺も同じだった。




******************************************



今回の獲得ポイント(レガシィの経験値基準)


●移動走行距離ポイント:83ポイント

 (異世界での走行は1Kmに付き1ポイントが自動的に付与されます)


●撃破ポイント(レガ子の試射での犠牲生物)

 〇ガレドラゴン:1万7472ポイント(48ポイント×364匹)

 〇ガレドラゴンの卵:1万5000ポイント(12ポイント×1257個)

 〇草原の狼:172ポイント(4ポイント×43匹)

 〇角狼:1260ポイント(12ポイント×105匹)

 〇岩熊:1425ポイント(25ポイント×57匹)

 〇鬼魔蜘蛛:1780ポイント(20ポイント×89匹)

 〇火炎蜘蛛:1152ポイント(18ポイント×64匹)

 〇竜蛇:3914ポイント(38ポイント×103匹)

 〇熊兎:3128ポイント(17ポイント×184匹)

 〇吸血蝙蝠:5056ポイント(8ポイント×632匹)

 〇肉食雷魚:2947ポイント(7ポイント×421匹)

 〇火炎大鷲:651ポイント(21ポイント×31匹)

 〇ロックゴーレム:2436ポイント(42ポイント×58匹)

 〇人食い大樹:2666ポイント(31ポイント×86匹)

 〇帝国兵(竜騎士):1120ポイント(140ポイント×8人)

 〇ワイバーン(竜騎兵用):480ポイント(60ポイント×8匹)

 

 (合計:6万0659ポイント)



●消費ポイント(レガシィ)

 〇ドローン生成:-8ポイント(-1ポイント×8機)



現時点での総ポイント数:9万7622ポイント

 (9万ポイント到達でレベル18→24へ昇格


※レガ子の獲得ポイント:レガシィの経験値基準から+7ポイント

 (武器クリエイトによる消費分など)

 (9万ポイント到達でレベル18→24へ昇格)


※主人公の獲得ポイント:レガシィの経験値基準から-119ポイント

 (装備クリエイトによる消費分など)

 (9万ポイント到達でレベル18→24へ昇格)



レベルアップに必要な獲得経験値の数値。


レベル24 90000ポイント

レベル25 100000ポイント

レベル26 110000ポイント

レベル27 122000ポイント

レベル28 134000ポイント

レベル29 147000ポイント

レベル30 160000ポイント 

レガ子「やったのっ! 一山丸ごと生態系を虐殺して、大量経験値ゲットなのっ♪」


薫「一山だけで済んで良かったよ・・・」


クリス「もし国民に犠牲者が出ていたら、我はカオル殿を犯罪者として告発せねばならなかったわい」


薫「えっ? 俺が犯人にされちゃうの?」


クリス「では・・・直接手を下したレガ子殿か? でものう・・・レガ子殿は精霊だからのう・・・人間の法を当てはめるのは難しいのじゃ」


レガ子「そもそもの原因は、リーゼさまのうっかりミスなのっ!」


クリス「さすがに、我々人間が神様を裁くのは・・・」


アリシア「お姉ちゃんは、ぜんぜん神様っぽく無いけどね」


ミャウ「どちらかといえば、ぐうたら姉ちゃんなのにゃ♪」


リーゼ「しくしくしく・・・・」


コリーゼ「おねえさまは神様というより、妖怪・食っちゃ寝の方が実態に近いかもしれません」


リーゼ「しくしくしく・・・・」

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