新年用番外編 ~姫初め狂騒曲~
あけましておめでとうございます。
昨年は、自分のつたないラノベを読んでいただき、ありがとうございました。
本年も『そして今日も俺らは地平を目指す! ~レガ子と旅する異世界ドライブ~』の執筆を続けていきますので、引き続きのご愛読のほど、よろしくお願いいたします。
今回の番外編は、前回投稿した『大晦日用番外編 ~異世界に蕎麦を伝える~』の直後から物語がスタートします。
今日(1月1日に)いきなり思いついたお話しだったので、来年の正月用番外編にしようかなどとも考えていたのですが、書き始めてみたら意外と早く書き終えることができたので、連続して投稿することにしました。
(この前書きを書いている時点で、1月2日の正午の予約投稿にしています)
前回の大晦日用番外編よりも今回の方が、少し先の主人公らの様子がうかがえる表現を、本編での今後の展開がネタバレしない程度にいくつか織り交ぜています。
今回の番外編での主人公らを時折思い浮かべながら、今後の本編をお楽しみいただければ幸いです。
「とりあえずは、あけましておめでとう。
みんな今年もよろしくなっ!」
「「「「「はいっ、旦那さまっ♪」」」」」
そう・・・
異世界で結婚してから初めて迎えた(異世界に来てからは2度目の)年末年始は、トリマ村に建てた別荘でのささやかな年越し蕎麦づくりを経て、何事もなく平和に過ぎるはずだったのだ・・・。
それが・・・
「どうしてこうなったんだ・・・」
今俺の目の前では、幼い妻たちが今年初めての夜伽・・・〝姫初め〟の権利を賭けて壮絶なバトルを繰り広げていた。
事の始まりは、新年の挨拶を終えた後に炬燵の中で何気なく発した俺のつぶやきだった。
「やっぱ新年を迎えると初詣に行きたくなるよなぁ~」
元いた世界では、新年の時には必ずクルマ仲間やゲーム仲間を誘って出かけていただけに、新年のあいさつをした後に初詣に行けない今の状況は少し寂しくもあった。
この世界に来て二回目の新年になるが、昨年はまだこっちの状況に慣れていなくて、年が明けても初詣どころの状況じゃなかったからね。
初詣に行きたいと今回思ったことは、きっとこっちでの生活が落ち着いて心に余裕が生まれた証拠なんだろう。
「うん? カオル殿・・・〝初詣〟とは何なのじゃ?」
俺のつぶやきに人一倍好奇心旺盛なクリスが、炬燵に身を潜めていた状態から起き上がり食いついてきた。
ちなみにアリシアとミャウはすっぽりと炬燵に潜っていて、まるで亀のようになっていた。
リーゼに至っては、秘蔵の日本酒の北海道・旭川産の純米大吟醸「国士無双 あさひかわ」のボトル(720ml)を3本も開けて、見事に酔いつぶれて寝てしまっている。
レガ子は俺の服の中に入って胸元から顔を出している状況だ。
「初詣っていうのは、年が明けてから初めて神社や寺院などを参拝する事をさす、俺の故郷の言葉なんだよ」
「ほぅ・・・面白い風習じゃの。
それは年が明けたらすぐに行くものなのか?」
「新年を迎えてから三日以内に行く参拝を〝初詣〟とするのが本当らしいけど、だいたい新年を迎えてから1週間から1カ月以内に行けば初詣扱いで良いという考え方もあったね」
「なんじゃそれは・・・結構いい加減なのじゃな」
「まぁ、俺が生まれ育った〝日本〟という国は、宗教行事に関してはけっこういい加減なところがあったからね。
なにせ、古来からあった宗教以外にも、諸外国から入ってきた宗教までごちゃ混ぜにして、おいしい処だけを切り出して国民行事にしちゃっていた国だったから・・・」
元の世界で行われていた〝クリスマス〟や〝ハロウィン〟、〝バレンタインデー〟などといった行事を思い出して苦笑いを浮かべる。
「ほら、一昨年の年末近くにリーゼに俺の故郷に行ってもらいケーキを買ってきてもらった〝クリスマス〟っていう行事があっただろ?
あの〝クリスマス〟はそもそも俺の故郷とは別の国の宗教行事だったんだよね」
炬燵布団の中に首まで使っていたミャウとアリシアが、ケーキという言葉に反応して一瞬だけ炬燵から身を乗り出して俺たちの方を見た。
が、今はそのケーキが出てこないと分かって、すぐに元の亀状態に戻ってしまった。
「その初詣とやらに行くと、何か良い事でもあるのか?」
「神社や寺院などで〝お賽銭〟というお布施をして、そこに居る神様に去年委年間の感謝を捧げたり、新年の無事と平安を祈願したりするんだよ。
『今年は〇〇が叶いますように』などと願い事をお願いすると、それが叶うという言い伝えがあるんだ」
まぁ、実際に願いが叶うかどうかは、本人の努力次第なんだけどね。
そういった意味では、日本人は神頼みが好きな民族だったかもしれないな。
「なるほどのう・・・。
このトリム村にも寺院というか教会はあるのじゃが・・・その初詣とやらにいってみるか?」
俺の話を聞いて初詣という行いに興味を示したクリスがそんな提案をしてきた。
たしかにこっちの世界で手に入れた新しい家族らと一緒に、教会に足を運んで今年の幸せを祈ってくるのは悪くないかもしれない。
ただ・・・
ただなぁ・・・
「この世界の宗教が祀っている創造神さまは、教会で願いを聞いてくれる以前に、ソコで酔いつぶれているんだけど・・・」
「あはははは・・・」
俺が炬燵の向かい側で酔いつぶれて、だらしない寝顔を晒しているリーゼを指さし、初詣で神様に願い事をささげる無意味さを説くと、クリスは意味を察して苦笑いをうかべた。
もしかしたらリーゼの代わりに世界樹の中で働いている、彼女の神格情報複製体の妹たちが教会での願い事を聞いていてくれるかもしれないが、たぶんすぐにコリーゼが来て「そんな些細な仕事くらい、そこのオリジナル様をこき使ってください」と言ってくるに違いないしなぁ・・・。
「と、ところで、カオル殿の故郷では、新年を迎えると他にはどんなことをしておったのじゃ?」
どうやら俺と同じことを思い浮かべていたらしいクリスが、話題を変えるために質問してきた。
「そうだなぁ・・・田舎だと集まった親戚総出で〝餅つき〟とかもするようだけど、どちらかといえば初詣以外はのんびりと過ごしていたと思うぞ」
俺は友人らと初日の出を見に行ったり、初売りに突撃したりしてあまり実家に居なかったので、一般的な家庭での正月の過ごし方がよく分からないのだが、学生だった頃も初詣くらいしか家族では出かけていなかったはずだ。
「ただ、新年を迎えた後に最初に行うことを〝初〇〇〟とか〝〇〇初め〟などと呼んで、特別視して楽しんでいた感じはあったな」
「なんじゃそれは?」
「たとえば、今日の昼間に外に停めているレガシィを洗車するとするだろ。
そうすると今年初めてやる洗車だから〝初洗車〟などと呼んで、普段の洗車とはちょっと違うぞ的な感覚を楽しむんだよ」
「薫さまっ、朝になったらレガ子の本体の〝初洗車〟をぜひお願いしたいのっ!」
それまで俺の服の胸元から顔を出してウトウトとしていたレガ子だったが、突然目が覚めて元気になりレガシィの洗車をおねだりしてきた。
「わかっているよ。
毎年のように水垢落としとワックスもかけて、念入りに磨いてやるよ」
「ぜひお願いするのっ」
俺の返事を聞いて上機嫌になったレガ子が、服の中から飛び出して炬燵の上を飛び回っていた。
まぁ、リーゼが俺とレガシィに施した状態復元の加護があるので、毎日がピカピカの新車状態だからあまり意味はないんだけどね。
これはもう気分の問題なんだよなぁ。
「他にどのような初めてがあるのじゃ?」
「楽しんでいた連中は、どんな行為にも〝初〇〇〟や〝〇〇初め〟を付けて遊んでいたよ。
まぁ、有名なものだと新年の夜に初めて見る夢を〝初夢〟と呼んで、この夢の内容で1年の吉凶を占う習慣があったな」
そう言い、いったいどんな初夢を見ていることやらと、向かいで寝こけているリーゼをちらりと見た。
「えへっ、えへへへ・・・もう飲めないれすよぉ~~」
まぁ寝言から想像すると、おそらくはくだらない内容だろうけどな。
そんな風に正月ネタでマッタリとした時間を過ごしていたのだが、よりにもよってリーゼが寝言でとんでもない爆弾を落としてくれた。
「えへへへ・・・薫さんはぁ~わたしとの姫初めをご所望ですかぁ~~」
「ぶっ・・・」
「姫初めっ!」
リーゼが寝言で口にした内容に、俺が飲んでいた珈琲を吹きだすのと、レガ子が大声で食いつくのがほぼ同時だった。
「レガ子殿、何なのじゃ?
その〝姫初め〟というのは?」
そして案の定、クリスの奴が興味津々で食いついてきやがった。
「あのねっ、姫初めというのは・・・・」
クリスだけでなく、他の幼い妻たちにも声をかけて〝姫初め〟の近年の俗説の方を説明し始めるレガ子。
「いや・・・本来その言葉は〝姫飯〟といってだな・・・」
俺が古来からの本当の意味を説明しようとしても、全員まったくこっちをみようともしない。
やばい・・・
この話の流れの中で、このままここにいるのは危険だ。
俺が身につけた危険予知のスキルがそう告げている。
話に夢中になっているレガ子や幼妻たちに悟られぬよう、俺はゆっくりと匍匐前進でリビングからの撤退を試みた。
が・・・俺の戦略的撤退行動は、リビングの扉まであと一歩というところで、俺の脚を掴んだ幼妻たちによって阻止されてしまった。
「なんだカオル殿、そんな素晴らしい正月行事があるのであればきちんと言ってくれればいいのじゃ」
「お兄ちゃん、わたし今年の初めてがんばるよっ」
「兄ちゃん、ボク発情期きちゃったかも・・・」
「薫さまが望むのならば、レガ子はスキルを使って人間と同じ大きさになってお相手するのっ!」
お、お前たち・・・なんか笑顔が怖いんですけど・・・。
「いや、俺・・・昼間の蕎麦打ちで疲れちゃったからもう寝たいなぁ・・・と」
俺は足に幼妻たちをまとわりつかせたまま、後ろ向きに這いずってこの場からの撤退を試みた。
が、彼女たちはそう簡単に俺を逃がしてくれそうにはなかった。
「なに、あと数日間は公務はお休みじゃ」
「休養は昼間にゆっくりと取ればいいと思うよお兄ちゃん」
「朝まで寝かせないニャっ」
「レガ子と姫初めしてくれれば、洗車は明日まで免除してあげるのっ!」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・
・・・・・・
・・・
翌日・・・
夕方近くになって、俺は別荘の外に出てレガシィの初洗車をしていた。
ボディサイドへのワックスがけのために屈むと、かなり腰が痛い・・・。
「若い子たちの体力と、性に対する好奇心が怖い・・・」
幼妻たちにエロゲを見せすぎて性知識を与えすぎてしまった事を後悔しながら、無心になってレガシィにワックスがけをしていると、村の見回りから戻ってきたらしい村長が声をかけてきた。
でもなんで見回りの帰りに、村の少女たちを引き連れているんだ?
「キサラギ卿、昨夜はお楽しみだったようですな」
「ぶっ・・・げほん、げほん・・・」
村長が耳元で囁いた言葉に、思わず咳き込んでしまった。
抗議の意味も込めて村長の方に顔を向けると、そこには村長の姿はなく、村長と一緒に歩いてきた少女たちがすぐ近くでニコニコしながら俺の事を見ていた。
少女たちは全員が10歳から13歳くらいで、どの娘もかなりの器量良しだった。
もうこれは、そういう意図で、村の娘たちと俺を引き合わせようとしているに違いない。
「村長、今は側室を娶る気はないからな・・・」
子供たちの前で村長を怒鳴りつけるわけにもいかず、ため息をつきながら手短にそう告げるのが俺には精いっぱいの抗議だった。
「おや、そうですか?
でもキサラギ卿は若い娘たちの憧れなのですから、それくらいは有名税として受け入れてください」
「なんでそうなる・・・」
ややジト目ぎみに村長をにらむ。
が、村長はそんな俺の抗議など気にもせずに笑っていた。
「なにせ平民出身の奥方様を姫さまと平等に扱っておられる、優しい貴族さまですからね。
先般の合同結婚式などは、吟遊詩人らが素晴らしい歌にしてふれまわっているくらいですから」
「勘弁してくれ・・・」
吟遊詩人の事を聞いて、ワックスを握り締めたままレガシィの脇に座り込んだ。
そんな俺を見て、周囲にいた少女たちが心配して声をかけてくれる。
うん、この娘っ子たちに悪意はないんだよね・・・。
むしろ好意を向けてくれているのは、ロリコンとしては嬉しんだよ。
でもね、今の俺にはその好意が重いのよ・・・。
「さて皆、キサラギ卿の作業の邪魔になるといけないから、一緒に集会所まで移動しようか」
そんな俺を見て、村長は村娘たちに声をかけてこの場から移動するように促してくれた。
「キサラギ卿、私はね・・・この村から一人でも多く幸せな場所に嫁いで欲しいんですよ」
そう言い残して、俺に向かって後ろ手を振りながら村娘たちと一緒に村の中心部へと歩き出した村長。
悪い人ではないだけに、どうも憎むことができないんだよなぁ。
とりあえずはこの村を豊かにして、この村の娘たちがここでの暮らしに幸せを感じられるようにしてあげよう。
そう考えることにして、休憩するためにいったんワックスがけを中断して別荘まで戻ると、別荘の窓から10個の瞳が俺のことをジーッと見つめていた。
「昨夜あんなに愛し合ったのに、もう浮気の気配がするのっ!」
あぁ・・・もしこの世界の教会におみくじがあれば、きっと今年の俺の運勢には〝女難の相〟が出ていたに違いない・・・。
とりあえず今は、部屋の中で不機嫌になっている愛おしい妻たちの機嫌を取るしかないと覚悟を決め、俺は別荘の中にある戦場へと足を進めた。
このハーレムな状況だって、元いた世界では絶対に手に入ることがない幸せの形なのだから。
レガ子「ぷはぁ~~」(煙草を吹かす真似)
薫「しくしくしくしく・・・・」
作者「お前ら何をやっているんだ・・・」
レガ子「様式美なのっ!」
作者「意味が分からねぇよっ!」
リーゼ「しくしくしく・・・」
作者「こっちは何を泣いているんだ?」
リーゼ「姫初めに除け者にされた・・・」
クリス、アリシア、ミャウ「「「あ~~~(汗)」」」
コリーゼ「はぁ・・・おねえさまは夜伽の仕事すらも満足にできないだなんて・・・」
薫「ちょっとまてっ! なんでお前が脱ぎ始めているんだ!」
コリーゼ「おねえさまの不始末は、妹の私が責任を取ろうと」
作者「これは間違いなく、薫くんには〝女難の相〟が出いるねぇ」