大晦日用番外編 ~異世界に蕎麦を伝える~
久しぶりの番外編です。
今回も連載中の作品とは時系列が完全に異なるお話となっています。
時系列の位置的には、現在展開中のお話しよりもかなり先で、少なくとも主人公がちびっ子らと結婚し、爵位を貰った後のお話になっています。
具体的には、文中でアリシアの年齢が一つ増えていますので・・・。
いずれ、この番外編の近くのお話を書いたときには、その話数の近くに配置しなおすことになると思います。
フローリアス王国をはじめ、このアトラータ大陸に存在するすべての国々が慌ただしく動いてる年の瀬の最終日、俺たちは全員でフローリアス王国王都のすぐ西側にあるトリマ村を訪れていた。
このトリマ村は王都の西側に連なっている山脈の反対側の麓にある中規模クラスの村だ。
標高が高い位置に村があるがゆえに比較的冷涼な気候で、夏場などは王都に住む中流階級の商人などが避暑地として利用することもあるらしい。
このトリマ村、第5騎士団員から竜騎兵部隊長へと昇格したハンスさんの生まれ故郷でもある。
そして俺は、以前ハンスさんからこの村のすぐ傍にある山の傾斜地にとある植物が大量に自生していることを聞いて知り、今年の秋にその植物に実った種子を収穫してもらうように村の人たちにお願いしていた。
その植物はタデ科の一年草で、草丈は60-130cmくらい。
花期には茎の先端に総状花序を出し、白、淡紅、赤といった色合いの6mmほどの花を多数つけるが、家畜小屋の臭いに似た独特の悪臭を放つため、村人たちは近づくことを敬遠しているそうだ。
ただその実が多少なりとも食用となるため、小麦が不作に陥った時の飢饉や災害、戦争に備えて備蓄用としての救荒食物として扱われており、この植物を駆除するようなことはしていないという事だった。
この植物の正体は、実はソバなのだ。
この世界では、ソバの実は非常時の食料として粥状にして食べるくらいの認識しかないそうだ。
そのため、今年の夏にソバの実の収穫を村にお願いした時には、村人らに「ついに大規模な戦争が・・・」とか、「今年は飢餓の心配が・・・」などと余計な不安を抱かせてしまったそうだ。
これについては国の政を司っている王都の文官たちから「国民に対して余計な心配の種を撒かないように」ときつく注意されてしまい、クリスと共にあちこちの部署を回って謝辞したのは今ではいい思い出だ(と思いたい)。
トリマ村には、その後すぐに「クラリス姫の婿殿が新しい調理方法を思いついたため」という伝令が走り、余計な不安が他の村へと伝播するがなかったのが幸いだった。
その時にせっかくなのでトリマ村に自分の別荘を作ってしまおうとも思い、その伝令と一緒に別荘を建てるために必要な手続きをするための文官を派遣したりもした。
別荘の建築が実際に始まってからは、古代天使族の遺跡で得たテクノロジーを模範して作った魔力で動く調理機器や空調設備などを設置するために、実際に何度か村に足を運ばせてもらったりもしている。
その時に新しい調理方法の一例として、フランスのそば粉料理として有名な〝ガレット〟のレシピを数種類伝授しておいたのだが、この世界ではソバの実を製粉するという発想が無かったようで、ソバの実の収穫後はちょっとしたガレットブームが村の中で起こったそうだ。
俺が使う分のそば粉は、村人たちが使用する分とは別にある程度の量をストックしておいてもらっていた。
そして年末のこの時期にようやくまとまった休暇を作ることができ、トリマ村までそば粉を使った料理を作るために、出来上がったばかりの別荘へとやってきたのだった。
今回の旅行には、俺の妻になったクリス、アリシア、ミャウの少女3人と、一応俺の正妻の一人であるにもかかわらずなぜか助手兼愛人という世間の評価に落ち着いてしまったリーゼ、あと俺の頼もしい相棒兼正妻のレガ子も一緒だ。
なぜ正妻が5人もいるのかって・・・。
そこは突っ込まないでいただけるとありがたい。
俺だって、いまだにどうしてこうなったのかよく分からないのだから・・・。
「お兄ちゃん、そば粉と小麦粉の分量はこれくらいでいいの?」
トリマ村に作った別荘の台所に俺と一緒に立っていたアリシアが、そば粉と小麦粉を別々に入れた木製の器を俺に見せた。
器の下には計量秤によく似た機器があり、そば粉の重さは400g、小麦粉の重さは100gを示していた。
この計量秤はもともとレガシィに積んでいた電子秤をベースに、俺のスキル能力の一つである〝アイテム複製〟を使って新たに作ったもの。
大元を少しアレンジしており、この電子秤の電源には雷の魔石が組み込まれている。
「5人分だから、その分量でいいぞ。
俺も一緒に作るから、同じ分量の材料をもう一組用意しておいてくれ」
「うん、わかったよお兄ちゃん」
アリシアが俺を呼ぶときに使う名称は、結婚後も「お兄ちゃん」のままだった。
本人曰く「急に呼び方を変えるのは恥ずかしい・・・」とのことだったので、特に呼び方を直してもらったりはしなかったのだが、ミャウも未だに俺の事を「兄ちゃん」と呼ぶため、王都の文官や武官の間では「クラリス姫の夫は、そういった性癖があるらしい」などという噂がまことしやかに囁かれているらしい。
しかも、その噂の事を知ってクリスに相談したら、「では我も兄殿と呼んだ方が嬉しいか?」などという爆弾発言をクリスの祖父母や騎士団長のマロウさんの前で言ったものだから、今ではロイド駐留の騎士団員の間に「カオル様は妹のような幼い少女にしか欲情しないらしい」というとんでもない評価が広まってしまっている。
俺がトリマ村に来たのは、そういった噂から逃げたかったというのもあるんだよなぁ・・・。
ちなみにリーゼに対して〝愛人〟という噂が立ってしまったのも、こうした〝幼女好き〟という俺への評価が一役買ってしまってのは言うまでもない。
そのことについて以前リーゼに謝ったことがあったのだが、すぐ横にいたレガ子と一緒に「そこは本当の事じゃないですか~」とニヤニヤしながら返されてしまった。
リーゼ曰く「女神としてではなく一人の女性として私の事も大切にしてくれていますので、気にしていませんよ~」という事らしい。
ただ、リーゼへの用事で時折やってくる女神の複製体のコリーゼに対して「カオル様の新しい側室候補か!?」などという噂が俺が治めている村の中で囁かれ始めているのはどうしたものやら・・・。
「お兄ちゃん、そば粉と小麦粉とお水の準備が終わったよ」
噂の現状の問題点について考えを巡らして悩んでいたら、アリシアから材料の準備ができた旨の声がかかって現実に引き戻された。
気が付けば目の前には大きめの浅い木鉢の中にそば粉と小麦粉が入れられ、しっかりと混ぜるためにアリシアがふるっているところだった。
「おっ、ありがとう。
そうしたら、この粉の中に80~90ccくらいの水を、こうして細い糸のように垂らしながら入れて、指の先を細かく動して手早く混ぜ合わせるんだ。
指を立てながらかき混ぜるのがポイントだぞ」
「うん、やってみるねっ♪」
アリシアは俺の真似をして、そば粉と小麦粉が混ざった浅い木鉢の中に水を加えて、手早く混ぜ合わせ始める。
その周囲ではトリマ村の女性陣の代表者数名が、俺たちの作業をメモして蕎麦の作り方を学んでいた。
そう、俺はこの村に年越し蕎麦の作り方を伝えるために、休暇を使ってやってきていたのだ。
「こんな風に固まりになっている粉があれば、細かくばらしておくんだぞ」
「うん、わかったよ」
アリシアは料理に対する物覚えが凄く上手い。
元の世界の一般的な調理をいくつか教えたのだが、どれもほぼ1回の説明で作り方を覚えてしまったほどだ。
今回のそば粉への水回しにしても、俺の説明とやり方を真似ただけで、完璧なくらい均一に粉を撹拌していた。
この作業、俺は手打ちそばの体験教室に何度も通ってやっと身についたんだけどなぁ・・・。
「全体が均一になったら、残りの水を入れて同様にかき混ぜるぞ。
この作業を2~3回繰り返すと、水が粉に浸透してきて粉の色が次第に変わってくるから」
おれのやり方を見ながら、またアリシアが追従してくる。
時折見せる細かな指の動かし方は、俺よりも上手なように見える。
「あと、こんな風に指についた粉は、こまめに指から剥がすこと。
そのままにしておくと、これが乾いてから混入して、蕎麦にした時に切れる原因となるから注意だ」
料理方法を学ぶために同席している女性陣も、アリシアの動きに感心しているようすだった。
ところで・・・勉強中の女性陣に混じって、どうみても料理とは無関係っぽい幼い女の子が何人か混じっているんですが、これはどういった意味があるんでしょうか?
理由如何によっては、トリマ村の村長さんに一言注意した方がいいかもしれない。
そんなことを考えながらこの場にいた幼い女の子たちの方を見ていたら、横にいたアリシアに思いっきり足を踏まれてしまった。
慌ててアリシアの方を見ると、「お兄ちゃんメッ!」となぜか不機嫌な表情で注意されてしまう。
そして周囲の大人な女性陣は「あらあらあら♪」と、微笑ましいものを見るような笑顔でこちらを見ていた。
俺はそんな生暖かい視線に耐えながら、邪念を追い払うようにひたすらそば粉と水を混ぜ続けた。
しばらく続けていると次第に粉がボロボロとした小塊になる。
この状態から水が十分にいきわたれば粉は自然にまとまってくる。
「こんな感じに塊の表面から粉っぽさが消えたら、この水回し作業は完了だ」
アリシアの方も、ほぼ俺のものと同じような状態になり、作業の手をいったん休めた。
「こんなにボロボロとした状態だけど、本当にこれでいいの?」
「ここからこの粉の塊を練りこんで、一つの玉にしていくんだよ」
そう言って俺は浅い木鉢の曲面を利用し、粉の塊を前後左右向きを変えながら良く練りこんでいく。
「最初は、そば粉をげんこつで叩いて固めるようにすると楽かな。
ある程度の塊になったら、細かくなったそば粉を包み込むように折り畳みながら、手のひらでこねるんだ」
アリシアが俺の真似をしてそば粉を練り始めるが、なにせ体格が10歳児並みしかないアリシア(本当の年齢は19歳なんだけどね)にはかなり大変な作業だ。
途中、アリシアが疲れて手が止まったところで、近くにいた大人の女性が交代して作業を引き継いだ。
「ごめんなさい、お兄ちゃん・・・。
わたしだとちょっと力が足りないから代わってもらった」
「この作業は結構重労働だから、しかたないよ。
こんな風に塊の表面につやがでるまでこねたら、折り畳んだ部分が一カ所に集まるようにしていきます」
アリシアと交代した女性に〝菊練り〟と呼ばれる練り込み方を見せながら教える。
生地を前方に押し出し、その時に生地の一部が右の手のひらの脇に逃げるので、左手をそえて左に回転させて脇に逃げた生地を右手で内側に折り込む。
その後は、生地を前方に押し出し・・・・という作業を繰り返す。
次に菊練りでできた〝へそ〟の部分を手前に絞り込むようにして両手のひらで押さえ、さらに木鉢のヘリに沿って玉を転がして、塊を円錐形に形を整えながら空気を抜いていった。
こうして出来上がった円錐形の塊を頂点を上にして木鉢の中央に置くと、円錐の先端を上から押しつぶして生地の塊を平らにして見せた。
アリシアの後を引き継いだ女性も、やや遅れて俺が練った生地と同じような状態を作り上げていた。
この世界では家事の機械化が進んでいないからね、家事全般をこなす女性たちの能力が結構高いんだよね。
「次はこの生地をこっちの〝打ち台〟と呼ばれる板の上に移して、薄く延ばしていきます」
俺はそう言うと、あらかじめ作って用意しておいた大きな打ち台の上にそば粉を打ち粉としてふりかけ、その上に先ほど作った生地を置いた。
そして最初は手のひらを使って円形状に延ばしていった。
「この時のポイントは、中央を残しながら縁をつぶさないようにして押し広げること。
中央部分の厚みは調整用として、周囲を延し終えてからつぶすとやりやすいですよ」
生地を延ばすポイントを伝えながら、黙々と作業をして手本を見せる。
「ひじをまっすぐに伸ばして、しっかりと体重をかけながら円形に延ばしてください」
俺の指示を聞いて、先ほどとは別の女性が同じように生地を延ばしはじめた。
そして生地の厚さが1cm位になったところで、いったんやめさせた。
「今度はこの〝めん棒〟を使って、この生地をさらに薄く伸ばしていきます」
そう言って女性陣らに、直径30mm、長さが1メートルくらいの円柱形の木の棒を見せた。
「最初は、生地の中心部の手前から前方に転がすように延します。
生地を回転させながら、数回ずつに分けて延しを繰り返していきます」
この時に縁をつぶさないように注意して、めん棒を手前で止めるようにするがポイントで、俺は厚さ7mm程度の円形を目指して生地を延ばしていった。
「次は〝角出し〟という作業になります。
このように生地の縦方向に打ち粉をふって、手前から生地を麺棒に巻きとっていきます。
そして、巻きとったまま手前から奥に、手のひらで生地を抑えながら転がして生地をのすと・・・巻きとった部分が延びて、このように〝角〟が出ます。
これが〝角出し〟です」
俺が手本を見せると、周囲の女性陣から「ほぅ」という感心した様子のため息が聞こえた。
この〝角出し〟を数回繰り返し、今度は麺棒を180度回転させて生地を手前から奥に広げてみせた。
そして、広げたらまた手前から生地を巻きとり、数回麺棒をころがして、先に出した角と対角線に角を出していく。
さらに今度は横方向に対しても同じような作業を繰り返して〝角出し〟を行うと、生地の4方向に角が出て、生地が正方形の形になった。
「ここまでできればあともう少しです。
次はこの生地をさらに延ばして、均一な厚みにしていきます。
この時に出来上がった生地の幅が、麺状に切った時の麺の長さになります」
俺は最終的に2mmくらいの厚みになるまで生地を延ばすと、その上に打ち粉を充分にふるって2つ折りを繰り返して生地を四つ折りにした。
ここまでくればあと一息だ。
生地を麺状に切れば、蕎麦ができあがる。
「次はこの四つ折りにした生地を切って麺に加工するわけですが、その時に使うのがこの〝麺包丁〟と〝小間板〟という二つの道具になります。
今までに紹介した専用道具は、10セットほどを持ってきて集会所に置いていますので、あとで村長さんから借り受けてください」
生地の下にも上にも打ち粉をふるい、生地の上に小間板をのせた。
「この小間板に付いている堅木に沿って包丁を入れると、このように生地が切れて〝蕎麦〟と呼ばれる麺状のモノになります。
切る幅は、生地に包丁を入れた時に、この包丁を傾けることによって小間板を横に送って調整して、一定の幅でそばを切るようにします」
説明しながら、一定のリズムで同じような幅で蕎麦を切り出していく。
それを見て周囲の女性陣が感嘆の声をあげていた。
あとは蕎麦つゆを作る必要があるのだが、実はこの世界には〝醤油〟も〝みりん〟も存在していた。
フローリアス王国では作っていないのだが、海の向こうにあるエルフの国で作っているそうで、今回は俺が個人的に輸入したものを一樽づつトリマ村に寄付した。
この村のすぐ横には山肌の洞窟を利用した氷室があるので、長期保存もしやすいだろう。
俺が蕎麦を切り出している直ぐ近くで、アリシアが蕎麦つゆを作る作業を始めていた。
使うのは醤油、みりん、砂糖で作った〝本返し〟と、〝出汁〟を作るのに使う鰹節だ。
ちなみに〝鰹節〟はラクシュ王国からの輸入品で、こちらも一箱ほど村に持ち込んでいる。
まぁ、〝醤油〟も〝みりん〟も〝鰹節〟も、どれも一度レガシィのイベントリに登録しているからね・・・少しでも見本が残っていれば一晩で完全復活するから寄付しても損はないんだよね。
アリシアは鍋に水を貼って沸騰させると、そこに鰹節を大目に投入。
あくを取りなが5分ほど煮てから火を止めると、かつお節が沈むのをまってから、ざるで濾してそばつゆ用の出汁を作っていた。
これにあらかじめ作っておいた〝本返し 〟(醤油、みりん、砂糖を煮て作った蕎麦つゆの元)を混ぜるだけで、本格的な蕎麦つゆを作ることができる。
ざる蕎麦用は、かえし1:出汁3の分量で混ぜれば、ざる蕎麦用の蕎麦つゆになる。
ちなみに温かいかけ蕎麦用のつゆは、かえし1:出汁5が目安で、後は好みに合わせて濃さを調整する感じだ。
俺とアリシアの作業が終わったのを見て、先ほどまで作り方を学んでいた女性陣が同じように蕎麦を作るべく、材料と道具が運び込まれていた村の集会所へと散っていった。
今年最後の日が終わるまでには、まだ6時間以上の時間があった。
なので先ほどアリシアが作った出汁はざる蕎麦用として調合して、冷暗所で容器を井戸水に付けて冷やしておくことにした。
かけ蕎麦用の温かい出汁は、食べる直前にでも作ればいいだろう。
その日の晩、もう間もなく今年が終わろうとしている頃に、俺たちはトリマ村に作った別荘のリビングで、リーゼから提供された炬燵に入りながら、手打ち蕎麦が入ったかけそばと、しっかりと冷えたざる蕎麦の両方を食べていた。
「やっぱりお蕎麦には日本酒が合いますよねぇ~~♪」
「そうだな」
俺はリーゼと一緒に日本酒を冷で飲みながら、ざる蕎麦を食べていた。
ちなみに日本酒の銘柄は、北海道・旭川産の純米大吟醸「国士無双 あさひかわ」だ。
俺の家族あての荷物を彼女に持って行ってもらった時に、お土産で買ってきてもらったものの一つだ。
この日本酒は、元の世界にいた頃に、仕事帰りに時折立ち寄っていた新宿の北海道料理の店でよく飲んでいた銘柄だったりもする。
「新鮮な刺身が欲しくなるなぁ」
「同感ですぅ~」
俺のつぶやきに、すでに酔っ払いモードに入ったリーゼが相槌を打っていた。
「兄ちゃん、この冷たいお蕎麦はとっても美味しいのにゃっ♪」
「そうじゃの、このようにつゆをつけながら食べるという食べ方も新鮮で面白いのじゃ」
ミャウとクリスは、冷やした蕎麦を冷やした付け汁で食べる、ざる蕎麦がかなり気に入った様子だ。
「わたしは、こっちのかけ蕎麦の方が優しい味で好きかなぁ」
「レガ子もどちらかといえば、暖かいお蕎麦の方が気に入ったのっ」
アリシアとレガ子は、かけ蕎麦派のようだ。
「できれば、天ぷら蕎麦というのを食べてみたいのっ」
しかもレガ子は具材に天ぷらを要求してきやがった。
今度港町に行ったら活きの良いイカでも買って、天ぷらでも作ってみるかな・・・。
全員が、それぞれの分のざる蕎麦とかけ蕎麦を食べ終わった頃、時計代わりに立てかけておいたタブレットPCの時計表示が午前0時になったことを示した。
同時に俺の身体や外に停車中のレガシィが淡く光りだし、リーゼが施した〝状態復元の加護〟が働いたことを感じた。
この瞬間、レガシィのイベントリ―内にある、醤油、みりん、鰹節のアイテムは、村に寄付する状態の前・・・つまり入れ物に満載にまで戻ったことだろう。
「しまったぁ~~。
加護が働く前に、このお酒の瓶をイベントリに戻しておけばよかったですぅ~」
あんたが気になるところはソコなのかっ!
このノンベェ女神めっ!
「安心しろ。
どこかの酒好き女神がダース単位で箱買いしてきたおかげで、イベントリの中では瓶ごと1ダース分が復活しているはずだよっ!」
そんな俺らのやり取りを見て、まわりにいる小さな妻たちがケタケタと笑っている。
うん、元の世界では手に入らなかった幸せが、確かに異世界にはあると実感できる。
「とりあえずは、あけましておめでとう。
みんな今年もよろしくなっ!」
「「「「「はいっ、旦那さまっ♪」」」」」
その後、このトリマ村が蕎麦の名産地としてフローリアス王国だけでなく、周辺諸国にも知れ渡るようになるのだが、それは数年先の話しなので、今の俺たちは知る由もなかった。
レガ子「最後くらいしか出番がなかったのっ!」
クリス「我もじゃ・・・」
ミャウ「ボクもなのニャ・・・」
薫「いや・・・だって、お前ら食う方専門じゃないか・・・(汗)」
アリシア「役立たずっ(にっこり)」
薫「なんか今日のアリシア、ちょっと毒が強くないか?(汗)」
リーゼ「あははははぁ・・・私、アリシアちゃんにお酒飲ませちゃったぁ~」
薫「えっ!?」
アリシア「わたし酔ってなんかいませんよっ(にっこり)」
クリス「アリシア殿が黒いのじゃ・・・(ガタブル)」
作者「お酒は二十歳になってから・・・なんだけど、ここは異世界だし、このせかいだとみんなもっと早い年齢から飲むから問題ないかな」
薫「新年早々、我が家の平穏が大問題になりそうだよっ!(汗)」