第2章 第19話(第65話) ~遺跡探索 その1・結界~
今回もギリギリの執筆になってしまいました(汗。
前回(先週)の執筆時に悪化させてしまった風邪がなかなか治らず、子供の頃の持病だった喘息の兆候までも発症してしまい、「ゲホゲホ、ゼーゼー」しながらの執筆となってしまいました。
そのため、ちょっと校正が甘くなってしまっているかもしれません。
誤変換による誤字や脱字などは、見つけ次第、随時修正させていただきます。
なお今回からはじまる遺跡調査で、アリシアちゃんの設定の補完と伏線の回収が少し始まります。
「さて・・・この結界はどうやって解けばいいんだろうか・・・」
翌朝、俺は遺跡の壁面にポッカリと開いている入り口から奥に広がる闇の空間を眺めながら悩んでいた。
というのも、この入り口は目には見えない空気の壁のようなもので蓋がされており、中に入ることができないのだ。
試しにこの見えない壁を魔獣(H&K USP)で撃ってみたりもしたのだが、火炎弾が見えない壁に当たった瞬間に火炎弾は爆発もせずに静かに消滅してしまった。
どうも魔法自体が無効化させてしまうような効果が、この見えない壁には付与されているみたいだ。
「むぅ・・・これは俺一人で考えていても埒が明かないな。
とりあえずみんなのところに戻って、リーゼにでも相談してみるか」
俺は頭を掻きながら、遺跡の入り口横で人間の腰の高さあたりで折れていた石柱の上から、そこに置いたままにしていた洗顔&歯ブラシセットを回収してレガシィの場所まで戻る事にした。
今回は遺跡内に入るためにココに居たわけではない。
寝起きの身支度のついでに、散歩がてらに遺跡の入り口まで様子を見に来ていただけだった。
「まずは朝飯の準備だな」
そろそろリーゼや子供たちも起きている頃だろう。
「遺跡の内部には入れた場合には、中で昼食を食べることになるかもしれないから、弁当的なものも作っておかないとダメかな?」
俺は身体をストレッチする動作をしながらそんな事を考え、レガシィまでの道のりを歩くのだった。
「カオル殿、伯父上から連絡があった。
もし遺跡内部に入ることができた場合は、第5騎士団と入れ替わりでミロス平原に移動中の第6騎士団をこっちに向かわせるという事じゃ」
朝食の最中に連絡用魔導器へと届いた内容をクリスが教えてくれた。
この遺跡に到着した時点で、遺跡調査をしたい旨をロイドに居るクリスの叔父・騎士団総指揮官でもあるマロウ騎士団長に連絡用魔導器で伝えてあった。
その返信が今朝に届いて、連絡用魔導器の扱いに慣れてるクリスが内容を確認してくれた。
ここからロイドまで直線距離で約200キロ強。
王国製の連絡用魔導器だと通信が届くのに片道3時間半~4時間も掛かってしまう。
連絡の伝達時間のロスを考えると、連絡用魔導器の改良は早めに考えた方がよさそうだな。
「その第6騎士団は今どのあたりまで来ているんだ?」
「おろらく難所である渓谷の中を抜けている最中じゃろうな」
あの盗賊が待ち伏せる名所(?)か・・・。
「ちなみにロイドに帰還中の第5騎士団は、その渓谷に入る手前くらいじゃろうか」
そういえばミロス平原に急いで時に、渓谷を抜けてすぐの場所に村があったな。
あそこを出発したくらいなのだろう。
「あと伯父上からの連絡に〝第5騎士団が新たに徴用した竜騎兵2騎を、慣熟訓練もかねてこっちに向かわせる〟とあったぞ」
うわぁぁ、ハンスさんとジャックさんに迷惑かけちゃったかなぁ・・・。
二人とも早くロイドに帰りたたっただろうに、俺の好奇心に巻き込んだようでかなり申し訳ない気がする。
これは意地でも遺跡の入り口を塞いでいる障壁の問題を解決しないと、二人が来た時に合わせる顔がないぞ。
「わぁぁ、また竜さんに会えるんだねっ♪」
「今度こそ乗せてもらいたいニャン」
竜騎兵がこっちに向かっていることを聞いて、アリシアとミャウが喜んでいる。
「ハンスさんたちが到着したら、温かくて美味いものでも作って労ってあげないといけないな」
「まぁ、これも騎士としての訓練じゃ。
カオル殿があまり気にすることもないと思うが、思い人の元へ帰還したい気持ちを我慢してまで駆けつけてくれる兵の働きを労うのは大事じゃな」
ハンスさんの事情を知っているクリスが、ちょっとだけ意地の悪い笑みを浮かべながらそんなことを言ったので、全員が苦笑いを浮かべるのだった。
「で、問題なのはあの入り口の見えない障壁なんだけれど・・・レガ子やリーゼは何か分からないか?
さっき障壁を魔獣で撃ってみたんだが、障壁に当たった途端に火炎弾が爆発することなく消滅してしまった」
俺は今朝方にH&K USで試したことを報告しながら、この中で魔法や魔導器に一番詳しい二人に尋ねた。
「あの障壁は、ものすご~く変な感じなのっ。
レガ子や薫さま、この子が作る防御障壁とは全く性質が異なっているのっ」
レガ子がこういう抽象的な言い方をするという事は、解析できなくて正体不明という事なんだろうな。
「魔法が無効化されてしまうのは、事象がマナへと還元されてしまうからだと思います」
膝の上に抱いた幼竜の頭を撫でながら、リーゼがそんな予測を口にした。
「リーゼはその現象に心当たりがあるのか?」
リーゼはのんびりとした動作で右手の人差し指を唇に当てながら「う~~ん」と考える動作をする。
「おそらくですが~あの障壁そのものが高密度のマナそのものなんじゃないでしょうか?」
「どういうことだ?」
「薫さんが使っている魔銃はちょっと特殊ですが、基本的に人間が作り出せる魔法のマナ強度なんて、どんなに強力でもたかが知れていますよ~。
弱い・・・というか~密度の薄いマナの魔法が、密度の濃いマナの魔法に触れたことで効果が掻き消されたのではなでしょうか~」
「するとあの見えない壁は、高密度のマナの扉みたいなものなのか?」
「う~~ん・・・壁や扉というより、おそらくですが内部全体が高密度のマナで満たされているような気がしますね~」
「もしそうだとすると、単純に入り口だけをこじ開ければ中に入れる・・・という訳にはいかなくなるな・・・」
その場合、内部の高密度マナを全部排出させないと遺跡内の調査は不可能だ。
さてどうしたものだろう・・・。
「リーゼ殿はマナの現象についてずいぶんお詳しいようじゃが、これと同じ現象を引き起こす原因に何か心当たりがあるのではないか?」
俺とリーゼの会話を静かに聞いていたクリスが、突然会話に加わってきた。
あ・・・クリスの奴、俺やリーゼの正体についてまだ納得していない部分があるみたいだから、こっちが何かを隠しながら会話していることに気が付いている感じだ。
「まぁ~~確かに純粋にマナそのものを活用していた技術には心当たりがあるんですが・・・」
リーゼがちょっと困った表情を浮かべて俺の方を見た。
そんな目で見られても、残念だが俺にはその技術そのものが分からないから、フォローのしようがないぞ。
「あれって古代王国時代に天使族が使っていた技術なんですよねぇ~~」
うわぁぁ、リーゼの奴誤魔化すことなく自分が大昔に見た技術の事をぶっちゃけやがった。
「う・・・うむ・・・そうか・・・。
そのような技術の片りんを伝える文献が残っておったのか・・・」
あれ?
クリスの奴、リーゼが資料か何かで知った知識だと勝手に勘違いしてくれぞ。
でもまぁ・・・そうだよなぁ・・・。
ふつうは、この目の前にいる酒好きのポンコツさんが、何億年も生きている神様だなんて考えないよなぁ・・・。
「で、リーゼ殿はその技術に関してどれくらい知っているのじゃ?」
「大昔に天使族が使っていた技術に、物体の時を停止させて保存させるものがあったのですが~」
「その技術の事なら、伝承レベルで伝え聞いたことがある。
もっとも今では再現することもかなわぬ、幻の魔法技術なのだがな」
「あれって、時を停めたい物体を高密度のマナで包んでパッキングしちゃっているだけなんですよね~」
大昔からの言い伝えから得た知識を基準に話をしているクリスに対して、自分がその技術を見てきたかのように(まぁ実際に見ているのだろうが)話すリーゼ。
この二人の会話を横で聞いていると、いつ会話が破綻するんじゃないかとヒヤヒヤものだ。
「つまりあの遺跡の中は、大昔の状態のまま保存されている可能性が高いわけじゃな?」
「たぶん・・・天変地異が起きるその前か~、天使族が姿を消す直前の状態のまま保存されているんじゃないでしょうか~」
「なんとっ!」
リーゼの予測に、クリスが身を乗り出して食いついた。
「か、カオル殿っ!
これは王国始まって以来の大発見じゃぞっ!」
すっかり興奮してしまったクリスが、アウトドアテーブルの椅子から立ち上がり大騒ぎしている。
まぁ目先の興味を誤魔化せたみたいだから、これはこれで良しとしておこう。
「とはいったものの、あのマナを何とかしないと、その〝大発見〟とやらも絵に描いた餅なんだけれどね・・・」
しかも中に入れたら入れたで、オーパーツの宝庫で面倒なことになりそうな予感すらしてきたよ。
「お兄ちゃん、絵に描いた餅って何?」
アリシアが俺がつぶやいた元の世界の諺に反応して訊ねてきた。
「〝餅〟っていうのは、俺の故郷の食べ物なんだ。
で、〝絵に描いた餅〟っていうのは、〝どんなに上手に描かれていても、絵に描かれた餅は見るだけで食べられない〟って意味で、実現する見込みのない事を表現する時に使う言葉なんだ」
「兄ちゃん、その〝餅〟っておいしいのかニャ?!」
「基本的には保存食なんだけどね、網の上で焼いたりすると、柔らかくなって、大きく膨れるんだよ。
その状態の餅を調味料に付けて食べたり、汁物の中に入れて食べたりするんだけど、かなり美味しいぞ」
「兄ちゃん・・・」
「お兄ちゃん・・・」
ミャウとアリシアが希望に満ちた目でこちらを見ていた。
「ざ、残念だけれど、さすがに餅は持ってきてないよ(汗」
「残念だニャん・・・」
「がっかりです・・・」
食べる手段がないことを知って、二人のテンションがガタ落ちしてしまった。
ミャウはわかるが、アリシアってそういうキャラだったっけ?
なんか皆が互いに影響し合って、良くも悪くも少しずつ性格が変わってきてるような気がするぞ。
ちなみに餅は、家を出る時にキャンプで使うかどうかで迷った挙句、家に置いてきちゃったんだよなぁ・・・。
こんなことにならレガシィに1キロパックを一袋くらい積んでおけばよかったよ。
「で・・・だ、リーゼはその保管魔法とやらの解除方法に心当たりはないか?」
リーゼが余計なことを言ってボロが出るのが怖いが、それでは話が進まないので思い切って尋ねてみることにした。
「そうですねぇ~~、天使族の遺跡であるのであればぁ~~」
リーゼは考えながら少しだけアリシアの方を見る。
「まずは全員で入り口まで行って考えてみてはどうでしょうか~」
そして満面の笑みを浮かべてその場所まで移動することを提案してきた。
「子供たちを危険そうな場所に連れて行くのは気が進まないのだが・・・」
そう呟いて子供たちの方を見る。
「我は行くぞ!」
「クリスちゃんが行くならアリシアも行くの」
「留守番は嫌だニャ」
はぁ・・・これは言って無駄な時のパターンだ。
「はぁ、わかった。みんなで移動しよう。
ただし、危ない状況が発生た場合は、すぐにクルマまで避難すること。
これだけは絶対に守れよ」
「「「はーいっ!」」」
万が一の時にすぐに逃げ出せるよう、外に出していたものを全てクルマの中に収納してから、俺たちは遺跡の入り口前までやってきていた。
見えない障壁については、今朝の段階で触ったりしても危険が無いことは確認しているので、子供たちが障壁をペタペタ触って楽しんでいるのも黙認することにしていた。
ミャウなんかは、障壁に向かって飛び蹴りなんかも入れていたりもする。
そろそろ注意した方がいいか?
そういえばアリシアがいつも以上に静かになってしまったような気がする。
時折背中をむず痒そうにしている素振りをみせているが、服の中に虫でも入ったかな?
「アリシアどうした?
服の背中に虫か落ち葉でも入ったか?」
アリシアに近寄り、腰を落として目線を合わせながらそう尋ねた。
「薫さまっ。そんなことを言いながら、アリシアちゃんの服の中に手を入れようとするのは事案なのっ!」
「ちげーよっ!」
とんでもないレガ子の誤解に、速攻で訂正を入れる。
「あのね・・・お兄ちゃん。
ここに近づいたら背中にある嫌いな部分が熱くて、ずっと変な感じなの・・・」
うん?
アリシアの背中にある嫌いな部分って、先祖返りの証の突起の事か?
「やっぱりね~」
アリシアの様子を確認して、リーゼが一人で納得している。
「どういうことだ?
もしアリシアに不調が起きることが分かったうえで連れてきたのであれば、たとえリーゼでも俺は少し怒るぞ」
「それは体調不良とかじゃないと思うから大丈夫よ~。
幼い女の子が絡むと冷静さを失うのは、薫さんの悪い癖だとおもいますよ~」
「薫さまは魂の奥までロリコンなのでしかたがないのっ」
「ぐっ・・・」
レガ子の悪意の無い(?)ツッコミに一気に毒気が抜かれてしまう。
リーゼはそんな俺の様子を見て苦笑いをしながら、さらに言葉を続けた。
「この遺跡が天使族のものであるならば、この遺跡の仕組みを解除できるのも天使族だけだとおもうの」
「そうか、そういう事か!」
リーゼの言葉を聞いてクリスが納得したように声を上げた。
「なにがどう分かったんだ?」
「アリシア殿はエンシェント・エルフへの先祖返り個体じゃ。
そしてエンシェント・エルフは天使族が大変動の時に生まれ変わった種族の末裔じゃ。
つまりアリシア殿とこの遺跡とが、何らかの理由で反応し合っておるのじゃな?」
クリスは自分が導き出した推測をリーゼに投げかけた。
「たぶんね~。
正直なところ私も、純粋な天使族ではないアリシアちゃんでも反応するかどうかは、ちょっと自信なかったのよね~」
「アリシアになら、この遺跡の結界・・・保管魔法の術が解けるというのか?」
おれは目の前にいるアリシアの青緑の瞳を見た。
その瞳は、突然知ることとなった自分と天使族のつながりの深さに少し怯えているようだった。
「でもお兄ちゃん、わたしあの透明な壁に触ったけど、何も起きなかったよ?」
おれは改めてリーゼの方を見る。
「多分だけど~この入り口近くのどこかに解除のための仕掛けがあるんじゃないかしら?」
リーゼの推測を聞いて、クリスとミャウが一斉に周囲を探索し始める。
ミャウに至っては、なんか鼻を使って周囲にあるモノの臭いまで嗅ぎまわっているぞ。
さすがに数千年前の痕跡を臭いで探すのは無理だろ・・・。
「年月を考えると、仕掛けそのものが地面の下に埋もれている可能性も考えないといけないかな?」
そんなことを思いながらコンバットブーツのつま先で地面に土を掘ると、すぐにこの遺跡の一部と思われる石畳が見えた。
レガシィに戻れば折り畳み式の非常用スコップが積んであるが、さほど深さがあるわけではないので、入り口付近の1メートル四方の表土だけをブーツの底でで削るようにしてどかして石畳を出してみる。
ある程度土をどかしたら、ポケットから軍手を取り出して装着し、石畳の表面をこすって汚れを落としていく。
ある程度表面の掃除が終わったので軍手をはずして元に戻し石畳の表面をじっくりと観察してみる。
しかしながら、石畳の表面には仕掛けと思われるような模様などは描かれていないようだった。
「まぁ、ものは試しだ・・・アリシア、この石畳の上に立ってみてくれないか?」
「こう?」
石畳の横でしゃがみ込んている俺の前で、アリシアが恐る恐るといった感じで石畳の上に足を運んでその上に立つが、遺跡には全く変化が見られない。
「あ~ハズレかぁ。
ちなみにアリシア自身は気分が悪くなったり、変化はないか?」
「うん、平気だよ。お兄ちゃん」
「とりあえずアリシアの身に問題が起きていないのなら、まぁ良しとするか・・・うぉっ!」
足元を見ずに「次はどこを調べようか」などと考え事をしながら立ち上がったのがいけなかったのか、足を置いた場所にあったコケを踏んで滑ってしまい、踏みとどまることができずにアリシアの方へと倒れ込んでしまった。
「きゃっ!」
おれの身体がぶつかったことでよろけたアリシアが、自分の身体を支えるために入り口の左横にあった腰くらいの高さで折れたままの石柱の上に手を置いた。
その瞬間、石柱の表面が大きく輝きく輝きはじめた。
リーゼ「薫さん、最後に(幼女に向かって)こけましたね・・・」
レガ子「しかも、その女の子を押し倒すように倒れたのっ」
リーゼ&レガ子「「コレはラッキースケベ発生の予感(なのっ)!」」
薫「ぇ?」
作者「にやにやにや」
アリシア「わたし・・・次回はどうなっちゃうの?(滝汗)」