第2章 第17話(第63話) ~古代遺跡へ~
そういえば、この『そして今日も俺らは地平を目指す! ~レガ子と旅する異世界ドライブ~』を書き始めたのが昨年の11月4日だったので、もう少しで執筆開始から1周年になるんですね。
途中、仕事の関係で更新が長期にわたって滞ってしまった事があったので、なんか1年近くも書き続けている実感がまったくありません(汗。
自分が思い描いているこのお話のプロットだと、まだ全体の20%も物語が進んでいない感じですので、このペースだと物語を終えるのがいつになる事やら・・・。
今後も、応援をよろしくお願いいたします。
翌日、俺たちは朝早くに村を出発し、川の上流付近にあるという古代遺跡を目指してレガシィを走らせていた。
きっかけは・・・昨晩の宴会で村人から聞いた「近くのを流れる川の上流には古代魔法王国時代の遺跡がある」という情報だった。
そしてその遺跡の奥には、今も魔法障壁で守られて入ることができない謎の区画があるというのだ。
その話しを聞いた時に思い浮かんだのが、俺がこの世界に連れてこられた原因でもある、古代魔法王国時代にリーゼが置き忘れた魔導装置の一部か、それに関連する何かがそこにあるのではないか?・・・という疑問みたいなものだった。
リーゼも数千年間に亘って機能し続けているその魔法障壁の動力源が気になるらしく、彼女からもその遺跡を調査してみたいという提案があった。
「実際のところ、リーゼは遺跡の魔法障壁について思い当たるモノはないのか?」
道のない荒れ地を進んでいるため、路面状況を見ながら慎重にハンドルを操作しながら、そう尋ねてみた。
「永久機関の元になっている魔力供給減については、ちょっとだけ気になっているモノはあるのですが・・・すみません、まだ確信が持てないです」
後部座席に俺やリーゼの本当の正体を知らない子供たちが乗っているため、どうしても会話の表現が曖昧になってしまう。
もしこの先も子供たちと一緒に旅を続けるのであれば、この問題は早めに解決しておいた方がいいだろうな。
まぁ・・・まずはミャウを獣人族の村まで送って行ってからの話しだな・・・。
「薫さま、そこの大きな岩の手前を右側から回り込むようにして進んでほしいの。
大まかな走行ラインは、薫さまの視界に今から転送するのっ」
ほとんど人が通った事が無い荒野を走行しているため、レガシィが走行できそうな地形の場所を先行して飛んでいるドローンが地形スキャンで調査している。
そしてその情報が順次レガ子へと送られ、レガ子が走行可能と判断したルートが俺の視界の中にAR表示で転送されてきていた。
「やはり一直線には行けないもんだな・・・」
「それでも、もう半分くらいは走っているのっ」
昨晩泊まった村から目的地の遺跡までは、ドローンによる計測では直線距離で83キロほどの距離だったが、大回りをして向かっているレガシィの走行距離計は、すでに村から62キロほど走っていることを示していた。
すでにメーター内の時計のデジタル表示は10時半近くになっていた。
3時間近く走ってやっと半分か・・・。
「少し遅くなるけれど、昼飯は遺跡についてからでいいか?」
後部座席で揺れに耐えている子供たちに声をかけると、全員が激しく首を縦に振っていた。
昨日、食後すぐに荒れ地をかっ飛ばした時の寄れで車酔いして、昼飯を吐き出してしまったトラウマを思い出しているようだった。
とりあえず簡単なお菓子類と果汁系のジュースだけは子供たちに渡してあるので、しばらくはそれで我慢してもらおう。
ちなみに遺跡調査を終えた後は、出発地点の二つ先の村を直接目指すことにしている。
そのため出発地の隣村への討伐終了の連絡は、村人にお願いすることにした。
移動中の安全確保もあり5人ほどのパーティで隣村に行くと聞いたので、往復の経費として一人あたり金貨1枚と考えて金貨5枚を渡したのだが、それが原因で代わりに行きたがる男衆が殺到し少々揉めていた様だったが、その後は大丈夫だったのだろうか?
「しかしアレだな・・・
我もあまり人のことは言えんが、カオル殿も相当世間知らずのようじゃな」
どうやら俺と同じに出発時に村で起きた騒動(?)の事を思い出していたらしいクリスが、呆れた感じで話しかけてきた・
「あはははは・・・
世の中(というかこの世界)の金銭相場がどうにもわからなくてね・・・」
「お兄ちゃんにはしっかりしたお嫁さんが必要だと痛感したの(ぽっ)」
「アリシア殿ならば、我やカオル殿の世間からズレた感覚をきちんと指摘してくれそうじゃな」
「うん・・・がんばる」
「ミャウは? ミャウは?」
「ミャウ殿は、狩や自然探索に必要な知識をいっぱい持っているようじゃからな。
カオル殿の旅の良きアドバイザーになるんじゃないかのう」
「うん・・・みんな一緒にお兄ちゃんのお嫁さん・・・」
あれ?
なんか後ろでとんでもない取り決めが進んでいるような気が・・・(汗)。
もしかして俺、獣人族の村にミャウを届けに行ったら、親御さんに別の意味であいさつしないとダメなのか?
「焦りながらも、顔がニヤけていますよ(ニヤニヤ)」
「薫さまはロリコンだから仕方ないの(ニヤニヤ)」
隣に座っているリーゼとレガ子がロイドの時と同じようなノリで俺をからかいはじめる。
はぁ・・・・
「なぁお前ら・・・〝学習能力〟って言葉を知らないのか?」
右手でハンドルを握りながら、左手で胸ポケットからスマホを取り出して軽く二人の頭を叩く。
二人は、一瞬「ひっ!」を悲鳴を上げて首を引っ込めようとしたが、俺が本気で無いことを知ると叩かれた頭を撫でながら「でへへへ」と苦笑いしていた。
「頼むから、目的地までの道案内はしっかり頼むぞ」
「了解なのっ」
荒れた草原を時速30キロ前後でゆっくりと進むレガシィのハンドルを握りながら、俺はまだ誰も走ったことのない大自然の中をクルマで走り抜ける楽しさを味わっていた。
こんなのんびりとした異世界ドライブがこの先も続くことを祈りながら。
時計の表示が午後1時を少し過ぎた頃、俺たちは遺跡から500メートルほど離れた雑木林の中にレガシィを停めて、遺跡の様子を双眼鏡で眺めていた。
というのも遺跡がとある魔物の巣みたいになっていたことがドローンからの索敵結果で判明し、対処方法の検討と昼の休憩を取るためにこの場所に姿を隠すことにしたのだ。
ちなみにレガシィを中心に半径50メートルくらいの範囲には防御障壁によるドーム状の結界が張られており、俺たちの気配や匂いが魔物らに探知されるのを防いでくれている。
「動きは遅いですけれど、ちょ~っと数が多いですよねぇ~」
双眼鏡から目を離したリーゼが遺跡の様子を報告してくる。
「あれはガレドラゴンだニャ」
遺跡には、成人男性ほどの全長をもった、四つ足で歩行する大型のトカゲがウヨウヨといたのだ。
その姿は、元の世界に生息していたコモドオオトカゲによく似ている。
「あやつは口から火を吐くので、騎士団でも対処に苦慮しているのじゃ」
しかもこっち世界のコモドオオトカゲさんは、魔物なので火炎放射ができるらしい・・・(汗)。
「しかも、アレに噛まれると毒が回って助からないのニャ」
やっぱりこっちの世界でも毒があるのね。
ちなみに元の世界のコモドオオトカゲは、口の中にある腐敗菌が原因となって噛みつかれた獲物が敗血症などを発症して死ぬと長年考えられていた。
しかしそれは誤りで、実際には歯の間に複数の毒管を有しいて、噛みついた時にこの毒管から流し込まれる毒が獲物の血液の凝固を阻害し、失血によるショック状態を引き起こすことが近年の研究で解明されている。
どうやらあのガレドラゴンとやらも、おそらく同じような歯の構図をしているのではないだろうか。
「とりあえずトカゲの化け物の対処法は、昼飯を食ってからだな。
アリシア、これをその大皿に盛り付けてくれないか?」
「うん、お兄ちゃん」
カセットコンロの上に乗せた鍋の中で、イイ感じに茹で上がったソーセージやチョリソーのボイルをザルに上げ、そのままアリシアへと手渡す。
うちのパーティの女性陣は、アリシア以外は料理の時に役に立たないのが難点なんだよなぁ・・・。
リーゼは料理オンチで戦力外・・・。
クリスはお姫様なので、家事は基本的に屋敷にいるメイドさんたちがしてくれるために、料理をした経験自体がない。
ミャウは・・・手伝いではそれなりい役に立ってくれるんだけど、料理のセンスというか発想が野生的でワイルドすぎるんだよなぁ・・・。
そんなことを考えながら、俺の手はソーセージの付け合わせにするザワークラウトを作っていた。
ザワークラウトはソーセージの本場であるドイツでは一般的な付け合わせ料理で、言うなればキャベツの漬物みたいなものだ。
本来であれば数日かけて乳酸菌などによる発酵で酸味を出すのだが、野営の昼飯にそんな手間暇はかけられないので、ワインビネガーを使って軽い酸味を加えることで代用している。
作り方はいたって簡単。
千切りにしたキャベツをフライパンに入れ、塩と水を入れて弱火で蒸し煮にする。
キャベツがしんなりしてきた頃合にワインビネガーと香辛料のキャラウェイシードを加え、水気を飛ばしていけば完成だ。
実は昨日泊まった村の敷地にハーブの一種であるキャラウェイが自生しているのを見つけ、村人の許可を得てその種子(果実)であるキャラウェイシードを分けてもらっていた。
なので、キャラウェイシードといえばザワークラウト。
ザワークラウトといえばソーセージということで、今日の昼飯のメニューがこのような状況になっていたりもする。
テーブルには粒マスタードとケチャップ、そしてホットドッグロールと呼ばれるロールパンをすでに出してある。
もちろんロールパンにはソーセージを挟むための切れ目も入れてある。
このロールパン・・・本当は元の世界のキャンプでの余興でホットドッグ早食い大会とかをやるつもりで、業務用のホットドック用ソーセージの箱と一緒に積んでいたんだよね。
まさかこんなにも早食いとは縁遠い使われ方になるとはな・・・。
ゆっくりと食事をとり、十分な休息時間も得た午後2時半頃、俺とリーゼは思い思いの場所に寝転んで狙撃の体勢を取っていた。
ガレドラゴンと呼ばれているこの世界のコモドオオトカゲもどきは、歯にある毒だけでなく炎までも吐き出すため、近接戦闘では多数に囲まれてしまうと対処に苦慮してしまう危険な存在だという事だった。
となれば遠隔攻撃で殲滅するのが一番なのだが、レガシィに装備されたミサイルなどの武装では遺跡にも相当なダメージを与えてしまう可能性があったので却下した。
(レガ子は残念がっていたが・・・)
そのため、昨日レガ子が作ってくれたこの狙撃銃型の魔銃で、ガレドラゴンをプチプチと駆除していくとになったわけだ。
「薫さ~~ん。
私の方は準備オッケーですよぉ~~」
レガシィが作り出している防御障壁内で、レガシィから見て右側の方にあった岩の上に陣取ってR93 LRS1を構えたリーゼが声をかけてきた。
彼女の横には、エメラルドドラゴンの幼竜であるテェアが、親代わりのリーゼを真似て寝そべっている。
ちなみに俺は左側の方にあった大きな岩の上に寝そべって、R93 Tactical2の射撃姿勢を整えているところだ。
「俺の方も準備完了だ。
じゃぁ、予定通り遺跡の左右から見えているガレドラゴンを狩っていくぞ」
「それぞれが撃った場所の近辺にいるトカゲ野郎の情報は、レガ子がスポッター代わりに伝達していくのっ」
遺跡に巣食っているガレドラゴンは、ドローンの索敵によると87体もいるらしい。
ここはレガ子の誘導で効率よく倒していきたいところだ。
「倒した後の魔石取り出しは、ミャウに任せるのニャ♪」
ガレドラゴンは腹側の喉のあたりに炎の魔力石を持っているそうで、魔石に蓄えられている魔力量も大きい為、けっこう高値で取引されるらしい。
また、これほどの大型トカゲ種となるとその革も貴重らしく、きれいに皮を剥いで素材として売ればいい値段になるそうだ。
ミャウは革剥ぎもやりたがっていたのだが、嬉々としながら血まみれになって皮を剥ぐ幼女の姿は見たくなかったので、やんわりと説得して魔力石の取り出しだけにしてもらった。
もっとも、ミャウは納得していなかったようなのだが・・・。
なのでガレドラゴンの死体は、そのままの状態で早急にイベントリ入れて、未解体のまま商人に売るか、どこかの村で手数料を払って解体してもらうことにしようと考えている。
「薫さまにはリーゼさま以上の戦果を期待したいのっ」
「俺にアレの狙撃センスを抜けと?(汗)」
「だってリーゼさまが倒した分は、経験値にカウントされないのっ」
「あぁ・・・確かにそうでしたね・・・」
とはいったものの、あの凄腕スナイパーの女神様に勝てる気が全くしないのだが。
スポッター役のレガ子の誘導により、次々とガレドラゴンを撃ち殺していく俺とリーゼ。
今のところ倒した数は互いに26匹ずつで、その戦果は互角だった。
「はぁ・・・本当はリーゼにはこの旅で殺す経験ではなくて、生き物を大切にする経験をしてほしかったんだがなぁ・・・」
どうしてこんなことになったんだか・・・。
『薫さま、そんなことを考えていたの?
レガ子のような付喪神・・・肉体を持たずに寿命が長い精霊種や神族は、人間とは命の価値観がかなり違うから、無理に人間の価値観を押し付けても無駄なのっ』
俺の独り言にレガ子が念話で話しかけてきた。
『そうはいってもなぁ・・・』
俺も念話でレガ子に返事をかえす。
『リーゼさまならきっと大丈夫なのっ。
薫さまやテェアちゃんたちが居るこの世界、それに薫さまの元の世界だって、リーゼさまはたぶん好きなんじゃないかと思うの。
思い入れがある世界を、リーゼさまはそう簡単に切り捨てたりはしないはずなのっ』
『俺としては、できる事なら他の大勢の世界も大切にしてもらいたいんだが・・・』
レガ子に言葉をかえしながら、スコープに捉えたガレドラゴンに向けてトリガーを引き続ける。
『それはリーゼさまのお役目の性質上、全部の次元世界を守ることは難しいと思うのっ』
リーゼの役目・・・つまりは様々な次元世界が葉っぱとして実っている世界樹の維持と管理の事だよなぁ。
より多くの次元世界を生かすために、弱った枝葉を切り捨てなければならないのは理屈では分かるんだけれど、やっぱ感情的には納得できないんだよな。
『とりあえずは、リーゼさまに〝反省〟の二文字を覚えてもらえれば、今後はリーゼさまのうっかりミスで次元世界が消えるような悲劇は少なくなると思うのっ』
『それは・・・リーゼに禁酒をさせるのと同じくらい難しいそうなんだが・・・』
そう言ってため息をつくと、やや離れた場所ではしゃぎトリガーを引き続けるリーゼの横顔を眺めるのだった。
「薫さまとリーゼさま、次の1匹で最後なのっ!」
レガ子との念話に気を取られていたら、いつの間にかリーチがかかっていた。
しかも戦績は、40匹対46匹で俺が負けていた(汗)。
慌てて最後のガレドラゴンを探してスコープに捉えようとした瞬間、リーゼの撃った魔法弾がそのガレドラゴンを撃ち倒した。
「ぶい~っ!」
声の方を見れば、リーゼがテェアを抱えながら大げさな動作でVサインを作った手を振っていた。
「あのお気楽女神様に〝反省〟という習慣を覚えさせるのが、この旅の一番の難関なんじゃないだろうか・・・」
そんなことを思いながら射撃姿勢を解いて岩から降りると、そこには満面の笑みを浮かべたミャウが、汚れてもいい作業着に着替えて、かわいらしい幼女の外見には似つかわしくない大型のナイフを持って立っていた。
「この後はボクの解体の腕の見せどこニャっ♪」
そういえばここにも一人いたな・・・。
育った環境の違いによる価値観の違いを見事に体現している娘っ子が・・・。
元の世界の6歳児の常識と比べると眩暈を起こしそうなほどに逞しすぎる異世界幼女に、俺は大きなため息をつくしかなかった。
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今回の獲得ポイント(レガシィの経験値基準)
●移動走行距離ポイント:132ポイント
●撃破ポイント
〇ガレドラゴン:1920ポイント(48ポイント×40匹)
●消費ポイント
〇ドローン生成:-2ポイント(-1ポイント×2機)
現時点での総ポイント数:1万3437ポイント
(1万3700ポイント到達でレベル14へ昇格)
※レガ子の獲得ポイント:レガシィの経験値基準から-86ポイント
(武器クリエイトによる消費分など)
※主人公の獲得ポイント:レガシィの経験値基準から-60ポイント
(装備クリエイトによる消費分など)
レガ子「また寄り道が始まったのっ」
作者「この遺跡でいくつか伏線を作っておきたい事案があってね・・・(遠い目)」
レガ子「しかも、前回作った新しい魔銃をもう使っているのっ!」
薫「前々回の前書きで『今のところ使う予定はないんですけれどね・・・』とか言っていたのにな」
作者「(汗)・・・本当はこの遺跡の話しは、地図の右下付近にある別の遺跡で使う予定だったんだよね」
クリス「それがなぜ前倒しになったのじゃ?」
作者「単なる思い付きと勢いです・・・すみません」
ミャウ「兄ちゃん、兄ちゃん♪
ガレドラゴンの革がきれいに剥げたニャ♪」
アリシア「わぁ、ミャウちゃん解体上手だね♪」
クリス「これはかなり上等なリザード革なのじゃ」
薫「ナイフ片手に血まみれになった幼女を見ても、驚かずに褒める感想が出てくる異世界の少女たちが怖い・・・」
レガ子「次回のお話は『解体幼女ミャウちゃん』の巻きなのっ♪
おたのしみに~~~なのっ」