第2章 第12話(第58話) ~エメラルドドラゴン~
今回のお話で、初期のプロットに登場していた旅の仲間が全員そろいます。
まぁ、初期プロットに書かれていたのは、まったく別の生き物でしたし、一緒に旅をする子供もエルフの女の子一人だけだったんですけれどね・・・・(汗笑。
ちなみにゴブリンらの死体片付けも今回のお話で終わります。
なので、次回からはまたレガシィでのドライブが再スタートするはず・・・。
帝国の竜騎兵から取り上げた魔導器や武器の分析を続けていると、帝国兵の荷物を調べていた騎士が50センチ四方ほどもある大きな箱を持ってきた。
ちなみに騎士の傍らには子供たちも一緒についてきていた。
「カオル殿、コレは竜騎兵に積まれていた荷物なのだが、箱を開ける方法が分からんのじゃ」
キャンピングテーブルに置かれたその箱は、各面の表面に美しい装飾が施されており、蓋や扉を見分けるための継ぎ目が全く見えない。
唯一、下側になる面にはすべり止めのゴム脚のようなものが付いていて、この面を下にすることだけが分かるのみだった。
「これは、魔力反応型の金属で覆われているみたいですねぇ」
箱をペタペタと触って調べていたリーゼがそんな感想を口にした。
「ある種の魔力に反応して箱が開く仕組みなっているのだと思いますよ」
「つまり〝鍵〟となる魔力がないと、この箱は開かないというのじゃな?」
リーゼの説明を聞き、俺の方を見るクリス。
その瞳は「なんとかできんか?」と俺に問いかけていた。
「はぁ・・・コレの解析って、イベントリでできるのか?」
頭をかきながら問題の箱に手を伸ばすと、横から伸びてきたリーゼの手がそれを止めた。
「薫さん、待ってください。この箱の中から微かにですが生命力を感じます。生き物が入っていた場合、イベントリには入れられませんよ」
「「「「えっ?」」」」
リーゼが発した〝この中に生き物がいる〟という、思いもよらなかった展開に全員が驚きの声を上げた。
空気穴も無いようなこんな箱の中に閉じ込められたら、普通の生き物なら窒息死してしまうのではないか?
それとも、こんな箱に閉じ込めないといけないような、凶暴な生き物でも入っているのだろうか?
「リーゼ殿、中にいる生き物が何なのかわからないだろうか?」
「う~~ん、生命力の反応があまりにも小さくて、これでは・・・」
「レガ子殿はどうじゃ?」
クリスの問いかけに、レガシィの中からレガ子が飛びだしてきて、かなり怪訝な表情を見せた。
「生命反応が小さすぎて、固体特定どころか種族特定すらできないの。
もしかしたら中にいる子、おっ死に掛けているんじゃないかなのっ」
レガ子の物騒な憶測に、全員が箱を注視した。
「お、おにいちゃん、箱を開けて助けてあげて」
「にゃにゃにゃにゃ・・・はやく開けにゃいとまずいのにゃ」
「か、カオル殿・・・どうすれば・・・」
ちびっ子ら全員が俺の方をみて懇願するが、こればかりは俺にもどうしたらよいものやら・・・。
とりあえずリーゼに視線で「何とかできないか?」と問いかけてみる。
「とりあえず、箱の外から回復魔法を注ぎ込んでみましょう」
箱に両手をかざして、回復魔法を発動させるリーゼ。
彼女の手のひらが発光し、箱に向かって回復魔法をかけている姿は、事情を知らなければかなりシュールな状況ではないだろうか。
「う~~ん、箱そのものが外からの魔力をかなり遮断していて、あまり中までは届いていないようですね。
なので、わたし少しばかり本気を出しちゃいますっ」
リーゼの手のひらが更に強く発光。
そんな女神様の本気モードに対抗しようというのか、箱の表面までも発光し始めた。
え?
箱が発光している?
これ・・・やばくないのか?
「リーゼっ、ストップっ! とりあえずいったん中止だぁ!!」
俺の叫び声でリーゼの魔法は止ったものの、箱の発光現象はまるで治まる気配が無い。
俺は子供たちを自分の身体の後ろに隠し、少しずつ後退して箱からの距離を取った。
すると箱の辺の部分に光の線が走り、箱が展開図のように突然開いた。
が、箱の内部は依然眩しいくらいに発光しており、中に何が入っているのかはまだ確認できないでいた。
やがて箱内部の発光現象が治まり、そこにあったのは・・・
「おっきなタマゴです・・・」
俺の身体の脇から箱を見つめていたアリシアがそんなことを言った。
そう・・・たしかにそこにあったのは高さ40センチほどの、うぐいす色をした大きな卵だった。
ひょいっとタマゴに近づいたミャウが、クンクンと鼻を鳴らしながらタマゴの匂いを嗅ぐ。
「このタマゴはもしかしたら・・・」
クリスはソレに思い当たる節があるのか、何かを言おうとして躊躇していた。
「あんちゃん、このタマゴで卵焼き作ったら、こ~~んなに大きいのができるかにゃっ」
匂いを嗅ぐのをやめたミャウが卵の前で両手を広げた。
〝ガタン〟
その瞬間、まるでミャウの言葉に反応したかのように卵が大きく揺れた。
まさか・・・食われると思って動いた・・・わけじゃないよなぁ・・・。
ミャウも同じことを感じたのか、一瞬「にゃっ♪」といたずらを思いついた子供のような表情を浮かべて卵に顔を近づける。
そして・・・
「目玉焼きだったら、何個できるかにゃぁ~~」
と、卵に向かって話しかけた。
いやいやいや・・・
卵が大きかろうが、小さかろうが、作れる目玉焼きは卵の数と同じだからな。
〝ガタガタガタン〟
今度は卵が激しく揺れると、「ピーピー」という鳴き声とともに、卵の殻が内側からものすごい勢いで割られていった。
そして卵の殻から体長20センチほどの、小さな竜が飛び出してきた。
幼い竜の身体は、卵と同じうぐいす色をしており、背中には竜の特徴でもある羽根が、まだ小さいながらも生えていた。
ちなみにこの幼竜、目に涙を浮かべている。
もしかしたらミャウの言葉を聞いて、喰われると勘違いして慌てて飛び出してきたのではないだろうか?
やがて幼竜は鼻をクンクンと鳴らして周囲の匂いをかぐと、なぜかリーゼの胸の中に一目散に飛び込んでいった。
クッション性のないリーゼの胸だけに、勢いよく飛び込んだ幼竜も、飛び込まれたリーゼも、双方が衝突によるダメージを負っていたのは悲しい事故といえるだろう。
「エアバッグの偉大さを垣間見たのっ」
コラっ、レガ子は余計なことをいうんじゃないっ。
リーゼがまたいぢけて落ち込むじゃないかっ!
「これは、おそらくじゃが古竜の一種・・・エメラルドドラゴンの幼体じゃな」
リーゼの胸に頭を押し付けてスリスリしている幼竜を観察していたクリスがその正体を推測して、そう教えてくれた。
「でも、あんなにもリーゼに懐いているのはなぜなんだ?」
「文献によると、古竜の卵は親竜の魔力を受けて孵化すると言われているのじゃ。おそらくリーゼ殿が先ほど放った魔力によって孵化したのじゃろう。そのため注がれた魔力と同じ波長を持つリーゼ殿を親と勘違いしておるではないか?」
「えぇぇ! わたしペットなんて一度も飼ったことがないから、懐かれても困りますよぉ」
腕の中に幼竜を抱きながら、リーゼが俺に視線を向けてきた。
その顔には〝ヘルプ・ミー〟と大きく書かれているのではないかと思うくらい、うろたえた表情が張り付いていた。
「だいたい母親に勘違いされても、わたし母乳なんか出ませんからねっ」
「いやいやいや・・・卵から生まれる爬虫類は、乳なんか飲まないと思うぞ・・・」
「へっ!?」
しばらくの沈黙の後、自分の発言ミスに気がついて真っ赤になったリーゼが「ひゃぁぁぁぁぁ!!」と叫び声をあげながらこの場から逃げ出していった。
もちろんその腕には幼竜を抱いたまま。
しばらくすると気持ちが落ち着いたのか、リーゼが幼竜と一緒におずおずと戻ってきた。
「薫さぁ~~ん。この子のこと、どうしたらいいと思います?」
リーゼは、腕の中で眠そうな表情を浮かべている幼竜を見ながら、そんなことを訊いてきた。
「野生に戻すまではリーゼが育ててみたらどうだ?」
「う~~ん・・・」
俺の提案に真剣に悩むリーゼ。
実は俺がそんな提案をしたのには、ある思惑があったからだ。
ペット・・・生き物を育てるという経験をすることで、リーゼにも命の大切さを学んでもらえるのではないかと思ったのだ。
まぁ・・・竜をペットに数えていいのかどうかは疑問なんだけどね・・・。
「レガシィに乗って一緒に旅をしていれば、そのうちその竜の生息に適した場所にめぐり合うかもしれないだろ?」
「そうかもしれませんが・・・」
ふむ・・・
もう一押しか二押しが必要だな。
「それにさっきクリスが言っていたが、古竜の幼体の栄養源は、しばらくの間は親竜からの魔力供給が主になるらしいぞ。リーゼが育ててあげないと、その幼竜は餓死してしまうかもしれないぞ」
「うっ・・・」
リーゼは、自分が見捨ててしまうと腕の中にいる幼竜が死んでしまうかもしれないと知り、さらに悩みだした。
やがて、諦めたように大きく息を吐くと「わかりました。その代わり薫さんも子育て手伝ってくださいよね」と言って、抱いていた幼竜をキャンピングテーブルの上に置いた。
テーブルの上でキョロキョロと辺りを見回す幼竜に、子供たちが興味津々で近づいていた。
幼竜は、自分の身体を撫で回す子供たちにもおとなしく従い、それなりに懐いているようだったが、ミャウが撫でる時だけは少しばかり警戒している様子だった。
あれは卵の中で聞かされたミャウの意地悪が原因だろうな(苦笑)。
「お兄ちゃん、この子の名前はどうするの?」
「これから一緒に生活するのに名前がないと不便だから、リーゼが名前をつけてやったらどうだ?」
俺の提案にリーゼが目を丸くして驚いていた。
「名前ですか? 今まで名付けなんてしたことがなかったので、ちょっと新鮮な刺激を感じますね」
そして、リーゼは「名前・・・名前・・・」とブツブツ言いながら考え込んでしまった。
どんな名前をリーゼが付けるのかちょっとばかり楽しみでもあったので、俺は彼女の邪魔をしないようにと、ひとりで分析の仕事を続けることにした。
とりあえず先ほどまで卵が収められていた箱をイベントリに入れて、その材質や仕組みを分析する。
箱に使われていたのは、魔力を遮断する性質を持った特殊素材だった。
おそらく卵の孵化を防ぐのが目的だったのだろう。
その特殊素材の遮断能力を上回る魔力を注いだリーゼは、どれだけの馬鹿力を出したのやら・・・。
約30分後・・・
箱の分析が終わる頃合を見計らったのかどうかはわからないが、リーゼが名前の候補が決まったと声を掛けてきた。
「この子の名前はぁ・・・ジョン・ドゥなんていかがでしょうか?」
マテこら・・・・。
「ほぅ、なかなか凛々しそうな名前ではないか」
「かっこいいにゃ!」
「人族の名前っぽいけど、強そうなかんじがするの」
俺の世界での元ネタを知らない子供たちが、リーゼが提案した名前に賛同しそうになっている。
「却下だ、却下っ!!」
「どうしてだにゃ?」
猛反対を表明する俺にミャウが疑問を投げかけた。
「俺の故郷の軍隊用語で〝ジョン・ドゥ〟っていうのは、〝身元不明男性死体〟の隠語の事だ。軍オタのリーゼがそれを知らないわけがないから、意味を知っていて選んだろ!?」
俺や子供たちからのジト目を軽く受け流し、「いい名前だと思うんだけどなぁ~」などと言いながら、テーブルの上に置かれていた缶ビールに手を伸ばすリーゼ。
そんなわきゃないだろ。
いくらんでも身元不明死体じゃコイツが可哀想すぎる・・・。
そんなことを思いながら、俺たちの会話の意味が分からず首をかしげている幼竜の頭を撫でる。
「だいたい、もしかしたらコイツは〝ジェーン・ドゥ〟かもしれないじゃないか・・・」
ちなみに〝ジェーン・ドゥ〟とは身元不明の女性死体の隠語である。
「そういえばそうですよねぇ・・・ドラゴンの雄雌ってどうやって見分けるのでしょうか?」
缶ビールを飲んでいたリーゼが俺を見たので、おれはそのままクリスを見て会話をパスする。
「さすがに我もそこまでは知らんぞ」
クリスが知らないのであれば、この場に見分け方がわかる人間はいないな。
となれば、雄でも雌でもどちらでも通用する名前をつけてあげるべきだろう。
「そうだ、一番絞りちゃんなんてどうでしょうかぁ?」
「ヤメロ・・・あまりにも可哀想だろ・・・」
まったく同じ名前の缶ビールを飲みながらアホなことを言い出したリーゼにダメ出しを入れる。
「だってぇ、わたし生き物に名前を付けた経験なんて全然ないので、どうすればいいのかまったく思い浮かばないんですよ」
300億歳にして初めての名付けか・・・。
「う~~ん・・・フラーズインディア、セントピーターズ、ナッツブラウン、サミュエルスミス、ビショップフィンガー、サンタボーズ、マクイーワンズ、マーフィーズ・・・・・」
「コラコラ・・・、それ全部英国ビールの名称じゃないか(汗)」
「お酒の名称でしたら、簡単に思い浮かぶんですけれどねぇ。
というか薫さん、よくご存知でしたね?」
「俺も数年前に英国や米国のご当地ビールにはまっていた事があったんだよ。
ちなみに今は東欧のプラム蒸留酒に嵌っている」
「あれって健康にもいいんですよねぇ。
それに、プラム100%のフルーティーな香りやまろやかなフレーバーでわたしも大好きなんですよっ。
そうだ・・・・この子のお名前、ゼテェアちゃんなんてどうですか?」
「それってルーマニアのフルーツ蒸留酒のメーカー名じゃないか」
しかも、ちょっとした高級酒だ。
そして実はイベントリの中にツイカと呼ばれている名称の同メーカー製のフルーツ蒸留酒がボトルで入っていたりもする。
まさかリーゼのやつ、俺の秘蔵コレクションに気がついたんじゃないだろうな?(汗)
「でもこれなら、男の子でも女の子でも違和感がないと思いますよ」
まぁたしかにそうだけどさぁ・・・。
名前を付けられる当の本人(幼竜)は、親だと誤認しているリーゼに向かってピーピーと鳴くだけで、喜んでいるのか、悲しんでいるのかさっぱりわからない。
が、リーゼはそれを〝気に入って喜んでいる〟と解釈したようで「では、決定ですね♪」などと言って上機嫌になっていた。
やがてリーゼは両手の指を合わせるようなポーズをとって、俺のほうを見て微笑んだ。
「ということで、名前が決まったお祝いに出してください♪」
「な、何をだ?」
「薫さんが隠している、ツイカ・ゼテェアのボトルに決まっています♪」
実によい笑顔だった・・・(汗。
その日の夕刻・・・
俺とリーゼはレガシィから発射されたナパーム弾が作り出した送り火を見ながら、ツイカ・ゼテェアのプラム酒を飲んでいた。
アルコール度数50度のそれを、ショットグラスでグビグビと飲み干していくリーゼ。
そしてその隣では、その酒と同じ名前を付けられた幼竜が、小皿に張られたプラム酒をおいしそうに舐めていた。
まさにこの親にしてこの子あり・・・である。
ちなみに、ツイカ・ゼテェアのボトルはリーゼに飲み干されることなく、きちんとその日の深夜0時に元の量に戻ったのだった。
レガ子「この幼竜はきっとメスに違いないのっ!」
リーゼ「レガ子ちゃんは、なんでそう思うんですか?」
レガ子「だって一緒に旅する仲間なら、薫さまのハーレム要員の一角に違いないのっ」
薫「まて、俺にケモナーの趣味はないからな!」
クリス「でもミャう殿のネコ耳には大きく反応していたように記憶しているのじゃが?」
薫「うっ・・・(汗」
アリシア「お兄ちゃんは、異種族ハーレムを目指すの?」
薫「目指さない、目指さない!」