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第2章 第10話(第56話) ~イベントリの秘密とセカンド・キッス~

今回のお話では、ラノベの異世界ものにおいて定番的なチート能力である『イベントリ』について、自分なりの仕組みを考えてみましたので、それをお話の中心に組み込みました。


『イベントリ』はなぜ無限に物質が収納できるのか?

なぜ、食料などが腐らないのか?


亜空間だから・・・という単純な説明で片づけてしまうのがあまり好きではないので、レガ子のシリーズ(?)で採用している世界樹構造の多元世界に合わせてちょっとだけ工夫してみました。

このイベントリ説明に対する感想など頂けると嬉しいです。

 朝食を終え、俺たちはそれぞれが与えられた仕事をするために所定の持ち場で黙々と作業をこなしていた。


 騎士団と商隊の人たちはミロス平原に残ったゴブリンとオークの死体を片づけに向かい、俺とリーゼは昨日レガシィのイベントリに収納した転送装置と思われる魔導器の分析を行っていた。

 レガ子は「子供たちと協定をいろいろ結びなおす必要が出てきたのっ」と意味不明なことを言って、ちびっ子たちを連れて騎士団テントの方へ行ってしまった。

 ちなみに周囲警戒用のドローンはオートパイロットで飛ばしているそうだ。


 そしてレガシィの横に居る俺たちの前には、昨日回収したピラミッド型の実体化装置が置かれていた。


「リーゼはこの実体化装置について、どう分析しているんだ?」


 昨晩から分析プログラムを走らせて解析をしていたので、ピラミッド型魔導器についての解析結果は一応出ていた。

 出てはいるのだが・・・その内容が俺には難しすぎてよくわからないというのが正直なところだった。


「生き物をマナに変えて霊脈に乗せて移動させ、別の場所でそのマナを霊脈から再抽出して実体化させる・・・という工程はほぼ間違いなく再現できているのですが・・・」


「が?」


「この装置、その生き物の魂までは再構成できていませんね」


「どういうことだ?」


「この転送装置で別の場所に人間を送ったとしても、その人間は記憶も意思も何もない生きる人形みたいになって実体化してしまうんです」


「つまり・・・」


「失敗作ですね、この装置は」


 それであのゴブリンやオークたちはなかなか出現ポイント近くの平原から移動しなかったのか?

 俺たちが攻撃したから、本能的にこちらに襲い掛かってきただけなのかもしれない。

 まぁ、それが最初から分かっていたとしても、あれだけの数に膨れ上がってしまったら、空腹などで近くの村を襲わないとも限らなかったから、結局は討伐するしかなかったとは思うが。

 もしかしたら最後に倒したジェネラル級などは、その他のゴブリンやオークを先導するためにあの首飾りをしていた可能性もあるな。


「ただ、このキャップストーンに描かれている呪文ですが――コレ、私たち世界樹の管理者が使用している制御文字プログラムによく似ています。

 ブラッドさん、かなり世界樹の研究もしているみたいですね」


 かつてこの世界に送り込んだ人間が、なんらかの野望を持って神・・・管理者の領域にまで近づこうをしていることを知り、リーゼは大きなため息をついていた。


「それって、世界樹のシステムがハッキングされる可能性もあるんじゃないか?」


「この程度の技術では心配はないです。

 せいぜい霊脈の表層部にノイズを発生させるくらいしかできません。

 まぁ転送で失われた魂の情報は、そのノイズになって霊脈の中か大気中のマナとして漂っているわけですけれどね」


 いやいや・・・それって怖いから。

 十分にホラーだから・・・(汗)。


「ただ、このキャップストーンの素材となった魔石は、分解されたマナを実体として再構成する能力を完全に備えています。

 なので、これを王国の研究機関に渡すのは危険ですね」


「じゃぁ、どうするんだ?」


 そう尋ねると、リーゼはニッコリと微笑んで、とんでもない事を言いやがった。


「コレ――薫さんがガメちゃってくださいっ♪」


「は、はいっ?」


「だからぁ、このキャップストーンは破壊されたことにして、レガシィのイベントリに保管してくださいって言っているの」


「ええっ!!」


「コレは薫さんのクリエイトの素材にしちゃっていいですから。

 あと、報告書は私がうまく書いて誤魔化しておきますからっ♪」


 そうなのだ――報告書の件をリーゼに相談したら「わたし、この国の文字書けますよ」というので代筆をお願いすることになっていた。

 ただし、この先立ち寄る町や村で、必ず地酒をプレゼントすることが条件だったが・・・。


 そのリーゼさんは「誤魔化すとなると、ドローンで撮影した画像もコラしないといけませんね♪」などと、なぜか楽しそうなご様子。

 ネコババの片棒まで担がされるのであれば、報告書の手伝いだけでは割に合わないと思った俺はある取引を持ち掛けることにした。


「リーゼに協力してもいいが、ひとつ交換条件がある」


「ま、まさか、わたしの身体を差し出せとかっ!?」


 自分の身体を抱きしめるようにして後ずさるリーゼ。

 俺ってそんなにエロい事ばかり考えていると思われているのか?


「まぁ、リーゼの貧乳ちっぱいには興味があるが・・・」


「あるのっ!?」


 さらに後ずさるリーゼ。

 あ、いけね――また思ったことを声に出してしまったよ。


「でもまぁ、それはひとまず置いておいてだ・・・」


「はぅっ、横に置かれちゃったよぉ・・・(しくしく)」


 おぃ、本当は嫌がっていないだろ!

 今度は残念そうに泣きはじめたリーゼに、心の中でツッコミを入れる。


「イベントリの作り方を教えてくれ」


「へっ?

 そんなことでいいのですか?」


 交換条件として出したお願い事がかなり予想外だったらしく、間抜けな声を上げてフリーズするリーゼ。

 いやいや・・・イベントリの製法って、キャップストーンよりも危険な技術だと思うんですが。


「そんなことって――イベントリの製造方法は、この世界の文明レベルからしたら相当なオーパーツ技術じゃないのか?」


「この世界の魔導学だけじゃなくて、薫さんがいた世界の科学の常識から考えても、かなりのトンデモ技術だと思いますよ」


「その割には反応が軽くないか?」


 するとリーゼは少し考えこんで・・・


「う~~ん・・・でも、アレって魔導学が発達しても、科学が発達しても、世界樹世界の住人には絶対に作るの無理ですからっ」


 へっ、そうなの?


「イベントリ内の空間って、実は世界樹の中の特殊な空間――純粋なマナプールに繋がっているんです。

 薫さんは、イベントリに入れられたものはそのままの姿で亜空間とかに保管されていると思っているみたいですが、実際は高純度なマナに分解されてマナプールの貯蔵マナに加わってるだけなの。

 イベントリから取り出すときに、品目に合わせて実体化に必要なデコードリストがロードされて、マナプールに蓄えた純度の高いマナから再実体化させる仕組みなんです。

 だから、消費したものでも消費前のデコードリストさえ記録に残っていれば元々の状態に再実体化させることができるんですよ」


「つまりイベントリの復元加護って・・・」


「バックアップデータからの重複デコードリストの精査・復元と、新規データとの結合ですっ。

 ようするに薫さんの世界でいう、パソコンのバックアップ復元みたいなものでしょうか?

 生き物が入れられないようにしているのは、あの失敗作と同じ理由で、魂や記憶までは復元できないからなんです」


 そういいながら、彼女は横にあるキャップストーンを指さした。


 なんてこったい。

 元の世界の異世界ラノベとかで〝イベントリ〟イコール〝亜空間〟というお約束設定があったから、亜空間は時間の概念がなくて物が腐らず、無限に詰め込めると思い込んでいた。

 まさか本当の仕組みがそんな風になっていたとは思いもしなかった。


「あ、ちなみにあのクルマや薫さん自身にかけてある復元の加護は、もっと複雑な仕組みのシステムを使っていますからねっ」


「それじゃぁ、俺がイベントリと同じ機能のものをクリエイトするのは無理かぁ・・・」


 イベントリの機能に世界樹の機能を使っている以上、それを作れるのは女神――世界樹の管理者だけという事なのだろう。

 当てが外れてガックリとうなだれる。

 イベントリの作り方が分かったら、ちょっとクリエイトしたいものがあったんだよなぁ・・・。


「えっ?

 薫さんなら作れると思いますよ」


 うなだれてコットに腰かけてた俺を見て、リーゼがまたもや爆弾発言を投げかける。


「へっ?

 だって世界樹の特殊な空間を機能に使ってるんだろ?

 そんなの管理者でもない俺が扱えたら危険だろ?」


 するとリーゼはまた少し考えてから・・・


「あのクルマのイベントリで行う〝クリエイト〟って、どんな仕組みになっていると思います?」


「そりゃ・・・装備品や素材をイベントリの中に入れて、特性を作り替え・・・」


 ここまで言いかけて気が付いた。

 イベントリに収納したものがマナに変換されて世界樹の中へ保存されるなら、クリエイトモードも世界樹の中でマナを使って組み換えが行われていると考えた方が自然だ。

 だとすると・・・。


「気が付いたみたいですね。

 レガ子ちゃんや薫さんが行っているクリエイトは、素材となった物質をマナにした時のエンコード情報を基に、別の物質を作るための情報へと改変・合成を加えてデコード情報を作り変えているんですよ。

 そのため、この作業には世界樹の中にある〝創造システム〟の一部がサポートで使われています」


「それが、俺にもイベントリが作れる理由だと・・・」


「はいっ♪」


 重大なことをサラリと明かすリーゼに軽い眩暈を覚えた。

 それって俺やレガ子にも世界樹の管理者権限の一部を渡しているってことだよな。

 もし、俺やレガ子がブラッドのように裏切ったらどうするつもりなんだ?


「薫さんを信用していますから」


 まるで俺の心を読み取ったかのようなタイミングで、リーゼがそんなことを言った。


「もしかして、また声に出していたか?」


「くすっ。

 さて、どうでしょう」


 リーゼは俺をからかうように微笑みながら歩み寄ってくると、すぐ隣に腰かけた。


「薫さんは、以前わたしのことを〝友達〟と言ってくれました。

 なので、わたしも〝友達〟として薫さんのことを信じてみることにしたんです」


 そう言って彼女は俺の顔を覗き込んできた。

 

「とはいっても、今だにこの世界樹に息づいた生き物を大切にするとか、信じるって感覚がよく分からないんですけれどね」


 今度はそんなことを言いながら、やや自虐的な笑みを浮かべる。


「でも、そんなわたしでも、薫さんやレガ子ちゃん、そしてクリスちゃんやミャウちゃん、アリシアちゃんたちだけは、信じてみてもいいかな――なんて思えちゃうのですから不思議ですよね」


 リーゼのエメラルドグリーンの瞳の中に俺の顔が映り込んでいるのが見える。

 なぜだろう・・・その瞳が熱を帯びて俺を見つめているように感じた。

 そういえば心なしかリーゼの顔が赤くなっているようにも――あれ?

 なんかリーゼの顔が近づいてきていないか?


挿絵(By みてみん)

(萌えキャラアバター作成サービス「きゃらふと」でイラストを製作)



「だから、イベントリの知識、薫さんに全部お伝えしますね――」


 そう言い終わるとほぼ同時に、リーゼの唇が俺の唇へと重ねられた。

 突然の出来事に俺がパニックに陥っていると、リーゼの舌が俺の口腔へと滑り込んできた。

 〝ちょっと待った~~~(汗)〟

 先日クリスに奪われたファーストキスの時でさえ、口の中までは許していなかっただけに、心の中で声にならない声を叫ぶ。


 リーゼからの突然のディープキスに驚いたのもつかの間、それ以上の驚きが俺の思考に襲い掛かってきた。

 どういう仕組みなのかはさっぱり分からないが、キスを通じてリーゼからイベントリの仕組みや製造方法といったあらゆる知識が、俺の意識の中に流れ込んできた。


 いったいどれだけの時間リーゼとキスをしていたのだろう――ものの数分のように短くにも、数時間のように長くにも感じられたソレは、リーゼから唇を離したことで終了した。


「こ、これはイベントリの製法を伝える〝口伝〟のために行った行為ですから――。

 か・・・・勘違いしないでくださいよねっ」


 顔を真っ赤にしながら、慌てて俺から距離を取るリーゼ。

 俺も恥ずかしいのだが、彼女の恥ずかしさはそれ以上らしく、すべての行動がキョドっていた。


「口伝って・・・こういう事じゃないと思うのだが・・・」


 リーゼの顔をまともに見ることができず、彼女の足元あたりを見ながら、とりあえず出てきた言葉がコレだった。

 はぁぁぁ――クリスの時もそうだったが、キスの直後に相手にかける気のきいたセリフが全く思い浮かばない。


「いいえっ、これが最強の〝口伝〟ですよっ。

 口腔接触による直接的な知識の伝達――真後ろで聞き耳を立てる人がいたとしても、絶対に内容を知られることはありませんから」


 顔を赤くしたリーゼが、そんなことを言いながらくすくすと笑っていた。

 そんなリーゼを見て、俺も照れ笑いを浮かべているのが自分でもわかった。


「キスしているところを真裏で観察されていたら、別の意味で嫌だよっ」


「だからぁ、さっきのはキスじゃないんですぅ。――口伝なんですよぉ。

 だいたい・・・に、人間の男の人とキス――なんかしたのは、今回が初めてなんですから・・・」


 リーゼが言ったセリフの最後の方は、風が吹けば消えてしいそうなほどの小さな声になっていたが、ちゃんと聞き取ることができた。

 そっか・・・リーゼのファーストキスを貰っちゃったのか・・・。

 そう思うと現金なもので、少しうれしくなってしまうから不思議だ。


 しかし・・・

「まさかセカンドキスの相手がリーゼになるとはなぁ・・・」


 本当は口に出すつもりはなかったのだが、いつもの悪い癖が出てしまい、つい口からそんな言葉が漏れ出てしまった。


 次の瞬間、さっきまで照れていたリーゼが纏っていた暖かな空気が急激に変化した気がした。

 心なしか俺の周辺の気温が下がったようにすら感じる。


「へ、へぇぇ~~。 か、薫さんは他の人とすでにキスの経験があったんだぁ~~」


 あれ?

 もしかしてリーゼさん、若干怒っていませんか?

 こめかみのあたりがピクピクしていますよ。


「も、もしこれで薫さんが裏切ったら、わたし人間不信になりますからねっ。

 世界樹に実った次元世界に人間型の生命体が居たら、その次元世界は全部切り捨てますからねっ」


 マテマテマテマテ。

 この世界と元の世界を救うだけでも俺には重すぎる責任なのに、見ず知らずの世界の命運まで俺に預けるなぁぁ。


「そ、それはあまりにも八つ当たり過ぎるのでは・・・」


「知りませんっ!」


 プイッ――と、明後日の方向を向いて、こっちを見ようとしてくれないリーゼさん。

 完全にへそを曲げてしまったようだ。


 リアル女はやっぱりめんどくせぇぇぇーーーー。


 今回は口に出さないよう注意しながら心の中でそう叫んだ。

 やはり俺にはPC画面の中に居るエロゲヒロインらが一番だよ(涙)。





 お酒を差し出してみたり、肩を揉んで差し上げたりしながらリーゼのご機嫌伺いをしていると、そこにレガ子や子供たちがこちらに向かって猛烈な勢いで走ってくるのが見えた。


 俺は一瞬「まさかさっきのキスがばれたのでは?」と、近づいてくるレガ子たちを見て顔が引きつる。

 どうやらリーゼもそれは同じだったらしく、その表情は若干恐怖で怯えているようにも見えた。



「カオル殿っ!」


「うわぁぁ、ゴメン!」


 俺の名前を叫びながら目の前に飛び込んできたクリス(10歳、ファーストキスの相手)に、条件反射で謝罪の言葉を発する俺(30歳)。

 まるで浮気の現場を妻に抑えられた夫のようである・・・。


 しかし当のクリスは「何を言っておるのじゃ?」と、俺の謝罪を不思議そうにしていた。


「きっと薫さまは、リーゼさまと何かやましい事があったのっ」


「「はうっ」」


 レガシィに乗り込み専用シートに座るレガ子からの鋭いツッコミに、声がハモる俺とリーゼ。

 しまったぁ、いらんこと言って墓穴を掘ってしまったようだ。


「でも追及は後でするのっ。

 今はこっちに近づいてきている竜騎兵への対処が優先なのっ」


 俺とリーゼへの公開処刑(?)は、警戒中のドローンが捕捉した2騎の竜騎兵によって延期となったのだった。

レガ子「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!」


作者「どうした?」


レガ子「なんで女神リーゼさまと薫さまでフラグが建っちゃっているかと問い詰めなのっ!

    さらに、カットインイベント(挿絵)付きだなんて、待遇良すぎなのっ!!」


クリス「しかも、我の時よりも濃厚なキスをしておるようじゃが・・・」


薫、リーゼ「「・・・・・(汗)」」


レガ子「ちっ、女神リーゼさまは貧乳ちっぱいでも年増(300億歳)だからと油断していたのっ。

    そういえば薫さまは、妹さまが通っていた小学校の貧乳ちっぱい先生にもデレデレしていたことをすっかりと忘れていたのっ」


薫「ちょっ、おまっ・・・」


リーゼ「と、年増だなんて・・・ヒドイ(涙)」


作者「さて、薫くんのサードキスのお話は、だれをお相手にして書こうかなぁ~~」


レガ子、アリシア、ミャウ「「「「ごくり」」」


薫「ガクガクブルブル・・・・」

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