第2章 第6話(第52話) ~戦 友~
前回の投稿からだいぶ間が空いてしまいました。
申し訳ありません。
今仕事が従業員人たちの高齢化引退ラッシュのあおりを受けて引継ぎやらでハチャメチャになっていまして、自分の仕事量が落ち着くまでまだしばらくかかりそうな気配です。
いましばらくは不定期投稿が続くと思います。
申し訳ありませんが、ご了解いただけると幸いです。
凝縮された魔力の塊を叩きつけられて、オーク・ジェネラルの首飾りにあった魔石が砕けた。
喉の部分に強烈な一撃を受け、せき込みながら片膝をつくオーク・ジェネラル。
俺は地面への着地と同時にオーク・ジェネラルの腹に突き刺さっていた紅雨を引き抜いた。
「防御魔法が消えたぞっ!」
俺の報告に合わせて周囲の騎士らが一斉にオーク・ジェネラルへ剣を突き立てた。
四方から串刺しにされたオーク・ジェネラルは、そのまま前のめりに地面へ倒れ絶命した。
こちらの戦闘が片付いたのを確認し、ダモン隊長らが戦っていたゴブリン・ジェネラルの方へと視線を向けると、あっちもちょうど決着がついたところのようだった。
ダモン隊長の剣によって首を刎ねられたゴブリン・ジェネラルの首なし巨体が、夕焼けに照らし出された大地へと倒れていくところだった。
これで今度こそ本当に戦闘終了だ。
一気に疲労感が襲ってきた俺は、その場に大の字になって寝転がった。
地面に横になり、黒煙交じりの日暮れ前の空を見上げていると、目の前に騎士甲冑の手甲を付けたごつい手が差し出された。
手の主の方へ視線を移すと、そこには戦闘前に比べるとややくたびれた感じの騎士甲冑を纏ったダモン隊長の姿があった。
「お疲れ様です、カオルさま。大活躍でしたな」
「ダモン隊長こそ、ゴブリン・ジェネラルの討伐お見事でした」
差し出された手を握って起き上がると、周囲に集まってきていた騎士たちが次々とねぎらいの言葉かけてくれたり、握手を求めてきたりしてくれた。
自分の存在をこんなにも周囲の人たちが認めてくれた経験があまりないため、かなり照れくさい感じがした。
でもそんな気恥ずかしさをを含めて、今日初めて出会って、一緒に戦うことになった第5騎士団の若者らと〝仲間(戦友)〟になれた一体感のようなものを感じ、うれしさで自然と自分の顔にも笑みが浮かんだ。
なにせ元の世界ではこういう仲間との一体感ってあまり感じたことが無かったからなぁ。
学生時代は基本的には帰宅部だったし、今の職場はそもそもチームワークには程遠い雰囲気があるからなぁ・・・。
あえていえば、ゲーム仲間の悪友らと一緒にイベントに行ったりして盛り上がった時の感覚に似ている気がするが、今は高揚感と達成感を比べ物にならないくらい感じているのが分かる。
「そういえば部下・・・ハンスの危機を救っていただいたようで感謝します」
レガ子たちが待つ丘の上を目指して皆と一緒に坂を登っていると、横を歩いていたダモン隊長が礼を言ってきた。
「いいえ、ハンスさんの死亡フラグ・・・じゃなかった、危機の回避を手伝えたようでなによりです」
あぶないあぶない・・・思わず死亡フラグを回避とか言いそうになってしまったよ。
「しかし、まさか婿殿にあんなすごく固い防御魔法の隠し玉があったとは驚きましたよ」
「そうそう、しかも魔石を素手で叩き割るなんて、あんな徒手格闘術どこで覚えたんですか」
「婿殿はいっそ騎士団に入団してみてはどうです? 今なら怪我人の補充で第5騎士団に配属される可能性が高いですよ」
一緒に歩いていた騎士たちが気さくに次々と話しかけてくる。
「この魔力運用グローブがあったから使えただけだよ」
そう返事をかえしながら、グローブに魔力を集めてみせる。
集まった魔力に反応してグローブに刻まれた紋様が発光し、握った拳を包むように魔力光の固まりが出現した。
それを見て周囲の若い騎士たちが目を丸くする。
「あれだけ派手に魔力を使っていて、まだ余力があるんですか?」
「婿殿は、魔導器製作者よりも魔術師の方が向いていたんじゃないんですか?」
「いやいや、婿殿は前衛もこなせそうだから、どちらかといえば魔闘士なんじゃないか?」
おいおい・・・
俺を戦闘職に引き込もうとするのはやめてくれ(汗。
まぁ実際のところ俺の魔力量は賢者クラスに近いらしいので、まだまだ魔力に余裕はあるのだが、余計な期待をされるのが嫌なのでそこは黙っておこう。
そんな騎士たちの雑談を耳にしていたダモン隊長が助け舟を出してくれた。
「そもそもカオルさまが魔導器製作者の道に進んでいなければ、お前たちはあの数のゴブリンやオークと真っ向勝負しなければならなかったことを忘れるなよ」
ダモン隊長の言葉に、ミロス平原に集まっていた敵の数を思い出し、皆がうんざりとした表情を浮かべた。
まぁ、あの数を相手に通常は第5騎士団だけで戦うことはありえないだろうが、全騎士団が揃っての総力戦になったとしても、相当な激戦になったはずだ。
なにせ今回の戦闘では開始早々に転移装置を破壊したのでこれ以上敵が増えるのを阻止できたが、それでも戦闘開始時にミロス平原にいたゴブリンやオークの数は600を超えていた。
全騎士団が集結するまでの時間を考えれば、数千の大軍と戦わなければならなかった可能性もあるのだ。
「「「婿殿、魔導器製作者の道に進んでいただき、ありがとうございます!」」」
想像もしたくない戦闘を避けることができた事実を思い出し、先ほどまでの主張などをがらっと変えて突然礼を言い出す若い騎士たち。
まったく、現金なヤツらだよ・・・(苦笑)
「そもそも俺は本来デスクワーク派なんだから、騎士団のハードワークなんて無理なんだよ」
あの重そうな甲冑をつけて訓練する自分の姿など、想像もしたくないです。
というか、俺の立場って〝婿〟で決定なのか?
できれば王族の仲間入りは遠慮したいのだが・・・(汗。
クリスはお姫様だし、やっぱ俺の嫁にくるんじゃダメなんだろうか?
この辺のことは、後できっちりクリスに確認しておいた方がいいな。
「怪我人といえば、ハンスの奴は可哀そうにな・・・」
「そうだな、あの怪我じゃもう・・・」
あれ?
ハンスさんの死亡フラグは回避できたんだよね?
「あのぉ、ハンスさん・・・命に別状はないんですよね?」
「あぁ、たしかに命にかかわるような怪我じゃないんだが・・・大腿骨の骨折がひどいらしくてな。あの怪我では騎士としての仕事はもう・・・」
「騎士を除隊となったら、マリーちゃんの親父さんに認めてもらうのはかなり難しいよな・・・」
なるほど・・・足の怪我がひどい為に騎士としての仕事が今後は無理じゃないかとみんなは思っているわけだ。
というか、その親父さんに認めてもらうには騎士として武勲を上げるのが条件みたいだな。
「ハンスさんは、今リーゼのところで治療を受けているわけですよね?
であれば、あまり心配はいらないと思いますよ。
おそらく骨折の痕跡など残さず、キレイに治療してしまうのではないかと」
なにせ凍傷で切るしかないと思われていた馬の脚を、普通に走れるように短時間で治療でしてしまった彼女の治癒魔法だ。
力に制限を受けている状態とはいえ、女神チート付きの治癒魔法なら大腿骨の骨折くらい元通りを通り越して、今までよりも丈夫な骨に改造・・・もとい、治してしまいそうだ。
「えっ、彼女の治癒魔法ってそんなにすごいんですか?」
一緒に歩いていた騎士だけでなく、ダモン隊長までもが驚きの声を上げていた。
あれ?
リーゼが使う治癒力って、もしてこの世界の常識をはるかに超えていたりするのか?
となれば、リーゼの治癒魔法についても少し誤魔化しておく必要があるな。
「彼女の治癒魔法強化に特化した魔導器の補助があればこその治癒力なんですけど、なにせ専用の特殊な魔力結晶を多量に消費するので燃費が悪くて・・・」
「そうなんですか?
そんな貴重な力を我々のために使っていただき、どう感謝すればいいのか」
「いえいえ、どうせクリスの叔父・・・マロウ騎士団長に前金はもらっていますから気にしないでください」
共に戦った仲間らに嘘を告げるのは少々心が痛んだが、さすがに俺やリーゼの正体がバレるような足跡を残しておくわけにはいかない。
それに騎士団に納品したヒートソードの代金とかイロイロいただいているしな・・・うん、全く嘘というわけではない(と思うことにしよう)。
俺が冷や汗を浮かべながら丘の上に到達すると、そこにはクリスをはじめミャウやアリシアといったお子様勢とレガ子がお出迎えで待っていた。
「カオル殿」(byクリス)
「お兄ちゃん」(byアリシア)
「あんちゃん」(byミャウ)
「薫さまっ」(byレガ子)
「「「「おかえりなさい(なのっ)」」」」
全員が一斉に俺に向かって飛びついてきた。
妖精サイズで軽いレガ子はともかくとして、戦闘直後で疲れ切った足腰に幼女3人のタックルはかなり堪えた。
3人の体重を支え切れずによろめいた俺を見て、クリスが慌てて離れた。
「すまん、カオル殿は疲れているのに、つい我を忘れて飛びついてしまった」
すぐ横で申し訳なさそうな表情を浮かべて、歳不相応な態度をとっていたクリスの頭に手を乗せて、金色に輝くきれいな頭髪をクシャッとしながら頭を撫でる。
「な、何をするのじゃ」
きれいにセットしていた髪の毛を乱されて、頭にのせていた俺の右手をつかんで、少し不機嫌な表情を浮かべて抗議するクリス。
俺はそんなクリスの頭の上から手を放すことなく、今度は先ほど自分が乱してしまった髪の毛を手串で整えてやる。
「クリスはもっと歳相応のわがままを言ってもいいと思うぞ」
俺の言葉の意味が分からず、キョトンとした表情を浮かべるクリス。
「レガ子みたいに常に本能100%で行動されるとちょっと困るが、クリスはもっと自分の気持ちを素直に表に出した方がかわいいと思うぞ」
「わっ、我が・・・かっ、かわいい・・・・じゃと」
顔を真っ赤にして両手をバタバタと動かし、突然挙動不審になるクリス。
お~動揺してる、動揺してる。
こういうクリスはレアだから、見ているだけでマジ癒されるなぁ。
ニヤニヤしながら慌てるクリスを眺める俺。
そんな俺の視線に気が付いたクリスは更に顔を赤めると、突然回れ右をして、救護テントの方へ走り出した。
「ま、まだテントには怪我人がいっぱいおるのじゃった。
早く戻って、リーゼ殿の手伝いをせねば・・・」
テントに向かってトテトテと走っていくクリスは一瞬だけこちらを振り向くと、拗ねた表情で「ベッ!」と舌を出して、すぐに走り去ってしまった。
ほんと・・・素直じゃないというか・・・
でもそんな天の邪鬼的なクリスの言動が、年相応の女の子らしく見え、自然と自分が笑っていたことに気が付いた。
「あっ、クリスちゃんまってなのぉ、アリシアも手伝うの~~」
クリスを追うようにテントに向かって走ろうとしたアリシアを呼び止め、ちょっと気になっていたことを尋ねてみた。
「少し前に足の骨を折った騎士が救護テントに運ばれたと思うんだけれど、その騎士の怪我の治療ってどうなった?」
俺の質問にアリシアはしばらく考え込むと、その時のことを思い出したのか青ざめた表情を浮かべた。
「あの騎士さま・・・右足が変な方向に曲がっていて・・・(((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル」
あれ?
まさかリーゼの治療魔法でも手に負えなかったなんてことないよな?
「治療できなかったのか?」
「ううん・・・治療ははできたよ。今はすっかり元通りのはずだよ、おにいちゃん」
「なら、なんでそんなに怯えているんだ?」
「骨を元通りに繋げるには、治癒魔法をかける前に折れた骨をある程度元の位置に戻さないといけないんだけれど・・・あの騎士さまの場合、麻酔無しで折れた足を引っ張ったから…その時の悲鳴が・・・・(((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル」
うわぁ・・・それはかなり痛そうだ・・・(汗。
今はすっかり治っているはずの腹の傷(盗賊戦で切られた場所)が痛む錯覚を覚え、無意識に左手が腹をさすっていた。
「でもあの騎士のお兄ちゃん、怪我で運ばれてきたときはこの世の終わりみたいな顔していたのに、足が元どおりに治ったと知ったとたん笑顔になって女の人の名前を叫んでいたにゃん」
ミャウの説明を聞いて、ハンスさんの足が元通りに治ったことを確信した。
というかハンスさん・・・子供たちの前で意中の女性・・・マリーさんだったかな(?)の名前を叫んだのか・・・。
今の話を横で聞いていた騎士団の人たちも、ハンスさんの全快を喜んでいた。
ただダモン隊長は少し難しい顔になり溜息をついた。
「となると、ハンスの奴はロイドに帰ったらテオ殿に決闘を申し込むわけか・・・。
これはこれで部隊長としては頭が痛くなる案件なんだがなぁ」
え?
テオ殿ってもしやあの・・・
「ダモン隊長、そのテオ殿ってまさか騎士団長のお屋敷の?」
「ええ、現役時代には〝剣聖〟とまで呼ばれた伝説の騎士団長でして、よりにもよってハンスの意中の女性・・・マリー殿の御父上なのですよ」
ええっ?
テオさんって、そんな若い子供がいるような歳じゃないだろ。
どうみても俺の親父よりも年上だぞ。
いやまて・・・もしかしたらマリーさんて俺と同じ歳くらいで、ハンスさんが年増・・・もとい、年上好みという可能性もある。
「カオルさま、マリー殿は18歳ですよ・・・」
あれ?
なんで考えていることがダモン隊長にバレたんだ?
「薫さま、また考えていることが小声でダダ漏れしたのなのっ」
逆方向を見ると、レガ子が呆れた表情を浮かべて俺の顔の高さを飛んでいた。
あちゃ~またやっちまったか・・・。
この声に出す癖、いい加減直さないとまずいよなぁ・・・
でもハンスさんよ、テオさんはさっきのオークジェネラルよりも強敵だと思うぞ。
ほぼ間違いなくムリゲーだが、頑張れっ!
俺は心の中でハンスさんにエールを贈りながら救護テントの中に入っていった。
テントの中では、救護した若い騎士らに言い寄られてワタワタしているリーゼの姿があり、そのポンコツっぽい動作を見ているだけで、先ほどまでの殺伐とした戦場の雰囲気が消えていくのを感じていた。
レガ子「ハンスさんの前に立ち塞がるラスボスが、まさかテオさんだったとは驚いたのっ」
クリス「テオ爺・・・娘のマリー殿を溺愛しているからなぁ・・・。大人気ない対応にならないといいのだが・・・」
薫「さすがにハンスさんの命までは取らないだろ・・・」
クリス「リーゼ殿、そなたの治癒魔法でどこまでなら治せるのじゃ?」
リーゼ「さすがに頭を切り落とされたり、三枚におろされたり、真っ二つにされたりしたら治療不可能ですよ」
薫「え? ええ?」
作者「さて、ハンスさんの求婚は成功するのか? 続きは番外編でっ!!(マテwww」




