第2章 第1話(第47話) ~不穏な噂~
いよいよ第2章がスタートです!
この章から王国内の情勢が目まぐるしく動き出し、主人公らがそれに巻き込まれていくことに・・・。
主人公が巻き込まれる戦闘の規模も、徐々に大きくなっていきます。
文明レベルが中世ヨーロッパ程度の異世界に行った、現代の自家用自動車「レガシィ」の走行(移動)距離もこの章で一気に伸びる予定です。
竜騎兵の撃墜から一夜明け、俺たちはこのロイドにもう一泊だけして、明日には獣人らが住む獣人自治区に向けて出発することを話し合いで決めていた。
ちなみに、夕べは特に間違いなどは起きなかったらしい。
酔いつぶれて寝ていた俺とリーゼがいる部屋の中に、夜中に目が覚めて暇をもてあましたちびっ子たちが遊びに来たものの、呼べど叫べど俺たちが起きなかったので、寝ている俺たちで遊んでいるうちに彼女たちも寝てしまったそうだ。
ただ・・・
マグロのように寝ていた俺やリーゼを使って、どんな遊びをしたのかは、怖くて聞くことができなかったが・・・。
そんなこともあり、朝食時に席を一緒にしたクリスの祖父の刺すような視線から逃げるように、レガ子とリーゼを伴って、俺はロイドの街にあるメイベル商会の支店を訪れていた。
目的は、先日の盗賊撃退時に入手した戦利品の売却と、同商会のオーナーであるメイベルさんから頂いた救援に対するお礼状の目録を実物に変更させるためだ。
ロイドのメイベル商会は、ベルドの支店の3倍くらいある大きな店舗。
中で店番をしていた20歳くらいの女性店員の話だと、この街は住んでいる貴族も多く、騎士団の本部があるため需要のある商品の幅が広くて、その分広い店が必要なのだそうだ
俺が昨日、盗賊に襲われていたメイベル商会の荷馬車を助けたことは、昨晩のうちに隣村から走ってきた伝令の早馬によって伝わっていたそうで、礼状に書かれていた内容の品物は簡単に入手することができた。
唯一時間が掛かったのが、リーゼに選ばせた高級酒だったというのがなんとも・・・。
結局選びきれなかったリーゼを見かねて、お礼の分以外の酒は俺が買ってやることにしたんだけどな。
気になっていたお酒を全種類手に入れたリーゼは「るんららぁ~~♪」などと訳のわからん鼻歌を歌って上機嫌になっていた。
「カオルさま、他には何かご入用のものはございますか?
書状には〝できる限り便宜を図るように〟との社長からの指示もございますので、ご遠慮なさらずに申し付けてください」
店員の女性にそう言われ、少し考えてみる。
昨日のレベルアップで自分にもクリエイト系の生産スキルが備わったことを思い出し、素材系の相談をしてみることにした。
「魔導器や道具の生産に使う素材を揃えたいんだが、レアな素材とかないだろうか?」
実は、今の俺はかなりの金持ちだったりもする。
今朝、騎士団本部からマロウさんの使いの兵士が屋敷に来て、竜騎兵の撃墜に対する功労金として金貨50枚、俺が作って渡した魔力剣(仮称)の買取代金として金貨600枚(剣1本あたり金貨100枚)を置いていったのだ。
しかも魔力剣(仮称)の買取代金は暫定価格の手付金とまで言っていた。
こんな剣は今までこの世界に存在しなかったため、騎士団では正確な根付けができず、正確な価格は王都の行政府に任せることになったらしい。
マロウさんからの伝言として「他国に売られると困るので、どんなに買い叩かれても金貨100枚よりも安くなることは絶対無いから安心しろ」という書状まで付いていた(汗)。
一晩で大量の金貨を稼ぎ出した俺を見て、クリスが「カオル殿の所に嫁げば、生活は安泰な証拠じゃぞ」と、祖父を挑発していたのも、俺が屋敷から逃げてきた理由のひとつでもあったりする。
ということで今の俺には、以前稼いだ分と合わせて700枚以上の金貨が手元にあったりもする。
が、実はこの大金が、その保管方法をめぐって俺の悩みの種になりつつあったので、できればさっさと使って減らしたいという狙いも、この買い物にはあったりもする。
今までは所持していたのが80枚前後の金貨だたため、レガシィの後部座席の足元とかに無造作に金が入った麻袋を入れていたのだが、数百枚単位ともなるとそれも難しくなってくる。
かといて、金貨が入った入れ物をイベントリに入れてしまうと・・・・・・
後は言わなくてもわかるよな?
俺は貨幣偽造の罪までは犯したくないんだよっ(汗)
なのにレガ子ときたら・・・「黙っていてもお金が増えるなら、楽チンでいいのっ」と、まったく気にしない様子。
さらにリーゼにいたっては・・・「お金が増えたら、全部お酒に換えちゃえばいいんじゃないかなぁ~」などと言い出す始末・・・。
最初の頃は影響は無くても、無尽蔵に金貨が増えていったら、貨幣経済が崩壊するからなっ!
なので、この機会にレアアイテムにお金を換えてしまい、持ち歩く貨幣の量を少なくしようと思ったのだ。
「それでしたら、この龍亀の甲羅とかはいかがでしょうか?
弾力と反発が強く、龍が踏んでも割れないほど丈夫なため、特殊な盾や弓などを作るのに用いられたりする素材です。
ただ、かなりの熱を加えないと切ることができないため、加工が難しいのですが・・・」
切るための熱か・・・
昨日作った魔力剣(仮称)が加工のヒントになりそうだな。
それに大まかなサイズにさえ切ることができれば、そこから先の加工作業はクリエイトのスキルでどうにでもなるしな。
「それは1枚いくらなんだ?」
「この大きさの甲羅で、金貨5枚ほどになります」
そう言って店員が見せてくれたのは、B0サイズ(1030mm×1456mm)の大型ポスターほど大きさがある甲羅だった。
「在庫はいくつある?」
「この大きさのものは10枚ほどしか・・・」
「じゃぁ、それを10枚と・・・あとは何か面白そうな素材は入荷していないか?」
「それでは、この水棲魔物の魔法核などはどうでしょうか?
水系魔法を必要とする魔導器を作る際には、必ず必要になる鉱物です」
水系の魔法か・・・
レガ子が取得しているのは氷系だったから、ちょうどいいな。
「それはいくらで、いくつ在庫がある?」
「こちらは1個が金貨4枚ほどで、現在当店には25個の在庫がございます」
「じゃぁ、それも全部買おう。
あと一般的な金属素材のインゴットを10個くらいづつ適当に見繕ってくれ」
そうして俺は、購入したものの支払いを済ませ、龍亀の甲羅(大)10枚、水棲魔物の魔法核25個、鉄インゴット10個、銅インゴット10個、オリハルコンインゴット10個を購入し、レガシィのイベントリに収納した。
これだけ購入しても金貨は200枚も減らなかったので、レガシィの荷物室にはまだ大量の金貨が麻袋に入れられて残っていた。
今度リーゼに、状態復元の加護がないイベントリを用意してもらえないか相談してみよう・・・。
買い物後、店員の女性から周辺地域の様子を聞きだすために雑談をしていると、ちょっと気になる情報を聞くことができた。
東の奥にある迷宮の森と呼ばれる樹海から最近ゴブリンとオークが大量に出てきて、群れを成しているというのだ。
その影響で、獣人自治区をはじめとした東側の村から特産品や商品が流れてこなくなってきているらしい。
「ミロス平原に100匹以上のゴブリンとオークが集まっているらしいぞ」
「うちの商隊はつい先日その近くを通ったんだが、そのときは200匹に近かったぞ」
「ゴブリンやオークが我々を襲いに来たりしないよな?」
ちょうど東の方から来たという商人がメイベル商会に来たことも重なり、今店内はその話題でもちきりになっている状態だった。
「昨晩、竜騎兵をやっつけてくれたように、きっと騎士団がゴブリンとオークも退治してくれるさ」
「なんでもクラリス姫様が、凄腕の魔道士さまを連れてきてくださっという噂だぞ」
なんか噂話の矛先が俺達に向きそうな気配を感じたため、そそくさとメイベル商会を立ち去り、噂の真相を確認するために騎士団の詰め所へ寄ってみることにした。
まずフェルトン家の屋敷に戻りレガシィを置くと、俺は一人で歩いて騎士団本部に行ってみることにした。
騎士団本部は、フェルトン家の屋敷よりもさらに丘の上の方にあり、その中庭は多くの騎士たちでごった返していた。
中庭の中央には、昨晩俺らが撃墜したワイバーン(竜騎兵)の残骸や遺留品なども並べられていた。
俺はとりあえず近くに居た騎士に話しかけ、マロウ騎士団長を呼んでもらうことにした。
「マロウ団長の家で厄介になっている魔導器製作者だが、マロウ団長は今どこに?」
「あぉ、あなたが昨晩竜騎兵を倒してくださった方ですか。
マロウ騎士団長は、団長室におられますので、ご案内いたします」
案内役の騎士の後を歩いて、騎士団本部に入る。
団長室は、その建物の3階にあった。
「団長殿、魔導器製作者のお客人をお連れしました」
「おぉ、カオル殿だな。 入ってもらってくれ」
団長室はかなりの広さがあり、部屋の中央には大きなテーブルが置かれ、その上にはフローリアス王国のものと思われる地図が広げられていた。
「どうした、カオル殿?」
「街に行ったら、東の方でゴブリンとオークが大量発生しているという噂を耳にしたので、その真偽を確かめたくてお邪魔した」
噂話の件を切り出すと、マロウさんの表情が翳った。
「まったく次から次へと問題が起こって嫌になるぜ。
たしかに現在ゴブリンとオークが東の迷宮の森からミロス平原にかけて大量発生している。
今、近くで演習中だった第5騎士団を偵察に向かわせているところだ」
マロウさんは、そう言いながらうんざりした表情を浮かべてテーブルの上に足を投げ出すと、俺達に近くのソファーに腰を下ろすよう促した。
「数はかなり多いのか?」
「それを含めて第5騎士団からの報告待ちでな、たぶんもうそろそろ連絡が入るはずだ」
しばらくマロウさんと昨晩の屋敷での出来事などで雑談をし、時間をつぶしていると、第5騎士団からの報告を携えた騎士が部屋に入ってきた。
その報告書を受け取り、目を通したマロウさんの表情がかなり険しくなる。
「どうした?」
「第5騎士団の観測によると、ゴブリン、オーク共に150匹以上で、総勢300匹を超える超団体さんだそうだ!」
マロウさんはそう言い捨てると、報告書をテーブルの上に投げ捨てた。
「とてもじゃないが総勢40人ほどの第5騎士団だけではどうにもならない。
このロイドに駐留している第1から第6まで、全ての騎士団を出さないと話にならない規模だ!」
そう吐き捨てて、マロウさんがいすから立ち上がった時、団長室のドアが開いてクリスが駆け込んできた。
クリスの後ろには、レガ子やリーゼだけでなく、アリシアとミャウの姿まであった。
「それはならんぞ伯父上!」
「クラリスか・・・なんで子供たちまで連れてきた! ここは子供の遊び場じゃないぞ!」
マロウさんの怒鳴り声に、扉の近くにいたアリシアとミャウがビックリして首をすくめた。
アリシアにいたっては、その声が怖かったのか目に涙まで浮かべている。
「緊急事態だったので、彼女達を屋敷に置いてくる暇がなくてな、そこは勘弁してほしい。
それよりもこれを見てくれ、昨晩カオル殿らが飛ばした〝ドローン〟とやらが集めたロイドの周辺情報をレガ子殿が解析したものだが、この3箇所にかなりの数の人間が隠れておるのがわかったのじゃ」
クリスはレガ子がプリントしたと思われるこの周辺の地図を開いてマロウさんに見せ、問題の場所を指で示した。
「レガ子、その分析に間違いはないのか?」
「間違いないの!
念のために、つい今しがたもドローンを飛ばして確認したの。
3箇所とも、今も30人前後の人間が隠れているのっ」
さらにクリスが言葉を続けた。
「ベルドの時も、こんな感じでやつらは近くに潜んでいて、ベルドの侵略を狙っていた節があるのじゃ。
このタイミングでロイドから騎士団が居なくなったら、やつらの思う壺の可能性があるのじゃ」
もしそうだとすると、このゴブリンとオークの大量発生も、帝国が何らかの形で関与している可能性があることになる。
その可能性を危惧した時、さらに決定的な証拠を騎士の一人が団長室に持ってきた。
「竜騎兵の遺留品から、このロイドへの直接侵攻を指示すると思われる一文がある書類が見つかりました!」
「これは・・・」
「決定的だな・・・」
騎士が持ってきた報告を聞いて、俺が漏らした言葉の続きをマロウさんが繋いだ。
こうなってしまっては、迂闊にロイドの騎士団を動かすことはできないだろう。
団長室を重苦しい空気が支配していた。
「団長、どうしますか?」
これは第5騎士団からの報告をもってきた騎士の言葉。
〝どうします?〟の内容は、第5騎士団への増援についてだろう。
「このままゴブリンとオークの軍団を放置した場合どうなる?」
俺は騎士団がゴブリンとオークに対して何も対処をしなかった場合の予測を聞いてみることにした。
「奴らの進軍目的地がどこかにもよるが、どちらにせよ移動途中にある村は虐殺と略奪の地獄絵図になるだろうな。
それでも奴らがこっちに向かってくれれば、城壁の前で迎え撃つ手もある・・・。
しかし・・・」
「ゴブリンとオークの大量発生自体が帝国の関与によるものだとしたら、騎士団を引き付ける囮の役割から考えれば、こっちにはこないだろうな」
俺の出した推測に、マロウさんも頷いた。
となると・・・
「そうなると奴らが向かうのは、ミロス平原から北上するルート・・・つまり獣人自治区だ」
マロウさんが出した予測進路を聞いて、ドアのところに立っていたミャウが震えだした。
「父ちゃん・・・、母ちゃん・・・」
まずいな・・・
下手をするとミャウの心に大きな闇を作りかねないぞ。
「現場にいる第5騎士団と獣人自治区の戦力で対処できる可能性は?」
「獣人族の全部族が結束して戦力をまとめて、そこに第5騎士団が加わってもまず勝ち目は無いだろう・・・」
いつの間にかミャウが俺のすぐ後ろまで来ており、俺の上着の裾を握っていた。
「あんちゃん・・・。
父ちゃんが・・・、母ちゃんがぁ・・・」
目に涙を浮かべてはいるものの、泣き出すことなく、ミャウの瞳は俺の目をしっかりと見ていた。
ミャウにここまで頼られたら、もう俺がやることは決まったも同然だ。
俺はミャウの目を見つめたまま彼女の髪の毛を数回なでると、その視線をマロウさんへと移した。
「ゴブリンとオークは俺が引き受けよう。
悪いが現地にいる第5騎士団を俺に貸してくれないか?」
俺の申し出に驚きの表情を浮かべるマロウさん。
「それはありがたい申し出だが、いったいどうする気だ?
玉砕覚悟の戦闘には大切な部下を貸せないぞ」
俺の頭の中には、昨日レガシィに武装を付けた時にレガ子が言った〝意味のある大量虐殺しかしないの〟という言葉が思い浮かんでいた。
「300匹全部を一気に燃やして片付ける!
燃やし損ないの残飯の整理を、第5騎士団には手伝ってもらいたい」
マロウさんは俺が提案した戦略に目を白黒させたあと、何かを思い出してニヤッと笑った。
多分、夕べ見た気化爆弾の爆発シーンでも思い出したんだろう。
「それなら、第5騎士団の若造らにも何とかなるな・・・。
あの部隊は実によく食う若い騎士が多いから、きっと役に立つぞ」
俺の話を聞いていたレガ子は「ナッパァァムッ♪ナッパァァムッ♪」とかなりうれしそうにしていた。
なんでこの精霊は、こんなにも戦いが好きなんだろうか・・・(汗)。
レガ子「ナッパァァムッ♪ ナッパァァムッ♪ ようやくこっちの弾頭を試す機会がやってきたのっ。 4発動時発射して、この子の実力を隣国(帝国)に示すのっ!」
作者「やばい時事ネタを入れるなっ!(汗)」
クリス「それにレガ子殿、帝国はわが国の隣国ではないぞ。間にはわが国と同盟関係にある共和国が挟まっているのでな」
レガ子「え? 間に違う国が挟まっているにもかかわらず、帝国の竜騎兵はこっちの国まで飛んできているの? 間にある共和国って頻繁に領空通過されていて、存在そのものがまるで空気なのっ!」
作者「まぁ、竜騎兵は高高度を飛んでいるので、どの国でも対処できないのだろう・・・」
レガ子「ふふふふふ・・・・・もうこれはレガ子が空のお掃除をするしかない展開なのっ。血がたぎるのっ!」