第1章 第36話(第43話) ~フェルトン家~
今回はクリスの母親の実家についてと、レガ子インサイト式自動運転の説明がメインですね(苦笑)。
レガ子インサイト式自動運転、我が家のレガシィにも欲しいです。
ところで今回初登場のテオ爺・・・
もしかしたら第2章以降で意外な活躍をするかもしれません(ぇwww
ということで、前回までのおさらいです。
この国がある異世界のこの大陸は、実は伝説の大陸アトランティスだった。
真裏にムー大陸もあるよっ。
帝国皇帝のブラッドさんは、元アメリカ人。
しかもゾンビ好き。
そして、クリス、アリシア、ミャウの3人が友情を確かめ合った。
(キマシタワー)
「ではカオル殿、フェルトンの屋敷に向かうとしようか」
クリスの提案にしたがって、移動のために子供たちをレガシィの後部座席に乗せる。
そして俺が運転席に向かおうとしたところで、レガ子に声を掛けられた。
「薫さま、お屋敷に着いたらレベルアップの操作をしちゃいたいので、よろしくなのっ」
そういえば、このクルマに武装を付けるとか言っていたよな。
いったい俺の愛車がこの先どうなっていくのか、期待と不安で一杯になるのだった。
王国軍の騎馬兵による先導で、大通りを通行していた住人らを道路の端にどかしながら、俺たちを乗せたレガシィは徐行速度のゆっくりとした走りで、クリスの母親の実家であるフェルトン家の屋敷へ向かっていた。
徐行速度のため、マニュアルミッションのクルマだと、クラッチを頻繁に踏んで速度とエンジン回転数を調整しないとエンストしてしまうため、クラッチを操作している左足が辛くなってきた・・・(汗)。
街中をクルマという珍しい乗り物が通っている事もあるのだが、その中にこの国のお姫様であるクリスが乗っていることが噂によって伝わってしまったらしく、大通りの沿道はクリス目当ての住民が徐々に増えてきていた。
時おり聞こえてくる「クラリス姫様ぁ♪」という声援も多くなってきており、まるでパレードの様相を呈し始めてきていた。
こんなにも沢山の視線に晒された中で、エンストなどしてしまった時には、あまりの恥ずかしさで精神的に死ねるかもしれない。
「薫さま、大変そうだからレガ子が運転引き受けるの」
俺の頻繁なクラッチ操作を見かねたレガ子が、そんな提案をしてくれた。
そういえば前回のレベルアップ時にレガ子専用シートを装着した事で、レガ子にもレガシィの運転操作が出来るようになったのだが、具体的にはどうやって運転しているんだ?
レガ子シートにはペダルもハンドルも無いんだが・・・。
「レガ子はどうやってクルマを操作しているんだ?
3ペダルだけじゃなくて、ハンドルもそっちには無いよな?」
「この子はレガ子の身体みたいなものなので、〝操作〟は必要無いの。
人間が身体を動かすのと一緒で、この椅子に座って意識するだけで好きなように動かせるの」
某歌う宇宙戦争アニメに出てきた戦闘機の脳波操縦システムみたいなものなのか?
実際にレガ子が運転している様子を見ておきたかったこともあり、俺は素直に運転を代わってもらうことにした。
「じゃ、俺はこのままペダルから足を離せばいいのか?」
「複座式座席での操縦の移譲は、ちゃんと様式美を守って欲しいの」
え?
車の運転で、あの掛け声をやれと?(汗)。
「マジでか?」
「マジでなのっ!」
レガ子って、変なところで中二病的なこだわりを発揮する事があるよな・・・。
まぁ、そういった部分が可愛いのだが。
俺は小さくため息をつくと、レガ子の要望に付き合ってあげることにした。
「You have control.(ユー・ハブ・コントロール)」
「I have control.(アイ・ハブ・コントロール)なのっ♪」
レガ子がそう宣言した途端、握っていたハンドルの抵抗が無くなった。
まるで、路面フィードバックが付いているハンドル型ゲームコントローラーを使っている最中に電源が切れたように、ハンドル操作に重さがなくなったのだ。
レガ子が言うには、クラッチやブレーキの油圧シリンダーも、この状態の時にはペダルの操作にはまったく反応せずに、レガ子のイメージに合わせて適切な動きをしているのだという。
「これは驚いた・・・。
アイ○イトの自動ブレーキすらも搭載していない旧式のBH型レガシィが、まさか一足先に自動運転を獲得してしまうとは・・・」
不完全なAIとかではなく、妖精(精霊)さんそのものをインサイトしたことによる完璧な自動運転システム。
これなら〝やっちゃえ○産〟のキャッチコピーで自動運転をやたらとアピールしているあの自動車メーカーもビックリする事だろう(苦笑)。
しかも、好きなときに手動運転に戻してマニュアルミッションでの運転も楽しむ事ができる。
これはクルマ好きの人間にとって、まさに理想的な自動運転システムではないだろうか?
運転をレガ子に代わった事で余裕が出来たため、後部座席の様子を見てみることにした。
実はクリスの姿を見るために集まった住民が沿道に増えてきた時、俺は後部座席の窓ガラスを下げて、沿道の人たちが車内にいるクリスの姿を確認できるようにしていたのだ。
そのクリスは、最初こそ「余計な事をしおって・・・」と俺に文句を言っていたが、今は後部座席の中央から左右の沿道に向かってにこやかに微笑みながら手を振って応えていた。
その姿は、たしかに国民に愛されている姫様そのものだった。
ちなみにクリスの左右に座っていたアリシアとミャウは、そんなクリスと住民らからの視線に挟まれて、かなり引きつった笑顔を浮かべていた。
うん、二人の気持ちは良く分かるぞ。
おれもアニメ絵のカッティングシートが施工してあるこのレガシィが、王室パレードの中心にいることに違和感しか感じていないからな(汗笑)。
住宅街を過ぎた頃を見計らい、これから向かうフェルトン家の屋敷について、少しクリスに尋ねてみることにした。
「フェルトン家って貴族様のお屋敷だから、この丘の上にあるんだろ?
クルマが登っていける道があるのか?」
「軍施設への資材なども運ぶための大きな馬車道があるので心配は無いぞ。
まぁ、馬車だと馬であの坂を登るのが一苦労なんだがな・・・」
坂道の勾配はさほど急なものではなく、どちらかといえば緩いくらいなのだが、それがかなりの距離にわたって続くため、荷馬車を引く馬にとっては大変な重労働なのだろう。
「フェルトン家についたら、明るいうちにこのクルマの状態をチェックしておきたいので、そのための場所が欲しいのだが、大丈夫か?」
「場所は馬車などを置いておく正面玄関前の庭を好きに使ってかまわん。
屋敷の主である伯父上は仕事でしばらくは帰ってこんからな、我がアリシア殿やミャウ殿を連れて侍従長に挨拶をしておく。
だからカオル殿は屋敷に付いたら好きにしてくれてかまわんぞ」
「マロウさんの奥さんとかに挨拶しておかなくていいのか?」
「伯父上は独身じゃぞ。
あの戦好きで騎士道一筋に驀進中の伯父上が、女性と出会ったり、色恋沙汰の最終到達点である結婚など出来るはずなかろう。
少し離れたところにある別邸に祖父母はおるが、今から行く屋敷には、今は侍従長を含めた使用人しかおらんはずじゃ」
10歳の姪っ子にここまでボロクソに言われるマロウさんの立場って・・・。
「今晩には、おそらく祖父母もこっちの屋敷に来るじゃろうが・・・
リーゼ殿は気をつけられろよ」
「え? 何がですかぁー?」
突然話しを振られたリーゼがビックリした様子でクリスの方を振り返った。
「リーゼ殿のような年頃で、見目麗しい女性が屋敷におるんじゃ、祖父母が伯父上との縁談を絶対に薦めてくるはずじゃからな。
最近は祖父母から母上に届く手紙の内容のほとんどが、〝アレの相手に良い娘さんは王都に居ないか?〟だったからのぅ・・・」
予想外の内容に、リーゼの笑いが引きつった。
彼女の正体が女神という事もあるが、リーゼは基本的に人間を含めた生物への愛情というのが理解できていないみたいだからなぁ。
それがいきなり〝結婚相手どうよ?〟と言われても、もはや彼女の理解の範疇を超えているだろうな。
「わたし、男性の方に興味は無いのでぇ・・・」
かろうじてそう返したリーゼの言葉に、後部座席にいた娘っ子たちの表情が今度は引きつった。
「ま、まさか、リーゼ殿は同じ女性に愛をささやく同性愛者・・・」
「え? ええっ?
ち、違いますよぉ。違いますからねぇ~~っ!」
娘っ子たちのものすごい誤解に、リーゼがさらにテンパっていた。
俺は笑いを堪えながら、リーゼに助け舟を出してやる事にした。
「実はリーゼはそもそも人間不信みたいなものなんだよ。
だから、人付き合いそのものが苦手なんだ」
「そ、そうだったのか。
リーゼ殿、妙な誤解をしてしまいすまなかった」
クリスと同様に、アリシアとミャウも「ごめんなさい」とリーゼに謝っていた。
「あ、別に謝らなくてもいいんですよぉ。
薫さんの表現は正確ではないのですが、似たような状態であるのはたしかですし。
わたしは皆さんとの旅で、少しでも人間の事を理解したいと思っているだけですからぁ」
「薫さま、どうやらお屋敷に到着したみたいなのっ」
先導役の騎兵の後を走っていたレガ子がそう告げたので周囲を見回すと、レガシィは大きなお屋敷の門をくぐるところだった。
噴水がある中庭の先に見えるお屋敷のあまりにも立派なつくりに、初めて目にするアリシアとミャウも「はぁぁぁ」というため息しか出てこなかった。
俺たちを屋敷まで案内し終えた騎馬兵の人たちは、クリスに一礼すると、本来の仕事に戻るためにその場を立ち去っていた。
そして屋敷の入り口の前には、執事服を着た初老の男性が直立不動の姿勢でこちらを見ていた。
あの人が侍従長さんなのかな?
レガシィを中庭の端っこに停めた俺は、全員を連れてその男性のところへと歩いていった。
「クラリスお嬢様、お帰りなさいませ。
そしてご友人の皆様、フェルトン家へようこそ。
ただいま主は不在ですが、わたくし侍従長のテオが責任を持って、皆様を歓迎させていただきます」
テオと名乗った侍従長さんが、丁寧な物腰で我々を向かい入れてくれた。
「テオ爺、堅苦しい挨拶はなしじゃ。
カオル殿たちは、明るいうちにあの乗り物のチェックをしたいらしいので、屋敷の中へは後ほど入るそうだ。
まずは我とこの娘たちだけでも湯浴みと、着替えをさせてもらえんか?」
「かしこまりました、お嬢様。
ではご友人のお嬢様がたもこちらへ。
カオルさまがたは、御用がございましたら、屋敷に居るメイドなどに遠慮なく御用をお申し付けください」
そう言った侍従長に案内されて、クリスたちが屋敷の中に消えていった。
屋敷の玄関をくぐる時に、クリスが「後でなっ」と言って、手を振りながらウィンクをしていたのが可愛かった。
「最近、薫さまはクリスちゃんにデレデレしすぎだと思うのっ!」
そんな俺を目ざとく見ていたレガ子が、理不尽にもそんな抗議をしてきた。
俺としては別にクリスだけを特別視しているつもりは無いんだが・・・。
「薫さんは真性のロリコンだと思いますから、仕方が無いかと~~」
おい、リーゼっ。
そのフォローになっていないフォローは、何の仕返しだよっ。
俺はそんな二人を無視してレガシィのところに戻ると、後部ハッチを空けてイベントリから整備用の寝板を取り出した。
深夜0時に状態復元の加護によって破損すらも自動修復されるため、実際に整備をする必要はないのだが、荒地を200キロ近くも走った事により受けた下回りのダメージを自分の目で見ておきたかったからだ。
「で、レガ子は具体的にはどんな武装をこのクルマにするつもりなんだ?」
「とりあえず、コレとコレを装備しようかと思っているの」
レベルアップで可能になるレガシィへの装備リストが表示されたタブレットを持ってきて、その候補を指で指し示すレガ子。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁ!」
そこに載っていたのは、クルマの装備とはまったく程遠い内容だった。
レガ子「自分で身体(車体)を動かせると便利なのっ♪」
作者「まさに〝異世界で実現!自動運転の最終形!!〟って感じだからなぁ」
レガ子「日○なんかには負けないのっ!」
リーゼ「なんか今回、わたしの扱いが・・・」
薫「通常どおりだと思うぞ?」
全員「「「うん」」」
リーゼ「しくしくしくしく・・・・」