第1章 第35話(第42話) ~アトランティスとムー~
今回は、主人公らが女神によって連れてこられたこの異世界と元の世界の関係について、新しい事実が少しだけ明かされます。
ファンタジー系の世界においてあまりにも有名なこの2つの大陸の名前を出すのは、当初は少しだけためらわれたのですが、せっかく〝双子世界〟という都合のよい設定を設けていたので活用してみました(苦笑)。
あと、敵国の皇帝であり、主人公と同じ世界からの来訪者であるブラッドさんについても、少し設定を公開してみました。
ということで、前回のおさらいです。
クリスの叔父が登場!
主人公と叔父(騎士団長)が一触即発!?
ロイドへの入場を許可される。
レガ子の運転(専用シートができたことで、ある程度ならレガ子だけでレガシィを動かせるようになったらしい)により、子供たちとリーゼを乗せたレガシィが徐行速度で移動し、騎士団長の案内で歩く俺に続いてロイドの城門をくぐった。
城壁の中には、ベルドの町並みに良く似た木造と石造りの複合建築の建物が並んでいた。
ただその造りは、ベルドのものよりも洗練されている印象を受けた。
完全に門をくぐり、街の中に入ったところで、前方を歩いていたクリスが振り返り、笑顔でこう宣言した。
「ようこそ、我が母上の故郷ロイドへ!
母上の実家であるフェルトン家をあげて、皆を歓迎させていただこう!」
どうやらこの街は、クリスの母親の実家がある街だったようだ。
その後、俺らはロイドの城壁門近くにある役場において、住民票としても使える身分証明を作ってもらうことになった。
まずは人族である俺とリーゼが登録を済ませ、今はアリシアやミャウ、そしてレガ子が登録のための手続きを行っている。
ベルドの町で町長さんに頂いた証明書と違い、立体的な王国の紋章が入った立派なもので、薄赤い色をした不思議な素材で出来た板チョコサイズのプレートだ。
同じプレートを手渡されたリーゼが「オレイカルコス製ですねぇ~~」と呟いたのが聞こえた。
「そのオレイカルコスってなんだ?」
「薫さんが居た世界では〝オリハルコン〟と呼んだ方が分かり易いでしょうかぁ。
あちらの世界で大昔に居た学者さん・・・たしかプラトンさんだったかなぁー。
そんな名前の人がお書きになった書物〝ティマイオス〟と〝クリティアス〟の中に〝オレイカルコス〟という物質の事が書かれていたはずですよぉ。
あの頃は、この世界とあちらの世界は、強力な魔術者が境界面をつなげば二つの世界を行き来する事が出来ましたからねぇ~~
その時に、こちらの物質がいくつかあっちにも伝わりましたからぁ」
相変わらず、リーゼは話し方が間延びしていて、ポンコツ度が高いな・・・。
会話をしていると、無性に手刀を入れたくなってくる。
具体的には延髄の辺りに・・・。
ふいに、以前クリスからこの大陸の名前である〝アトラータ〟という単語を聞いた時に感じた疑問を思い出した。
「リーゼ、この大陸って・・・もしかして俺の居た世界で伝説扱いになっている幻の大陸〝アトランティス〟だったりするのか?」
「大~正解~~です♪」
なんてこった・・・。
多くの伝説では、アトランティスは天変地異で海に沈んだことになっているが、真実は大昔にこの世界で起こった魔導器暴走という人為的災害によって二つの世界が完全に分断され、それによって行き来が出来なくなったということだったらしい。
「ということは、こっちの世界にも俺が居た世界についての伝説とか残っているのか?」
「う~~ん、どうでしょう・・・。
今のこの世界についてはあまり詳しくないから断言は出来ませんが、あの時代の薫さんの世界って、こちらの文明よりもかなり劣っていましたからねぇ。
しかもこの大陸の文明は、あの災害で徹底的に破壊されてしまいましたから、あまりたいした伝承は残っていないかもしれませんよぉーー」
これからの旅のついでに、立ち寄った先々でそういった残された伝承を探してみるのも面白いな。
「ただ、魔族の国まで行くことが出来れば、少しは当時の痕跡が残っているかもしれませんねぇー。
あの当時は、魔族の方々が一番熱心に薫さんの居た世界に渡って交易をしていましたからぁー」
「魔族なんてのが居るのか!?」
「薫さんの世界で伝説になっている生き物は、たいていこちらに居ますよぉ。
この大陸にもゴブリン、オーク、リザードマンなどといった魔物系の生き物から、ドラゴンを筆頭にワイバーン、グリュプスなどといった龍種なんかもいますからぁー」
「幻想生物のオンパレードだな・・・(汗)」
「唯一、出会うのが難しいのが天使族かもぉ。
あの種族は、大昔の大災害のときにその大半が死んでしまい、残ったものの多くも肉体が変化してエンシェントエルフになってしまいましたからぁ。
絶滅はしていないはずですが、その数はほんの僅かのはずですねぇー」
エンシェントエルフという単語を聞き、先祖がえりによってそのエンシェントエルフとして生まれてきたアリシアの方を見た。
彼女はまだ登録作業の真っ最中で、俺の視線に気が付いて小さく手を振ってくれていた。
「ちなみに魔族って言うのは、どこに住んでいるんだ?」
「薫さんの世界には、このアトランティスのほかに、もう一つ伝説になっている大陸がありませんでしたかぁ?」
「まさかムー大陸か?」
「そのまさかでぇ~~す。
実際には、薫さんの世界での伝説ほど巨大な大陸ではないのですが、この惑星のほぼ反対側に、その魔族が主に住む大陸がありますよぉ」
「こっちの大陸との交流は無いのか?」
「まったく無いわけではありませんが、魔族さんたちも大災害の影響で出生率が極端に落ちていて、自分たちの種の存続で手一杯みたいですからねぇー」
リーゼの説明によると、この世界の生き物大なり小なりマナ暴走の影響受けており、マナそのものが生命力になっていた天使族を筆頭に多くの種族が未だに何かしらの問題を抱えているのだという。
その中でも人族は、比較的マナに対して鈍感だったのが幸いし、肉体に大きな影響は受けなかったが、大災害前ほどの魔力は使えなくなってしまったそうだ。
「しかし魔族が住んでいるのは海の向こうなのか・・・。
さすがにレガシィでは行けないよなぁ」
「薫さんが私との約束を果たして、帝国の野望を阻止してくれたら、あのクルマに海を渡る能力を付けてあげてもいいですよぉー」
魔族の住処が別大陸と聞いて行くのを諦めかけていた俺に、リーゼがそんな提案を出してきた。
「そんな事が可能なのか?」
「薫さんの世界のスパイ映画に出てきたクルマみたいに海の中を動けるようにしたり、タイムマシンのクルマみたいに空を飛べるようにすればいい訳ですよねぇ?
ならば、女神の力を使えばそんなに難しい事ではありませんよぉ~~」
リーゼが無い胸を張って「私って凄いっ?」とドヤ顔を決めている。
あぁ、無性に手刀を入れたくなってくる。
具体的には延髄の辺りに・・・
「薫さん、何か失礼な事を考えていませんでしたかぁ?」
「ソンナコトハアリマセンヨ・・・(汗)」
しかし俺の愛車がボ○ドカーやデロ○アンみたくなるわけか!?
それはとても魅了的なご褒美だっ。
まぁ、今でもすでに俺の愛車は一般的なクルマの常識を外れてはいるんだけどね・・・(苦笑)。
俺とリーゼが世界のありようについて情報交換をしていると、身分証明を受け取ったレガ子とちびっ子らが戻ってきた。
「薫さま、このプレート大きくて邪魔なのっ。
なので薫さまに預かっていてほしいのっ」
あぁ、たしかに身長が40センチほどのレガ子には、板チョコサイズのサイズのプレートは邪魔だよな。
俺のサイズで例えるなら、大きなベニヤ板を持ち歩いているようなものだからな(苦笑)。
レガ子から彼女の分の身分証明プレートを預かる。
ちびっ子たちの方を見ると、クリスがアリシアとミャウになにやら話しかけていた。
「アリシア殿とミャウ殿に、きちんと話しておきたい事があるので、我ら3人少しだけ席を外しても良いか?」
どうやらクリスは自分の正体について、きちんと彼女たちに話しておく気持ちになったようだ。
なのでおれは「ここで待っているから、ゆっくり話し合って来い」とその背中を押してやった。
お前たちは、もうちゃんとした親友だと思うから、きちんと話せばクリスの気持ちはきっと伝わるさ。
頑張って来い!
クリスらが居ない間に、リーゼからもう少しだけこの世界の情報を聞きだしておくことにした。
「元の世界とこっちの世界は、もうその境界面とやらは繋がらないのか?」
するとリーゼは少しだけ考え込み・・・
「人間が持つ魔力では、もはや境界面に影響を及ぼすのは不可能だと思いますぅ。
魔族の力でも、小さい穴を作るのがやっとじゃないでしょうかぁ。
ただ・・・」
「ただ、なんだ?」
「時折、自然に境界面に綻びが生まれて二つの世界が接してしまう事が起こるんですよねぇー。
そうした時に、ごく稀にですが人や生き物が世界間を移動してしまう事があるようで・・・」
それはつまり・・・
「俺がいた世界で言うところの、行方不明者ってやつだな」
まぁ、俺も元の世界での扱いはそうなりつつあるんだけどね。
「そして、こっちの世界では〝稀人〟見たいな扱いになるのかな?
この先旅をしていて、そうした〝稀人〟に出会える可能性はあるのか?」
もし、こっちの世界で生活を確立している同郷者が居るのであれば、ぜひ話を聞いてみたい。
しかしリーゼから帰ってきた返事は、そんな期待を裏切るものだった。
「なかり難しいでしょうねぇ~。
薫さんは私が移動させましたから、比較的安全な場所に出現する事ができましたが、自然災害的に世界を移動してしまった人はどこに出現するかが予想できませんよぉ。
この惑星の面積比から言えば、海に落ちてしまう可能性がかなり高いですし、運良く陸地に出現できたとしても、何も装備が無い状態であればすぐに命を落としてしまうでしょうねぇ」
自然移動の場合、街中を歩いていたと思ったら、次の瞬間は海の中・・・っていう可能性もあるのか。
そうなってしまったら、ほぼ確実に溺死してしまうだろうな。
俺も、この世界に移動したときに、レガ子や愛車が一緒でなかったらどうなっていた事か・・・(汗)。
「となると、一番最初に出会う同郷者が、一番の敵である可能性がかなり高いわけか・・・」
魔導帝国の皇帝ブラッド。
彼は、いわば俺の前任者として女神がこの世界につれてきた、あちらの世界で生まれた人間だ。
こっちの世界に連れてこられたのは30年前らしいから、インターネットとかの情報網が無い時代の人間だ。
なので、彼がこちらの世界に持ってこれた技術や情報は、当時ブラッドがあちらの世界で学んでいた知識に限られるはずだ。
「ブラッドの奴はどの国の出身で、リーゼがこっちに連れて来た時は向こうで何をやっていたんだ?」
「アメリカ合衆国という国ですねぇ~。
当時は高校生で、アメリカンフットボールとか言うスポーツの有力選手でしたぁ」
ぐあっ、マッチョマンの体育会系かよ。
しかも、あの国で生まれ育ったとなると、銃器とかの基礎的な知識は持ってきている可能性があるか・・・。
「リーゼが奴に与えた加護の能力は、魔法の能力全般だったっけ?」
「魔法を使いまくって、さらに肉弾戦で戦うのを、かなり楽しんでいましたねぇ~~」
ああ・・・あの国の人間というならば、なんとなくその様子が想像できるよ。
きっとアメリカンコミックに出てくるヒーローにでもなった気分だったんだろうな。
奴はリーゼからの依頼を達成した後、何を思って自分が襲った帝国を纏め上げ、しかも危険だと知っている魔導器を復元しているのだろうか。
「リーゼは、ブラッドの性格とか趣味とか好みとか、なにか情報として覚えている事はないのか?」
「う~~ん、俊敏性と潜在的な戦闘能力、それとファンタジー好きという条件だけで適当に彼を選んだので、事前情報はまったく集めていなかったんですよねぇ~~」
おぃ・・・
ちょっとブラッドの奴が不憫に思えてしまったぞ。
「ただ、やたらとゾンビ映画が大好きだったような記憶がぁ~~」
「ゾンビねぇ・・・」
ゾンビが好きなのは、アメリカ人だとデフォルト設定のようなイメージがあるからなぁ・・・。
「ちなみに、この世界にゾンビは居るのか?」
「居ませんよぉ~~。
死んだ後も動き回られたら、貴重なマナが世界に循環しないじゃないですかぁ~~」
それは良かった。
俺はホラー系は嫌いなんだよ(汗)。
「レガ子もホラーは苦手なの・・・」
お前の戦い方はスプラッタ系だけどな・・・と思ったが、それは口に出さないでおくことにした。
しばらくすると、ちびっ子3人が仲良く手をつないで戻ってきた。
どうやらクリスの心配は杞憂に終わったようだ。
2人に手を繋がれて真ん中を歩いているクリスの顔を見ると、うっすらと涙の後らしきものを見ることが出来た。
「カオル殿、なぜ我の顔をみてニヤニヤしておるのじゃ」
俺の視線に気が付いたクリスが、照れたようにそっぽを向いた。
「べつにぃ~~(ニヤニヤ)」
「っ!!」
そんな俺の返しに怒り出しそうになったクリスの頭をクシャッと撫で、「友達のままでいられて良かったなっ」と声を掛けてやる。
「う、うむ・・・」
顔を赤くして照れているクリスの表情が新鮮で可愛い。
そんなクリスの首に、隣に居たミャウが抱きついた。
「たとえお姫様だったとしても、クリスちゃんはミャウの大好きなお姉ちゃんだにゃん♪」
「そうです。
クリスちゃんは、すでにアリシアの大切なお友達です」
反対側にいたアリシアも、ミャウの言葉に続いて自分の気持ちをクリスに伝えていた。
そんな2人に、クリスは真っ赤になりながら「ありがとう・・・なのじゃ」と返事をするのが精一杯の様子だった。
「姫様・・・クラリスはその立場上、どうしても同年代の友達が出来なかったようなのでな、お二人との交流は彼女にとっても良い経験になるであろう」
3人の様子を眺めていたマロウさんが、そんな事を言いながら俺に近づいてきた。
彼がクリスの姿を追う目は、かわいい姪っ子の姿を眺める伯父のものになっていた。
「ただなクラリス・・・分かっているとは思うが、王宮内や他の貴族らの前では気をつけろよ。
貴族どもの中には、人種以外の種族を軽蔑視している輩も多いからな」
あぁ、やっぱそういった種族による差別意識が人間の側にあるのか。
しかしクリスはそんなマロウさんの注意を気にする事もなく「言いたい輩には、好きなだけ言わせておけばよい」と、躊躇することなく言葉を返した。
「それにな・・・
いずれアリシア殿もミャウ殿も、我と一緒にカオル殿の妻になるのだからな。
同じ男性の伴侶同士、仲良くしていても問題なかろう」
「ぶっ・・・」
クリスの爆弾発言に吹き出した俺を見るマロウさんの目が、城門でのやり取りのとき以上に鋭いものになっていた。
「ほぅ・・・カオル殿には、そのあたりの経緯を、後ほどじっくりとお聞かせ願いたいな」
「お、お手柔らかにお願いします・・・」
マロウさんの尋問をどう切り抜けようか・・・。
俺は心の中で冷や汗を流しながら、このピンチの回避方法を考えるのだった。
「さて伯父上、そろそろ皆をフェルトンの屋敷に案内したいのじゃが」
「屋敷には先ほど連絡を入れておいた。
わたしはまだ詰め所に仕事が残っているので一緒に行けないが、先導をする兵を置いていくので、クラリスに案内を頼めるか?」
「了解したのじゃ。
少し相談したい件があるのじゃが、伯父上は今日は屋敷に戻れるのじゃろ?」
「可愛い姪っ子が来ているんだ、仕事が溜まっていたとしても副官どもに押し付けて帰るさ。
相談というのは、なんだ・・・個人的なことか?
それとも仕事的な話しか?」
マロウさんが、〝個人的〟な部分で一瞬だけ俺の方を見たような気がするが、気が付かなかった事にしよう。
「残念ながら仕事的な話しの方じゃっ!
それと、少しは副官たちを労ってやれよ。
たしかジェイク殿は新婚ホヤホヤではなっかたか?」
「ちっ、我が姪っ子ながら色気の無い奴だな。
妹がお前くらいの頃は、恋の話ばっかりだったというのに」
「万年少女時代の母上と一緒にせんでくれ。
王都の屋敷では、未だに父上との恋する少女のようなイチャラブっぷりを毎日のように見せ付けられていて、その手の話には食傷気味なのじゃ」
王都にある自宅での両親の様子を思い出したのか、クリスが心の底からウンザリしたような表情を見せた。
そんなクリスを見て、マロウさんは「あははは、あいつららしいじゃないか!」と豪快に笑っって、この場を部下の兵士らに任せて立ち去っていった。
しかし、10歳の娘にウンザリされるほど夫婦仲が良い王様と王妃様って、どんな人たちなんだろうか。
「ではカオル殿、フェルトンの屋敷に向かうとしようか」
クリスの提案にしたがって、移動のために子供たちをレガシィの後部座席に乗せる。
そして俺が運転席に向かおうとしたところで、レガ子に声を掛けられた。
「薫さま、お屋敷に着いたらレベルアップの操作をしちゃいたいので、よろしくなのっ」
そういえば、このクルマに武装を付けるとか言っていたよな。
いったい俺の愛車がこの先どうなっていくのか、期待と不安で一杯になるのだった。
レガ子「今回は女神様の台詞がやたらと多かったのっ」
作者「どのように台詞を書けば、リーゼのポンコツ口調が伝わるのか未だに把握できず、試行錯誤してしまったよ・・・」
リーゼ「あのぉ・・・普通に書いていただければいいのではないかとぉ・・・」
作者「だめだ!
リーゼの声は、俺のイメージの中ではぜひとも藤野らん様にお願いしたいところなんだ。
なので、やはりポンコツ全開のしゃべり方を追及しないとっ!」
レガ子「でも、女神さまが登場してからもうけっこう話が進んじゃいましたから、急に口調が変わるのは変だと思うのっ」
作者「なので、リーゼにはよりポンコツになるためにも、話の途中で身体にある変調を起こしてもらうことにした!(ぇwww」
リーゼ「い~~~やぁ~~~~」
クリス「果たしてリーゼ殿の運命やいかに!?
第2章あたりでのリーゼ殿の活躍(?)にご期待ください」