第1章 第33話(第40話) ~城壁要塞都市ロイド その1~
今回は珍しく同じサブタイトルのお話の分割です。
ロイドの街に入場するまでが、思っていた以上に長くなってしまったため、(たぶん)2回に分けることにしました。
ということで、前回までのおさらいです。
メイベルさんの商隊が襲われている現場に遭遇。
救援のために戦闘に介入。
襲撃者を撃退し、お礼に高級なお酒(リーゼ用)をもらう約束をする。
修理した馬車で先に出発したメイベルさんらを追いかけるようにレガシィで走り出した俺たちは、すぐ馬車に追いつき、追い越すと、そのまま次の村を通過してロイドの街を目指した。
ロイドの隣村を通り過ぎているので、街までの距離は40キロもない。
もはやのんびりと走っても夕暮れ前には到着できると判断し、俺はレガシィのアクセルを緩めて時速30キロ程度でゆっくりと走ることにした。
「このくらいの揺れが、乗ってってちょうどいいの」
「ボクは、さっきみたいな激しい揺れでも楽しかったにゃ♪」
メイベルさんの救援に駆けつけるために、この悪路を時速70キロ以上で走った時に、激しい揺れや高速ジャンプを体験したアリシアが疲れた口調でつぶやいた。
今は走行速度が落ちて、いつもの快適(?)な揺れに戻ったことに安堵している様子だった。
しかし行動派でお転婆のミャウは、あの揺れを存分に楽しんでいたようで、機会があったらまたかっ飛ばしてほしいなどと過激なことを言っていた。
「いや・・・我もあの激しい走りが長時間続くのは勘弁願いたいのじゃ。
あれは馬車で飛ばすのより遥かに早すぎて、さすがに怖かったぞ」
クリスは揺れそのものよりも、馬車では体験したことのないスピードに恐怖を感じていたようだった。
「このクルマという移動用魔導器が、あんなにも速く走るものだとは思わなかったぞ」
「う~~ん、道の表面がもっときれいに慣らされていれば、あの2倍や3倍以上のスピードは出せるんだけどなぁ・・・」
「えっ? そんな速度など、人間が乗っていられるわけがないじゃろう」
「いやいや、普通に乗っていられるからな。
ただ、事故った時が怖いけどな・・・」
おそらく地上の移動手段としては馬の早足より早い乗り物がないこの世界の人には、時速100キロとか200キロでの移動とかは、きっと想像すらもできないのだろうな。
先ほどの戦闘でやや重くなってしまった車内の空気を軽くするため、俺はカーオーディオの電源を入れ、先ほどまで流していたアニメソングやエロゲ主題歌が詰まったSDカードの続きを再生することにした。
アニソンのリズムやノリは異世界の子供達にも好評のようで、アキバ系オタクな趣味を持つ俺としては、結構うれしかったりもしている。
なにせ元の世界だと、いい大人がアニメソングなどを聴いていると、他の大人たちは白い目で見るし、最近の子供達は怪しい人扱いで逃げていくからなぁ・・・。
俺が好きなアニメそのものや、」アニメ好きな人間に対する偏見がないのは、異世界といえ素直にうれしいものだ。
ふと隣を見るといい大人のはずのリーゼまで、ノリノリでアニソンを歌っている。
「ちょっとまてリーゼ。
なんで元ネタを知らないはずのお前がそんなに流暢に歌えるんだ?」
「お仕事中、暇な時間があると薫さんの世界のネットにつないで、ニヤニヤ動画とか良く見ていましたからっ♪」
おい女神さん。
神様のお仕事って、そんなに楽で時間が余っているものなのですか?
というか、仕事中にそんな事をしているから、ミスが多いんじゃないのか?(汗
「ちなみに私、歌ってみた系に投稿したこともあるんですよっ♪」
「ぶっ!
あ、アカウント持っているのかよっ!!」
「薫さま、たぶんそこは突っ込んだら負けのような気がするの・・・」
おそらく俺と同じような視線でリーゼのことを見ていたレガ子の呟きに激しく同意する。
あっ、でもあとでリーゼのアカウントネーム教えてもらって、その投稿したという歌って見た系を聴いてみたいかも。
彼女の声質や隣で歌っている歌声からから想像すると、本気で歌ったらかなり上手なのではないだろうか。
「そういえば薫さま、先の戦闘での反省を踏まえて、この子に武装を施そうと思っているのっ」
え?
さっきの戦闘で、レガ子の攻撃に反省すべき部分なんてあったか?
ファイヤーアローによる見事な面制圧で、強いて言えば完全なオーバーキルだったことくらいしか思い浮かばないぞ。
「レガ子の攻撃は、火力、タイミング共に完璧だったろ?」
「何かイベントが起こるたびに、レガ子が外に出て魔法の発射準備をしていたのでは、時間の無駄が多すぎるのっ」
戦闘の発生をイベントとか言うなっ(汗。
「どうせなら走っている最中でも攻撃が出せるようにすれば、現場の到着までに敵を減らせるし、その分だけ薫さまへの危険も減るのっ」
「たしかにレガシィで走りながら攻撃ができれば、俺も楽ができて助かるけど・・・そんな便利な武装がクリエイトできるのか?」
「ふっふっふっふっ・・・午前中にこの〝レガ子シート〟装着による追加機能を調べていたら、いくつか面白いモノを見つけたのっ。
なので、次回のこの子のスキルポイントは、少しだけレガ子に使わせてほしいの」
レガ子の笑い方が怖い・・・・。
きっと何か危険なおもちゃを見つけたに違いない・・・(滝汗)。
「すでにこの世界での走行に必要な変化はおおかた終わらせたしな。
こいつはレガ子の本体でもあるわけだし、これからはレガ子が中心になってスキル配分を決めてくれてもいいぞ」
「この子はあくまでも薫さまの愛車なのっ。
だから、この子の進化は、薫さまに決めてほしいのっ」
「そっか、わかった」
こいつは、俺が直接整備をしながら10年以上も手をかけてきた愛車だ。
なので、こいつに宿った精霊(八百万の神様)であるレガ子にそう言ってもらえると、やはりうれしくなってしまうから不思議なものだ。
「あっ、でも・・・もうちょっとこの子のレベルが上がったら、ものすっごい武装が使えるようになるから、その時に備えてスキルポイントを貯めておいてくれると嬉しいかもなのっ」
あぁ・・・なんだろう・・・。
その〝ものすっごい武装〟と言う言葉に,嫌な予感しかしないんですが・・・。
そのうち、帝国が蘇らせようとしている古代の魔導器よりも、このレガシィの方が危険視されないといいのだが・・・(汗)。
「おっ、ロイドの城壁が見えてきたようじゃ」
レガ子とそんな打ち合わせをしていると、後部座席のクリスが前方を見てそんなことを言った。
あらためて前方を見直すと、小さな森の木々の向こうに巨大な塔のような人口建造物が見え隠れしていた。
やがてクルマが街に近づくにつれ、ロイドの全体像が見えてきた。
ロイドの街は、自然の丘や崖などを城壁の一部としてそのまま取り込んだ街で、城壁の内部にある崖や丘の上に城のような要塞風の建物がいくつも並んでいるのが、城壁の外側からでも見えた。
この部分だけを見ると、元の世界のイタリアにある崖の上の城塞都市オルヴィエートにも似ている印象を受ける。
城壁の外周は、ベルドの3倍か4倍ほどはありそうな感じがする。
住民が住む町の建物は城壁内の丘や崖の下側に密集しているようだが、その様子は高い城壁に隠されていて見ることができない。
「かなりデカイ街なんだな」
「城壁全体はかなりの大きさだが、内部の大半が丘や崖になっていて、しかもそのほとんどが軍関連の施設で占められておる。
なので街の住民の規模は、ベルドの倍くらいでしかないぞ」
「住民数はそんな程度なのか?
街が大きいだけに意外だ・・・・」
「住民の家を建てられる低い場所の土地が極端に少ないのが原因じゃな。
高所の平地は貴族と軍関係者の家で占められておるし、建物の建築に向かない斜面が多すぎるのじゃ」
ロイドの城門が見える場所まで移動すると、そこには街に入るための審査を待つ人々の行列ができていた。
「ロイドの城門は、南門と王都側に抜ける北門の2つしかないのじゃ。
しかも、王都より遠い東や西の村から街に入るにはこの南門しかないのでなぁ、どうしても人が集中してしまうのじゃ」
そろそろこの街を目指して移動してきた旅人らが、街に到着し始める時間でもある。
クルマという異世界の乗り物に乗っている俺達は、どうしても目立ってしまい、周囲にいる人々の注目を集めてしまっていた。
「どうする、これ・・・。
このクルマに乗ったまま、あの列に並ぶのか?」
それしか方法がないのであれば、腹をくくってあきらめるが、正直なところ見世物小屋の珍獣のような気分になってしまいかねないので、できれば遠慮したいところだ。
「ふむ・・・しかたないのぅ。
クルマは城門手前のあの辺にでも止めて、カオル殿は我と一緒に衛兵のところまで行ってくれないかの?」
クリスにはすんなりと城門内に入る方法があるようなので、俺はその提案に乗ることにした。
「他のみんなは、少しこの場所で待っていてくれ」
レガ子やリーゼ、アリシアとミャウにそう告げて、おれはクリスと二人で城門のところに立つ衛兵へと歩いていった。
「ベルドの一件でカオル殿には我の正体がバレていると思うので、ここは我の特権を使うことにしようと思う。
じゃが、アリシア殿やミャウ殿には気を使われたくない。
せっかく似たような年頃で気軽に話せる友人が出来たのじゃ。
今はこの関係を壊したくないので、我の正体についてはまだ黙っていてくれるか?」
「お前ら三人、すでに幼馴染か姉妹のように仲良くなっているからなぁ、分かったよ。
もっとも俺もクリスが王族の血縁者らしいと言うことくらいしか、分かっていないけれどなっ」
「なんじゃとっ!
そこまで気がついていて、我の本名を聞いてもまだピンと来ないのか?」
「すまん・・・」
というか、俺本当はこの国の人間でないからなぁ・・・。
俺はクリスの正体は、王家ゆかりの公爵家令嬢とかではないかと予想していたんだけど、なにか間違えているのか?
「はぁ・・・本当にカオル殿は竜の森で世捨て人のような生活をしていたのじゃな・・・。
さすがに少々あきれてしまったぞ」
もはや苦笑いをして返すくらいしかできない。
そんなやり取りをしているうちに、俺達は門番をしている衛兵のところにたどり着いてしまった。
「きさまらっ! 町民であればあっちの列に並ばないかっ!」
入場の列を無視して門のところにやってきた俺達に、衛兵が激しい叱責を飛ばす。
「お役目ご苦労じゃな。
我はクラリス・フォン・フローリアスじゃ。
お主も王国軍の兵士であるならば、我の顔に見覚えがあるじゃろ。
身分を証明するものを出せと言うのであれば、王国の紋章が入ったこの短剣を見せるが、さすがに一介の兵士に渡すわけにはいかん。
すまぬが、身分が上の騎士か貴族を連れてきてもらえんか?」
え?
クリス、お前今ファミリーネームを〝フローリアス〟とか言っていなかったか?
〝フローリアス〟ってこの国の王国名だったよな?
まさかクリスは公爵家令嬢とかではなく、本物のお姫様だったりするのか?(汗)。
クリスが話しかけていた衛兵を見ると、俺以上に冷や汗をかいて、顔を青くしていた。
そりゃそうだろうな・・・
クリスが本当にこの国のお姫様だとしたら、さっき怒鳴りつけちゃったんだもんな・・・。
近くに居た別の衛兵に事情を告げ、真っ青になりながら城門の中に駆け込んでいた衛兵に同情しながら、俺も気になり始めていたことをクリスに尋ねてみた。
「なぁ・・・俺ってクリスと一緒に湯浴みとかしちゃっているんだけど、王都についたら性犯罪者になったりはしないよな?」
「カオル殿は我の婚約者になるのであろう?
であれば、それ以上の関係があったとしても問題はない」
いやいや・・・
結婚する前に、それ以上の関係になったらアウトだろぅ!
「もっとも・・・
カオル殿が我を捨てると言うのであれば、王都での身の安全は保障しかねるが・・・の(くすくす)」
クリスが小悪魔的な笑みを浮かべて、とんでもない脅しをかけてきやがった(汗)。
「オレ・・・テイコクニ、ボウメイシテモ、イイデスカ?」
なので、オレは表情を極力殺して、棒読み気味にそう言って返すことにした。
「わぁ、冗談じゃ、本気にするな!
カオル殿のような実力者にソレをされたら、マジで洒落にならんのじゃ!」
慌てだすクリスに、我慢していた笑いがこぼれる。
オレはクリスの頭をなでながら「俺も冗談だ」と告げる。
「我も大概だと思うのじゃが、カオル殿もけっこう意地が悪いのじゃ。
それに・・・
我の身分に気がついてもなお、頭をなでてくれるのは、カオル殿くらいしかおらんのじゃ・・・」
あっ、姫様相手にちょっと慣れ慣れしすぎるか?
でもいまさら態度を変えるのもクリスに失礼だと思うので、この国の偉い人とかがそばに居ない時は、今までどおりに接することにした。
「まあ、クリスとの関係をハッキリさせるのは、おいおい・・・なっ」
いくら俺がロリコンだからと言っても、やはり10歳の少女と婚約するのは、元の世界の常識がいろいろと邪魔してしまい、いまひとつハッキリとした態度を示せないでいる。
それに、女性関係をハッキリさせると言う意味では、やはり先にレガ子との関係をきっちりと決めておくのが筋だと思っていることも、クリスに対する態度を決めかねている要因のひとつにもなっている。
「そういやクリスの親父さんって、『俺を倒せないような男には娘はやれん!』とかいう、肉体言語系の人だったりするか?」
この手の時代の王様って、自らも戦に出たりする猛者も多いからな。
そうなったときの対策を今のうちから考えておいても、たぶん無駄にはならないだろう。
「父上や母上は、温厚で物分りが良い方々なので心配はないのじゃが・・・」
「が?」
「親しい身内にな・・・
かなりソレに近い思考の持ち主が居てな・・・」
バツが悪そうに、クリスの視線が泳いだ。
「たぶん近いうちに合うことになると思うが、対策はその時に考えればいいじゃろ」
おいおい・・・
その人、本当に大丈夫なんだろうな?
俺は心の中で、その人物に出会うことが永遠にないことを祈るしかなかった。
レガ子「ロイドっておっきい街なのっ♪」
作者「でも居住区域はそれほど大きくはないみたいだぞ」
レガ子「ところで、薫さまとクリスちゃんの様子がかなり怪しくなっているのっ。
作者様には、薫さまがお相手を決める順序は、レガ子ファーストでお願いしたいのっ!」
クリス「わが国は、養う余裕さえあれば一夫多妻制なので、我はレガ子殿のあとの順序でよいのでよろしく頼むぞ」
アリシア、ミャウ「私たちもお嫁さんにしてほしいの(にゃ)」
作者「薫くん・・・結婚式のお話は、一人一話分の4分割にしてやるかい?」
薫「・・・・・勘弁してください・・・・・」