第1章 第30話(第37話) ~リーゼ再合流~
今回は投稿日が日曜日という事もあり、試しに夜の時間帯に投稿してみました。
投稿後の読者数の伸びが、昼間の投稿時とどう変化するかがちょっと楽しみです。
ということで、前回までのおさらいです。
レガ子が創った、エアガンをベースにした攻撃魔法発射装置を村の外の荒地でテスト。
銃から撃ち出されたファイヤーアローは、岩肌に直径18センチ、深さ10センチほどのクレーターを作る破壊力。
また有効射程距離は70メートルくらいまでOK。
この銃器型の魔導器を『魔銃』と命名。
その後はマガジン1本分の連続射撃や、魔力弾の属性を変えての連続射撃などの耐久試験をして、試射テストを終了。
テスト後にH&K USPをクリエイトモードのイベントリに入れて検査したが、特に破損や劣化は起きていなかったという。
こうなると残りの問題は、紅雨との併用使用の訓練と、運用方法の研究だな。
実戦時に刀と銃の二刀流が使えるように練習しないと・・・(汗。
そうそう、この試射の後のことになるが、俺とレガ子はこの銃器型の魔導器を『魔銃』と名づけることにした。
荒地での試射を終えてサージ村に戻ると、村の入り口に見覚えのある女性が一人佇んでいた。
俺とレガ子をこの異世界に移動させた張本人、この異世界や元の世界が所属している世界樹の管理人でもある女神リーゼである。
青味がかったシルバー系の髪の毛を地面に届きそうなほどまで伸ばし、周囲を不安げにキョロキョロと見回しているエメラルドグリーンの瞳は、小動物系の雰囲気を醸し出している。
まぁ、顔立ちだけは東欧系美少女風なんだけどねぇ・・・。
この怯えた雰囲気を纏っている美少女がいくつもの世界を管理している女神様だなんて、誰も思わないだろうなぁ・・・。
「リーゼ、村にいつ来たんだ?」
俺たちの存在に気が付いたリーゼが近寄ってきたので、村の入り口で愛車を止め降車してリーゼに話しかける。
俺はてっきり、またレガシィのナビモニターから飛び出してくるものとばかり思っていたから、彼女が村の入り口に立っている姿を見つけた時には、目の錯覚かと思ってしまったほどだ。
「薫さん!
よかったぁ~、苦労して村に到着したら、薫さんもレガ子ちゃんも姿が見えないんですもん。
私・・・見捨てられてしまったのかと思いましたぁ~~(ぐっすん)」
「そんなの、こっちに来る直前にレガシィの方に連絡入れれば、すれ違わずに済んだのに」
「だって・・・
連絡するのを忘れた事に気が付いたのが、こっちの世界への顕現化フェーズに入った後だったんですもん」
ドジッ子属性はあいかわらず健在のようだ・・・(汗。
「しかも、村には知っている人間は一人もいないし・・・。
もう、私心細くて・・・(涙)」
あぁ・・・
そういえば女神様は引きこもり歴300億年の超コミュ障でしたっけね・・・。
「で、今回リーゼは何日くらい一緒に居られるんだ?」
半べそ状態のリーゼの頭を撫でてなだめながら、この世界への彼女の滞在日数を聞いてみた。
最近ちびっ子たちの相手が多くて、つい子供たちと同じ感覚でリーゼの頭を撫でてしまったが、彼女は特に気にする様子も無く、むしろ満足げな様子だった。
「そうですねぇ・・・。
特に非常事態でも起きなければ10日間くらいはご一緒できると思います」
無数の異世界が存在している世界樹の非常事態とかは想像したくないです・・・(汗。
「そ、そうか・・・。
リーゼがこっちの世界を楽しむためにも、何も起きない事を祈るよ」
俺がリーゼと会話をしていると、服の裾が引っ張られた。
後ろを振り向くと、いつの間にはレガシィから降りたちびっ子たちが集まっており、リーゼのことを不思議そうに見ていた。
あぁ・・・そういえばこいつらは初対面になるんだっけ。
さすがに〝女神〟とか〝神様〟と言っても信じてもらえないだろうし、この世界における宗教上の神様がどうなっているのかも分からないので、うかつに真実を教えない方がいいだろう。
「彼女はリーゼといって、俺の魔導器製作者仲間だ。
共同研究者というか・・助手というか・・・、まぁ、そんな感じの友人だ」
「そうか・・・カオル殿の恋人とかではないのじゃな?」
「よかった・・・お兄ちゃんはまだフリー・・・」
「にゃはは、おねぇちゃん欲しかったのにゃ~」
クリスにアリシア・・・、お前たち俺がこんな美女にモテルような男に見えるか?
あとミャウよ・・・、リーゼは一般的なお姉さん像とは程遠い、ポンコツだからなっ。
「友人・・・いい響きです・・・」
注目の的になっているリーゼ本人は、友人と紹介されたのがかなり嬉しかったらしく、一人その感動を噛みしめていた。
異世界に来て俺の女性運が上がっているはなんとなく実感しているのだが、なんで俺のところに寄ってくる女性は、こうも面倒な性格や設定の人間(人外も混じっているが)ばかりなのだろう・・・。
「今から村の中で昼飯を作ろうと思っていたんだが、リーゼも一緒に食うか?
それとも、もう食事を済ませてしまったか?」
「ご一緒しますっ♪」
そういうと、リーゼは空いていたレガシィの助手席に乗り込んで、今朝のレベルアップでその隣に新たに作られた〝レガ子専用シート〟に座っているレガ子となにやらヒソヒソ話しを始めた。
その内容は、例のリーゼの落し物(偽乳パット)についてのようで、ソレを使って俺が変な事をしていなかったかどうかを念入りに確かめていた。
〝レガ子専用シート〟は運転席と助手席に間にあるので、お前らのヒソヒソ話しはほぼ全てコッチにも筒抜けなんだがなぁ・・・。
「そんなに信用が無いなら、リーゼは昼飯のときにビールはいらないよな?
俺の目の前で酔ったら大変な事になるかもしれないし」
リーゼが酒好きなことを思い出し、少しいぢわるな事を言ってみた。
するとリーゼは思いっきり慌てだした。
「いえいえ、薫さんの事はと~~っても信用しています。
荒地をずっと歩いてきて喉がカラカラなんです。
だからビール出してくださいっ!」
はぁ・・・
この女神さまは、この酒好きさえなければ、世界樹の管理をもう少し上手に出来るようになるのではないだろうか。
今俺とレガ子が女神に押し付けられているこの世界の問題も、元をたどればリーゼの飲酒が原因の一端にあることを思うと、そう思わずにはいられなかった。
レガシィを村の所定位置に駐車し、昼飯の準備を始める。
レガシィのイベントリから、キャンプ用折りたたみテーブルを2台取り出し、セッティングを開始。
一方のテーブルにカセットコンロと鉄板を置き、イベントリから焼きそばの麺と具用の食材(もやし、キャベツ、にんじん、豚肉)を取り出して下準備を始めた。
「薫さんって、お料理の手際がいいんですね・・・」
俺が食材を包丁で切っている手元を覗き込みながら、リーゼが話しかけてきた。
「まぁ、キャンプは趣味で10年以上やっているかなぁ。
キャンプ定番のカレーとかバーベキューとか鉄板料理とかならけっこう得意だぞ」
あと親父が再婚するまでは、当時は子供だった俺もけっこう料理を作っていたからなぁ。
そう考えると、おれの料理歴ってけっこう長いよなぁ。
「ちなみに、リーゼは料理とか出来るのか?」
「えぇと・・・出来るように見えますか?」
そう言ったリーゼの顔はかなり引きつった笑いを浮かべていた。
あぁ・・・コイツは飲み食い専門なのか・・・。
エロゲのヒロインだと、ポンコツのドジッ子は料理だけは上手だったりするものなんだが、リーゼにはソレすらないのか・・・。
「とりあえずリーゼはコレでも飲んで、あっちのテーブルで待っていろ」
リーゼが手伝うとか言い出すと、お約束の惨事が起きそうなので、俺はイベントリから出した小型冷蔵庫に入れてあった缶ビール(お中元やお歳暮とかに使う高級銘柄)を渡して、調理場から追い返すことにした。
当の本人は、そんな俺の思惑などまったく感じることなく、嬉しそうに缶ビールを抱きしめて子供たちが座っているテーブルの空き席に向かっていった。
「薫さま、もしかして女神さまの事『お酒でコントロールすればチョロイぜ!』とか思っていませんか?」
俺とリーゼのやり取りを見ていたレガ子が、そんな事を訊いてきた。
「まぁ、少しだけな。
リーゼに言うんじゃないぞっ」
「はいなのっ。
でも、女神さまに問い詰められたらゲロっちゃうかもしれないから、その時はゆるしてなのっ」
「食事の準備中に汚い言葉を使わない!
あと、バラした時はおしおきだからなっ」
野菜や肉を切り終えた右手でアイアンクローの真似をしてレガ子を脅すと、プルプル震えながら両手で口を押さえながら「絶対に言わないのっ」というアピールをしていた。
まぁ、バレても別にいいんだけどねっ(苦笑)。
カセットコンロ2台を並べて上に乗せたバーバーキュー用の大きな鉄板を熱し、一気に10人前くらいの焼きそばを作っていく。
実際に食うのは俺とちびっ子ら3人、あとリーゼとレガ子なので6人前を作れば十分なのだが、お代わりを要求された時や、サイモンたちが乱入してきたときの為に少し多めに作っておくことにした。
まぁ、余っても焼きそばなら保存容器に入れておけば、夕方に小腹が空いたときに食う事もできるしな。
昨日の移動時にお昼に食べたベルド町長夫人お手製のお弁当は美味しかったが、基本的にこの世界の料理文化はあまり発達していない。
味付けに必要な塩や砂糖、胡椒などといった香辛料が高価なため、庶民の食生活はどうしてもパンが中心でおかずは焼くか煮ただけといった簡素なものになってしまう。
自分はこの異世界に移動させられた時にキャンプ用の食材を大量にレガシィに積んでいて、その後の補給もリーゼがイベントリに付加してくれた状態復元の加護のおかげで、持ち込んでいた食材の補給がほぼ無限に出来るため食事面で困る事はほぼ無いだろう。
しかし、この2つの要素のうちどちらかでも欠けていたら、この異世界での食事はかなり困った事になっていたはずだ。
そういった意味では、リーゼには「グッドジョブ」と感謝の言葉を心の中で贈っておいた。
作り終えた大量の焼きそばを大皿に盛って、ちびっ子らやリーゼが座っているキャンプ用テーブルに運んでいくと、リーゼはすでに缶ビールを一缶飲み終えていて、その言動が酔っ払いの怪しいものへと変わっていた。
おいおい・・・
女神さんはお酒に強いんじゃなかったのかよ・・・。
「リーゼ・・・お前もしかしてお酒弱いのに大好きなのか?」
「わーいおつまみ(焼きそば)だぁ~♪
安上がりに酔えるので、お得なのですよぉ~~♪」
だめだ・・・
この女神に強い酒や、大量の酒を飲ませてはダメだ。
俺は、調理用に使っていたキャンプ用テーブルを、彼女たちが座っているテーブルの横に寄せながら、そう心に固く誓った。
全員分の小皿(紙皿)を用意し、トングで焼きそばを取り分けてあげる。
レガ子を含めほぼ全員が焼きそば初体験だったが、ややピリ辛系のソースで味付けした焼きそばの評判は悪くなかった。
ただレガ子は身体のサイズがドールサイズの小人さんなので、長い麺を食べるのに少々苦労していた。
今度焼きそばを作るときには、レガ子用に短めに麺をカットしたものを別に作ってあげることにしよう。
食後、俺は酔いが少し醒めたリーゼとレガシィの中で打ち合わせをしていた。
その内容は、俺がこの世界で身分を魔導器製作者と偽った事で発生したことのつじつま合わせだ。
リーゼの報告によると、異世界に連れて来られて来た時に居た龍の森の主である古龍〝ドライド〟には話を付けてあり、俺がそこに居たというアリバイになる研究所風の建物を龍の森の浅い場所に設置させてもらったという。
ただ、建物内に他の人間が頻繁に出入りされても困るので、結界の魔術をかけてあるというう事だった。
当面の旅の目標についてはレガ子を通じてリーゼには伝えてある。
なので、旅に同行するときのリーゼの立場を「俺の助手でいいか?」と訊ねてみた。
一応リーゼは神様的な存在なので、人間の助手みたいな扱いは怒られるかと思ったのだが、本人は「毎日、おいしいお酒飲ませてくれればそれでオーケー」とかなり軽いノリで了承をしてくれた。
ただしお酒については、走行中のレガシィの中で吐かれては困るので、移動がある日は夜のときだけ・・・という条件で納得していただいたが・・・(苦笑)。
リーゼとの打ち合わせを終え、ちびっ子たちが居る兵士詰め所に向かい、そこに居たゲール隊長らにこの村でもう1泊した後、明日の昼前には次の目的地に向けて移動する事を告げた。
ゲール隊長には「クラリス様がおられると兵士らの士気が上がるので、もう少し滞在できないか?」と言われたのだが、俺としてもこのちびっ子らを早く親元に送り届けてあげたい。
なので、その申し出はこちらの事情を説明して、お断りさせていただいた。
「なんならクリスだけ残って、ゲール隊長に王都まで送ってもらうか?」
あまり深く考えずそんな事を口にしたら、クリスに思いっきり足を踏まれ、涙目で抗議されてしまった。
「嫌じゃっ! 我はカオル殿と一緒に行くのじゃ!!」
しかもレガ子には・・・
「薫さまは、建築した旗を折るのも上手なの・・・」
と呆れられてしまった。
「それにゲール殿にはこの村の復興支援後、できればしばらくの期間ベルドに駐留してもらいたいと考えておる」
突然のクリスの提案に、ゲール隊長もやや困惑している様子。
ゲール隊長は少し考えた後に、「理由をお聞かせいただけますか?」と、その提案の真意をクリスに尋ねた。
「我は捕らえた例のスパイどもや、盗賊に偽装した帝国兵らが、なぜ帝国領とは反対側に位置するこの王国南端側に居たのかがずっと気になっておるのじゃ。
この位置では、もし奴らがベルドの占拠を成功させて篭城したとしても、普通ならば帝国本土からの増援も期待できず、長期戦ではジリ貧だったはずじゃ。
なので我らが知らない何かが、この地に隠されておるのではないかと危惧しておるのじゃ」
「つまりクラリス様は、またこの地に帝国の魔の手が伸びてくると?」
「可能性はかなりあるのではないかと見ておる」
クリスの予想を聞いて、考え込むゲール隊長。
「村の復興作業が終わった後の行動については、たしかにまだ王都から指示を受けていませんが・・・」
「であれば、王都との定時連絡用の通信用魔導器を貸してくれ。
我が直接この案を王都の将軍に伝えよう」
「分かりました。
誰か、予備の通信用魔導器をクラリス様にお持ちしろ!」
ゲール隊長の指示で隊員の一人が詰め所の奥から通信用魔道器を持ってきた。
「それと、先日捕縛したスパイから接収した帝国製の攻撃用魔導器じゃが、王都へは報告用サンプルを1~2個だけ捕虜と一緒に送り、残りはゲール殿の隊の備品として置いておくようにも進言しておく」
「我が隊としてはありがたい申し出なのですが、よろしいのですか?」
「もし、本当にまた帝国兵が攻めてきたとしたら、奴らは必ず攻撃用魔導器を装備しているはずじゃ。
その時に、同じ対抗手段なしに戦うのは厳しいのではないか?」
クリスのその言葉を聞いて、ゲール隊長の脳裏に昨晩の戦闘で我々に向けられた攻撃用魔導器の威力が思い出されたようだ。
「たしかに、あのファイヤーボールの雨を防戦一方で防ぎきるのは難しいでしょう」
ゲール隊長はそう言いながら、ややウンザリとした表情を浮かべていた。
「わが国に同じようなものを作る技術が無い以上、接収した攻撃用魔導器は効果的に使いたい。
それと、ベルドの街の守備隊が盗賊のアジトから接収した荷物の中にも同じモノがあるやもしれん」
「わかりました。そちらも至急部下に調べさせます」
ゲール隊長の指示で、攻撃用魔導器の形状を知っている兵士が2名詰め所から飛び出して、早馬でベルドの街へと向かった。
やがてゲール隊長との打ち合わせを終えたクリスが俺の元にやってきた。
そして「我は今から国の知り合いと軍議をせねばならんので、先に戻っていてもらえるか?」と、言い難そうにしながら用件を伝えてきた。
あぁ・・・
もしかしたらクリスは、俺がまだ彼女の正体に気が付いていないと思っているのだろう。
であれば、そんなクリスの配慮に水を差すのも悪い気がしたので、残りのちびっ子らを連れてレガシィのところに先に戻る事にした。
「美味しい夕飯でも考えながら待っている。
あと、遅くなるようなら、そこに居る兵士のだれかに送ってもらえよ」
そうクリスに伝え、俺は詰め所を出てレガ子が待つレガシィのところへ移動する。
頭の中では、「今晩はカレーでも作るか?」そんなことを考えていた。
レガ子「女神さま・・・お酒臭いのっ」
リーゼ「だってぇ~~、なかなか再登場の機会が来なくていぢけていたんだもん」
薫「女神が語尾に『もん』とか付けて拗ねない!」
作者「近いうちにリーゼにはアクションシーンで活躍してもらうから、ちゃんと酒抜いておけよ」
レガ子「作者さま・・・・ 女神さまはもう酔いつぶれて寝てしまったの・・・」
作者「やっぱ、所詮はポンコツだったか・・・」