第1章 第25話(第32話) ~挑発~
前の話の投稿から一週間ほどあいてしまいました。
今しばらくは多忙のため、投稿のペースが安定しないと思いますが、ご了承ください。
ということで、前回までのおさらいです。
盗賊らの狙いについてクリスが推理。
隣村に駐留中の王国軍の中に盗賊に情報を流していた人間が居る可能性。
隣村に到着。
その後しばらく走ったところで2回目の休憩を取り、隣村に向かって走り出す。
途中、特にトラブルなども起きず、俺たちはベルドの町を出て3時間後くらいには、サージ村に到着していた。
「「「もう着いてしまったのか!?」」」
まだ日中ともいえる時間帯に隣村に到着した事に、ベル、サイモン、クリスの3人が驚きの声を発した。
しかもクリスにいたっては「この乗り物が量産できれば世界の常識が変わるぞ・・・」などと、物流革命を見据えた考察まで始めてしまっている。
クリスには悪いが、本当の俺は魔導器製作者じゃないから、クルマなんか作れないからな。
というか、魔導器製作者にも作るのは無理だろう・・・。
こっちの世界で身を落ち着けたら、自動車整備の経験を生かして、馬車の改良とかはやってみたいけれどな。
クリスに本当のことを話すことになった時、彼女がガッカリする姿を想像してしまい、申し訳ない気持ちになってしまうのだった・・・。
見慣れない乗り物の到着に、復旧作業をしていた王国軍の兵士たちがざわめいていた。
まず村人らのことを良く知っているサイモンとベルがクルマから降りて、ベルド町長からの書状を持って軍の責任者に話しをしに行った。
俺はレガ子に「村の中の人間の反応に注意してくれ」と指示。
後部座席の子供たちには、安全が確認できるまで絶対にクルマから降りないよう言い聞かせた。
「ふむ、追撃部隊の責任者はゲール殿なのか」
サイモンと話しをしている王国軍の軍人を見て、クリスがそんな名前を口にした。
どうやら王都所属の軍人さんで、クリスも知っている人物らしい。
なんか名前だけ聞くと、ちょっと悪役っぽいんだけどね・・・。
おもわず両手をテーブルの上で組んで『ご機嫌いかがかね? ゲェ~~ルくん』と言いたくなってしまうよ(苦笑。
「どうだ?」
「う~~ん。
今のところあの隊長さんに変化は無いの」
周辺スキャンをしているレガ子からの報告では、どうやらあのゲールくんは大丈夫っぽい感じだ。
「さすがに部隊長クラスの人間に間者がおったら、我は将軍あたりの責任を追及せねばならなくなってしまうわ」
レガ子の報告にクリスが苦笑いをした。
やがてゲール隊長と話しをしていたサイモンが、俺らの方を向いてOKサインを出した。
さて、ここからが本番だ。
「ではカオル殿、我のエスコートを頼むぞ」
「わかった。
ミャウとアリシアは、絶対にココから出るんじゃないぞ」
「はいです」
「わかったにゃ」
「レガ子は村の中に居る人間のチェックを頼む」
「任されたのっ」
俺は紅雨を車内から取り出すと腰のベルトに挿して下げ、クリスと一緒にゲール隊長の下に歩き出した。
ゲール隊長は近づいてきたクリスを見て驚くと、なぜか膝を折った。
この世界における貴族に対する騎士の作法なのだろうか?
「カオル殿はここでちょっと待っていてくれ」
そう言うとクリスはやや離れた場所に俺を残し、ゲール隊長の元に向かうと何かを話し始めた。
話の途中でクリスとゲール隊長が何度も俺の方を見ていたのが気になった。
しばらくするとクリスが俺の元に戻ってきて「話しはついたぞ」と言い、俺の腕に自分の腕を絡めた。
するとクルマの中から娘っ子たちとレガ子が騒ぐ気配が聞こえてきた。
レガ子からは念話で『今は我慢してお仕事に集中するけど、あとでレガ子とも腕組むの!』という苦情も飛んできた。
後のことを考えると、頭が痛い・・・(汗。
「で、あのゲール隊長にはなんて話しをしたんだ?」
「なに、カオル殿が盗賊団を壊滅させて我を救い出してくれたナイトあることを伝えただけじゃよ。
あと、我の有力な婚約者候補であるともな」
「お前なぁ・・・」
「何ひとつ嘘はついておらんと思うが?」
クリスはまったく悪びれる様子も無く、俺を見て純粋に笑っていた。
やがてゲール隊長が部隊の隊員を全員招集し、俺たちの前に並ばせた。
そして自分らが追っていた盗賊団が壊滅したことを隊員らに報告。
集まっていた隊員らに歓声が上がった。
そしてその盗賊団を壊滅させ、彼らに捕らわれていた王国の才女クリスを救出した英雄として、俺を隊員らに紹介した。
その次の瞬間・・・
『薫さま、軍人さんのなかに赤い敵性反応が5つ生まれたの』
レガ子からの報告が、クリスが危惧していたことが現実だったことを証明してしまった。
『どの兵士が赤くなったか、こっちに教えることは出来るか?』
『薫さまの視界に拡張表示でデータを送るの』
すると次の瞬間、俺の視界に情報が重なって映し出された。
その映像は、まるで高性能なARグラスを掛けて周囲を見ているかのようだった。
レガ子のやつ、いつのまにこんな技を・・・
『別にスキルとかは使っていないの。
薫さまがこの子の一部だから出来ただけの、標準機能なの』
ああそうですか・・・
俺はどんどん人間から遠ざかっているような気がするよ・・・(涙。
とりあえず拡張表示された視界情報を元に、敵として判定された兵士らの顔を確認していく。
確認と同時に、対象者の表示をロック。
その顔を記録撮影して、クルマのHDDナビへと転送する。
しばらくするとゲール隊長による俺の紹介が終わった。
俺は後ろに下がるとクリスに耳打ちし、敵判定が出た兵士のことを報告した。
「5人もじゃと?」
人数を聞いてクリスが顔をしかめる。
ここに居る兵士の数は30人。
そのうち5人もが裏切り者だとなると、その割合は1/6と大きい。
これは軍としてのメンツにかかわる問題なのかもしれない。
その後、ゲール隊長が兵士たちを解散させて俺たちのところにやってきた。
「クリス殿、これでよろしかったのですかな?
こちらとしては兵士たちの士気が上がりますので、願っても無い報告だったのですが」
「問題ない。
それよりもベルドから運んできた物資の確認をしてもらいたいので、カオル殿と一緒にこちらに来てくれ」
ゲール隊長は安全な人物と判断したクリスは、俺と一緒にクルマのところまでゲール隊長を誘導する。
そして声を潜めて「今、貴殿が預かっている兵士の中に裏切り者を5人確認した」とゲール隊長に告げた。
いきなりの予想外な報告に、「まさか!?」と言って、信じられないという顔をするゲール隊長。
俺は支援物資を見せるフリをしながら、このクルマと精霊のレガ子が持っている敵意の識別システムをゲール隊長に説明。
そして俺に対して敵意を持った5人の兵士の顔写真をタブレットPCに表示して見せた。
それを見たクリスが、その内の2人を指差した。
「この2人、我が罠にはめられて誘拐された時に屋敷の警備担当をしていた兵士じゃ」
「マジか?」
「ああ、間違いない」
「偶然にしては出来すぎているな・・・
この2人がクリスの誘拐を手引きしていたんじゃないのか?」
「その可能性は高いじゃろうな」
俺とクリスがこの2人について意見を交わしていると、ゲール隊長がクリスに頭を下げた。
「クリス様、今回は私の部下が問題を起こし、申し訳ありません!」
「ゲール殿の責任ではないじゃろう。
この2人が我が屋敷の警備をしていたのは、ゲール殿の部隊に配属前の話じゃろ?」
不祥事を咎める気が無いクリスに、ゲール隊長がさらに頭を下げる。
「ありがとうございます、クリス様。
この2名を含めた5名全員が、盗賊の追撃部隊編成時に我が隊に加わった隊員です。
しかし直前に所属していた任務についての調査をしていなかったのは、私の落ち度です」
「かまわんよ。
どうせこの5人、どこかの有力者の推薦で部隊に加わったのではないか?」
「たしかにこの5名はグラム男爵の推薦だったと記憶しております。
しかし、よく推薦編入である事が分かりましたね?」
「なに、簡単な事じゃよ。
盗賊の追撃などという緊急性を帯びた部隊に、5人もの密偵が紛れ込んでおったのじゃ。
部隊編成に口出しが出来る者の介入がなければ、そんな事は不可能じゃろ」
「そのご慧眼、恐れ入りました」
ゲール隊長は、すっかりとクリスの観察力に感服ししている様子。
しかし、部隊長クラスの大人まで敬語を使って10歳の少女の意見に耳を傾けているって、どういう事よ?
クリスって、本当は何者なんだ?
そのクリスは何かを考え込んでいる様子だ。
「どうかしたか?」
「グラム男爵の名前が出たのがな・・・」
「何者なんだ?
そのグラム男爵って」
「王国領の北東部に領地を持つ男爵での、常に領民の生活向上に尽力している良き領主なのじゃが・・・」
「領民想いの良い領主じゃないか。
そんな人物が国を裏切っていたのか?」
「彼の者は魔導器の研究者としても有名での。
魔導器製作者にもけっこうな出資をしておるのじゃ。
なので王国の魔導器政策への発言力もある」
「それって、やばくないか?」
「そうなのじゃが・・・」
クリスはしばらく考えゲール隊長の方を見た。
「ゲール殿、申し訳ないが、今すぐこの5人を拘束してはもらえんか?」
「明確な証拠も罪状も無しにですか?
いくらクリス様からの申し出でも、さすがにそれでは隊員らの士気にも関わります」
話しによるとグラム男爵とやらは魔導器に対してかなりの知識もあるらしい。
5人の誰かが通信用魔導器を持っていないとも限らない。
クリスとしては、自分の無事や盗賊団の壊滅の情報がグラム男爵とやらに伝わる前に、怪しい5人の身柄を確保して、彼らの行動を制限したいのだろう。
しかし、ゲール隊長の言い分も正しい。
クリスが王国内でどのような立場にあるのかは分からないが、いくらなんでも〝怪しい〟という憶測的な情報だけで証拠も無しに自分の隊の兵士らを拘束してしまっては、他の兵士らに隊長としての資質を疑われかねない。
クリスもその点は十分理解しているのだろう、依頼拒否とも取れるゲール隊長の反応に対して咎める様子も無く考え込んでいる。
やがてクリスは、何かを決心したような目で俺の方を見た。
「となれば、我が自らかの者らに接触して、藪を突付くしかないのう。
カオル殿すまぬが、我の護衛を頼めるか?」
「仕方ないな・・・」
俺は肩をすくめて、クリスの提案を手伝う意向を示した。
すると今度はゲール隊長が慌てはじめた。
「クリス様!
あなた様自らがそのような危険なことをなさらずとも・・・」
「貴殿が追っていたあの盗賊らは、帝国の特殊兵が化けていた可能性が高いのじゃ。
となれば、その盗賊らに追撃部隊の情報を流してあの5人と、彼らをこの隊に送り込んだグラム男爵は何らかの形で帝国と繋がっている可能性がある。
昨今の情勢を見れば、帝国がわが国を狙っておるのは明らかじゃ。
我にはこの国に住む民の平和を守る責務がある。
この身を差し出す事で帝国の狙いに繋がる情報が手に入るのであれば、我は喜んで自らを囮に使おうではないか」
おいおい・・・
それって10歳の女の子が持つような覚悟なのか?
しかしクリスの瞳は真剣そのものだった。
己に課せられた責務を迷うことなく実行する、そんな強い信念を感じさせる瞳だった。
その瞳を見て、ゲール隊長も彼女の覚悟に気づいたのだろう、クリスの行動を止めることをやめた。
「わかりましたクリス様。
このゲールも貴方様の盾としてご同行いたします」
そうクリスに告げると、副隊長を呼び寄せ、信頼できる古参の部下を5名ほど連れてこさせた。
その間に俺は、レガ子に例の5人の居場所を確認。
「村の奥にある、兵隊さんらのテントの向こう側に集まっているの」
という報告を受け、それをゲール隊長に伝えた。
そしてレガ子と子供達には、クルマ(レガシィ)内での待機を命じた。
クリスを先頭にして近づいてきた俺たちを見つけ、例の5人が怪訝そうな表情を見せた。
クリスの左右には、俺とゲール隊長。
その後ろには兵士を5人も引き連れている。
見ただけで普通とは違う状況なのが彼らにも伝わったようだ。
やがて、彼らとの距離が5メートルほどにまで近づくと、クリスが彼らに声を掛けた。
「そこの二人は、我の屋敷で警備担当をしておったな。
我が誘拐された時の警備状況について訊ねたい事があるのだが、ご同行願えるか?
あと、盗賊団との連絡役についても聞きたい件がある」
まるで証拠が挙がっているかのように堂々としたクリスの物言いだが、全てハッタリである。
しかし彼らには効果があったようで、クリスに指名された2人だけでなく、5人のの顔が強張るのが分かった。
俺たちの後ろに控えていた兵士らに指示を出すためにクリスが後ろを向いたその時、奴らが動いた。
一番後ろに居た兵士が、懐からまるでパーティー用のクラッカーのような形状の物体を取り出した。
そして、それを俺たちに向けて後ろのヒモを引くと、その物体から火の玉が飛び出し、俺たちに襲い掛かった。
「クリス様っ!」
ゲール隊長がそう叫びながら、クリスに覆いかぶさるようにして自分の身体を盾にしようと動いた。
「クリスっ!」
俺はクリスの前に飛び出して左手を突き出し、グローブに魔力を込めて、その先に絶対防御の盾を生成する。
次の瞬間、俺が生み出した盾に火の玉が当たり、爆音と爆風が周囲を包み込んだ。
爆発の反動で、俺の身体が後ろに飛ばされそうになるが、とっさに絶対防御の盾の先端を地面の中まで伸ばして突き立て、その場に踏み留まった。
「いきなり攻撃魔法かよっ!」
周囲が爆発による煙と埃に包まれる中で愚痴る俺に、ゲール隊長に守られたクリスが「じゃが、これで敵対者である事が確実になった」と嬉しそうな顔を見せた。
「心臓に悪いから、こういう挑発は今回で最後にしてくれっ」
やがて視界を遮っていた煙や埃が消えると、敵兵5人はそれぞれが武器を手にしてこちらと対峙していた。
前衛の3人は剣を、後衛の2人は先ほど火の玉を打ち出した魔導器らしきものを構えている。
5人とも、先ほどの攻撃でこちらが無傷なことに驚いている様子だった。
レガ子「次回はまた戦闘なのっ。
今回は、レガ子は薫さまの近くにいないから心配なの」
薫「レガ子に創ってもらったこの紅雨があるから心配するな」
レガ子「その心配じゃないのっ!
レガ子の見えないところで、クリスちゃんとフラグ建築しそうなのが怖いのっ」
薫「そっちかよっ!!」
リーゼ「薫さんの標準装備スキルは〝第一級旗建て職人〟ですからねぇ・・・」




