第1章 第23話(第30話) ~出発~
ちょっと二日酔い気味のため、今回の前書きは簡潔にいきます(汗
人間の移動手段に革命的な発明が生まれていない時代に、自動車を持ち込むのってかなりのヤバさだと、書いていて気が付いた回でした(苦笑。
というか、下手するとパワーバランスが大きく崩れて、戦争に発展しかねませんね・・・(汗。
ということで、前回までのおさらいです。
町長の屋敷でマッタリ。
主人公の外堀がクリスに埋められていく。
10歳の少女に告られてキョドル。
少女らと一緒にお風呂。
翌朝、俺は紅雨の威力を見たがっていたベルとサイモンを連れ、町の門から外側へと向かう事にしていた。
出かける準備をしていた時は、一緒に行くのはその2人だけだったはずなのだが・・・
家を出る頃にはクリスと町長のドルカスさんまで興味半分で付いてくる事になってしまった。
当然ながらレガ子も一緒だ。
町長の屋敷から歩いて町の北門の外に出た。
そこはつい先日俺たちが盗賊らを撃退した場所で、150メートルほど先に見える窪地には気化ガソリンの爆発によって焦げた大地を見る事ができた。
「すごい焼け跡だのう・・・
これがカオル殿が仕掛けたという罠の威力の痕跡なのか?」
「まぁ、そんなところだ」
俺はクリスの質問に適当に答えると、紅雨の鞘を握って抜刀の構えを取った。
実は俺自身が紅雨の全力を試してみたくてうずうずしていたのだ。
見学者らには、安全のために少しだけ後ろに下がってもらっている。
「ロードスリー!」
鞘に仕込んだBB弾型の炎の魔力結晶を3発連続燃焼させる。
いきなり実戦で連続燃焼を試すようなことはしたくなかったので、この機会にこれも試してみる事にした。
1発だけを燃焼させた昨日に比べ、かなり強大な魔力が紅雨の刀身に流れ込む。
その状態で一気に紅雨を鞘から抜き、右切上ぎみに刀を振るった。
炎を纏った刀身が空を切り裂き、周囲の温度が少し上がる。
「かなり離れているのに、ここからでもかなりの熱気を感じるよ」
紅雨が吐き出す炎を見て、ベルが額の汗を拭いながら呟いた。
コレを創ったレガ子の話しだと、紅雨が出す炎は、刀身に込める魔力量によって数百度から二千度近くにまで変化するらしい。
今は魔力結晶を3発も燃焼させて刀身に吸わせたため、おそらく上限の二千度近くに達しているんじゃないだろうか。
ちなみに、ろうそくの炎は中心で600度くらい、一番高い場所で1400度くらいだ。
他には、都市ガスの炎が1700℃~1900℃くらい、ガスコンロやガスバーナーの炎もほぼ同じくらいだ。
なお鉄が溶け出す温度は1500度と言われており、二千度近くの炎を出しても紅雨の刀身が溶けないのは、やはり魔法のなせる現象といえよう。
「もしかして、カオル殿は近くに居ても熱くないのか?」
俺の様子を観察していていたクリスが気が付いたようだ。
「そうなの。
この炎は、術者である薫さまにはまったく影響を及ぼさないの」
クリスの疑問に、レガ子が自信満々に答えていた。
まぁ、この紅雨はレガ子が創った武器だから気持ちは分かるけどね。
でもクリスたちは魔導器製作者である俺が作ったと思っているのだから、そんなレガ子の態度を不思議に思わないといいが。
「昨日は屋敷の庭だったから出来なかった技を発動させたいんだが、大丈夫だと思うか?」
俺はレガ子に紅雨の状態を確認する意味も含めて聞いてみた。
「薫さま、またアレをやるつもりなの?
今回はいいけど、次回からは技名はオリジナルなのを考えた方が良いと思うの」
うぐぅ・・・
善処します・・・(汗。
レガ子以外は、皆「いったい何をするつもりなんだ?」といった疑問を口にしていた。
「では、あそこの窪みに向かって・・・・
レジ○ンダリー・ファイヤー!!!」
「「「「えぇぇぇ!!!!」」」」
大きな爆発音と共に紅雨の刀身から巨大な炎が生まれ、目標に定めた窪地に向かって、まるで生き物のようにうねりながら炎が飛んでいった。
そして窪地に炎が飛び込むと、その周囲に炎の嵐が立ち上った。
俺が紅雨への魔力をカットして刀身の炎が消えると、窪地に発生していた炎の嵐も消えた。
着弾点(?)を見に行くと、直径50メートルくらいの範囲の地面表面が新たにこげており、その中心部は地面の岩石が溶けたのだろう、一部がガラス質に変化していた。
つまり中心部の炎の温度は1500度くらいあったことになる。
地面の状態を確認し終えて俺が皆のところに戻ると、レガ子以外の全員が口をあんぐりとあけて、呆然と窪地を見つめていた。
ありゃ・・・
やりすぎたか?(汗。
正気に戻ったみんなと一緒に一度屋敷に戻り、そこで一旦解散。
朝食を済ませると、クルマにドルカスさんとサイモンを乗せて町役場に向かった。
町役場には隣村に運ぶ支援物資が山のように用意されており、それらをクルマのイベントリに次々に収納していった。
どう考えても、クルマの室内体積の数倍の荷物を飲み込んだイベントリの性能に、役場の人間全員が目を見開いていた(苦笑。
ちなみに、最後に収納した物資をいくつか取り出して、ちゃんと取り出せることを実演したら、全員がホッとした表情になっていた。
やっぱりクルマに食われたと思われていたようだ・・・。
その後、ドルカスさんから移動証明書を受け取り、一人でクルマに乗って屋敷へと戻った。
サイモンは、村での支援活動の最終打ち合わせをしてから、屋敷に戻ってくるらしい。
屋敷に戻ると、ミャウ、クリス、アリシアの3人娘が着替えなどが入った旅行バッグを持ってリビングで待っていた。
「お、お兄ちゃん・・・ゆうべ・・・はだか・・・」
俺の顔を見るなり、アリシアがそんな事を呟いて顔を赤くしていた。
頼むから夕べの湯浴みの一件は思い出さないで欲しい・・・。
俺もかなり恥ずかしいんだよ。
リビングでしばらく休憩をしていると、打ち合わせを終えたサイモンが戻ってきた。
これでようやく出発する事ができる。
屋敷の滞在中にお世話になった使用人の人たちや町長夫人のサーシャさんらにお礼を言い、全員がクルマに乗り込んだ。
結局、女神は姿を見せなかったため、助手席にはサイモンとベルが交代で座る事になった。
子供たちは全員後部座席だ。
別れ際にサーシャさんが「お昼ご飯にしてね」とお弁当を持たせてくれた。
ありがたい。
ゆっくりとクルマを走らせ町の出口へと向かう。
すると通る道のあちこちに町の住民らが立っていて「ありがとうな」と温かく送り出してくれた。
そんな住人らの見送りを背に受け、町の北門にたどり着いた。
門の脇には町長のドルカスさんをはじめとして役場の面々や警備隊長などが見送りに来ていた。
その中にはトーマの姿もあり、彼は第二陣の支援物資と共に隣村に行く事になっているそうだ。
ベルに想いを寄せていると思われる彼が今回一緒に参加しなかったのは、たぶん前回このクルマに乗って体験した車酔いがトラウマになったためではないだろうか。
がんばれ、トーマ君。
陰ながら応援しているからな。
北門を出るとしばらくの間・・・だいたい5キロほどは石畳の整備された街道になっているらしい。
昨日の夕食時にドルカスさんにベルドの道路整備が行き届いている理由を聞いた。
すると、町の東側にある巨大な地面の割れ目から吹き上がったとされる岩石の多くが石畳に適した石版状の平岩だそうで、そこから石畳として使える石を集めて敷き詰めただけなのだそうだ。
なので材料費はほぼゼロのため、道路の整備コストは大して掛かっていないそうだ。
同じ方法で街から伸びる街道にも石畳を整備したらしいが、重い平岩を運搬しなくてはならない理由から、町から5キロ先ほどまでが限界だったそうだ。
この世界の距離単位は、馬が並足で1時間に移動できる距離が基準になっていて、その距離を1トール(約6キロ)と定めていた。
ベルドの町から隣村までの距離は、約7トール(約42キロ)ほどらしい。
つまり町を出た旅人が最初に宿をとるために立ち寄る村がその隣村になるわけだ。
そういえば元の世界でも日本が江戸時代だった頃を考えた場合、江戸を立った旅人が京に向かう場合は、最初に泊まる事となる宿場町が戸塚宿もしくはその手前の保土ヶ谷宿だったという。
日本橋から保土ヶ谷宿までの距離は、当時の距離単位で八里九町(約33km)、戸塚宿までは十里半(約42km)だったので、この世界の人間の1日の移動距離もほぼ同じような感覚だといえる。
村ではなく大きな町でもっともベルドに近いのが、約40トール(約240キロ)ほど離れた場所にあるロイドという町らしい。
そのロイドは、いくつかの町をつなぐ交易都市らしく、その規模はベルドよりも大きく、〝町〟というよりは〝街〟と呼べる大きさだということだ。
ちなみにベルドからロイドまでは、徒歩で旅をした場合は6日間程かかるそうだが、今は街道沿いのいくつかの村や休憩施設が盗賊の襲撃によって破壊されてしまっており、ロイドとの交易で大きな障害となっているらしい。
ベルドが隣村の復旧を積極的に支援しているのも、そういった交易上の事情があるらしい。
そういえば昨日町を出たメイベルさんは、今どこまで移動しているのだろうか?
通常なら昨日は隣村で1泊しているはずだが、バイタリティがあって商売熱心だからなぁ・・・
村に宿泊せずに毎日ギリギリまで移動して野宿している可能性もありそうだ。
見た目がかわいらしい少女だから(でも実年齢は29歳)、あまり危険な旅はしてほしくないとも思ってしまう。
しかし隣村までの距離が42キロくらいか・・・
このクルマなら、多少の悪路でも時速30キロくらいで走れるから、ゆっくり走っても1時間半もすれば到着してしまうな。
ロイドまでの移動にしても、時速30キロの低速で移動しても8時間で到着してしまう。
この世界の6日間の移動日程を1日に短縮する事が出来てしまう。
そう考えると、人の移動手段が徒歩か馬車に限定されている文明度のこの異世界に〝自動車〟という高度な機械を持ち込んだ事そのものが、この世界のバランスを崩しかねない大きなチート行為ではないだろうか。
個人的な気持ちとしては、異世界を思いっきり疾走して、異世界ドライブを満喫したいところだ。
しかし、長距離を短時間で移動して目立つような行為は、今しばらくは避けた方がいいのかもしれない。
とりあえずは当面の実際問題として、正規の座席に座っていない人を乗せている。
路面状況も良くないので、長時間の連続移動は同乗者らの体調面に影響が出てしまう可能性もある。
なので今回は低速で走るだけでなく、30分の走行毎に休憩を入れて、最長でも4時間くらいで村まで走るのんびり移動のプランを組み立てた。
ベルやサイモン、そして子供たちもこのクルマに乗るのは初めてではない。
しかし、本格的な長距離移動での乗車は今回が初めてとなるため、物珍しさから皆がおもいおもいの行動を取っていた。
「馬車の倍の速度は出ているよな?」(サイモン)
「いや3倍以上じゃないかな?」(ベル)
「石畳の上を走っているとはいえ、この速度でなんでこんなに揺れが少ないのやら」(クリス)
馬車での移動経験があるベルとサイモン、そしてクリスは、その移動速度の速さとゆれが少ない快適な乗り心地に驚き、各々がその感想を言い合っていた。
「「じーーーっ・・・」」
そして旅の経験自体が初めてとなるミャウとアリアは、後部ドアの窓ガラスにべったりと張り付き、流れていく外の景色を一心不乱に見ていた。
最初は時速40キロほどで流していたため、石畳が敷かれた約5キロの部分をあっという間に走破。
その移動速度の速さに、何度もこの街道を通っているベルとサイモンがあっけに取られていた。
そこから先は一気に道路状態が徐々に悪くなっっていったため、現在は時速25~30キロの間の徐行速度で運転中だ。
この速度での悪路走行って、マニュアルミッションだと疲れるのよね・・・
主にクラッチを頻繁に踏む左足が・・・・(汗。
「お兄ちゃん、今どのへんなの?」
変わり映えのしない風景に飽きてきたのか、アリシアがそんなことを聞いてきた。
町を出るときに〝0(ゼロ)〟にリセットしたトリップメーターの数字を見ると、そろそろ15キロを示そうとしていた。
「そうだな、だいたい村までの1/3くらいかなぁ・・・」
「「えっ、もうそんなに移動したのか!?」」
アリシアの質問に答えた俺の言葉に、ベルとサイモンがまた驚く。
やがて、助手席で前方を見ていたベルが、街道脇に続く林の切れ目に休憩に使えそうな広場を見つけた。
「たしかにあの広場は、馬車で移動したときに使う休憩ポイントで、それくらいの距離にある場所だ」
街道を外れて、ベルが示した広場にクルマを駐車する。
外に出ると、そこには水場となる澄んだ小川なども流れており、たしかに馬が休息を取るのに適した場所と言えた。
そういえば元の世界・・・中世の頃のヨーロッパでは、馬車は10~15キロごとに休憩をとったり、20キロ前後で馬を取り替えたりしていたはずだ。
「なぁベル、村までの途中に馬車の馬を交換する馬屋とかはないのか?」
「以前は中間地点にあったんだけど、盗賊によって破壊されちゃてね。
隣村の再建と同時に復旧作業はしているんだけど、逃げ出してしまった馬がなかなか集まらなくて苦労しているみたいだよ」
「じゃぁ、今は?」
「こうした休憩ポイントで長めに休息を取って、馬になんとかがんばってもらって隣村まで移動している」
「そうか・・・」
予想はしていたが、この世界の旅はやはりけっこう過酷みたいだ。
昨日メイベルさんが、ベルドの町で作られた果実酒やジャムなどの加工・保存製品が、他の町でそれなりの高値で売買されていると教えてくれたが、こうした輸送事情の手間とリスクが価格に反映されているんだろうな。
「薫さま、周囲には特に異常はないのっ」
周辺スキャンをしていたレガ子が、周囲の安全を確認したことを教えてくれた。
「それじゃ、ここで昼飯ついでの休憩にしよう」
「ごっはん♪ ごっはん♪」
俺の休憩宣言に、真っ先にミャウが食いついてきた。
まぁ、目的は飯みたいだが・・・。
「お兄ちゃん、てつだうよ」
イベントリから取り出したレジャーシートを広げていると、アリシアがさっそく手伝いを申し出てくれた。
この娘は、こういった細かい気配りが良く出来る。
「アリシアはよく気が付し、積極的にお手伝いしてくれるから助かるよ。
大人になったらきっと良いお嫁さんになれるぞ」
「お、お嫁さん!!」
レジャーシートを広げ終えたアリシアが、赤くなって固まってしまった。
しまった。
地雷踏んだ・・・。
「なんじゃカオル殿、アリシア殿にプロポーズか?
我ならいつでもその求婚に応える用意があるぞ」
アリシアとの会話を聞いていたクリスがさっそく絡んでくる。
まったくコイツは・・・。
「プロポーズして欲しかったら、お前も積極的に手伝ってみろ」
「つれないのう・・・
昨晩はあんなに我の柔肌を撫でまわしたというのに・・・」
ほぅ・・・
クリスめ、昨晩の湯浴みの件をネタにまだ俺をからかう気なのか?
だがな、俺は昨晩の一件はすでに吹っ切ったんだよ。
「ク~~リ~~スぅ~~~」
「あ、あれ? カオル殿・・・
顔が怖いぞ・・・。
あと、なぜ我の額を鷲掴みにする?」
「お仕置き、いいよな?(にっこり)」
そのまま、クリスの頭を鷲掴みした手に力を込める。
「あががががががが・・・・」
子供相手なので一応手加減はしておいた。
が、趣味の自動車整備で鍛えた握力が繰り出したアイアンクローによってクリスが撃沈した。
目を回しているクリスを介抱しているアリシアは「自業自得だよ・・・」とやや呆れている。
そしてミャウは「あんちゃん、その技教えて」とはしゃいでいた。
イベントリから町を出るときに頂いたお弁当を取り出し、皆に配る。
ついでに、いつものバッテリー内蔵型のポータブル多機能電源と電気ケトルも取り出し、食後に飲むお茶の準備をしておく。
俺やベルたちはコーヒーでいいが、お子様たちのためにココアも出しておくことにした。
レガ子には・・・以前好評だったモカジャバでも作ってやるか・・・。
レジャーシートの上では、皆が楽しそうに談笑している。
そんな様子を眺めながら、俺は・・・・・・
「こんな異世界ドライブなら悪くないな」
と思うのだった。
レガ子「薫さま、パクリ技ではなくて、オリジナル技を考えるの」
薫「うぐっ」
作者「まぁ、魔力結晶のBB弾を使った補助システムそのものが、某魔法少女アニメからのオマージュだけどな・・・」
レガ子「うぐぅ・・・・・なのっ」