第1章 第21話(第28話) ~炎の刀・紅雨(べにさめ)誕生~
やっとプロットの段階から存在していた主人公が使うの第1のメインアームを創る所までお話しが進みました。
まさか、ここを書くまでにこんなにも予定外のエピソードが追加される事になるとは思っていませんでした(汗。
ちなみに当初のプロットでは、最初にいた森の出口付近で盗賊から逃げ出したエルフの少女を助けて、その日の夜にエルフ少女の助力も借りて紅雨を創る事になっていました。
どうしてこんなにもエピソードが増えたんだろう?(苦笑)
ということで、前回までのおさらいです。
ベルと町長夫人にちびっこらを引率しての買い物を依頼。
ベルドの町を観察しながらレガ子とデート。
メイベル商会で買い物。
出発準備のために荷物整理を開始。
イベントリからイロイロ取り出してチェックしていると、そこに真面目な顔でレガ子がやってきた。
「今回の戦いで、薫さまにはきちんとした武器が必要だと痛感したのっ」
「このナイフじゃ、やっぱダメか?」
そう言ってコンバットベルトで腰に下げたサバイバルナイフを指差す。
「護身用には十分だと思うけど、今回のように剣を持った相手だと危険なの」
「だよなぁ・・・」
前回のアジト突入のときに盗賊の剣をナイフで逸らすのが精一杯だった事を思い出す。
剣が相手では、攻撃のリーチも重さも、ナイフだと厳しいのは一度の戦闘で理解した。
「でもどうする?
俺にはこの世界のブロードソードとかを扱える自信はないぞ」
親父の実家が剣術・剣道場をやっていたため、子供の頃に本家の従姉と一緒に剣術の練習をさせてもらった事がある。
それでも小学生の頃の話だ。
中学生の途中からは、いろいろあって親父の実家にあまり顔を出さなくなってしまい、そのまま練習も止めてしまっていた。
なので、日本刀よりもはるかに刀身の幅が広くて重いブロードソードなど、実戦で扱いきれる自信がない。
「なので〝紅雨〟を出してください。
武装クリエイト能力で紅雨をちゃんとした刀に作り変えるのっ」
レガ子の目は本気だった。
〝紅雨〟とは、俺が痛車イベントのときに愛車の展示飾りに使っている、観賞用の美術模造刀の1本だ。
鞘と柄の色が紅い色をしているため〝紅雨〟と、やや中二病めいた名称で呼んでいた。
「まさかレガ子がこの呼び方を知っていたとは・・・」
「だって薫さま、イベントがあるたびに〝紅雨〟とか〝水影〟とか〝黒夜叉〟などと呟きながら、刀をこの子に積んでいたの。
レガ子はこの子に宿っていた魂なのですから、当然聞こえていたの」
うわぁぁぁ・・・
自分が名づけた中二病ネームを他人に言われることがこんなに恥ずかしいものだったとは・・・(滝汗。
この場で地面を転がりまわりたいほど恥ずかしいぞ。
ちなみに〝水影〟〝黒夜叉〟というのは、ぞれぞれ別の観賞用の美術模造刀だ。
〝水影〟は鞘と柄が青い色をしており、〝黒夜叉〟は鞘と柄が黒いだけでなく刀身までも黒光りしているから、その名前を付けて呼んでいた。
「でもコレ模造刀だぞ。
材質も弱いし、さすがに武器として使うのは難しくないか?」
イベントリのリストを操作し、〝紅雨〟を取り出しながら言う。
「武装クリエイトの能力で、物質を作り変えて刀身を強化するの。
あとレガ子が使う炎の魔法をその刀身に付加しようと思っているの」
なにっ!?
炎の刀身だと!
ヤヴァイ、俺の中二病心がめちゃくちゃ疼いてしまっている。
「でもレガ子、お前の武装クリエイトの能力は貯めた経験値を消費する。
材質や性質まで変えてしまうようなクリエイトを使うと、消費する数値も大きいんじゃないのか?」
「先日の盗賊退治で、かなりの経験値が入ったから問題ないのっ。
それにレガ子がレベル100になれても、そこに元気な薫さまが居ないと意味がないのっ。
だからっ・・
だからやれる事があったら、出し惜しみはしない事に決めたのっ!」
決意を口にするレガ子の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
それほど、先日の戦いで俺が負傷してしまった事が、彼女にとっては辛かったのだ。
「わるいな、弱っちぃご主人様で・・・。
あと、心配掛けてすまなかった・・・」
そう言葉を掛けながら、俺はレガ子に近づき、瞳に溜まっていた涙をそっと指で拭った。
じっとレガ子が俺を見つめている。
そして俺は、そんなレガ子に顔を近づけ、そのおでこに口付けをした。
「な・・・・」
放心していたレガ子が何かを言いかけた。
「な?」
「なんで、唇にチューじゃないのですか?
この流れなら、絶対にキスの雰囲気だったと思うのっ!」
「ば・・・
バカやろう!
あくまで親愛と感謝の印なんだから、おでこで十分だろ!」
レガ子の抗議で、一気に我に返った。
あ・・・
危ないところだった・・・。
あのままだったら、マジでキスまでしていたかも知れない(汗。
ある意味、キスが未遂に終わったのはレガ子にも原因があったわけだが、今は余計な事は言わないでおこう。
今頃になって、心臓がドキドキしてきたぞ。
30歳童貞、当然キスの経験なし。
この蚤の心臓が恨めしい。
あれ?
そういえば、親父が再婚したばかりの頃、新しい家族になったばかりの愚昧(当時は幼稚園生)に「お兄ちゃんができて嬉しい」とキスされた事がなかったっけ?
でも、さすがにアレはノーカンだろうなぁ。
もしそんな事があったことを覚えているとあの愚昧に教えた日には、その日が俺の命日になりそうな予感がする。
そっか・・・
俺のロリコン趣味の始まりって、もしかしたら義妹がきっかけだったのかもな。
だとしたら、アイツが平和に、そして幸せに元の世界で暮らしていけるよう、この世界でがんばって帝国の野望を阻止しないとな・・・。
「で?
この紅雨はどうすればいい?」
この世界で戦っていくための理由が少しだけ見つかった俺は、さっそく新しい武器を作ってもらうため、レガ子に声をかけた。
「あ、そうだったの。
クリエイトの事、すっかり忘れてたの。
まず紅雨を鞘から抜いて、刀側の方を入れて欲しいの」
装備クリエイトの操作をするため、ナビモニターに向かったレガ子が指示を出す。
イベントリの入り口がクリエイトモードに切り替わった事を確認し、紅雨を鞘から抜いて刀の方をイベントリに投入する。
ドライビンググローブを魔法発現装置に作り変えたときのように、イベントリの出入り口であるラゲッジボックスが青白く光っていた。
レガ子は、掌を当てたモニターから作り出す武器のイメージを送り込んでいた。
そして待つこと20分。
相変わらず〝チーン♪〟という気の抜ける終了音が鳴って、紅雨が亜空間庫から飛び出してきた。
出てきた紅雨を手に取ると、明らかに刀身の材質が変化していた事がわかった。
また模造刀の時には無かった刃が作られており、試しに親指の腹を当てたら簡単に皮膚が切れてしまった。
「薫さま、新しい紅雨の切れ味にはかなりの自信があるから、うかつに刃には触れないで欲しいの」
「ああ・・・
身をもって実感したよ・・・」
血がにじみ出している親指を見せた。
注意する前にすでに怪我をしていていた俺を見て、レガ子が若干呆れた表情を見せた。
「呆れたけど、都合がいいの。
その薫さまの血を、柄の部分にある紋様に塗りつけて欲しいの。
それで紅雨所有者を薫さまで登録するの」
レガ子に言われたように、親指から出てきた血を紅雨の柄の中央部分にある飾り(目貫)に塗った。
しかし特に紅雨に変わった様子は見られない。
俺の血がついて、汚れてしまっただけにも見える。
「まだ紅雨は完成していないの。
今度は、魔力グローブを手に付けて、紅雨の柄を握って欲しいの」
「こうか?」
「そしたら、またイベントリの入り口が青く光りだすから、今度は柄を握ったまま刀身部分だけをイベントリの中に入れて欲しいの。」
「わかった」
俺はイベントリの入り口が青く光るのを確認し、紅雨が引き込まれないよう柄を強く握って、刀身部分だけを中に入れていった。
ズブズブと刀身がラゲッジボックスに入っていく、妙な感触が手に伝わってきた。
「そうしたら、その状態で薫さまの魔力を紅雨の刀身に送り込んで欲しいの。
それに合わせて、レガ子も刀身に炎の魔法を付加するの」
言われたように、グローブに魔力を集めて、その魔力を握っている紅雨の柄から刀身に送り込む。
刀身部分はイベントリの中にあるためイメージするのが最初は難しかったが、柄の部分が赤く光だし、握っている柄の目貫部分が熱くなった途端、刀全体のイメージが俺の脳に飛び込んできた。
まるで刃の先端までが自分の身体の一部のように明確にイメージできた。
そして次の瞬間、レガ子からの魔力が刀身を覆いつくし、鎬筋に沿って魔法呪文が刻み込まれていくのがそのイメージの中に見えた。
「薫さま、もういいの。
紅雨を抜いてほしいの」
レガ子の声が聞こえて、我に返る。
いったい何分くらいイメージの中にトリップしていたのだろう。
イベントリから取り出した紅雨は、刀身が薄っすらと朱色をしていた。
「これで出来上がったのか?」
「まだ鞘の方もクリエイトで加工しないとダメだけど、紅雨本体は完成なのっ」
70センチほどある刀身全体から魔力みたいなものが漂い出してしるのを感じる。
「とりあえず紅雨を構えて欲しいの」
「お、おう」
昔、親父の実家でならっていた剣術を思い出しながら紅雨を正眼に構える。
「あ、
危ないから建物やこの子の居ない方に向けて構えて欲しいの」
「いくら俺でも、素振りで刀を飛ばしたりしないぞ」
「そういう意味じゃないの。
いいから向きを変えるのっ」
とりあえずレガ子に言われたように、中庭の方向に向かって紅雨を構えなおした。
「そうしたら、さっきみたいに魔力を送り込んで欲しいの」
「こうか・・・」
グローブに集めた魔力を紅雨の柄から刀身へと送っていく。
すると刀身全体から白いモヤのようなものが出始めた。
「今度はそのままの状態で、刀身が炎を纏うイメージを作って欲しいの」
炎の刀身のイメージか・・・
俺は記憶の中から、アニメやゲームに出てきた炎の刀を思い浮かべた。
その途端、紅雨が『ボン!』という着火の音と共に炎を纏った刀へと変化した。
「コレは凄い・・・・」
かなりの熱気を放出しながら、炎を噴出し続ける刀身に見とれていると、レガ子が「炎の性質や温度は薫さまのイメージと魔力次第で好きなように変化するの」と、アドバイスをしてくれた。
ふむ・・・
であれば・・・
俺は好きだった某エロゲにでてきた炎属性の刀を思い浮かべ、その刀を使っていたキャラの技名を叫んだ。
「レジ○ンダリー・ファイヤー!!!」
〝ドン!〟という低い爆発音と共に、紅雨からものすごい炎が噴出した。
「わぁぁぁ、薫さまその技はここでは危険なの。
元ネタのように炎が飛び出したらお屋敷の中庭が消し飛ぶのっ(汗」
レガ子が慌てて制止したのが聞こえ、俺も慌てて魔力をカットした。
炎が消えた紅雨の刀身はかなり熱くなっており、このまま戦っても切り結んだ敵に熱でダメージを与えられそうだった。
そして気が付けば、屋敷の使用人たちが皆俺たちの方を見ていた。
その全員の目は、突然表れた炎に恐れおののいていた・・・。
俺とレガ子は、集まっていた使用人の人たちに事情を説明して、謝ってまわった。
そうしているうちに熱くなっていた紅雨の刀身は冷め、なんとかクルマの荷室に置けるほどまでに下がった。
「やっぱ刀身がこうなったの。
なので鞘もクリエイトで強化して、断熱能力を持たせないと持ち歩けないの」
「たしかに・・・」
なので俺とレガ子は、すぐに鞘の方も同じように装備クリエイトの能力で強化した。
出来上がった鞘は、模造刀の頃にあった安っぽさが消え、鞘に取り付けられている笄や小柄、栗形、返角などの装飾が全て美術品のような美しさに作り変えられていた。
「笄と小柄は、いざと言うときに魔力を纏わせて投げる武器にもなるのっ」
レガ子に言われて、笄と小柄を鞘から抜き出す。
ちなみに笄は、武士が髪の手入れをする際に用いていたもので、カッターナイフくらいの大きさがあり、女性が使うかんざしのように先端が細くなっている。
また反対側の先に耳掻きがついているのも特徴だ。
小柄は、笄の反対側に取り付けられている鞘の付属品で、小さなナイフのようなもの。
護身用の飛道具の一種として使われる道具だ。
笄と小柄は、投げた事で紛失しても、また装備クリエイトで作り出せるらしい。
また敵の手に渡ってもいいように、過剰な強化と魔力付与はしていないという。
笄と小柄を外した鞘を見ていて、今までにはない小さな穴が鞘に作られている事に気が付いた。
「なぁレガ子、この穴はなんなんだ?
見たところ直系5~6ミリの短い棒とかが入りそうな穴なんだけど」
「薫さま、いいところに気が付いたの。
今度はBB弾を出して欲しいのっ」
「えっ?」
たしかにキャンプでサバイバルゲームをするつもりだったからBB弾は大量に積んでいるけど、そんなものどうするんだ?
疑問に思いながら5000発入りのホワイトBB弾の袋をイベントリから取り出す。
これをレガ子の指示に従って砂糖などを売るときに使っていた計量瓶に入れた。
とりあえず3瓶ほどをホワイトBB弾でいっぱいにし、蓋を閉めてクリエイトモードのイベントリに再投入した。
しばらくするとクリエイトを終えたBB弾入りの瓶が飛び出してきた。
しかし、その中に入っていたBB弾の色は真っ赤に変化していた。
「そのBB弾は炎の魔法結晶に変化したの、なので扱いには注意して欲しいの。
ちょっとした衝撃くらいでは爆発したりはしないけど、焚き火の中に突っ込んだりしたら大惨事になるから要注意なのっ」
おいおい・・・。
俺は少しビビリながら、出来上がったBB弾(炎の魔法結晶)を取り出して眺めた。
「それをさっきの鞘の穴に入れて欲しいの」
「これを入れるのか?」
「そうなの」
まさか鞘にエアガン機能が付いて、このBB弾(炎の魔法結晶)を撃ち出すとかじゃないよな?
そんな疑問を思い浮かべながら、とりあえずはレガ子の言うとおりに赤いBB弾を鞘に詰めていった。
だいたい20発くらい入ったら、鞘の穴が自動的に閉じた。
「薫さま、紅雨を鞘に戻して、抜刀する前の状態で構えて欲しいの」
紅雨を納めた鞘を左手で握り、右手で柄を掴んで構える。
「そうしたら弱くていいから紅雨に魔力を通して、さっきのBB弾を燃焼させるイメージを思い浮かべて欲しいの」
「燃焼させるのは1発分でいいのか?」
「とりあえずはそうして欲しいの」
俺は頭の中で鞘の中に薬室があるイメージを作り、そこにBB弾を装填して発射する状態を思い浮かべた。
すると鞘の中で急激に魔力が高まり、紅雨にその魔力が集まっていくのを感じた。
「その状態で勢いよく抜刀してほしいのっ」
言われたとおり紅雨を一気に鞘から抜くと、魔力を刀身に纏わせていないにもかかわらず、刀身は熱い炎に包まれていた。
「これは、いったい・・・」
「それは、薫さまの魔力が足りなくなったりしてピンチになった時に使う、補助システムなの」
俺がこの現象に戸惑っていると、レガ子がそんな説明をしてくれた。
どうやら、戦闘が長引いたり、戦っている相手が強くて苦戦を強いられているときに、一時的に不足分の魔力を補ったり、炎の力を強化してくれる仕組みらしい。
「魔力結晶の連続燃焼は3発分くらいまでなら余裕で耐えられるはずなの。
できればそれ以上の連続燃焼は使わないで欲しいところなの」
「絶対に使うな、とは言わないんだな・・・」
「安全が保障できないから極力使って欲しくないけど、それでも勝てない相手に出くわしたときは、薫さまの判断にまかせるの」
あくまで俺が生き残る事を第一に考えてくれているレガ子の気持ちが嬉しかった。
「わかった、十分気をつけて使う事にするよ」
「お願いするの。
あと、近いうちにサイドアームもクリエイトしたいの。
でも・・・今日はここまでなの。
レガ子の魔力はもうゼロなの・・・よ・・・」
レガ子は『○○のライフはもうゼロよ!』みたいなことを言いながら、俺の肩に乗って、首に抱きついてきた。
「だから、薫さまから魔力補給なの♪」
なんか俺の首にスリスリしているが、俺のためにがんばってくれたんだし、今は好きにさせておいてやろう。
「まだ荷物整理の途中なんだからな。
落ちるなよ」
そんな事をいいながら、俺は愛車に積んでいく荷物を整理するのだった。
夕方、メイベル商会で購入した荷物が届いた。
それを愛車のイベントリに収納していると、服を買いに行っていた子供たちが帰ってきた。
俺を見たアリシアが「お兄ちゃん、虫に刺されたの? 首のところがいっぱい赤くなっているよ」と告げた。
そしてそれを聞いたクリスが「ほぅ・・キスマークか。レガ子殿も積極的だのう」と言い出した。
俺は咄嗟に首を手で隠して、レガ子の方を睨んだ。
レガ子は「ヘテぺろっ!」などと言いながら、一目散に逃げていった。
あ・・・
あいつは本当に・・・・。
そんな事を思いながら、俺はなぜか笑い出していたのだった。
レガ子「そういえば、前書きでの私達の会話がいつの間にか無くなったの」
作者「前書きと後書きの両方で、お前達と漫才をやるのが大変なんだよ・・・(汗」
レガ子「それよりも、何で話しの流れを口チューにしてくれなかったんですかっ!?」
作者「いやな・・・
身長が40センチサイズの人型とのキスシーンって、かなり無理があるぞ・・・。
実際、我が家に居るドールで鏡を見ながらポーズとってみたけど、口どころか鼻にまでチューしてしまう感じだったし・・・」
レガ子「まさか、本当に実演したの?
キモイのっ!?」
作者「ほっとけっ!」
※作中に出てきた「レジ○ンダリー・ファイヤー!」の元ネタは、『恋剣乙女』というギャルゲー(エロゲ)に出てくるメインヒロインが使う剣の技名です(苦笑。