第1章 第19話(第26話) ~アリシア・エル・エステル~
前回はクリス視点でのお話でしたが、今回はアリシア視点でのお話になります。
いちおう今回で、他者視点の話しはいったん終了し、次回から主人公視点に戻ります。
(あまり他者視点をやりすぎると、〝side使い〟とか言われちゃいますからね・・・(苦笑))
それぞれの女の子が主人に対してどのような想いを懐いて、一緒に旅をする事を決めたのかを表現するために、それぞれの心情描写に各1話分使ってみました。
ということで、前回までのおさらいです。
クリスの本名は、この国では有名らしい。
盗賊に捕らえられていたのは、後継騒動の罠にはまったため。
クリスには跡を継ぐ意思がない。
後継騒動から逃げるために、主人公を伴侶として落とす事を決意。
そんな我にカオル殿は頭を撫でながら
「早く親御さんを安心させてやれよ」
と優しい言葉をかけてくれた。
頭を撫でてくれる手の感触が心地よい。
これはミャウ殿がふやけるのも頷ける。
我はここの中で、カオル殿を政争に巻き込んでしまっている事を何度も詫びた。
やがてカオル殿は我の頭を撫でながら、まだ事情を話していないアリシア殿のほうを向き、
「今度はアリシアの番だけど、事情を話せるかい?」
と優しそうな笑顔を向けたのだった。
なんだろう、心の奥が少しだけ痛んだ。
◆ ◆ ◆ ◆
(ここからアリシア視点になります)
わたしの名前は、アリシア・エル・エステル。
エルフ族のお母様と、ハーフエルフのお父様、そして5つ年下の妹の4人家族で王国の東側・・・・獣人族の自治区よりも北にある森の近くの村で暮らしていました。
この村があるのは、エルフ族の聖域から近く。
昔から多くのエルフが人間と恋に落ちて暮らすようになっていたため、他の村や町よりもエルフの血が混じった混血の人たちが数多く暮らしていました。
「そんな場所があるのか?」
「ああ、混血とはいっても長寿のエルフの血が混じっていると人間に比べて寿命が長い者が多い。
そのため、自分たちが暮らしやすいように、似たような境遇の物が集まって村を起こしたのが始まりらしい」
お兄ちゃんの質問に、クリスちゃんが答えてくれている。
わたしは人と話すのが苦手だから、クリスちゃんが説明してくれるのは嬉しい。
でも、お兄ちゃんと堂々と話す事ができるクリスちゃんが羨ましくもある。
「そのような村はエルフの森の近隣に3箇所ほどあってな、どこもエルフとの交易の重要拠点として王国が手厚く保護していたはずじゃったのだが・・・・」
「何かあったのか?」
お兄ちゃんの問いかけに、あの時の事が思い出され、握っていたクッションを強く抱きしめてしまった。
「わたしの・・・わたしの住んでいた村が、盗賊たちに襲われたの・・・」
「ミャウと同じパターンか・・・」
盗賊に襲われた村が焼かれて、お父様とお母様、そして小さな妹と一緒に逃げた事。
逃げている最中に盗賊に見つかり、お父様とお母様が目の前で斬られたた事を思い出してしまった。
急に寒くなった気がして、クッションを抱きしめながら震えだしてしまい、その震えが止まらなくなってしまった。
そして泣きたくないのに、涙が止まらなくなってしまい・・・。
そんなわたしを、お兄ちゃんは後ろから優しく抱きしめてくれて
「だいじょうぶ。
もう怖くないから」
と、一生懸命慰めてくれた。
お兄ちゃんの暖かなココロが、わたしの中に流れ込んでくる。
心からわたしのことを心配してくれているのが伝わってくる。
わたしは生まれながらにして精神感応の能力が優れていた。
そのため幼い頃から、近くに来た人たちのココロを色や温度みたいな感覚にして、無意識のうちに読み取ってしまっていた。
わたしに近づいてくる人の中には、暗くて冷たいココロを放っていた人も多く居て、そのことが人付き合いを苦手にする原因にもなっていた。
そういえば、捕まっていた時にはじめてお兄ちゃんに会った時も、明るくて暖かいココロがわたしの中に流れ込んできた。
ちょっと色がピンク色をしていたけれど、それは男性ならば多かれ少なかれ抱いてしまう色だからあまり気にするなと、お父様が苦笑いしながら言っていた。
でもお母様は、あまりにピンクの色が強い場合は〝ヘンタイ〟という病気の可能性があるから、あまり近寄ってはダメともいっていたっけ。
ところで〝ヘンタイ〟ってなんなんだろう?
そんな優しくて暖かいココロを持ったお兄ちゃんが、わたしたちを守るために大怪我をした事がショックだった。
だからあの時、いつも引っ込み思案だったわたしが、自分の意思でお兄ちゃんを助けたいと思ったからこそ、自分から前に出て治療魔法を使ったのだと思う。
「ただ、ミャウ殿の時と違う部分が一つある」
わたしが落ち着くのを待って、クリスちゃんが話を続けた。
「それは何なんだ?」
するとクリスちゃんがわたしに近づいてきて
「アリシア殿、ちょっとだけ失礼する」
と言って、わたしの両肩に手をかけた。
そして、わたしの後ろに居るお兄ちゃんに少しだけ離れるように言った。
「ごめん!」
そう言うと、クリスちゃんはわたしが着ていたキャミソールの肩紐を外して一気にずり下げた。
「きゃぁぁ!」
「うわっ!
クリス、お前なにをしている!」
わたしは咄嗟に胸を両腕で隠して前に屈んだ。
屈んだときにおでこがクリスちゃんのおなかに当たって、苦しそうな声を出した。
くすん・・。
でもクリスちゃんが悪いんだもん。
謝らないもん。
お兄ちゃんの方を見ると、顔を背けながら、目だけがちらちらと裸になってしまったわたしの上半身を見ていた。
お兄ちゃんのエッチ!
ばかっ!
でも、まったく見てもらえなかったらと考えたら、それはそれで悲しい気持ちになってしまった。
なんでだろう?
「兄殿、ちらちらと見ていないで、アリシア殿のココを見てくれ」
そういうとクリスちゃんは、わたしの背中の一部分・・・。
肩甲骨のあたりを指で指した。
そこには他のエルフ族の人たちや、人間や獣人の人たちには無い、わたしだけの醜い身体的特徴があった。
「ダメッ!
そこは醜いから見ないでっ!」
そう叫んで背中を隠そうとするけど、クリスちゃんがわたしの身体をしっかりと抑えて身動きする事ができない。
なんで、こんないぢわるをするの?
そんな事を思い、泣きそうになっていると、クリスちゃんがわたしの耳元で
「大丈夫じゃ。
兄殿は、こんな事でアリシア殿を嫌ったりはせん」
そう言ってくれた。
「これは・・・
骨が出ているのか?」
お兄ちゃんが、わたしの背中から飛び出ている、片側に3つずつある白くて硬い骨のような突起を指で触る。
「ひゃん!」
なに?
今までこの場所を他の人に触られても、こんな風にくすぐったく感じることは無かった。
そして触られている場所から、お兄ちゃんがわたしを心配してくれている気持ちがダイレクトに流れ込んできた。
「いや・・・それはおそらく羽根だったモノの名残・・・。
アリシア殿は先祖返りで生まれたエンシェント・エルフの個体だと思う」
え?
そんなこと初めて聞いたよ。
「クリスちゃん?」
「親御さんから聞かされていなかったか?」
コクンとうなずく。
「そうか・・・
おそらく親御さんも先祖返りには気が付いておったはずじゃ。
たぶんアリシア殿が大人になったら打ち明けるつもりだったのかもしれん」
そういえば、時おりエルフの里から長老さまや神官さまといった偉い人が尋ねてきていた。
それはわたしの背中にあるこの印が理由だったのかな。
「エンシェント・エルフって何なんだ?」
「人間やエルフの教会、そして獣人族の神殿に古くから伝わっている伝承があってな・・・。
大昔にこの地に栄えた文明があった頃、この世界には背中に6枚の羽根を持った人型の種族がいたらしい。
彼らはこの世界にさまざまな英知をもたらしてくれたが、突然起こった大変動で姿を消してしまったと言われている。
その大変動の時に羽根を失ったのが、エルフ族の先祖・・・エンシェント・エルフだというのが言い伝えの内容じゃ」
ふわぁぁぁ、そんなおとぎ話、初めて聞いたよ。
クリスちゃんって、本当に物知りだよね。
「で・・・
アリシアが特別なエルフだった事と、盗賊の襲撃にどんな関係があるんだ?」
「それはな・・・・」
クリスちゃんと目が合う。
でもクリスちゃんは、それを言うべきか悩んでいるようだった。
「おしえて、クリスちゃん。
わたしも本当の理由が知りたい」
クリスちゃんをじっと見つめる。
やがてクリスちゃんは観念してその続きを話してくれた。
「エンシェント・エルフはな、今のエルフ族よりもはるかに強大な魔力を操ることができたと言われている。
魔力の軍事転用を考えている国などからしたら、喉から手が出るくらい欲しいじゃろう。
なので、おそらく盗賊らの目的は、最初からアリシア殿の拉致だったのではないかと思っておる」
クリスちゃんのその推測に大きなショックを受けた。
だって、わたしが居たから村が・・・
わたしが居たから・・・
「わたしが居たから、お父様とお母様は襲われてしまったの?
わたしが居たから妹は・・・
村のみんなは・・・」
その悲しみを口にしてしまった途端、わたしの身体の中を冷たくて暗い色の力が流れて、身体から溢れ出していくのを感じた。
あぁ・・・
そっか、これが憎しみという感情なんだ・・・。
「まずいぞ兄殿。
アリシア殿の魔力が暴走しかかっとる!」
クリスちゃんが慌てている
「くそっ!
どうすれば・・・」
お兄ちゃんが慌てている
「アリシアちゃんのココロが閉ざされかかっているの。
でももう一度ココロにふれることができれば・・・」
精霊の子が何かを言っている。
そんな周囲の様子をわたしはどこか遠くの冷たい場所からぼんやりと眺めていた。
わたしからあふれ出している魔力が、純粋な凶器となって近くに在るものを傷つけはじめていた。
お兄ちゃんもクリスちゃんも、わたしに近づく事ができないでいる。
「戻って来い! アリシアっ!!」
そう叫んでお兄ちゃんが後ろからわたしに抱きついた。
わたしに触れようとしたお兄ちゃんの身体に無数の魔力の刃が襲い掛かり、お兄ちゃんが着ていた寝巻きを、その下にある皮膚を切り刻んでいく。
そうして自分がボロボロになりながらわたしにたどり着くと、力強く抱きしめてくれた。
お兄ちゃんの身体から流れ出た血が、わたしの背中にある6つの羽根の名残にかかり、そこからお兄ちゃんの気持ちが一気に流れ込んできた。
〝大丈夫だから〟
〝アリシアは俺が守ってやるから〟
〝俺のそばに戻って来い!〟
そんな暖かなお兄ちゃんのココロが、わたしのココロの中に流れ込んできた。
そしてわたしを閉じ込めていた、暗くて冷たい色が消えていった。
「あっ、お兄ちゃん!
血が・・・大怪我してるよっ」
正気に戻って最初に視界に飛び込んできたのは、傷だらけになりながらも、後ろからわたしを抱きしめてくれているお兄ちゃんの腕だった。
慌てて振り返ると、全身血だらけのお兄ちゃんが微笑んでいた。
「ようアリシア、もう悪い夢は覚めたか?」
「ばかぁっ。
死んじゃったらどうするのよぅ」
「でも俺は死ななかった。
そしてアリシアも取り戻した。
何も問題なんて無いさ」
そう言って、わたしを怖がる事も無く、笑ってくれるお兄ちゃん。
ありがとう・・・。
そうしてしばらくお兄ちゃんと見詰め合っていると、クリスちゃんがとんでもない事を言い出した。
「裸で抱き合う大人の男性と少女か・・・
なかなか 扇情的でいいものだのう」
え?
はだか?
えええっ?
「きゃぁぁぁっ!」
慌ててお兄ちゃんと離れる。
「「にやにやにや」」
う~~
クリスちゃんとミャウちゃんがいぢわるな笑みを浮かべている。
お兄ちゃんは、照れているような、困った笑顔をしていた。
精霊さんは「事案なの!事案発生なの!!」って騒いでいる。
〝ジアン〟ってなんだろう?
やがて、わたしの魔力暴走が起こしてしまった騒ぎが落ち着いたので、お兄ちゃんにはベッドに横になってもらった。
理由は、怪我を治すための治癒魔法をかけるためだ。
でもお兄ちゃんは「後1時間もすれば全回復するから・・・」とわけの分からない事を言っている。
人間の身体が急に治ったりするはずないのに、何を言っているのだろう?
「あれ?
治癒魔法が今朝よりもかなり強くなっている?」
お腹の時とは怪我の深さが違うとはいえ、今度はほぼ全身が傷だらけだったのに、お兄ちゃんの身体の傷は治癒魔法であっという間に治ってしまった。
なんでだろう・・・
魔法の力がものすごく強くなっているように感じる。
お兄ちゃんやクリスちゃんは「魔力暴走を経験した事が関係あるのでは?」と言っていたけれど、本当にそうなのかな?
あと、わたしの背中にあるエンシェント・エルフの6つの印が、お兄ちゃんの血を吸って淡い朱色に変化してしまったらしい。
そのせいなのか、以前よりもお兄ちゃんのココロを近くに感じられるようになっていた。
「しかし盗賊どもは、攫ったアリシアをどうするつもりだったんだ?
クリスもミャウも幼い女の子だったけれど、盗賊の親玉がそういった趣味の持ち主だったのか?」
元気に回復したお兄ちゃんが、クリスちゃんにそんな疑問を口にした。
そういった趣味って、どういう趣味なんだろう?
「あそこのボスがそっちの趣味の持ち主だったら、我々はとっくに喰われておったわい」
「え?
わたしたち、あの悪い人たちに食べられちゃうはずだったの?」
「あ~~、たぶん〝食べる〟の意味が違うと思う」
お兄ちゃんが、赤くなりながら訂正してきた。
???
わたしには意味が難しくてよく分からないよ。
「恐らくじゃが・・・
やつらは、ミャウ殿を交換条件にして神殿から奪うつもりだった聖遺物と、我とアリシア殿をまとめて帝国に移送するつもりだったのではないかと思うておる。
なにせあの国は、旧世界の魔道兵器復活を目論んでいるらしいからの」
「帝国って、魔導帝国か?」
「あそこ以外に帝国があるのか?」
お兄ちゃんは〝帝国〟って言葉を聞いて、すごい真剣な表情になった。
伝わってくるココロにも、焦りのような感情が混じっている。
「そもそもアリシア殿が居た村には、王国の精鋭部隊が警備に付いておったのじゃ。
エルフ族との交易は、最も重要な事業の一つだからの。
しかし、あの盗賊どもはその精鋭部隊を簡単に食い破りおった」
「あの盗賊って、そんなに強かったのか?」
「普通は盗賊が正規軍の精鋭に勝つなどありえん!
我は、あの盗賊どもは帝国の兵士が盗賊に姿を偽って、この王国内で活動していたのではないかと睨んでおる。
しかしその盗賊どもを、兄殿が発案した戦法で一網打尽にするとはのう・・・
正直、惚れ直したぞ」
むぅ・・・
お兄ちゃん、クリスちゃんに〝惚れ直した〟とか言われてデレデレしている。
お兄ちゃんのココロが以前よりも強く伝わって来るようになったのはいいけれど、こんどはわたしのココロがモヤモヤすることが多くなったような気がする。
なんだろう、この気持ち?
「で、どうだ?
アリシアも俺たちと一緒に来るか?」
「うん」
お兄ちゃんの提案に、わたしはすぐに頷いた。
というか置いていかれたら、間違いなく泣いてしまう。
「となると・・・
まずはミャウの村に行って、そこから北上してアリシアの村。
王都に寄るのはその後でいいか?」
「ああ、問題ないぞ。
(というか、その方が都合がよい)」
「じゃあ、このベルドで旅の準備ができたら出発だな」
こうして、わたしたち3人はお兄ちゃんと一緒に旅をする事が決まりました。
レガ子「なんでレガ子との2人旅だった予定が、幼女ハーレム状態に?」
作者「レガ子だけだとお色気要員が足りないんだよ」
レガ子「お子様たちだって、お色気なんて無いじゃないのさっ」
クリス「我、せまる時は凄いんじゃぞ」
アリシア「が・・・がんばる」
ミャウ「よく分からないけど、ペロペロがんばるにゃ~」
作者「はたして30歳童貞の運命はいかに・・・
そして童貞を奪う栄冠は誰の手に・・・・(マテwww」
レガ子「こ・・・こうなったら、装備クリエイトですっごいディ○ド作って・・・
薫さまのバックをホルエモン・・・」
薫「やめんかぁぁ!(滝汗
あと、あぶない時事ネタを言うんじゃない!(汗」




