第1章 第18話(第25話) ~クリス(クラリス・フォン・○○○○○○)~
前回はミャウ視点でのお話でしたが、今回はクリス視点になります。
クリスは、けっこう重要な役どころを担う予定のため、心情描写にけっこう力が入ってしまいました(苦笑。
そのためミャウ視点よりも長くなってしまいました(汗。
ということで、前回までのおさらいです。
前回はミャウ視点で、ミャウが盗賊に捕まった経緯の説明。
ネコ族の村が盗賊に襲われた。
盗賊の狙い(?)は、獣人自治区にある大昔の文明の遺産(聖遺物)。
聖遺物の略奪に失敗したので、ミャウを人質にとって交渉していた(?)。
ミャウをネコ族の村まで送って行くことが決まった。
「なぁミャウ。
ミャウさえよければ、俺がネコ族の村まで送り届けてやるが、どうだ?」
「ありがとうにゃん♪
とっても嬉しいにゃん♪
ぜひお願いするにゃん♪」
やがて、あんちゃんの手によってボクは引き剥がされ、もとの食事位置に座らされた。
残念・・・。
もっとペロペロしてスリスリしたかった。
あんちゃんは暴れているちっちゃな精霊の頭を掴んでおとなしくさせると、今度はクリスちゃんの方を見て
「今度はクリスの事情を教えてもらえるか?」
と話しかけた。
◆ ◆ ◆ ◆
(ここからクリス視点になります)
「ふむ、我が捕まっていた事情か・・・」
さて、どこまでこの男に事情を話してよいやら。
我の勘では、この男は間違いなく〝敵側〟の人間ではないだろう。
じゃが〝味方側〟の人間でもない。
「ちょっと複雑なお家の事情が絡んでいる故、全てを話す事はできないが、それでもいいか?」
正直なところ、この男の信用度を測りかねておる。
権力争いが絶えない環境で育ってきた我は、これまでは勘のみでほぼ正確に〝敵〟と〝味方〟の人間を嗅ぎ分けてきた。
しかし、この男だけはそれが読めない。
我にしては珍しい事だと思うと同時に、この男に興味もわきはじめていた。
なので、事情の説明にかこつけて、この男を試す事にした。
「まず我の名前なのじゃが、クリスというのはあくまでも愛称じゃ。
本当は、クラリス・フォン・なんちゃらかんちゃらという、かなり長ったらしい名前がある」
「おぃ、ファミリーネームをなんでぼかす」
「我のファミリーネームは有名なのでな、今はまだ秘密にしておきたい。
あと、他の人たちの前ではできるだけクラリスではなくクリスと呼んでもらいたい。
ダメか?」
我ながらあざといと思える表情と仕草を作って、お願いしてみる。
すると顔を赤くして視線をそらした。
あ・・・
この格好(借り物のキャミソール姿)だと、今のポーズでは我の乳が見えてしまったか?
こんな育ってもいない乳をみて赤くなるなど、かなりウブな男なのかもしれん。
「ダメではないが、そんなにファミリーネームを隠したがるのは、さっき言っていた〝お家の事情〟とやらに関係があるのか?」
ふむ・・・
我がクラリス・フォンとまで名乗っても驚きもしないか・・・。
フローリアス王国の国民であれば、ファーストネームとミドルネームだけ訊けば我の素性に気が付きそうなものなのだが・・・
そういえば町長の娘のベル殿が、〝龍の森の中にある研究所に引きこもっていた、変わり者の魔導器製作者〟だとか言っていたな。
あと〝世間知らず〟だとも・・・。
俗世に興味がなく研究ばかりの生活のせいで、我の名前を知らなかった可能性もあるな。
「まぁ、そうじゃな。
端的に言ってしまえば、跡取候補を巡るお家騒動に巻き込まれた。
我よりも弟たちを支持している派閥にはめられてのう、盗賊に売り飛ばされのじゃ」
「また子供相手に物騒な・・・」
「まぁ、そうなんじゃがな・・
ただ10歳ともなると政略結婚など組まれてもおかしくないのでな、婚約相手の家柄次第では我に敵意を抱いておる派閥の連中にとっては目障りとなるのじゃろう」
まったく迷惑な話じゃ。
我には父上の跡を継ぐつもりなど、これっぽっちも無いのじゃがなぁ・・・。
跡取の椅子など、可愛い弟らに喜んで譲るつもりなのだが、なぜか回りの大人たちが理解してくれん。
「えっ?
そんな子供のうちから結婚しちゃうの?」
「貴族の間ではそう珍しい話しではないと思うが?
つい最近も北部に居城を持つバーミントン伯爵が9歳の子爵令嬢を嫁にもらっていたしな」
「そうなのか?
もしかして(この世界は)合法ロリ天国なのか・・・」
なんじゃ?
驚くポイントがそこなのか?
やはりこの男は世間の事をあまり知らないようじゃな。
あと〝ゴウホウロリ〟とはどういう意味なのじゃろうか?
魔導器製作者たちが使う専門用語か何かか?
「ちなみに、そのバーミントン伯爵は45歳で、子爵令嬢は3人目の奥方だったはずじゃ」
「幼な妻・・・
一夫多妻・・・
(ごくり)なんとも、うらやまけしからん・・・」
ふむ・・・
どうやらこの男は、幼い女子が好きなタイプの男性のようじゃな。
そういえば、アリシア殿に「お兄ちゃん」と呼ばれて悶絶しておったな。
しかし・・・
将来有能そうな魔導器製作者か・・・。
貴族でもそうそう口にする事ができない精製度の高い砂糖をお茶の中に贅沢に使っているところを見ても、この男の所有している魔導器が並みの技術で作られたものではない事が分かる。
少なくとも一緒に居れば路頭に迷うような事にはならんじゃろう。
ふむふむ・・・
我が置かれた状況を打開するために利用するのも、悪くないかもしれん。
そんなことを考え付き、この〝カオル〟と呼ばれていた男の顔をじっくりと見てみる。
黒い髪に、黒い瞳。
この大陸ではけっこう珍しいタイプじゃ。
顔立ちの彫りは浅いが、けっして不男ではないのう。
どちらかと言えば整っている方じゃろう。
体格も、太っているわけでも、痩せているわけでもなく、ちょうどいいバランスといえるな。
少なくとも、屋敷で贅沢な食事ばかりして肥えてしまっている、貴族のブタたちよりはマシじゃ。
少々筋肉不足なのが気になるが、技術職の魔導器製作者だしこんなものじゃろう。
頭の中まで筋肉でできているような騎士や将軍とかに比べれば、カオル殿の方が賢いだけポイントが高い。
我好みの筋肉については・・・・一緒に旅して我が鍛えればいいだけじゃしな。
「なぜ俺の顔をじっくりと見ている?」
「いやぁ、よく見ると兄殿はいい男だと思っての」
とりあえずは、我に対するカオル殿の高感度を稼ぐためにも、呼び方を〝兄殿〟にして喜ばせる事にしよう。
我の事情のためにカオル殿を利用するようで少々気が引けるが・・・
そこは、ほら、あれだ。
もしカオル殿が我を求めてきたら、誠心誠意をもって応えるという事で許してもらおう。
これでも屋敷の女中たちに男性を悦ばせるための知識は教えてもらっておる。
なんとかなるじゃろう。
「嘘こけ。
なんか顔つきが悪巧みをしているような感じになっていたぞ」
いかん、いかん。
考えていた事が、顔に出ていたようじゃ。
「兄殿は疑り深いのう・・
我はこんなにも兄殿を好いているというのに・・・」
とりあえず胸元が見えるように前屈みになって、カオル殿の注意をそらしてみる。
カオル殿は赤くなって顔こそ逸らしているが、目がちらちらと我の胸元を見ておった。
けっこうチョロイのう♪
我よりもかなり年上のはずだが、かわいい奴よのう♪
「そういえば兄殿はいくつなのじゃ?」
「つい先日30歳になったばかりだ。
おっさんで悪かったな」
歳の話をしたらなぜかカオル殿がむくれてしまった。
女子に歳の話を振って機嫌を損ねるならわかるが、なぜ男性が歳を気にするのじゃ?
「そんなことはないぞ。
むしろ見た目がもうちょっと若かったので、驚いているくらいじゃ」
「そうなのか?」
「サイモン殿は35歳で、あれが一般的な男性の見た目と年齢じゃぞ」
「うそっ!
俺はサイモンのことを40~50歳くらいのおっさんだと思っていたぞ!」
「かっかっかっ、
兄殿も見た目と年齢のギャップは、エルフ族のことを言えんのではないか?」
「うぐぅ・・・。
そういえば日本人は白人よりも幼く見えるんだったっけ・・・・」
はて?
〝ニホンジン〟とは初めて聞く部族のなまえじゃ。
いろいろ物知りなつもりであったが、我の知らない部族があるとは、この世界はやはり広いのう。
「で、クリスはこの後はどうするつもりなんだ?」
真面目な表情に戻ったカオル殿が我に今後の事を尋ねてきた。
「もちろん兄殿に付いていくぞ。
ミャウ殿を送った後でかまわないので、王都に寄ってもらえるとありがたい」
王都に付くまでにカオル殿と既成事実とやらを作って、父上と母上を無理やり納得させられる状況にしなければならないのう。
それができれば、我は跡目争いとは晴れておさらばじゃ。
「王都って遠いのか?」
「ミャウ殿が生まれ育った獣人自治区からだと、移動ルートにもよるが馬車で30日くらいはかかるかのう」
あの移動用魔導器だと、馬車よりも早く移動できてしまいそうなので、できるだけ遠回りしてもらえるとありがたいところじゃ。
「途中の町とかで、クリスの無事を親御さんらに伝える方法はあるか?
貴族の娘さんを連れまわしていて、誘拐犯と間違われるのだけは、さすがに勘弁ねがいたい」
「それなら大丈夫じゃ。
盗賊団に取り上げられていたコレを取り戻したしな」
そういって我は通信用魔導器をカオル殿に見せた。
「コレは父上と母上、我の親衛隊隊長と母上の実家から長年母上に付き従ってきた侍従長の4人だけに用件を伝える事ができる通信用魔導器じゃ。
これで後ほど我の無事と、救出してくれた功労者と共に近いうちに帰る事を伝えておこう」
「そんな便利な道具があったのか」
おや?
魔導器製作者なのに通信用魔導器の存在を知らんのか?
カオル殿の研究している魔道器は特殊なジャンルっぽいからのう・・・
畑違いと言うやつなのだろう。
「この最南端のベルドからだと、王都まで用件が届くのに丸1日ほど掛かるのと、再度使えるようになるまでマナがチャージされるのに6日間ほど掛かるのが欠点じゃがな」
「それでもまったく連絡が取れないよりはマシだ。
親御さんも心配しているだろうし、すぐにでも連絡してあげるといい」
なんの疑いもなく我のためを想ってそう提案してくれたカオル殿に後ろめたさを感じ、我は少しだけ視線を逸らしてしまった。
「あとで・・・、一人になったときに用件を入力する。
皆の前ではちと恥ずかしいのじゃ」
そんなことを言って誤魔化す。
そんな我にカオル殿は頭を撫でながら
「早く親御さんを安心させてやれよ」
と優しい言葉をかけてくれた。
頭を撫でてくれる手の感触が心地よい。
これはミャウ殿がふやけるのも頷ける。
我は心の中で、カオル殿を政争に巻き込んでしまっている事を何度も詫びた。
やがてカオル殿は我の頭を撫でながら、まだ事情を話していないアリシア殿のほうを向き、
「今度はアリシアの番だけど、事情を話せるかい?」
と優しそうな笑顔を向けたのだった。
なんだろう、心の奥が少しだけ痛んだ。
その晩、我は通信用魔導器を使って王都に居る家族らに連絡を送った。
その内容は・・・
『派閥の政争に巻き込まれて盗賊団に売り飛ばされた。
が、若く、勇敢な魔導器製作者の男性が我を助けてくれた。
我は彼に一目惚れをした。
今は遠くに居るが、彼の護衛で、近く王都に戻る。
彼との婚姻の準備をして待っていて欲しい』
さて、明日からカオル殿を落とすのに忙しくなるぞっ。
レガ子「わぁぁぁぁぁ、
薫さま、この娘っ子は送り届けてはダメです」
薫「何を言っているんだ、レガ子は・・・」
レガ子「薫さまは、この娘っ子の心の声を読んでいないのですか?
王都に行ったら、薫さまの婚活が終わってしまいますよぉ~~」
クリス「正妻の座は、レガ子殿に譲るつもりだぞ。
なんなら、我と一緒に盛大な挙式でも行うか?」
レガ子「え?」
クリス「この国は一夫多妻制だしな、問題ないじゃろ。
それに我なら、この知略を使ってレガ子殿のカオル殿攻略を手伝ってあげられるぞ」
レガ子「そ・・・・それなら問題ないのっ。
いろいろ力を貸してほしいのっ」
クリス「(こやつもチョロイのう・・・)
では、我とレガ子殿で旅の最中にカオル殿を落とす相談でもしようかの」
レガ子「はいなのっ!」
・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
薫「一瞬、寒気が襲ってきたのだが・・・
風邪でも引いたかな?」
次回はアリシア視点でのお話になります。