第1章 第4話(第11話) ~マナと魔法因子~
そろそろ月刊情報誌の編集長としてのお仕事が忙しくなってくる時期なので、更新頻度が空いてしまう時があるかもしれません。
社会人・・・しかも中間管理職をしながらの執筆のため、申し訳ありませんがご了承ください。
前回までのお話し
レガ子のスキルアップと一緒に、主人公がレガ子(愛車レガシィ)のドライバーという部品であることが発覚。
犯人は女神。
そして女神の株価は整理ポスト手前まで大暴落。
「だったら、さっさとスキル獲得して来いっ!」
言葉に合わせてレガ子のオデコを指で優しく弾く。
するとレガ子は、オデコを両手で押さえながら・・
「はいっ♪」
と満面の笑顔で返事をして、操作モニターへと向かっていた。
さて・・・
俺はスキルポイントをどう使おうか・・・・。
改めて自分の獲得スキルポイントと、習得可能なスキル候補を見る。
【如月薫(種族:自動車部品、職業:ドライバー)】
【獲得ポイント:2ポイント(合計:2ポイント)】
■現時点でポイント割り当て可能なスキル
【技能強化(反応速度強化・レベル1):2ポイント】
【技能強化(視野強化・レベル1):2ポイント】
【能力取得(危険予知・レベル1):2ポイント】
う~~ん・・・
愛車やレガ子に比べるとレベルアップで獲得できたスキルポイントが半分なのが泣けてくる。
取得可能なスキル候補は、どれも職業としての能力を底上げするものばかり。
いままでの展開で予想はしていたけど、あの駄女神様は俺にはホントにチートスキルとかを授けてくれなかったのね・・・(涙。
先ほどレガ子も気にしていたが、この先、自分たちと敵対する生き物とかに出会う可能性はかなり高い。
というか、出会わないで旅をするという方が無理だろう。
となれば、戦闘になった時にもそれなりに役立つスキルを身につけておきたい。
そういった意味では〝視野強化〟も〝危険予知〟もイザという時に役に立ちそうだ。
しかし、手持ちの武器が中型のサバイバルナイフしかないことを考えると、近接戦闘で役立ちそうな〝反応速度強化〟を選んでおくべきだろう。
「よし、決めた!」
さっそく操作画面をタッチし、【技能強化(反応速度強化・レベル1)】を実行する。
『反応速度強化を実行します。
肉体の反射速度を15%アップ。
能力が最適に実行できる状態に肉体を再構築します』
すると脳内にアナウンスのような声が聞こえ、同時に全身にむず痒さが襲い、神経が痺れるような感覚が広がった。
全身の筋肉や伝達神経が作り替えられていくようなビジョンが思考の中に投影されてくる。
そんな状態は1分ほどで収まったが、初めて体験した肉体を改造される感覚に、乗り物酔いにも似た気持ち悪さを感じてしまった。
「これは・・・
慣れるまでけっこうキツイかもしれない・・・」
小声で弱音を呟きながら、先にスキル獲得を実行していたレガ子の方を見る。
あっちの方は俺のような精神ダメージは感じていないようだ。
獲得したスキルの説明を読みながら、「おー」とか「なるほど」とかはしゃいでいる。
これが生身の肉体を持った人間と、擬似的な肉体を持った精霊との違いなのかもしれない。
愛車のスキル実行のときに取り出しておいた缶コーラの残りを一気に飲み干す。
炭酸飲料の爽やかなのどごしで、気分の悪さを回復させる。
スマホに表示された時計を見ると、午後2時を少し過ぎたあたり。
少々遅いが、昼飯を兼ねた休憩を取るには良い頃合かも知れない。
使う予定がなくなってしまったバーベキュー食材を出そうかとも思ったが、今バーベキューセットを使ってしまうと片付けるのが面倒だ。
どうせイベントリーの中は時間が停止しているため、食材は腐らない。
であれば腰を落ち着けて休憩を取る時の方がいいだろう。
なのでイベントリの中から冷凍庫を出し、中に入れてあった冷凍チャーハンを取り出した。
「そういえば、レが子は食事をしたりしないのか?」
朝食の時にレガ子が何も食べていなかったことを思い出したので訪ねてみた。
もし食事が必要なのに食べさせていなかったとすれば、完全に俺の責任だ。
すると、レガ子は少し考える素振りをして
「基本的には、食事をしなくても大気に満ちているマナの補給で足りてしまうのですが・・・
せっかく味覚も備わっているので、食事というものをしてみたいです!」
「そっか、じゃぁ一緒にチャーハン食うか?」
「はいっ♪」
イベントリから追加でカセットコンロとフライパン、食用油を取り出し調理を開始する。
笑顔で飛んでくるレガ子を見て、一緒に飯を食ってくれる相手がいることに喜びを感じている自分に苦笑した。
アウトドア用の椅子一体型の折りたたみテーブルを広げて食事をする俺ら。
レガ子には「多いかな?」と思いながらも半人前を作ってやったのだが、結局全部食べてしまった。
あの人形サイズのボディのどこに、あの容量が入っていくんだ?(汗
「なぁ、レガ子が食べたもモノって、その後どうなっているんだ?」
「お腹の中でマナに変換されて、マナが濃縮されたマナ結晶になります」
「そういえば、そのマナって何なんだ?」
「全ての生命の源です」
「生命の源?」
「生命の存在に適した環境があっても、その地にマナが満ちていなければ生命は生まれません。
大気中のマナが濃いほど、より高度な生命体が生まれます。
逆にマナが枯渇してくると、その世界で生きている命はやがて滅びてしまいます」
ゲームなどによく出てくるマナの設定と一緒だな。
「ちなみに、魔力の源もマナですよ」
そっちもか。
ということは・・・・
「この世界は大気中のマナが濃いのか?」
「そうですね、元の世界に比べるとかなり濃いですね。
というか、濃すぎるくらいです」
「そっか、こっちの世界に魔法があるのはマナの濃さの違いなのかぁ・・・」
「えっ?
オーナー様がいた元の世界も、マナの濃さでいったらけっこう濃い方ですよ」
俺が勝手に結論づけた〝元の世界に魔法が存在しない理由〟に、レガ子が異論を唱えた。
でも、実際に元の世界では魔法なんて空想上の存在でしかないぞ?
「そもそも元の世界のマナが薄かったら、人間のような高度な生命体は生まれていませんよ。
それに私たち八百万の精霊は、濃度の高いマナに持ち主の想いが加わって魂に変化して生まれるんです。
なので、元の世界に満ちているマナが薄いということは決してありえません」
「でも、実際に元の世界には魔法が使える人間なんていないぞ」
もしかしたら俺が知らないだけで、世間に隠れてそういった人たちは居るのかもしれない。
しかし、多くの人間は魔法なんて使えない。
「そこが不思議なんですよねぇ・・・・」
「どういう意味だ?」
「なぜか元の世界の生き物は、魔法因子を体内に持っていないんですよね」
食後のデザートに出してやった生クリームたっぷりのショートケーキにかぶりつきながら質問に答えてくれるレガ子。
顔中に生クリームをつけながら嬉しそうに食べているその姿は、まるで幼稚園児のようでもある。
「ほら、顔を拭いてやるからこっち来い」
「ふみゅ・・・」
ゴシゴシ・・・
お~お~、人に顔を拭かれなが無防備に嬉しそうな顔しやがって。
「こっちの世界に来てから周辺スキャンで確認した野生生物には全て、大なり小なりの魔法因子が備わっていました。
でも元の世界では、私たち精霊以外には魔法因子を持った動物や人間はほとんどいませんでした」
「ただ単に元の世界にはその魔法因子がないだけじゃないのか?
ん? ちょっとまて・・・
今〝ほとんど〟って言ったよな?
あっちの世界にもいたのか? 魔法因子を持っていた人間が?」
「いましたよ。
本当に力を持った巫女さんとか霊能者さんとかがそうでした。
ただ、魔法因子はみなさん小さかったですが・・・」
どういうことだ・・・
元の世界の生き物が特殊なのか?
それともこっちの世界の生き物が特殊なのか?
「そもそも、その〝魔法因子〟って何なんだ?」
すると、レガ子は少し考え込んでから俺のノートパソコンを操作し始めた。
そして、俺のお気に入りアニメの一つを再生し始めた。
「オーナーさまがよくハァハァしながら見ているこのアニメの設定が分かりやすいのではないでしょうか」
そこには魔法の力に目覚めた少女たちが魔砲をぶっぱなしたり、魔力を拳にまとって物理で殴り合うアニメが映し出されていた。
「何が言いたい?
それと、アニメ鑑賞しながらハァハァとかしていないからな!」
口に手を当て「またまた~ご冗談を~」などと言い出したレガ子。
その姿に少しだけイラッとしたが我慢する。
ここでキレたら話が進まなくなる。
「このアニメの中で、魔力を体内で生成する〝リ○カー○ア〟というものが出てきますよね。
これを〝魔法因子〟にそっくり置き換えるとご理解いただけるのではないかと」
あぁ・・・
たしかに一発で納得したよ。
「そもそもマナから生まれた生命であれば、マナと協調していくために魔法因子を持つのが普通だと思うのですが・・・」
どうやら俺が元いた世界が特殊らしい・・。
人間が生態系を壊すまでに環境破壊をしてしまうのも、もしかしたら〝魔法因子〟が無くて、マナを感じられない事が原因なのかも。
だとしたら元の世界の人間は不完全な生命体なのかもしれない。
そういえばちょっと気になたことがあったのでレガ子に訊いてみる。
「俺の魔法因子ってどうなっているんだ?」
「オーナーさまも魔法因子はもっていませんでしたが・・・・・
こっちの世界に来る時に、女神様が大きめの魔法因子を埋め込んでいました」
あぁ・・・
やっぱり気絶している間に人体改造されていたのね・・・
寝ている間に改造人間にされてしまったヒーローの気持ちって、たぶんこんな感じなのだろうか・・・。
衝撃の事実を知って意気消沈した俺は、黙々と食事の後片付けをして出発の準備を整えた。
この世界で生きていくためには魔法因子は必要だからいいけどさ・・・
あらかた片付けが終わった頃に、何かを決意した表情のレガ子が話しかけてきた。
「オーナーさまの装備を一つ作りたいんですが、いいでしょうか?」
そう伝えてきたレガ子の瞳は真剣そのものだった。
本当はレガ子が武装クリエイトに初挑戦するところまで書くつもりだったのですが、予想以上に話が進みませんでした。
それども今回4000文字オーバーと、今ままで一番長いお話しになったんですけれどね・・(汗。
主人公がレガ子にかなり心を許してきましたね。
「頑張れレガ子ちゃん!
主人公を押し倒すまであともう一息よ!」(by女神)
元の世界のマナと魔法因子のお話は、中盤以降に重要な伏線としてつながる予定です。(・・・おそらく)