第2章 第41.8話 ~番外編・工兵部隊のビルダーエルフ!~
今回のお話しも第2章の番外編です。
第2章本編の最後に登場した工兵部隊の隊長、アヴァロさん視点のお話となっています。
時系列では第2章本編・最終話の中間あたりでしょうか?
工兵部隊の目的地である遺跡への到着直前からスタートします。
第2章本編を書いていた時点では、アヴァロさんや奥さまのキスニルさんについては、あまり細かな設定を組み立てていなかったのですが、一応今後の主要メンバーの一角を担う人たちなので、今回の番外編を書きながら細かな部分を決めていきました。
次回からいよいよ第3章になりますが、出だしを落ち着いて執筆したいため、次回の更新は2~3週間ほどお休みをいただきたいと考えております。
ちなみに第3章のタイトルはほぼ決まっており『Marry me』(結婚してください)となる予定です。
タイトルでわかるとおり、主人公が人生の墓場(マテwww)に足を踏み入れるために前進していく姿が中心になるかと思います。
まぁ、この主人公の場合はヒロインらの方がやたらと積極的なので、プロポーズで使う言葉は「Would you marry me?」ではなくて、「Will you marry me?」の方だと思いますがね(苦笑)。
自分の名はアヴァロ・アルクィン。
フローリア王国の工兵部隊のひとつを預かり隊長職に付いている。
若い頃は職人の世界になどまったく関心などなかったものだが、ハーフエルフの宿命で人間よりも寿命が長く、あちこちの国や都市を放浪しながら各地の名産品や芸術などを見て回っているうちに自分でも何かを作りたくなってしまい、気が付けばもの作りの世界にドップリと浸かってしまっていた。
やがて自分の職人としての技術がフローリア王国の現国王の目に留まり、この国の工兵部隊の育成を任されることになった。
なので自分の仕事はこの部隊の隊長というよりは、部隊に所属している部下ら・・・様々な分野から集まってしまった職人らの親方的な存在なのではないかと常日頃から思っている。
「あなた、そろそろ目的地に着く頃ですので、進軍しながらの妄想はそろそろストップしてくださいね」
「妄想とは心外だな、自分は常に次にどんなものを作ろうか、どのような新しい技巧に挑戦しようかと考えているだけなんだがな」
「はぁ・・・それを世間一般では妄想というのですよ・・・と何度もお伝えしたと思うんですが・・・」
自分の隣で大げさなため息をついている女性は、この部隊の副隊長を務めるキスニル・アルクィン。
自分と同じハーフエルフで、同じ村出身の幼馴染であると同時に、職人として良きライバルの関係でもある。
男性が女性の歳の話題を出す怒りだすのは人間もエルフも一緒だが、彼女の年齢は自分より3つ年上の148歳だ。
ファミリーネームや彼女の自分に対する呼び方なので気が付くと思うが、一応自分の妻だったりもする。
「あ・な・た・・・・今失礼な事とか考えていなかったかしら?」
「ソンナコトハナイデスヨ」
なんで女っていうのは、種族に限らずこうも勘が鋭い奴が多いのかね・・・。
くわばら、くわばら・・・来年の彼女の誕生日が近づくまでは、もう彼女の年齢の事を思考に登場させるのはやめておいたほう良さそうだ。
「そうは言うがな、お前は気にならないのか?
我々エルフ族の遠い祖先で、大崩壊前の失われた技術が詰まった遺跡が開いたんだぞ」
「もちろん気になっていますわ。
できる事ならあなたや部隊なんか放り投げて、早馬を走らせて現地に行きたいくらいですもの」
「おぃおぃ・・・」
「でも、あなたや後ろのド阿保どもだけにしたら、目的地にいつまでたっても到着しそうにないから我慢しているのよ」
「あははは・・・個性が強い奴らばかりで、君には迷惑かけてすまない」
「そんなこと、はるか昔に諦めがついちゃっているわよ」
そうなのだ。
自分が預かっている工兵部隊の隊員の半数近くは、個々がそれぞれの分野で名をはせた事のある職人だった経験を持っている。
それだけに個性というか・・・我が強い連中が多く、ひとつの部隊として統制をまとめるのがえらい大変なのだ。
「他の工兵部隊はこんなに変人が多くないのに、どうして自分の部隊はこうなったのやら・・・」
「そんなのあなたの所為に決まっているじゃない。
あなたがあちこちの職人らの目の前で本気を出してモノづくりなんかしたから、弟子入り志願の阿保がこんなにも集まっちゃったんじゃない」
エルフの一生はかなり長い。
半分人間の血が入ったハーフエルフは純血種に比べれば寿命は短いが、それでも人間の何倍もの時間を生きることになる。
実際、自分や妻も150年近くも生きているが、外見だけでいえば人間での30歳そこそこくらいだ。
なので生まれ育った村を出て、モノづくりに目覚めてからの100年以上を自分らは技術の追求と自己鍛錬に費やしてきた。
そのせいか、職人としての腕前は人間では辿り着くことが出来ない域にまで達してしまったようで、部下の大半はそんな自分が作った作品に惚れ込んで付いてきたような人間ばかりなのだ。
そんな部下たちの様子を見るために後ろを振り返れば、彼らは進軍途中で入手した鉱石や魔石などの素材談議に花を咲かせながら、自由気ままに自分らの後を付いてきている。
「はぁ・・・毎度のことだけど、これじゃ軍隊の進軍というよりもガキの遠足だよ。
とういうより、ガキどもの方が年長者の言う事を素直に聞く分、こいつらの何倍もマシだね」
自分と同じように後ろの部下たちを見ていた妻が、長く伸びた金髪を片手で鋤上げ盛大にため息を吐きながら毒づく。
しかし彼女は口は悪いが面倒見はいい性格なので、そんな風に毒づいても決して部下たちを見放したりはしないんだけどね。
そんな性格の妻なので、部下らは親しみを込めて彼女の事を『女将さん』などと呼んでいたりもする。
「隊長-っ! 前方1トール(約6キロ)に見たこともない建物があります!」
しばらく進むと、本体よりも先行して偵察に出ていた騎馬部隊のひとりが報告を叫びながら戻ってきた。
ちなみに自分の事を〝隊長〟と呼ぶのは軍の養成機関出身の隊員で、〝親方〟と呼んでいるのが弟子入り志願で入隊してきた隊員だ。
「街道からこんな離れた場所に建物だと?
遺跡の見間違いなんじゃないか?」
距離的にみても、そろそろ目的地の古代遺跡のはずである。
であれば古代天使族が残した建築物の残骸がそう見えた可能性の方が高い。
「いえ、それが見たこともない建材や工法で造られた3階建ての建物でして・・・。
しかも一切破損がないスラ板が全ての窓に付いていることから、最近造られたものではないかと・・・」
偵察部隊の若者が発した〝見たこともない建材や工法〟の部分に、後ろにいた職人上がりの部下たちがザワつく。
「ふむ・・・」
「あなた、どういうことでしょうか?」
報告を聞いて考え込んだ自分の脳裏に、ロイドを出発前に聞かされたマロウ騎士団長の言葉が蘇った。
「遺跡を解放したカオル殿という魔導器製作者は、我々が今まで見たこともない魔導器をポンポン作りだすらしいからな・・・もしかしたらその建物はカオル殿と関係があるのかもしれん」
「親方、それにしたって遺跡が解放されてからまだ十日くらいしか経ってないんですぜ。
いくら何でもそんな短期間で3階建ての建築物なんて無理ですぜ」
自分のすぐ後ろにいた部下が意見具申してきた。
こいつはヴォルスといって、元は腕利きの大工の棟梁だった男だ。
彼が言うまでもなく、そのようなことが現実的には不可能は事は建築が専門外の自分にも分かる。
「だがカオル殿という男は、我々の常識でが計れない人物だそうだからな。
もしかしたら、もしかするかもしれないぞ」
偵察隊の報告を聞いてからの進軍は過去に例を見ないほどに早かった。
報告にあった〝見たこともない建材や工法〟という部分に喰いついた職人上がりの部下らが、文字どおりわき目も振らず進軍してくれたおかげだ。
「はぁ・・・いつもこうだと楽でいいんだけどねぇ」
あまりにも現金な部下らの行動に、苦笑いを通り越して呆れ顔の妻が愚痴をこぼしている。
「でもそういうお前だって、報告を聞いた後はかなりハイペースで進んでいたんじゃないか?」
「ぐっ・・・。
だって私だって一応は魔導器製作者の端くれなのよ、あんな報告を聞いちゃったら気になってしまうのは仕方ないわ」
「あはははは・・・」
「アヴァロ・アルクィン以下、第3工兵隊214名、ただ今現地に到着いたしましたっ!」
我々の出迎えのために姿を見せていた先着部隊に報告をするため、噂の建物のすぐ近くまで移動する。
するとその建物の前にいた人間の中に一人だけ小さな少女がおり、それが我らが仕えるフローリア王国の姫君であることに気が付いた。
「これはクラリス姫様お久しぶりです。
まさか姫様自ら出迎えてくださるとは思ってもおりませんでした」
地面に片膝をつき、忠義の姿勢で姫様に礼をする。
「堅苦しい挨拶は抜きじゃ。
今の我は忍び旅の最中なのでの、よって姫であって姫ではないのじゃ」
クラリス姫はまだ10歳の少女だが、歳に見合わぬ見識の深さと決断力、そして平民視線での政策提案や大胆な行動力で多くの国民から〝賢者〟の愛称で慕われている。
ただ、その大胆な行動力が時折騒ぎの原因になったりもしているのだが。
「では姫様、一つだけ苦言を・・・。
お城を抜け出すときは、必ず警護の者をお付けくださいますようお願いします」
「うぐっ・・・。
そ、その件であれば、すでにジョニーから耳にタコができるほど説教されたので勘弁願いたいのじゃ」
そう言いながら姫様は左側に立つ男性の様子を時折伺っていた。
その男性こそ今姫様から名前が出た第6騎士団のジョニー・ドップ隊長だ。
ジョニー隊長を見るとにこやかに笑っている様子なので、既に姫様の軽はずみな行動に対するお説教は済んでいるのだろう。
なにせ彼は姫様にとっては兄にも近い関係だと聞いている。
その彼がすでに姫様をお諫めしているのであれば、自分が出る幕はないだろう。
姫様からの挨拶が終わった頃を見計らって、姫様の右側に居た青年が歩み出てきた。
「はじめまして、カオル・キサラギと言います」
「ほぅ、あなたが姫様を救い出した噂の魔導器製作者殿ですか」
カオル殿と握手を交わしながら、彼の事をそれなりに観察してみる。
自分が長い年月の間に出会ってきたどの人間とも違う、何かは分からないが独特な雰囲気を纏っているように感じる。
何よりも、警戒心が強いあの姫様が、出会ってから僅かな期間でしかない彼を全く警戒する様子もなく懐いてることに驚いた。
姫様は誰に対してもお優しいのだが、その反面国王のお世継ぎ問題に関連しての政敵も多く、常に他人との関係に警戒心を持って接しておられた。
それが、ほぼ無警戒で他人にじゃれ付く姫様の姿が見られるなど、王城では考えられなかったことだ。
そして特に驚いたのが、カオル殿と握手した時に感じた彼の魔力量の多さだ。
人間に比べれば遥かに多くの魔力を持つ純血種のエルフにも、彼ほどの魔力を秘めた者は数えるほどしか居ないはずだ。
「マロウさんがどんな風に噂していたのか、怖くて聞きたくないですね」
「ところでずっと気になっているのですが、後ろの建物はいったい・・・」
「ああ・・・やっぱり気になっちゃいますよね・・・。
これは、旅の途中で腰を落ち着けることが出来る地を見つけた時のために無限収納庫に入れて持ち歩いていた魔力展開型の建物ユニットを、この場所で組み立ててみたんですよ」
「無限収納庫持ちである事にも驚きましたが・・・この建物が魔導器の産物・・・・だというのですか?」
笑顔を若干引きつらせながらそう説明するカオル殿は、何か隠しているようにも見える。
が、コレがかれが考案した新種の魔導器による建築物だとすれば、その全容を明かすことが出来ないことも職人として容易に想像することはできる。
彼と同じ魔導器製作者である妻が何かを問おうとしていたが、それよりも先にクラリス姫は発した言葉に、この場にいる全員の思考が釘付けになってしまった。
「この建物の中にはの、我々の生活をかなり便利にしてくれる新種の魔導器が大量にあるのじゃがな・・・それらの仕組みは王国に提供してくれるそうじゃ」
「はっ?」
「まだ世に出ていない魔導器の秘密を教えていただけるのですか?」
隣にいる妻が怪訝そうに姫様に問いかける。
魔導器製作者が考案した新しい魔導器というのは、その者にとっては地位と名声を得るための重要なアイテムでもある。
しかもそれが全くの新機軸によるモノとなれば、門外不出の技術として扱われることも珍しくない。
同じ魔導器製作者として妻もそのことをよく知っているため、相手が姫様であることも忘れ、彼女を疑うような発言をしてしまっていた。
「うむ・・・カオル殿はココに作る町を、今までに無かったような発想を取り入れた先進的な町にしたいそうでな、そのために住人の生活向上に役立ちそうな魔導器については、その原理や仕組みを公開してくれるそうじゃ」
「はぁ・・・」
妻だけでなく我々も同じで、姫様がおっしゃっていることが今一つ理解できずに、曖昧な返事を返してしまう。
「それにの・・・この町はカオル殿との結婚後に我らが治めることになるのじゃからな、どうせなら王都にいる父上や母上らが羨むような町にしたいではないか!」
「は・・・はぁっ!?
ひ、姫様が彼とご結婚されるのですか!?」
「我だけではなく、あと2、3人の娘が一緒にカオル殿の嫁になる予定じゃがな」
今の報告を聞いて姫様の信者だった若い職人らが自分の後ろの方で泣いている気配がするが、今はそれを気にするどころではない。
話題の中心人物でもあるカオル殿の表情を見ると、先ほどよりも更に引きつった笑いをうかべていた。
まぁ貴族でもない一般庶民でもある魔導器製作者が一国の姫君から求婚されれば、あのような表情にもなるだろう。
「ひ、姫様・・・それで我々に教えていただける魔導器というのは、具体的にはどの様なものになるのでしょうか?」
「そなたは・・・たしかアヴァロ隊長の奥方だったか?」
「はい、この第3工兵隊の副隊長を務めさせていただいておりますキスニル・アルクィンと申します。
その・・・私も魔導器製作者のはしくれなので、無償で教えていただける技術がどのようなものであるかに興味があります」
「そうじゃのう・・・すでにあそこで生活している我が知っておるのは、炎の魔石を用いた暖炉、調理用の竈代わりのコンロとかいう道具、水の魔石を用いた水道という生活用水が出る道具に、氷の魔石を用いて食料を冷やして長期保存を可能にした冷蔵庫なる箱型の道具とかかのう・・・」
「はぁ・・・全くどのようなものか想像がつかないのですが・・・」
「まぁ、その辺は建物の中で一度現物を見た方が早いじゃろうな。
あと、無償ではないからな。
この町に設置させる予定の魔導器研究施設由来の特産品にするつもりなのでな・・・技術を習得した者は当面の間はここに作る町に住んでもらうことになるので覚悟しておいてほしい」
姫様の提案に部下らがざわつく。
部下の中には王都やロイドなどの地方都市に家族を置いてきている所帯持ちも多い。
そうした者らにとっては、まだ建設すら始まっていない町に家族を呼び寄せて移住することも視野に入れなければならないので、悩みどころになるはずだ。
「すると、我々第3工兵隊は・・・」
「すまぬがしばらくの間は、ここに作る町の専属部隊になってもらうことになるの」
「そうですか・・・縛りのある長期滞在となりそうなので、機密事項にかかわる人間は部下と相談の上で決めさせていただきたいのですが、かまわないでしょうか?」
「かまわぬ。
我としても帰る所がある者を、むりやりこの場に縛るのは本意ではないからの」
「ありがとうございます」
「あとな・・・町の形がある程度できた後になるが、この町で工房を開くのであれば、除隊後の隊員らの独立を支援したいとも考えておる。
そのあたりも含めて部下らと相談を進めてほしい」
「ありがたいお話しですが、下手をすると町中が工房だらけになりそうですが・・・」
「その時は、帝国にある工房都市以上の街づくりを目指すだけじゃな」
そのような事を言いながら豪快に笑う姫様。
その夢が実現するのであれば、たしかにココは職人や魔導器製作者にとっては魅力的な街になる事だろう。
「そういえば、お主らの部隊は資材としての黒スライムは連れてきているかの?」
「窓用の白スライムと一緒にある程度の数は保有していますが」
「では、最初の仕事は黒スライムの養殖施設の設置じゃの。
実は黒スライムの繁殖方法については、すでに調べが付いていおるのじゃ」
「本当ですか、姫様!?」
「うむ、これは遺跡調査の最初の成果じゃな。
そのあたりの詳細については、カオル殿の助手であるこのリーゼ殿に聞いてほしい」
「はうっ、よ・・・よろしくお願いします~」
姫様に紹介されて、なんとも頼りなさそうな雰囲気の女性が前に出てきた。
見た目こそオドオドした挙動で頼りなく見えるが、このリーゼ殿という女性からもものすごい魔力の圧力を感じる・・・。
彼女やカオル殿は、いったい何者なのだろうか?
「あの屋敷にある魔導器の仕組みについてもリーゼ殿が説明してくれることになっているが、リーゼ殿はちょっと人見知りが激しいのでな・・・だからあまり彼女をいぢるではないぞ」
そう言って、ニヤリと笑う姫様。
ああ・・・あの笑顔は何か良からぬことを考えている時のお顔だ。
王城にいる時に、あの笑顔を浮かべた姫様に翻弄させられていた親衛隊の事を思い出す。
あれでは暗に「リーゼ殿をいぢると楽しいぞ・・・」と言っているようなものだ。
「その遺跡には我々も入ることが出来ますか?」
「残念じゃが今は無理じゃな。
なにせ遺跡の保安装置が、カオル殿とアリシア殿・・・・アリシア殿は我と同じでカオル殿の嫁候補の少女なのだが、この二人しか単独で入ることを認めておらんのでのう・・・」
「なぜその二人が?」
「ここの遺跡が天使族の遺産なのは知っておるじゃろ?
実はアリシア殿は天使族に連なるエンシェントエルフの血を濃く引き継いでおるのじゃ。
そしてカオル殿とはすでに契りの儀式を済ましておるため、遺跡の保安装置にカオル殿も認められたわけじゃ」
「そうですか、天使族の遺産技術はその末裔であるエルフ族に連なる者として興味があったのですが・・・」
今回に任務に志願した大きな理由が天使族の遺産技術に触れるチャンスを得る事だったので、少しばかり残念に思える。
それは隣にいる妻も同じだったようで、その表情に落胆の色が出ていた。
そんな我らを見て、姫さまが苦笑いを浮かべた。
「そう露骨にがっかりするでない。
カオル殿らと一緒であれば遺跡には入れるのじゃ。
ここの遺跡を管理する研究所の所長にカオル殿が就任すれば、一緒に中へと入る機会もあるじゃろ」
「それは決定事項なのでしょうか?」
「父上の内諾はすでに得ておる。
あとは我と一緒に王都まで行き、そこで正式な手続きを受ければいいだけじゃな」
姫様の言葉を聞いて、自分だけでなく妻も何かを考えている様子だった。
そして自分よりも先に妻の方が先に姫様へと今考えていたことを口にしていた。
「姫様、その研究所が稼働した時には、私がそこに所属することは可能でしょうか?
あ・・・夫もおまけでいいので一緒に転属できればベストなのですが・・・」
「おいっ!」
俺はお前のおまけかよっ!
「あれっ? あなたもそのつもりじゃないかと思ったのだけれど?」
「た、たしかにの職人として面白そうな仕事もありそうな感じがしたから興味はあるが・・・」
「なら問題ないわね。
だいたい今の仕事はあなたが勝手に決めて引き受けちゃったんだから、次の身の振り方については私が決めてしまっても構わないでしょ?」
そういえば・・・自分の工房に腰を落ち着けてもの作りに没頭出来ていた以前の生活を、妻は時折懐かしがっていたな。
あちこちを巡りながら、その都度ごとに違った現地の要求に応えてモノを作ってきた今の生活もそれなりに面白かったのだが、妻の気持ちを考えると今の仕事はそろそろ転機なのかもしれないな。
「そうだな・・・部下の身の振り方や、今後の部隊運営についてきちんと話し合いが終えられれば、自分も一緒に転属を考えてもいいだろう」
「うふふふ・・・それじゃほぼ決まりねっ♪」
「まだ姫様のお返事を聞いていないだろうが・・・」
「あらっ、やだ・・・私ったら・・・」
苦笑いする妻と一緒に姫様の方に目を向ける。
すると姫様は、なにやら羨ましそうな視線で我々の方を見ていた。
そして隣に立つカオル殿を時おり見上げている。
「夫婦になって100年以上になると聞いているが、仲が良さそうで羨ましいかぎりだのう・・・。
この二人の腕前や能力については我も保証するが、カオル殿の部下候補としてどうじゃ?」
「俺としては、クリスが太鼓判を押すような優秀な人材が確保できるなら、願ってもない事だから問題ないぞ」
「うむ、なら王都に戻った時に二人の引き抜きを含めて父上に相談じゃな」
カオル殿の返事を聞いて、ニヤリと笑う姫様。
以前は無理に大人びようとしていた姫様の表情や仕草が、歳相応の自然な振舞いを見せるようになっていることに気が付いた。
王城から連れ去られた姫様がこのカオル殿に助けられ、行動を共にするようになってからまだひと月も経っていないはずだが、姫様のこの良い意味での変化はやはり彼の影響なのだろう。
「ご配慮ありがとうございます、姫様」
自分らの要望が聞き入れられたことに礼を言う妻だったが、姫様の顔を見ながらなにやら考えている様子。
「あの・・・姫様?」
「なんじゃ?」
「自由人すぎる夫を上手にコントロールしながら、長~く付き合っていくコツって興味ありますか?」
「「ぶっ!」」
妻が突然口にしたとんでもない言葉に、自分とカオル殿が咳き込んだ。
「ほぅ・・・それはものすごく興味があるのう・・・。
そうじゃ、親睦を深める交流や旅の疲れを癒すことも兼ねて、我や他の妻候補たちと一緒に風呂にでも入らぬか?」
「あらっ、ココにはお風呂があるのですか?」
「うむ、あの建物の中に10人規模で入れる大きなヤツがあるぞ」
「それは素敵ですね。
ぜひご一緒させてください」
相手が姫様である事も忘れ、ノリノリで返事をする妻に冷や汗が流れる。
そんな自分を見て、向かい合って立っていたジョニー隊長が「あきらめろ」と言うかのように首を横に振っていた。
そしてジョニー隊長は自分と同じように苦笑いを浮かべていたカオル殿に肩を叩き、同じようなことを告げている様子だった。
「では奥方を借りていくぞ。
ほら、リーゼ殿も一緒に来んか!」
「はうん・・・」
妻とリーゼ殿を伴って建物へと入っていた姫様の後姿を見ながら、自分と同じようなタイミングでため息をついていたカオル殿と目が合った。
「はははは・・・、では我々はいったん休憩としましょう。
クリス達が風呂から出てくるまでの間、お酒でも飲みませんか?」
「それはありがたい提案ですね。
おいジョニー、お前も混ざれよ」
突然声をかけられ、驚いた表情をうかべるジョニー隊長。
「姫様が落ち着くのなら、お前だってあのじゃじゃ馬親衛隊長と近いうちに一緒になるんだろ?
ならば押しの強い妻と長く一緒に居る自分の経験談を聞いておいても損はないと思うぞ」
その言葉を聞いて、改めて妻や姫様が消えていった建物の方を見るジョニー隊長。
「「よろしくアドバイスをお願いします・・・」」
ジョニー隊長が発したその返事は、なぜかカオル殿の見事にハモったものとなっていた。
それから約1時間後・・・・。
上機嫌で風呂から戻ってきた妻や姫様を加え、建物1階につくられた応接室でこれから建築が始まる町の打ち合わせが始まった。
自分やカオル殿らは、彼女たちが風呂場でどのような悪だくみを相談していたのかが気になっていが、ついにその真相を聞き出すことはできないのだった。
作者「やっと第2章で予定していた話が消化できたよ・・・」
レガ子「今回は結構長かったのっ!」
薫「第2章だけで40話超えたしなぁ・・・」
作者「今回のアヴァロさんの解説は、本来次の第3章に入れる予定だったんだけどね・・・。でもよくよく考えたら第2章に入れてしまった方がカテゴリーとしては良さそうに思ったから変更したんだよ」
レガ子「ふ~~ん」
クリス「ところで前書きを読んでいて気になったのじゃが、『Will you marry me?』と『Would you marry me?』では何が違うのじゃ?」
作者「ええと・・・『Will you marry me?』はプロポーズの返事に相手が〝OK〟と返してくれることに自信がる時に使う言葉で、『Would you marry me?』は自信があまりない時に使う言葉なんだよ」
アリシア「つまりお兄ちゃんは、私たちがOKするって自信たっぷりなんだねっ♪」
薫「というか、今までの流れでもし〝NO〟とか言われたら・・・俺、引きこもりになる自信あるんだけど・・・」
リーゼ「じゃぁ、わたしと仲良く引きこもりますかぁ?」
作者「こらこらこら・・・」