第2章 第41.4話 ~番外編・(ぽんこつ)女神リーゼさんのビルダー体験記 その1~
今回は第1章の時の番外編に続いて、またリーゼさん視点でのお話となります。
時系列的には、第2章・第26話と第2章・第27話の間になります。
ちなみに結構長いお話しになってしまったので、複数回に分けてのお話となります。
「おいっ、リーゼ起きろ。
そろそろ朝飯の用意が終わるから、ちゃっちゃと顔でも洗って目を覚ましてこい」
「うみゅ・・・」
少しだけ乱暴な口調の男性の声が聞こえ、私は自分の意識をこの疑似肉体へと戻しながら覚醒の準備に入る。
自分の意識が疑似肉体へと定着したことを確認しながら目を開けると、そこには私に覆い被さるようにしてこちらを覗き込んでいる人間の男性の顔が見えた。
「ふえっ! か、薫さん。
休眠中の私の身体に何をしようとっ?」
最近、少しだけだがその存在が気になり始めていた人間(男性)が目の前に居た事に驚き、慌てて起き上がろうとした。
しかし、まるで拘束されていうかのようになぜか手足を広げることが出来ず、その結果バランスを崩してしまって、一度起こした上半身が倒れて顔面から地面へと激突してしまいました。
「あ痛たたた・・・・」
「はぁ・・・、お前まだ寝ボケているだろう・・・」
そう言って薫さんは私を抱き起して顔を地面から引きはがすと、再度仰向けの体勢に寝かせ直してくれました。
そして、おもむろに私の身体を覆っていた布の前面についていたファスナーを引き下ろします。
するとやや熱くなっていた身体に、涼しい外気が当たるのを感じます。
「ひゃぁぁぁ!」
「お前なぁ・・・寝袋に入ったまま手足をバタつかせたって、起き上がれるわけないだろう」
「ふえっ?」
あれ?
寝袋??
あぁ、そういえば昨日は私が創ったかわいい妹たちにたっぷりと説教されてしまい、皆さんと夕食を食べた後にヤケ酒を飲みながらそのままテントの中で寝てしまったのでしたっけ。
ちなみに私のような世界樹の管理者にとっての睡眠は、人間を含めた世界樹の葉に生まれた世界に住む生物の睡眠とは異なった意味を持っています。
睡眠中の管理者の精神は、肉体を離れて世界樹の深い部分・・・「根源領域」と一体化して、世界樹に今起きている異変や問題点を感覚的に察知するための同調を行うことになっています。
この能力は、私の仕事を分担させるために作りだした妹たちにも与えています。
そのため、昨晩の同調ではそこでも妹たちに説教されまくる・・・という結果になり、実に寝覚めの悪い眠りになってしまいました。
なので、今日の私の寝起きが悪いのは決して昨晩のヤケ酒の所為ではないと、自分に言い訳をしながら徐々に意識をハッキリとさせていくことにします。
「痛い目にあって、少しは目が覚めたか?」
そう言いながら、薫さんが地面に打ち付けた私のおでこを撫でてくれます。
この人は、イヂワルな時は容赦なくチョップとか入れてくるくせに、優しい時は妙に優しく接してくれるので少し困ってしまいます。
「しかし・・・だ」
「はいっ?」
そういえば薫さんの顔色がやや赤くなっていて、視線を私から微妙に外していることに気が付きました。
「いくら隠すほどのモノが無いからとしてもだ・・・寝袋に入る時には下着くらい付けておかないと、非常時に飛び起きた時に困ると思うぞ・・・」
「へっ?」
薫さんの言った言葉の意味を理解するために、視線を自分の身体を入れている寝袋の内側へと移します。
するとそこには、何も身に付けていないスッポンポンの自分の身体がありました。
「あ~~、あと10分もすれば朝飯ができるから、支度してアウトドアテーブルの所に来るように」
薫さんは視線を逸らしながらも、時おりチラチラを私の方を見ながらテントから出ていくと、入り口のドアをそっと閉じて遠ざかっていった。
「ひっ、ひやぁぁぁぁぁぁっ!!」
見られたっ!
私の平べったいボディを絶対見られたっ!
大声で悲鳴を上げながら、今度こそしっかりと目が覚めたことを自覚したのでした。
「ううぅぅ・・・・」
食事の席に座りながら、恨みがこもった視線で薫さんの方を睨みます。
「わ、悪かったと思ってるよ。
しかしなぁ、普通・・・寝袋の中がスッポンポンだなんて思わないだろう」
「薫さまは、女性への配慮に少し欠けるところがあると思うのっ」
私の抗議に言い訳をする薫さんを、レガ子ちゃんが叱ってくれています。
「そうじゃのう・・・カオル殿は我らの事もレディとして扱ってくれんしのう・・・。
リーゼ殿の事も、同じような感覚で接しているのではないか?」
うっ、それって私もお子様扱いされているってことになるのでしょうか。
「にゃははは、お姉ちゃんもミャウと一緒で兄ちゃんのお嫁さん候補だニャ」
そういえば、その問題もあったのでした・・・。
世界樹の管理者が、その世界樹生み出した世界の住人の伴侶になるだなんて・・・他の世界樹でも前例として聞いたことないんだけど~。
でもまぁ、ソレも面白そうだと感じちゃっているのですがね~。
「お兄ちゃん、しばらくこの遺跡に留まることになるんでしょ?」
「そうだなぁ・・・」
アリシアちゃんの質問を聞いて、薫さんがクリスちゃんの方を見ます。
「どうなんだ、クリス?」
「そうじゃのう・・・ハンス殿らの後を追ってこちらに向かっている第6騎士団や、そのはるか後方を移動中の工兵部隊がココに到着するまでは、我らはココに待機じゃな」
「どれくらいかかるんだ?」
「工兵部隊は大規模部隊で資材も引いているから足が遅いからのう・・・どんなに早くてもあと10日くらいは掛かるんじゃないかのう」
「さすがにそんなに長い間、リーゼお姉ちゃんを狭いテントで寝泊まりさせるのは可哀そうだと思うの」
うぅぅ、アリシアちゃんの優しさが眩しすぎて心が痛いです。
「だから、あの遺跡の中のお部屋で生活できないかな?」
アリシアちゃん、ナイス!
あの遺跡の施設なら、バス、トイレ、冷蔵庫に空調完備だから、世界樹の中にあったプライベート空間と同じような快適な引きこもり生活ができるわ~。
しかし、アリシアちゃんの提案に薫さんは考え込んでいます。
「ココに居るのが俺たちだけならソレもありなんだが、ハンスさん達をアノ遺跡の中に入れるのはちょっとマズイだろう・・・」
「たしかにのう・・・あのとんでもない技術を見せてしまったら、この先誤魔化しがきかなくなるじゃろうなぁ」
そうでした・・・
この遺跡の中にある古代天使族のテクノロジーは、今のこの世界に文明度からしたらオーバーテクノロジーのモノが無数にあるため、当面の間は薫さんの管理下に置いて秘匿しようと決めたばかりでした。
あぁ・・・わたしの素敵な喰っちゃ寝生活の夢が・・・。
くすん・・・。
「アレがカオル殿が作った魔導器とかならば、まだ誤魔化しもできるのじゃろうが・・・」
「無茶言うな、さすがにあんな設備がある家なんで、そう簡単に作れるわけないだろ」
そ、それだぁ!
その手があったぁ~~。
「あの~、私から提案があるんですが~」
「うん? どうしたリーゼ」
「なんなら~、その快適なお家とやらを私が管理神のチカラで創りましょうか?
で、家ごと全部を薫さんの発明品にしちゃえばいいんですよ~」
「「「「えっ?」」」」
食事中だった皆さんの手が止まって、一斉に私の方を見ています。
「そんなことが・・・いや、そういえば以前リーゼ―は竜の森に中に俺が生活していたアリバイ用の建物を創ったとか言っていたっけ」
「そうじゃった・・・リーゼ殿は女神様だったんじゃったな・・・。
あまりにも神様っぽくないから、すっかり忘れておったわい」
「わぁぁクリスちゃん、いくら本当の事でも、そんなこと言ったらリーゼお姉ちゃんが可哀想だよぅ」
「にゃはっ、神様ってもっとおっかにゃい存在だと思っていたにゃ~」
「こらっ猫娘、しーっ、しーっなのっ」
しくしくしく・・・・
どうせ、どうせ私なんか~~。
子供たちの感想を聞いて盛大にいぢけてしまった私は、その場にしゃがみ込んで、足元の地面に〝のの字〟を描き始めます。
そんな私にティアちゃんがすり寄ってきて、「キュウ、キュウ」と鳴きながら慰めてくれています。
くすん。
「盛大に落ち込んでいるところを悪いが、本当にココに建物を創れるのか?」
「可能ですよ・・・くすん」
隣の席に座っていた薫さんを見上げながらそう返事をします。
すると薫さんの手が私の頭に乗せらえ、ゆっくりと動き出して撫で始めました。
ふん、そうやってクリスちゃんたちと同じように子ども扱いするんですから。
心の中でそう毒づいてはみたものの、そうされることを嫌がっていない自分がいる事にも気が付いているのですが・・・。
なにせ、この世界樹に芽吹いているすべての世界の管理者として生まれて以来、私の頭を撫でてくれた存在は薫さんが初めてなのです。
「じゃぁ・・・あの遺跡入り口を覆い隠すようなくらいの大きな建物を、あの上に創ることも可能か?」
「ふえっ? できますけど・・・そんなに巨大な建物がいりますか?」
「なぁクリス、俺はこの遺跡の研究責任者になる予定なんだよな?」
「すでにそのつもりで、国王には報告してあるぞ。
もちろん、我らとの婚姻が条件じゃがな」
「ふむ・・・であれば俺らが住む予定の家を、その研究所もコミで今創ってしまってもいいんじゃないか?
それに、あの遺跡入り口を隠すことが出来れば何かと便利だし、建物をクリエイトした理由にもなるだろ?」
「わぁっ、お兄ちゃんとの新婚生活のためのお家だねっ」
「愛の巣なのニャっ」
し、新婚生活・・・。
それって私も含まれているのでしょうか?
だとしたら、気合を入れて快適に住める家を創らねばなりませんね~。
「なるほどのう・・・確かにそれならば・・・。
しかし、ハンス殿らはどうする?
リーゼ殿が女神様の力を使っているのを目撃されたらマズイじゃろうが」
「今日はこの後遺跡周辺のガレドラゴン駆除を行うことになっている。
ハンスさんらには遺跡から遠くのエリアを担当してもらって、その間に建物を創ってもらおうと思うのだが・・・午前中だけでクリエイト可能か?」
「ディ〇ニーランドみたいな巨大施設を創れ・・・とか言われたら時間が足りませんが、さい〇まスーパーアリーナ程度の大きさであれば1~2時間もあればなんとか」
「また妙な例えを・・・あと、そんなに大きな家はいらないからな」
「えっ? ディ〇ニーランド? さい〇まスーパーアリーナ?」
「それは俺が住んでいた世界の巨大建造物の名称だから、アリシアが知らなくて当然だから」
「ほぅ、どんな建築物なのか興味があるが、あっちの世界では見行くことは叶わんな」
う~ん、薫さんが全てを片付けてくれたら、この子たち全員を連れてあっちの世界に小旅行なんかも楽しいかもしれませんね~。
ディ〇ニーランドもいいですが、アキバとかに連れて行ったらクリスちゃんがどんな顔をするか、想像するだけでも楽しくなっちゃいます。
「では、どれくらいの規模の建物をご所望ですか?」
「う~~ん・・・自宅兼研究所として使うとしたら、どれくらいの部屋数が必要なんだろう・・・。
クリスはそのあたりの事、わかったりするか?」
「さてのう・・・我も実際に研究員をやったことがあるわけではないからのう。
じゃが施設の秘匿性を考えれば、研究員は少数精鋭になるだろう。
カオル殿の部下として付くのは、多くても十数人くらいではないかのう」
「ふむ、研究員が仕事をする部屋以外にはどんな部署が常設される?」
「経理や雑務をこなす事務専用の部署が最低一つは必要じゃ。
あと、施設の警護をする要員の詰所などもいるのう。
あぁ・・我が住むとなれば、王城から専属のメイドも数名常駐するな」
「ほぅ、本物のメイドさんか・・・」
あ、メイドさんと聞いて薫さんの表情が少しニヤケました。
なんであっちの世界の男性は、メイドと聞くとエッチな妄想を思いうかべるのでしょうか?
「むぅ・・・お兄ちゃん、お顔がやらしくなってるのっ」
どうやらアリシアちゃんも薫さんの表情の変化に気が付いたようですね。
そして薫さんの脇腹を思いっきり抓っています。
ふふふふ、今朝の事もありますので、ちょっとだけいい気味です。
「どうせ薫さまは、メイドさんとのスケベなご奉仕合戦でも思いうかべていたに違いないのっ」
そう言いながらレガ子ちゃんが薫さんの後頭部に回し蹴りを入れます。
でもまぁ、レガ子ちゃんの小さすぎる身体だと、大したダメージにはなっていないようですが。
「では、そんなエッチな薫さんがメイドさんたちに手が出せないよう、皆さんできっちり監視できる間取りを考えましょう」
「おいこらっ、監視ってどういう意味だよ」
「いや、リーゼ殿の言うとおりじゃな。
我々と使用人らの居住エリアを切り離しておかないと、夫婦の営みすらままならなくなってしまうしの」
ふ、夫婦の営みですか?
クリスちゃんは10歳なのに、ずいぶんと大胆なことを言いますね~。
「いや、ちょっと待てクリス!」
「なんじゃ? カオル殿は大きな寝室に巨大なベッドを置いて、我ら全員をはべらせるような生活をご所望か?」
「そんなことあるかぁ!
俺だって一人で考えたいことだってあるから、自分の個室が欲しいわっ」
「そうじゃな、一夫多妻制を上手く続けるには、妻らもそれぞれが個室を持ってプライベートな時間をもてるようにした方がいいのは、父上らを含めすでに多くの先達たちが証明しているしの。
なので、皆の部屋割りも含めて、リーゼ殿に創っていただく建物の詳細を今決めてしまおうではないか」
「わぁ、わたし自分のお部屋が持てるなんて夢のようなの」
「ボクはみんなと一緒の今の方がにぎやかで好きにゃのだ」
「では、この国の行政機関にも詳しいクリスちゃんを進行役にして、どんな家を創るか話し合いましょう♪」
こうして私達は朝食を手早く済ますと、遺跡研究所兼居住施設として必要な条件とかを話し合いはじめるのでした。
(つづく)
作者「うぅぅ・・・二日酔いで頭が痛い・・・」
リーゼ「あの程度の日本酒で後遺症が出るなんて、作者さんはけっこう情けないのですね~」
作者「昔仕事で交流があった輸入商社の社長さんと、久しぶりに飲みに行ったからな。北海道産の新鮮な魚介類やお酒が美味しくて、つい飲みすぎてしまったようだ・・・」
リーゼ「どれくらい飲んだんですか?」
作者「乾杯のグラスビール(中ジョッキ)のほかに、二人で日本酒を5合分オーダーしたな」
リーゼ「ずるいです~~。わたしも北海道の美味しい日本酒が飲みたいです~~」
作者「わかった、わかったから、頭の中で大きな声で喚かないでくれ。第3章では、日本酒を思いっきり飲ませてやるから・・・」
リーゼ「わ~~いっ♪」
その他一同「そんな理由で、今回の投稿がまたギリギリ(この後書き執筆時が公開日の13時)だったのかよ・・・」




