これはゲーム。だからハマったら負け。
女には家庭があり、
男には彼女がいる。
そんな1つの出会いが辿り着いたのは不倫。
ほぼ実話で書くこの話は、
女が記録に残したくて始めた日記のようなもの。
もし、あなたがこの仕事を選んでいなかったら?
もし、私がこの仕事を選んでいなかったら?
もし、あなたがここへ配属されていなかったら?
もし、私があの日、
あなたに声をかけていなかったら?
数えきれない「もし」が、
遠かった私たちを近付けてきた。
ただ、こうなるのが遅かった。
私は、あなたじゃない人と結婚した。
既に2人は出会っていたのに、
私は、あなたじゃない人と結婚した。
あなたにも『その日』が来る事は分かってる。
だから、残したい。
#1 最初の出会い
私は取引先の企業へ向かう。
毎年6月に大規模な企業内異動があり、内示を受けた社員たちがバタバタとする5月。
中途入社の私は、25歳で1年目。
今回は2回目の春を怒涛の勢いで過ごしていた。
たくさんの取引先企業への挨拶回りをこなしている気がしたけれど、主にA社がメインとなり、今日もA社へとやって来た。
「異動になったよ。引き継ぎはしておくから、今後も宜しく。」
『寂しくなりますね。でも、たまには顔出してください。私もそちらへ伺います。』
プロジェクト担当でよく顔を合わせる佐々木さんは、別の支社へ異動になった。
私がA社担当になってから一番始めに声をかけてくれた人。
中年太りの彼は部下に慕われ、同僚とも親しげで、50歳には思えないパワフルさを持つ素敵な人。
家では4人の子の父として、休日は家族で出かける事が楽しみだという、そんなまるで絵に描いたような人。
佐々木さんは、プロジェクトとは関係のない社員もたくさん会わせてくれた。
そのおかげで、ここへ来ると必ずと言っていいほど誰かが話しかけてくれる。
そんな佐々木さんが異動になるのは、
心底寂しかった。
「引き継ぎするヤツ、後で来るからちょっと待ってもらえるかな?」
『かしこまりました。先に、5階上がって飯野さんに書類もらいに行ってます。』
アポイントを取っていた飯野さんに、注文書などの書類をもらい、佐々木さんのいる4階の部署へ戻った。
「まぁ、こっちにかけて。」
促され応接ブースへ通される。
案内されたソファの向かいに、
彼は立っていた。
私と歳は変わらないであろう若い男性だった。
「松谷と申します。」
『高山と申します。宜しくお願いします。』
松谷さん。そういえば顔見知りだった。
話した事はないけれど、時々すれ違っていたりで挨拶程度。
「たぶん、歳近いよね?」
佐々木さんが少しニヤけながら言う。
「僕は今年25です。」
『あ、でしたら私の方が年上です...今年26です。』
自分の方が男性より年上ということが、なんだか嫌になってくる年頃。
佐々木さんは少し世間話をし、仕事の引き継ぎを打ち合わせし始めた。
松谷さんは、終始熱心に手帳へと記録をつけていた。
私も佐々木さんの話を真面目に聞いていた。
20分ほどである程度の引き継ぎ事項は済み、
その日はそれでA社を後にした。
これが、彼との出会い。