表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

深夜0時のホワイトデー

作者: せつ

「たぁいがぁあああ!」


「わぁああ!」



いつもの学校いつもの廊下で2人はやはりいつものように鬼ごっこをしていた。



「待ちなさぁい!」


「いぃやぁだぁ!」



それをやはり学校の生徒達は暖かい目で見守る。

それが日常。






「今日は一体なにしたのさ、本庄は」


「聞いてぇ、あいつスカートめくったのよ!スカート!何歳だっつーの!」



いつものイタズラよりもちょっと質の悪さに伊藤祐子は怒っていた。

彼女の親友である渡瀬真弓は流石にこれには呆れて、佑子に同情した。



「まぁ、大目に見てあげな。彼氏なんだから」



その言葉に祐子は途端に赤い顔をした。

そう、彼は祐子の幼馴染みでこの前彼氏となった本庄大河。



「あんた、どうしてそれ内緒にしてんの?」


「別に隠してないけど、言おうとしてないだけ」



恥ずかしそうに呟く祐子の気持ちを察して真弓は苦笑する。



「真弓、ちゃぁんとホワイトデーお礼するからね」


「楽しみにしとくよ」



真弓のお陰でくっついたのもあり、祐子は2月からそう約束している。






「くっそぉ、あんなに怒んなくても」


「さぁすがにありゃヤバいだろ。ただの幼馴染みなんだからさぁ!」


「だぁかぁらぁ、俺達付き合ってんだって!」


「またまたぁ!」



事実を述べても信じてもらえないもどかしさに大河は苦い表情をする。

内緒にはしていない。祐子のその言葉は本当で、大河は何回も交際のことを言っていた。

しかし、結果はいつも同じ。



なんで信じない。



ちょっと苛つき始める彼。

ちらりと彼女を盗み見れば真弓と仲良く話をしている。友達である彼女に嫉妬するのもどうかしているが、大河は悔しそうに顔を歪ませた。



「そういやぁ、大河。来週だろ?」


「ん?あぁ、部活の?そうだよ。だから明日から大変さ」


「あー始まるのか?地獄の強化週間」


「そうだよ、皆が死にそうになる危ない週間が、始まるんだ」



苦笑して、明日のことを考えた。それは思うだけで恐ろしく、身が震えた。



大丈夫かな?俺。






「祐子、ホワイトデーって来週?」


「そうだよ。どうして?」


「来週多分あんたのダーリンの舞台じゃない?」


「あ…」



思い出したように口をついて、祐子は顔をしかめた。

大河の舞台とは部活の試合のことだ。



「ってことは、明日から地獄の強化週間が始まる…」


「あぁ、朝練昼練夕練の?」



朝でも、昼でも、夕方でもボールを追いかける地獄の特訓。どんなサッカー馬鹿でもそれを受ければサッカーを呪ってしまうほど厳しい練習、らしい。



「そうなると…」



明日から忙しいかな?






早朝、大河は目覚ましによって起こされる。重たい瞼を上げて、身を起こした。

時刻は朝の5時。素早くジャージを着て、支度をする。



はぁ、朝からコンビニかな?



憂鬱な気分で階段を下りれば、そこには大河の母親が当然のように立っていた。

驚いて目を剥く彼に満足そうに微笑む。



「ほら、大河。早くご飯食べて行きなさい」


「え!あ、なんで?ってかあんの?」



テンパる大河に意味深な笑みを向けて彼女、由美子は大河をリビングへ促す。

そこからは和風の食事の香りが漂い、大河の食欲を増幅させた。



「あ、起きた?ほら、さっさと食べて」


「ゆ、祐子!なんでここに!」


「由美子さんが料理できないから代わりに作ってあげてるんでしょ!ほら、食べて」



強く言われて驚きを隠せないまま席につく。少し多めのメニューと野菜の割合はおそらく彼女の心遣いだ。



すっげー感動。






「ほら、そこ!ぐずぐずするなっ!」



鬼コーチの言葉を聞きながらサッカー部の生徒は走り続ける。時刻は朝の6時半。

既に彼等はばてばてだ。



「くっそー!疲れる!」


「そろそろ休憩……」


「よし、じゃぁ、10分休憩!」



タイミングよく放たれた言葉に全員その場に座り込んだ。

大河は汗だくの身体をどうにかしたくて立ち上がる。



「あー!タオル」


「忘れたでしょ」



背後で突然降りかかる声に振り返るとそこには祐子の姿があった。

彼女は当然のようにタオルを差し出して、大河に渡す。



「さ、サンキュー」


「じゃぁ、頑張んなさいよ」



にっこりと笑って去っていく。茫然とそれを見ていた他の男子は興奮したように笑い出す。



「かっけー!伊藤って理想だよなぁ」


「なっ!」


「頭いーし、可愛いし、料理できるし、世話好き!彼女に欲しいよなぁ」


「俺狙おうかな!」



わざと大河の前で半分本音の言葉を言う。すっかり困惑した大河は慌てて口を挟む。



「だからぁ、あいつは俺の女!」


「嘘つくなよ!お前等なぁんも変わってねぇじゃん!」



結局彼は今日も信じてもらえず、がっくりと肩を落とした。






「じゃぁ、あんたずっと練習見てたの?」


「うん。家にいても暇だし」



真弓が登校した時を見計らって祐子は教室に入った。思わず深く感心して、大きく溜め息をついた。



「本当、本庄にはもったいないわ」


「ありがと」


「あいつに飽きたら私のとこ来ない?」


「あ、いーね!バリバリ働いてね」



軽いノリで会話をするが、真弓はにやりと笑って茶化した。



「なぁんて、どうせ捨てる気ないでしょ」


「うーん、今は離れる気全く無いな」



この子、さらりと恥ずかしいこと言うよなぁ。



見た目ではわからない2人の変化。それはおそらく彼女の心情じゃないかと真弓は思う。






それから数日間、サッカー部の戦いは始まった。それと同時に祐子の手伝いの戦いが始まる。

そして、試合前日。



「今晩はぁ」


「あ、祐子ちゃん。今晩は」


「大河は?」


「帰ってからすぐに寝ちゃった。ごめんねぇ来てくれたのに」



予想通りの展開に祐子は笑って受け入れる。

遠慮なく上がってリビングの椅子に腰掛けた。



「そうだと思って、内緒で明日の支度しに来たの。部活の用意してないでしょ、あいつ」


「そうなのよ!助かるわぁ、祐子ちゃんいると。ねぇ、あいつの彼女になる気ない?」



そうしたら、本当安心なんだけどね。っと呟きながらお茶を入れる由美子に祐子は少し顔を赤くする。



「あ、そうだ!どうせ明日もご飯作ってくれるつもりでいるんでしょう?」


「え!あ、はい」


「なら泊まってって?ね!」


「そうですね、じゃぁ、そうさせてもらいます。あ、部屋の用意はいいですよ」



早速準備をしようとした由美子を引き止めて、祐子は立ち上がる。首を傾げている彼女に思わず笑って答えた。



「大河の部屋で寝るんで」


「え!」


「由美子さん、私と大河……実は先月から付き合ってるんですよ」



にっこりと微笑んで祐子は大河の部屋に足を運んだ。

彼女に言うだけでもかなり緊張した。顔が熱いこともわかる。

この状態じゃ学校の皆に言うのもどのくらい先のことになるのか。



「たぁいが」



寝ているとわかっていて彼女は大河に声をかける。疲れきった彼の顔を覗いて、思わず微笑した。



「本当……頑張ってるなぁ」


「んー」



顔をしかめて唸る彼にドキリと、驚く。

起きないで、と願う反面起きて欲しいと矛盾な気持ちがこもる。



「ゆ、うこ?」



眠たそうな彼の目が、彼女を捕らえた。

時刻は深夜0時前。こんな時間に彼女がここにいるのは普通におかしい。だからか、大河はまた夢でも見ているかと思う。



「なぁ、祐子」


「ん?」


「俺のこと、好きか?」



意外な問いに祐子は目を丸くする。大河は目を細めて素直に思っていることを言う。



「不安なんだ。俺達幼馴染みの時から結局変わってないんじゃないかって」


「………そんなこと、ないよ」



祐子はゆっくりと手を延ばして大河の頬に触れる。

ほのかな温かさに彼は気持ちよさそうに笑った。



「私、幼馴染みだった頃は試合があるからって大河にご飯作ったりしなかったもん」


「え?」


「毎日大河の家来たり、部活終わるの待ったり、しなかったもん」



彼女だからこそ、それはやった。彼女だからこそ、そこまで気にした。それは幼馴染みだった頃とは違う。恋人だからこそ気になって行動した。



「私は……大河のこと好きだよ。大好き」



あまり聞けない彼女の素直な言葉。大河は感動して、思わず彼女の手を引き寄せた。

当然、祐子は大河の方へ身体がいく。



「俺も……好き」



熱のこもった声音が彼女の頭に響いた。それが鳴り終わる前に彼女の唇は何かに塞がれた。






甘い、時間が流れる。






温かい、それ。柔らかい、それ。

それが唇だと気付くのは離れた後だった。

びっくりして、祐子は茫然と座り込んだ。



「………びっくりしたぁ」



見れば既に大河は本当の夢の世界へ旅立っていた。顔を赤く染めながら、祐子は破顔する。



「12時か。まぁ、ギリギリだから許してあげるよ」






深夜0時のホワイトデー。


2人は初めてキスをした。






そして、15日。試合当日。

大河のチームは順調に点を稼ぎ、3‐1で大勝利を獲得した。



「祐子!やったぜ!」


「練習、頑張ったかいがあったね」



汗だくのまま駆け寄ってきた彼にタオルを差し出して、祐子は笑う。



「あぁ!はぁー、でもなんか安心したらさぁ」


「ん?」


「なぁんか忘れている気がしてさぁ」



じーっと祐子の顔を見つめる。そしてやっと思い出した。

既にホワイトデーが過ぎていることに。



「あーっ!俺なんも用意してねぇ!」


「別にいーよ。この結果だけで充分」


「だけど…」



何かないかとキョロキョロと辺りを見回す。しかし、何かあるはずがない。



「お、また二人一緒なの?」


「いーね!幼馴染みってのは」



茶化す彼等にムッとする。

すると、何かを思い付いたのか、気持ちの悪い笑みを浮かべた。



「よし、じゃぁちゃんと返せるまでこれで勘弁してくれな!」


「え、一体なに…………」



彼の行動は時々彼女の予想範囲を超える。

突然されたキスに目を見開いて、固まることしかできない。

もちろん、周囲は二人に釘付けだ。



「ちょ、な、なにすんのっ!ばかっ!」



顔を真っ赤にして思わず彼女は走り出した。



「いーか、てめーら!これでわかったろ!祐子に手ぇ出したら怒るからな!」



大河はそれだけ吐き捨てて、祐子を追った。珍しく、逆の立場。

祐子が逃げて、大河が追う。



「ついて来ないで!」


「やだね!」


「もう、なんで人前でするのよっ!ばか!」



その言葉に少しだけ目を瞠って大河は彼女の手を掴んだ。



「じゃぁ、人前じゃなかったらいいのか?」


「当たり前でしょ!それに、ホワイトデーなら昨日同じの…もらった」



徐々に声音を小さくして、祐子は俯いてしまった。そこでやっと大河は昨日の出来事が現実だったと理解する。



「は、はは」


「大河?」


「なぁんだ。でも、俺はちゃんと皆に言いたかったんだよ」



穏やかに笑い、彼女の頬に触れる。そのまま髪に触れてすり抜けた。



「俺の女だって」


「ばかっ!」



改めて2人は甘い瞬間を味わった。






こうして、


2人の関係が


学校中に広まった。







ホワイトデー、いかがだったでしょうか?

これで終わってもいいのですが、もしかしたらまた適当に書くかもしれません。まぁ、そういって書いてないのもかなりありますけどね(汗)

では、また。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 早速読ませてもらいました。僕はここでストーリーが終わるのもありだと思います。 (^^ゞ 僕は貴方が書く小説が好きです。だからこれからも小説が書きたくなったら書いて下さい。 作品が出来たらまた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ