魔法法律家
魔法法律家とは、魔法を使った犯罪を行った犯罪者を捕まえる人たちである。
そういう点では魔法法律家と言うより、魔法警察官とでも言った方が、想像しやすいのだが、とりあえず魔法法律家である。
犯罪者を捕まえるだけで、裁判とかはしないので、専門的な知識入らない。
かわりに犯罪者を捕まえるために必要なものとして、戦闘能力を求められる。
犯罪者相手に生半可な戦闘能力じゃ、返り討ちに合うからである。
「ま、その戦闘能力が申し分なかったから君たちは受かっているわけだが…」
と、ここまでは魔法法律家を目指すものならば常識と言っても過言ではない。
まあ、魔法警察官のくだりは俺の主観なんだけど。
「とは言え、犯罪者にもいろいろな種類があるわけで、その中でも戦闘能力が異常に高い奴もいるわけだ。
そんな奴にあったらお前らも返り討ちに合うだろう」
「あの、これって仕事の初日に話すことでしょうか?」
俺の隣にいる、女の人(眼鏡をかけた水色のおかっぱ)が所長に向かって質問する。
まあ、まだ入ったばかりの魔法法律家は簡単な仕事を任されるって聞いてるし、確かに先の話って感じはするが――
「いや、今ぐらいじゃないと話しする機会ないんだよね。なんせ俺忙しいから」
と所長は自慢げに言ったが、そのあとに呟くように「忙しいんだよね…」と言うあたり、冗談抜きで忙しいみたいだ。
「いやいや、そんなことは置いといて、君たちには常に戦闘能力を上げていってほしいわけだ。
まあ、ここで働いていればいやでも強くはなると思うが」
(向上心を持って仕事に励めってことか。案外普通のことを言うんだな)
「で、まず君たちにはある課題を出す」
「課題ですか?」
「そうだ、君たちには所属してる課の課長、または課長補佐のどちらかと戦闘をしてもらう。
期間は今日から一週間以内だ」
全然普通じゃなかった―――。
課長、または課長補佐はこの仕事場に置いて、犯罪者を捕まえるのに特化した人たち、つまり戦闘に特化してる人間ってことだ。
この話を聞いて、リリアさんの言っていたことがなんとなくわかった。
話自体はすぐ終わる、ただそのあとが大変ということか。
「ちなみにこれをしなかったら辞めてもらうから。ちゃんとやってね~」
いや、このタイミングで軽く言われてもな。
「以上話は終わり。あとの詳しい内容は課長か、課長補佐に聞いてね」
そうして話が終わり、みんなが退出した。
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「なあ、名前教えてもらってもいいか?」
さっき所長室の前で話しかけてきた、と言うより俺を邪魔者扱いした赤毛の少年に話しかける。
「あ?お前さっきも思ったけど急だよな。俺はヒビト・ライグだ」
さっきも思ったけど、結構素直だなこいつ。
「なるほど、俺はカイエス・バルトだ。よろしくな」
人の名前を覚えるのは、こう言った仕事場では有利に働く。
名前を覚えるということは人物を覚えるということ。
人物を覚えるということはその人の戦い方を覚えるということでもあるからだ。
誰がどんな戦い方をするか覚えてると、一緒に働いた際にすぐ作戦がたてられる。
だから名前を聞いているのだ。
(……バルト?どこかで聞いたことあるような)
名前を聞いた後に、何かを思い出すように顔を下げて考え込む少年ヒビト。
この名前を名乗るとみんな大体同じような反応をする。
どこかで聞いたことがあるとか、あいつと同じ苗字かとかそんな感じだ。
バルトと言うのは一時期世間を騒がした有名な犯罪者と同じ苗字だからだ。
この苗字は別にありふれているわけではないが、珍しいわけでもない。
「まあ、カイって呼んでくれ」
親に「バルトより、カイって呼ばせるよう努力しなさい」と言われてきたので、それを実行する。
俺は別に気にしないんだけどな。
「わかった、カイ」
「同期だけど年上だから、君付けかさん付けしてくれないか。チビト」
「誰がチビだ!!」
ああ、こいつ扱いやすいな。
ホントいい感じに素直だな。
「チビなヒビトでチビト。いいあだ名だと思うけどな」
「チビじゃねー!!成長期がまだ来てないだけだ!!」
典型的なチビの発言だな。
いや、まあ13歳ならまだ成長期が来てないのも納得ではあるけど。
「次チビって言ったら燃やすからな、カイ」
「多分無理だと思うけど、肝に銘じてはおくよ」
燃やすってことはこいつは炎課所属ってことか。
(ってか結局呼び捨てかよ。まあ、君付けもさん付けもどうでもいいけど、ここは真面目な仕事場だし、こいつのために言ったわけなんだけど)
「ってかお前どこ所属だ?」
「俺は氷課だけど」
仕事場は自分の得意な基本属性で課が振り分けられてる。
と言っても、合格者は基本属性でそれぞれ優秀だった一人しか合格できないから、試験の時点で振り分けられてると言ってもいいのだが。
こいつみたいな特別合格者は除くけど。
ちなみに特別合格者っていうのは、俺が受けた本試験の前にある、特別試験で合格した人だ。
「あ、そう。じゃあ、あまり俺の気を荒立てないことだな。俺炎課だし」
基本属性にはそれぞれ相性がある。
氷は炎に弱く、炎は水に弱く、水は氷に弱い感じだ。
電気は風に弱いけど、風には弱点はない。
そんなわけで俺はこいつに弱い…と思われてるんだろうな。
「基本に忠実なのはいいけど、そういう考えは早めに捨てておいたほうがいいと思うよ」
「何だと?」
「氷が得意な俺が、炎対策をしてないわけないし、多分犯罪者の大半はそういうのしてると思うぞ」
「…確かに」
本当こいつ素直だな。
しかし特別合格っていうから、子供だとしてもかなりキレるやつだと思ったが――
なんで受かったんだこいつ。
「おい、ヒビト。戻るぞ」
「ああ、わかった」
ヒビトに対して話しかけてきたのは今年の合格者であり、ヒビトと同じ炎課所属セオ・スーロンだ。
黒く、さらりと伸ばした長髪を一つにまとめたポニーテールの男で、特徴らしい特徴と言えば、服装だろう。
本人曰く、チャイナ服と言うらしいベージュの服を着ている。
彼はほぼ毎日、このチャイナ服(色は違うけど)を着てくるのだ。
炎課に二人所属しているわけだが、ヒビトは特別合格で炎課所属、セオは普通の試験で合格して炎課所属である。
セオは俺に近づいてきて
「カイ、ヒビトはいじりがいがあるが、あまりいじめるなよ」
「ああ、今話した数分で大体分かってた」
と耳元でお互い囁いた。
俺とセオは、試験の時に知り合った仲だ。
まあ、セオの実力だったら合格も納得いくし、お互い合格できてよかった。
「そうか。…さて、とりあえず、戻って課長に話だな」
「待て、俺が話をする」
ああ、そうか。
炎課は二人いるから、どっちかが課長で、どっちかが課長補佐と戦うことになるのか。
まあ、どうせ戦うなら課長と戦いたいしな。
(さて、俺も戻って課長と戦うか!)
1週間くらい前から書いていたのですが、なぜか投稿するタイミングを見失ってしまい今投稿します。ってか、そんな期間あったならもうちょい出来のいいものを投稿しろって感じですね。