お局聖女の憂鬱
魔王討伐後、聖女のお話です。
妾の名はシルヴィア。光の国の聖女をやっておる。
幼い頃に巫女として見いだされ、十歳の時に光の国の王家を守護する精霊を身に宿し、かれこれ三びゃく――げっふんげっふん。それなりの時間を生きて来た。
この間は久しぶりに外へ出て、魔王討伐へ行って来た。そこでの事はあまり思い出しとうない。小童――光の王が自国に引き入れろと煩かった黒魔女に酷い目に遭わされた。思い出したら、またチビッって……ち、違うぞ!歳のせいとかではないからな。絶対じゃぞ!!
あれから一か月経ったのじゃ、早く忘れねばならん。
今日は妾が愛する勇者、アルトの旅立ちの日じゃ。妾の運命の日と言っても過言ではない。
光の神殿には別れの儀式のため、王族と巫女たちがおる。別れの儀式では、勇者の抜いた聖剣を再び封印するのじゃ。
妾は覚悟を決めておる。聖女の称号を捨て、愛する勇者と共に人生を歩むことを……。
勇者は魔王を討伐した(ほぼあの黒魔女の功績じゃが)英雄でありながら、爵位を得ずにひっそりと元の農民に戻るそうじゃ。さすがに元の村には戻れぬから、別の場所で勇者としてではなく、ただのアルトとして生きるようじゃ。妾も妻として勇者――アルトを支えるつもりじゃ……って言わせるでないっ恥ずかしいのう!
別れの儀式は予定通り終わり、聖剣を安置した部屋は固く閉ざされた。次にこの部屋を開ける時は、再び世界が未曽有の危機に陥った時じゃろう……まあ、結婚を機に聖女を辞める妾には関係のない事じゃがな!
「それでは陛下、お世話になりました」
神殿に背を向け、歩き出す勇者。
ああ勇者、聖女である妾を連れて行く訳にはいかないと、心を押し殺しているのじゃな。しかし安心せい、妾は勇者と共に人生を歩む覚悟が出来ておるぞ。
「勇者! 妾を……妾を攫って行ってくれぬか……」
思わずホロリと涙が零れる。
それを見た勇者は目を大きく見開き、震える声で妾に返事を返す。
「か、勘弁してくださぃぃぃいいいいいいいいい」
「ぬぅあっ! 勇者待たぬか!! 妾を連れて行かぬか!!」
勇者は信じられない速さで駆けて行き、直ぐに姿が見えなくなった。
♢
「勇者……」
神殿の祈り部屋で妾は愛する人の事を想った。
勇者はきっと妾に相応しい男になって帰ってくる。妾はそれを待とうではないか。だがしかし、愛する勇者と会えないだけで、憂鬱な気分になる。
ああ、勇者……勇者を想うだけで妾は……やっぱり一発ヤッて既成事実作っておいた方が良かったかのう。
勇者を想い、密やかに涙を流していると、祈り部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
――――バンッ
「聖女様!!」
「何事じゃ!! 今は祈りの最中、それを妨げるなど許されぬ事じゃぞ」
妾は巫女見習いの女を睨みつけた。
ちょっと妾より若くて、胸が大きくて、色気がムンムンだからと言って調子に乗りおって……。
「聖女様、近衛騎士との合同お見合い組めましたよ!!」
「なぬっ、本当か! でかしたぞ!!」
うひゃひゃひゃひゃ、絶対にいい男を捕まえて結婚退職してやるぞ!
合法ロリ処女ビッチの切り替えは早いです(笑)