破滅の魔道具
時間軸は巨人島出張前です。
私は走り出す。
手には人を破滅させる道具を携え、身には姿を惑わす魔法を纏って。
向かったのは、とある庭園。そこでは仲睦まじい男女が抱き合っていた。しかし私は、幸せそうな男女に躊躇なく道具を連射した。
――ズキュンッズキュンッ
銃声が庭園に木霊する。私は何の感情も出さずにその場を後にして走り出した。
私の野望を達成するためには、まだまだ犠牲が必要なのだから。
――ズキュンッ
――ズキュンッズキュンッズキュンッ
若い侍女に屈強な騎士、はたまた蝶よ花よと育てられた令嬢まで。
私は手にかけたのだ。
私の名はカナデ。欲に囚われた魔法使い。
♢
「これはどういう事です、カナデ?」
「これですか?写真です。見たままの風景を写したもので、こちらのカメラという魔道具を使って撮りました」
私は宰相補佐様にカメラ(試作品)を渡した
「画期的な魔法具ですね……でも私が言いたいのは、この『写真』に写っているものです」
「どれどれ……すごいね、カナデ。マクレガー侯爵とパーヴィス男爵夫人の逢引きに他国の密偵と待ち合わせする王宮侍女、賄賂を受け取る騎士に身分の低い令嬢を苛める公爵家の姫……あっははは、まさに決定的瞬間だ!」
褒め称えたまえ、私の成果を!!
「このボタンを押せばいいの?」
「はい、王太子殿下。そこを押すと、写真が撮れます」
王太子はカメラを手に取ると、サッとユベールにシャッターを切った。
――ズキュンッ
銃声(シャッター音)と共に一枚の写真が出てくる。ちなみにカメラは前世のポラロイドカメラを参考にしている。本当はデジカメ並みの高性能にしたかったんだけど、現像する魔道具を別に作るのが面倒だったんだよね。
「エドガー様……その写真を渡して下さい」
「ええ~絶対に嫌だよ、ユベール。ねぇ、カナデどうしてこんな物を作って、らしくない不祥事の現場なんて押さえてきたんだい?」
「是非とも、このカメラを大量生産させたくてですね!面倒な根回――ではなく、有用性を示したかったのです」
「うーん、でもこれが大量に出回ると面倒な事になるし……私が許可した相手にのみ、売っていいよ」
元々魔族領に旅行に行った時に、写真が撮れればいいなと思ったから作った訳だし……まあ、いいか。あわよくば安く店で買えれば楽だな~と思ったけど、それほど作るのに手間のかかるものじゃないしね。
「構わないですよ。利益の方はどうします?」
「一割を国に収めてくれればいいよ」
「随分少ないんですね?」
「それ以外に利益があるからいいんだよ」
「左様ですか」
詳しく聞くのは止めとこう、絶対に碌な事じゃないよ!
その後、幾人かの貴族が裁かれた。いずれも、とぼけられない『決定的な証拠』とやらがあったらしい……王太子殿下には合成写真とかの存在は絶対に秘密にしよう。冤罪よくない!
カメラのご利用は計画的にね!
ズキュンッ
この御話は元々本編で投稿していたもので、今回SS集の方に移動させました。
ちなみにこの世界には銃は存在しません。
シャッター音はカナデの趣味です。