巨人族の軍曹様
巨人族の臆病な斥候、ピーター視点です。
時間軸は巨人島編終了後です。
俺の名はピーター。巨人島に住む戦士だ。
超級の魔物を倒した自警団メンバーの1人だが、自分は臆病な斧使いだと自負している。普段は森で狩りをして、獲物を売って生活している。偶に森の奥で珍しい物を取って来るのが趣味だったりする。今の夢は、臆病な俺を導いてくれるような、しっかり者で可愛い嫁さんが欲しい。
こんな夢を持っている俺だが、つい最近まではそんな事を考える余裕なんて無かった。
巨人島は存続の危機だったんだ。
森に超級の魔物が住みついたのがすべての始まり。村で腕利きの狩人の男たちが超級の魔物殺された。また、超級の魔物の影響で森の魔物が活性化して、若者ばかり集まった自警団も超級の魔物にたどり着くのは勿論、普通の魔物にすら刃が立たなかった。
そしてその状況をチャンスだと思った人間領の貿易国は、巨人族を実質奴隷化する条約を押し付けてきた。
海の魚は食いつくし、畑の野菜は残り少ない。初めて経験する飢えへの恐怖。
あの時の事を考えるだけで、今でも震える。
そんな時、村長がダメ元で助けを求めた国から一人の人間が来た。
そう、軍曹殿だ。
最初は人間なんてと信用していなかった村民たちだったけど、食料を無償で提供してくれたり、俺たちを鍛え上げて自活できるようにしてくれたりと、様々な事をしてくれた。
確かに訓練は厳しかったけれど、疲れを取る時間も食事も用意してくれたし、様々な知識を与えてくれた。そして何より、俺たちに巨人族の誇りを取り戻させてくれたんだ。
本当に軍曹殿には感謝してもしきれない。
でも軍曹殿は人間だ。仕事を終えると、自国へ帰って行った。
村民全員が軍曹殿との別れを惜しんだ。
軍曹殿が俺たちのために残してくれた、多くの生物の生血を吸ったであろう真っ赤で巨大なハンマーは村で祀られる事になった。今はハンマーを祀るための社を建設中だ。指揮はマルセルが取り仕切っていて、これが次期村長としての初めての仕事であるため、張り切っている。村に住む装飾職人の祖父さんも張り切っているから、すんげぇ社が出来るのは確実だ。
もはや軍曹殿は巨人族の武神だ。
軍曹殿の加護がある限り、俺たちはどんな逆境も乗り越えられると信じている。
そんな化け物よりも強くてカッコいい軍曹殿だが、別の顔もあるんだぜ。
宴で軍曹殿が見せた、都会の衣装を着て、歌って踊るあの姿……すんげぇ可愛かった。俺も「ぐんそう☆ぐんそう☆」と大はしゃぎだった。また軍曹殿の歌を聞きたいぜ。
村には軍曹殿を応援するファンクラブが発足し、様々な事をしている。もちろん俺も会員だぜ。今はもっぱら軍曹殿を応援するための物を作っている。次に軍曹殿が来た時に宴の席で驚かしてやるぜ、へへへ。
そんな平和な毎日を送っていた俺は、今日も森に狩りに来ていた。
そしてある物を見つけた。
俺が見つけたのは、見たこともない白い木から垂れる透明な樹液。
珍しい物を集めるのが趣味な俺は、それを自慢するために村に持って帰った。
「ピーター!! これは凄いものですよ」
酒の席で樹液に人一倍関心を寄せたのはルイだった。ルイは昔から頭がよく、今は薬師見習い兼自警団指揮官として頑張っている。そして人一倍、武神である軍曹殿を崇拝している。
「どう凄いんだ?」
「この樹液が固形化すると、柔らかさがあるけれど固い固形物――つまりは樹脂が出来上がるんです」
ルイが樹液を入れていた容器の縁の塊を指差して言った。
「それはつまり……どういう事だ?」
「つまり! これを軍曹殿の姿を掘った型に流し込めば、軍曹殿の姿を模した物が作れて、いつでも軍曹殿を身近に感じ取れるのです!!」
「「「「な、なんだってーーー!!!!」」」」
叫び声を上げたのは俺じゃなくて、聞き耳を立てていた周りの奴らだった。
「村の広場に設置予定の軍曹殿の石造が完成するのは、まだまだ時間がかかるでしょう。ですが、この樹脂を使えば、身近に軍曹殿を感じることが出来ます!!」
ルイの演説に皆がうんうんと頷いている。
「石像が完成するまでの拠り所になるな……」
「どうせなら宴の時の姿にしようぜ!」
「俺はお守りにしたいから、訓練の時の軍曹殿の姿がいい」
「ピーター、明日この樹液が取れた場所へ案内して下さい!!」
「おうよ!」
「こりゃ、自警団全員で行くしかねーな!!」
「「「ぐんそう☆ぐんそう☆」」」
今日も軍曹殿のおかげで巨人島は平和だぜ!!
これが後にこの世界初のフィギュアになります。(ただし巨人サイズ)