白山のふもとの大倉庫
東京でフリーライターをしていた私は息子と二人、都会のマンション暮らしを捨て、石川県の白山のふもとのN市へと引っ越して来た。そこで大きな倉庫と出会い、息子の発案で「ワイルドキャット ボルダリング・ジム」を二人で開くことになった。「まず、ホームページを充実させ、グーグル・アドセンスを使ってインターネットの広告を打ち……」。「東京はインターネットの力が大きいかもしれませんが、このあたりでは折込やチラシの方が効果が大きいですからね」と地元関係者。はてさて、どうしたものやら……?
第1話 白山山麓の倉庫
こんなことになるなんて思ってもみなかった。「東京のマンションを売り払って、ボルダリング・ジムを開こう」と息子の発案で、石川県の白山山麓のN市に大きな倉庫を見つけてやって来たのだが。
そもそも、私自身はアウトドア系が大好きで、仕事と趣味が半分半分のような生活をずっとく送ってきた。妻もおおむね理解を示してくれていたが、5年前に肺ガンで先立たれてしまった。今となっては、確かめようも無い。しかし、たぶん、理解を示してくれていたと思う。
最初は山登りから始まり、大学ではワンダーフォーゲル部に所属。大学1年の春休み、クラブの春合宿で台湾の山、玉山(3,996m)に登頂。大学時代は、山登り三昧の日々を送った。社会人になってからはさらに趣味が増え、フリーライターをしながらまず、シーカヤックにはまった。山から海へと一気にフィールドを広げたわけだ。
そのほかのアウトドアスポーツについては、おいおい話すとして。
息子とクライミングジム「ワイルドキャット・ボルダリング・ジム 山猫登攀倶楽部」を開設するために、東京から転居……。しかも、長年住み慣れたマンションを売り払っての移住。周囲は「無謀!」と一笑にふすが、二人はいたって冷静。冷静? というよりは、よくわからないというのが本音。とにかく息子と二人、将来のために何かを始めたかったのだ。
6月の上旬。
「二人でボルダリングジムを始めようか」
といってから、ネットでボルダリングジムにできそうな倉庫を検索。場所は、やはりまったく知らない土地というのもなんなので、出身地の石川県で探すことにした。当然、第一候補は県庁所在地の金沢市になるのだが。しかし、検索で適当な倉庫は見つかるのだが、地方都市にあっては駐車場を確保できなければ、集客は難しい。条件は大き目の倉庫で、しかも20台近くの車を止められる倉庫となると、なかなか……。だんだん検索の範囲を広げていって、結局、白山山麓のN市に見つけたというわけだ。
敷地面積400坪、倉庫の広さが140坪という、うってつけの倉庫が見つかった。早速、不動産屋にメールを送り現地見学のアポを取った。さらに当分はアパート暮らしになるだろうと、アパートも物色して倉庫の仲介とは違う不動産屋にアポ。その上、N市の「商工会」と連絡を取り、とりあえず白山山麓のN市へと向かったのは6月の下旬だった。
東京を早朝にたち、N市に着いたのは午前11時。倉庫の前で不動産屋と落ち合った。やってきたのは30歳台と思われるOL風の事務服姿の女性。倉庫の大きさは申し分ないが、高さが不安。しかし、敷地が広くて駐車場には十分の広さがある。おおむね良しとして後日の再会を不動産屋とは約束し、倉庫の前で別れた。そして、その足でN市の商工会へ。