第一話 死んでしまいました
とても静かだった。
周りはとても慌しく動いているというのに音が一切感じられなかった。しぃん、と静まりかえっている。
学校正門前の道路脇。
口を押さえて悲鳴を抑える女生徒やおそらく周りに指示を出しているだろう教師。ただただ何事かと物見遊山という人もいる。仕舞には携帯電話のカメラで写真を撮っている馬鹿までいた。
少し離れた所には複数の男子生徒と車の運転手に事情聴取しているであろう警官と教師もいる。
救急車が止まり、中から人が降りてくる。すぐに倒れている身体を担架に乗せて回収していく。それでも音は聞こえず静まりかえったままだったが、何と無く理由は判っていた。
おそらく僕は死んでしまったのだ。
死体を乗せ走り去っていく救急車を目で追いながら、しかし、特に何も感じはしなかった。
☆ ☆ ☆
自分は学校で虐められていた。
特に大層な理由はなった気がする。何と無く気に入らないから。つまらないから。暇だから。周りのみんなもやっているから。誰も止めないから。本人が何も言わないから。
両親が既に死んでいるだけで何も特別でない自分は、アニメやマンガのヒーローみたいに強くもなれないし特別な力も才能も無い何処にでも居る青少年だった。
両親の死後、親戚を盥回しにされながらも、新聞配達のバイトなどで金を貯め、高校生となると同時に妹とアパートで二人暮らしすることになった。
兄妹2人、バイトの給料で何とか食いつなぎ、親の少ない遺産と奨学金で高校に通う。友達と遊ぶ暇を作るどころか友人さえ出来ない。そこまで貧窮していた。
アパートの隣人が良くしてくれてはいたが、やはり兄妹2人で生活というのは辛いものがあったし、苦しく泣きそうになることも周りの不自由ない人達を妬んだこともあったが、そんなことで腐ってる暇さえなく、日々の生活に追われていくだけだった。
そんな生活でいつも疲れているのが判っていたのか、流石に虐めてくる側も限度は知っていたのか、虐められているといっても、精々、足を引っ掛けられる。プリントを廻して貰えない。話を聞いてもらえない。等の、比較的ではあるが軽い物だった。
ちなみに妹は特にそんなこともなく、友人は出来ていたし忙しいながらもどうにかバイト休みには友人と遊ぶこともあるようだった。それを知って随分と安堵したのを憶えている。
今回もそんな軽い悪戯程度の積りだったのだろうか。クラスメイトたちは放課後、すぐに帰ろうとする自分の後を付けて来た。そして正門を出たところで車道をトラックが通りすぎた直後に背中を『トンッ』と軽く押す。すると数歩たたらを踏み振り返り抗議の視線を向け、しかし何も言わず去っていく。
何時もならそれで終わり。都合が良いと言われるかも知れないが、そこで口で抗議し「悪かったよ。たまには一緒に遊ぼうぜ」等と今までのことを謝ってくれば、まだ別の未来も会ったかも知れない。
しかし、今回は違った。日頃の疲れがピークにきていたのか、朝から軽く眩暈がし少し熱もあった。妹からも『今日は休んだら』と言われたが強がって学校に来てしまった。結局は授業の途中で抜け出し保健室で休ませてもらうことになったが、放課後になって寧ろ悪化したようだった。
その結果。
何時もなら踏み止まれるはずの勢いに反応が遅れ。
前に出した脚に力が入らずに身体が倒れこみ。
トラックの陰に隠れ見えなかった後続車に。
撥ねられ、死んだ。
勢いと流れで書いていくため、長さもまちまちな上に定期的には更新できませんかもしれません。それでもよろしければ。