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男姫様は魚がお嫌い  作者: 川咲弐号
■ 第2幕 ■
9/25

□4場 深夜忍んで

 ホーストンの夜は寒い。季節も関係するが、地形の影響が大きい。

 そのせいでなかなか寝つけないことも多いが、今夜アステルが起きてしまったのは、寒さのせいではなかった。


 カチャ、という音がしたのを聞いて、布団の中で体勢を変え、扉の方を向く。廊下からの光が僅かに入ってきているのを見て疑問に思う。眠い目を擦ってもう一度見るが、その時には扉は完全に閉まっていて、部屋は暗くなっていた。

 アステルは上半身を起こす。枕元で眠っていたジョージが、いつの間にかいなくなっていることに気づく。

 ふと床に視線を向けると、そこで寝ていたはずのユキトも姿を消していた。


(二人でこんな時間にどこに行ったんだ……?)


 机の上の置時計を見ると、午前二時を過ぎていた。

 ベッドから起き上がったアステルは、シャオンが持ってきた荷物の中からダッフルコートを引っ掴み、羽織ながら部屋を出た。

 すぐにユキトの背中を見つけ、気づかれないよう距離を置いてついて行くと、裏口からホテルの外に出る。

 フードを目深にかぶり、長い髪もなるべく外に出ないようにしてから、後を追った。


 外は、より一層冷気が感じられる。空は薄っすら雲が掛かっていたが、辛うじて月が見えるかどうかというところだ。

 遠くの建物から聞こえる僅かな物音以外せず、風や動物の気配も無く、静まり返っていた。昼間の情景とは大きな違いだった。

 流石にこの時間に開いている店はほとんど無い。ただでさえ人通りが少ない中、ユキトが裏道ばかり行くので、本当に誰とも出会うことなく進む。


(俺としては助かるけど、なんでこんなところ通って――)


 アステルの思考は遮断される。どうやら目的地に着いたらしい。


 ユキトが立っているのは、病院の前だった。

 ホーストンの中では、一番大きい病院だったとアステルは記憶している。実際に来たことはないが、病院の名前に覚えがある。セーデルを診てくれていた先生が、ここの医者だったからだ。

 ユキトが病院の表ではなく裏口に回る。裏手には林があり鬱蒼としていて、病院の窓が沢山並んでいるが、明かりがついているところは無く、月明かりだけが頼りという状況だ。

 その消灯時間も過ぎ真っ暗な病院に、ユキトとジョージが入っていく。忍び込むと言った方が正しいかもしれない。

 アステルも中に入るか少し迷ったが、事態が理解出来ないので、追うことはせずその場で待つことにする。

 傍にあった岩の陰にしゃがんで身を隠し、手を擦り合わせ寒さに耐える。


 しばらくして、二人は外に出てきた。

 ユキトは手に何か持っているようだが、どんなものかまでは遠くて判断出来なかった。

 それからすぐにまた移動を始めたので、慌てて立ち上がり追いかける。


(まったく、一体どこまで行くんだよ! これで服汚れたらユキトのせいだからな!)


 向かったのは林の中だった。

 軽々と進んでいくユキトに対し、アステルは舗装されてない道に慣れていないせいか、土の上を歩くことに苦労し、見失わないようにと必死だった。転びそうになる毎に心の中で恨み言を連ねながら、めげずに木々の間を縫う。


(こんな道無き道を歩くのは、きっと小さい頃以来だ。ただでさえ、最近運動なんてしてなかったから、流石にもう疲れてきた……)


 と、肩で息をし始めた頃、前方でユキトが動きを止めた。

 林を抜け、開けた場所に出る。周囲には建物など何もない、ただ伸びっぱなしの草が生えただけの原っぱだった。こんなところがあると、ホーストン住民も知らないだろう。

 人工光が無いので、月明かりが一際はっきりと見える。アステルは木の陰で窺うと、そこからでもユキトの様子がよく分かる。

 月光の下、ユキトは肩に乗せたジョージに話しかける。


「この辺でいいかな」

「せやな」


 そう答えたジョージは肩から飛び降り、傍にある倒れた木の上に降り立つ。

 その後、ユキトは邪魔な髪を耳に掛かける仕草をし、手に持っていた“何か”を顔の前で振る。それが液体の入った瓶であると、アステルはようやく理解する。


(中身は……血? 輸血用の血液か?)


 目を凝らしてラベルの字を読んでいたら、ユキトが瓶の蓋を開け始める。

 そして、その中身を――――――あろうことかグイッと呷った。


「なあっ!?」


 血液を飲むユキトの姿に驚愕したアステルは、思わず声を上げてしまった。

 当然、その声で二人にバレてしまった。

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