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□1場 闇と雨の中
今夜は、闇が一際濃い。
それもそのはず、激しい雨が降るほどに空は厚い雲に覆われていて、月も星も何一つ見えなかったのだ。
ホーストンは夜に開いている店が多いにも関わらず、今日は雨で明かりがぼやけて見えるせいか、道は暗く陰気に感じる。
その暗い道を、全速力で駆け抜ける少女の姿があった。
そして、それを追いかけているのか、大勢の男の騒々しい足音が町中に響き渡っている。
少女は濡れている石畳の道を、滑らないように足に掛ける力に注意しつつ、荒い呼吸になりながら必死で走る。傘を持つ手が揺れようとも、水溜まりの水が長靴に掛かろうとも、レインコートを雨が打つ音がしようとも、他には何も考えずひたすら足を動かす。
どこへ向かって走っているのか、そもそもどこへ向かって走るべきなのか。
それは少女自身にも分からなかった。